プライバシーの侵害とは?事例・判例・慰謝料請求などの対処法を解説

インターネット上に自宅の住所や連絡先などを勝手にばらされたり、写真を勝手に掲示板などに掲載されたりすることは、プライバシーの侵害にあたります。

ネットで誹謗中傷される事例では、プライバシーの侵害にあたるケースがとても多くなっています。 ではそもそも「プライバシー」とは何なのでしょうか?もしも侵害された場合、どんな措置を取ることができるのでしょうか。 今回は、ネットでプライバシーが侵害されたときの具体例や対処法についてまとめました。

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プライバシーの侵害とは?

プライバシーとは?

デジタル大辞泉によれば、プライバシーとは「個人や家庭内の私事・私生活。個人の秘密。また、それが他人から干渉・侵害を受けない権利」と定義されています。

プライバシー権について法律でははっきり定義されていないものの、個人が自分自身をコントロールすることができるようにするための新しい人権として、憲法13条の「幸福追求権」の一つに含まれると考えられています。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

日本国憲法 | e-Gov法令検索

プライバシーの侵害となる基準(要件)

「それはプライバシーの侵害だ」というのは日常会話でもよく使われますし、ネット上でもよく見かけます。しかし、自分が「プライバシーの侵害だ」と感じても、それが一般的に認められなければ、なかなか対処してもらうことは難しいかもしれません。

判例ではプライバシー権についてさらに細かく以下のように定義しています。一般的に、プライバシーの侵害というのはこのような要件に当てはまったものを言います。

  • 私生活上の事実、またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
  • 一般人の感受性を基準として当事者の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められるべき事柄であること
  • 一般の人にまだ知られていない事柄であること
  • このような公開によって当該私人が現実に不快や不安の念を覚えたこと

もしもネット上で誹謗中傷されたとき、このような条件に当てはまったら、プライバシーが侵害されたとして具体的な措置が取りやすくなります。

プライバシー情報にあたるものは?

前述のようにプライバシーとして保護される情報については要件があります。この要件に該当する具体的なプライバシー情報には以下のような情報があります。

  • 氏名、住所、電話番号などの連絡先情報
  • 顔写真(個人を判別することができるもの)
  • 個人の住居地を特定できる写真や近辺の情報
  • 個人の学歴や職歴
  • 前科、前歴(犯罪歴や逮捕歴)
  • 金融機関の取引履歴や利用明細
  • 指紋データ
  • 運転免許証やマイナンバーカード
  • 個人の日記や私生活に関する情報 など

氏名や住所などの連絡先情報については個人を識別するための基本情報であるため、情報の性質上は秘匿性の強い情報ではないと考えられがちです。

しかしこれがインターネット上に開示されるときには見知らぬ第三者からのアクセスを容易にし、私生活上の平穏が害されることになります。

また写真や肖像などの掲載については、とりわけタレントや俳優などの著名人の場合には財産権のひとつとしてのパブリシティー権が問題となります。一方で一般人についても人格権やプライバシー権の観点から肖像権(自分の顔や姿態をみだりに公開されない権利)が保護の対象とされることがあります

写真については被写体本人の一瞬を固定することから現実とは異なる印象を与える場合もあるため、被写体本人が望まない形で掲載されてしまうケースもあります。顔写真については襲撃や誘拐などの犯罪に利用されるおそれもあります。

さらに、一定の行動・状態を撮影した写真の掲載によってはプライバシー侵害の程度が高くなることもあります(既婚者が別の異性と親しくしている様子や、風俗店から退店する様子など)。

プライバシーの侵害は犯罪?警察に動いてもらえる?

実は、プライバシー権は刑法で定められた権利ではないので、プライバシー侵害は犯罪とはいえません。そのため、プライバシー侵害を理由として警察に逮捕を要求したり、刑事告訴したりすることはできません。

ただし、プライバシーを侵害するネットへの投稿が、同時に名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪に該当すれば、被害届や告訴状を警察に提出することで刑事処罰を求めることができます。

たとえば、「〇〇〇〇さん(実名)は吉原のソープで働く風俗嬢です」「(顔写真をSNSや掲示板などに掲載したうえで)こいつは会社の上司と部下に二股をかけて不倫しています」といった書き込みはその人のプライバシー情報を公表するとともに社会的地位や名誉を害する行為をしていますので名誉毀損罪に問われて警察に逮捕される可能性もあるでしょう。

なお、SNSや掲示板、ブログへの投稿内容が名誉毀損等の犯罪にあたらない場合には刑事責任を追及することはできませんが、プライバシーの侵害は不法行為(民法第709条)に該当しますので、損害賠償請求や慰謝料請求することが可能です(後述します)。

ネットでプライバシーの侵害になりやすい被害事例

プライバシー権の定義を見ていきましたが、ネット上では具体的にどんなケースがプライバシー権の侵害にあたると言えるのでしょうか?

氏名や住所を公開された

Facebookは本名で登録するSNSですが、Twitterやmixi、各種ブログなどほとんどのものは本名ではなくハンドルネームやアカウントを設定して、匿名で利用するのが一般的です。

インターネットは全世界で閲覧することができるため、どこまでも自分の情報が広まっていってしまっては、誰に利用されてどんな犯罪に巻き込まれるかわかりません。 そこで、インターネット上に本名や住所などの個人が特定される情報を載せないというのは、インターネットを利用する上での基本です。

過去の判例では、氏名や住所は「公知の事実」としてプライバシー性が否定されてきました。しかし徐々に氏名や住所といった個人情報をプライバシーに含める流れになってきています。

実際に、平成15年には、氏名や住所を「自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然」として、プライバシーに含めるという判例が最高裁で出ています。

インターネット上で氏名や住所をばらされるのは、「自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくない」ケースといえます。そこで、もしも本名や自宅住所などを勝手に公開された場合は、プライバシーの侵害があったと言えることになります。

自分の前科がばらされた

誹謗中傷の内容としてよくあるのが、過去の前科を公開されてしまうことです。

前科があることは人に知られたくないと考えるのは当然のことです。判例でも、前科は「人の名誉や信用に直接関わる事項」であるとし、他人にみだりに公開されたくないという本人の利益を保護する必要があるとして、前科などの情報はプライバシーにあたると判断しています。

自己情報コントロール権が侵害されたら?

自己情報コントロール権というのは、自分の情報がどう使われるかを自分で決定できる権利のことです。

例えばインターネットで買い物をしたり、SNSを利用したりする時には自分の名前や住所などの情報を登録するときには、その目的のために個人情報を使ってもよい、と考えて個人情報を提供しています。

しかし、ショップやサイト管理人などが、個人情報を全く関係ない人に公開したり、知らないところで使ったりすることまでは許可していません。これが、自己情報コントロール権です。

ただ、プライバシー権としてこの自己情報コントロール権を含めるかどうかについてはまだ争いがあるところです。そのため、自己情報コントロール権が侵害されたからといって、必ずしもプライバシー権の侵害にあたるとは言えないのが現状です。

ネットでプライバシーの侵害をされた場合の削除方法

プライバシー権の侵害の原因となっている投稿を削除してもらうには、発信者がわかっていて本人に連絡が取れるなら、発信者に直接削除を要求することも可能です。しかし、SNSであればDM(ダイレクトメッセージ)で削除を求めることもできますが、ブログのコメント欄や掲示板では匿名投稿が一般的ですのでそれも難しいでしょう。また、仮に発信者にダイレクトメッセージを送ることができるにしても、平気で人のプライバシーを公表するような者であればまともに取り合わない可能性も十分あります。

そこで、プライバシーの侵害にあたる投稿については、その投稿されたSNSやブログ等の管理者に対して削除依頼するようにしましょう。メジャーなSNSやブログであればその多くが削除依頼フォームが設けており、プライバシーの侵害にあたる投稿はガイドライン違反として削除対象となっていることが多いです。

もし削除依頼に応じてもらえなかった場合には、プロバイダ責任制限法に基づいて送信防止措置依頼書をサイト運営者に送ったり、裁判所に削除の仮処分命令を申し立てたりすることができます。送信防止措置や削除の仮処分の具体的方法について詳しく知りたい方は以下の関連記事を参考にしてください。

送信防止措置とは?はじめて依頼書を書く人にわかりやすい書き方講座

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なお、削除の仮処分命令の申し立てをご自身でする場合には、印紙代2000円、郵便切手代、担保金20万円~50万円がかかります。弁護士に依頼する場合はこの金額に加えて以下のような費用が発生します(相場です)。

  • 着手金:20~30万円
  • 報酬金:10万円~20万円

プライバシーの侵害で訴えるには?

ネット上に自分のプライバシーが流出してしまったら、それが削除されたとしても、他の誰かが情報を保存していてまた流出するのではないか、と不安が付きまといます。こんな精神的苦痛だけではなく、実際に損害を受けることもあるかもしれません。

精神的にも経済的にもなんらかの損害を受けた場合は、プライバシー権の侵害を理由として、損害賠償や慰謝料の請求を求めて訴えることができます(民法第709条参照)。

しかし、プライバシーの侵害で訴えるにしても、氏名や住所がわからないと訴訟は起こせませんので、まずは投稿した者を特定する必要があります。

投稿者を特定する方法

特定方法としては、まずはプライバシーの侵害にあたる投稿がされたSNSやブログ等の運営者(運営会社)に対して発信者情報開示請求書を送付し投稿者のIPアドレスの開示を求めます。開示に応じてくれない場合は、裁判所に対して発信者情報開示の仮処分命令の申し立てをします。開示が認められれば、SNS等の運営会社に裁判所から命令が発令され、IPアドレスが開示されます。

続いてそのIPアドレスから投稿者が使用したプロバイダーを調べ、そのプロバイダーに対して契約者情報を開示するよう書面で求めます。しかしプロバイダーが契約者の個人情報を安易に開示することはまずありませんので、発信者情報開示請求訴訟を起こす必要があります。訴訟で開示が認められれば、プロバイダーから契約者の氏名や住所といった個人情報を開示してもらえます。

また、プロバイダー責任制限法の改正に伴い「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続き(非訟手続き)」が新設され2022年10月1日に施行されました。それにより、上記のような複数あった手続きを1回の手続きで終えることができるようになっています。

プロバイダ責任制限法とはなにか?とにかく分かりやすく解説しました

なお、発信者情報開示の仮処分命令の申し立てや発信者情報開示請求訴訟をご自身でする場合には、以下のような費用がかかります。

  • 仮処分命令の申し立て:印紙代2000円+郵便切手代+担保金10万円~30万円
  • 訴訟:印紙代13000円+切手代

弁護士に依頼する場合には上記金額に加え、以下で挙げる弁護士費用がかかります。

依頼内容着手金報酬金
発信者情報開示の仮処分命令の申し立て20万円~30万円10万円~20万円
発信者情報開示請求訴訟20万円~30万円10万円~30万円

損害賠償請求する方法

プライバシーの侵害にあたる投稿を行った加害者の氏名と住所がわかれば、民事訴訟(損害賠償請求訴訟)を提起できます。ただし、訴状の書き方や手続き方法が煩雑で専門知識も必要なため、弁護士に依頼した方が良いでしょう。

もっとも、訴訟を起こす前にご自身で内容証明郵便で請求書を書いて投稿者に送付し、慰謝料請求する方法もあります。不法行為による損害賠償(慰謝料)請求の時効は、損害および加害者を知ってから3年ですので、プライバシーの侵害をした加害者が特定できたらできるだけ早急に内容証明を送付するようにしましょう。内容証明郵便は字数や行数に制限があるため、内容証明 ご利用の条件等 - 日本郵便をよく読んで不備のないものを作成する必要があります。

ただし、加害者が内容証明に記載された損害賠償額・慰謝料額に納得しないケースも多く、加害者と被害者が協議しなくてはならない場面も出てきます。また、加害者が一切の支払いを拒むこともあるでしょう。

プライバシーの侵害をした加害者と被害者のやり取りは時に感情的になって話し合いがまとまらないことも多いものです。それどころか加害者が激高して余計にトラブルをこじらせることもあります。こういったケースでは弁護士に加害者との交渉を一任することでこのようなトラブルを回避することができます。

なお、ご自身で損害賠償請求訴訟をする場合には、訴訟費用(訴状を提出する際の印紙代や郵便切手代)3万円程度です。弁護士に依頼した場合にはこの金額に加えて以下のような費用がかかります(相場です)。

  • 着手金:15万円~20万円
  • 報酬金:経済的利益の15%~20%

プライバシー侵害の慰謝料相場

プライバシー権侵害に関する慰謝料の金額については、一義的に金額が決まってる性質のものではありません。訴訟になった場合には、証拠関係から分かる全事情や弁論の全趣旨を考慮して裁判所が裁量により決定することができます。

標準的な慰謝料の相場については「50万円〜200万円」程度であると説明されることが一般的です。

ただしプライバシー権侵害に関する慰謝料については、公表された私生活上の事実の内容や、被害者が受けた精神的な負担、加害者による侵害行為の悪質性などが比較考慮されて算定されることになります。

誹謗中傷されたことによって、加害者に請求できる慰謝料の相場については、以下の表のように整理して考えることができます。あくまで一般的な目安ですので、実際の算定額はケースバイケースで異なることには留意しておく必要があります。

誹謗中傷の内容慰謝料の金額の相場
一般人の名誉棄損事件10万円~50万円程度
法人や事業主の名誉棄損事件50万円~100万円程度
プライバシー侵害(私事性が低い場合)10万円~50万円程度
プライバシー侵害(私事性が高い場合)100万円~200万円程度

プライバシーの侵害に関する判例

カウンセリングの内容をツイッター上に投稿した事例

この事例は、元臨床心理士(現公認心理士)である被告が、同人のカウンセリングを受けた原告の個人情報をツイッター上に投稿した行為が不法行為にあたると判断された事例です。

プライバシー侵害の判断基準について裁判所は、「事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較考量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する」と判示しています。不法行為法上違法となるか否かは、当該情報の性質及び内容、表現行為の目的や意義、その情報を開示する必要性、表現行為によってその情報が伝達される範囲と原告が被る具体的被害の程度、表現媒体の性質など、ツイートに係る事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を比較衡量して判断されることになります。

そのうえで原告の性的逸脱の経緯・不安定な精神状態などのツイートはカウンセラーの守秘義務が及ぶ情報であることから特段の事情がない限り公表されないことを前提として提供されたもので、開示の必要性もなかったと判断されています。

そのうえで本件各ツイートは原告のプライバシー侵害を侵害し名誉を毀損したことになり、本件ツイートによる原告の精神的苦痛を慰謝するには慰謝料100万円が相当であると判断されています(岐阜地方裁判所令和4年7月14日判決)。

無断で写真をツイッターに投稿した事例

この事例は、原告が被写体となっている写真を原告に無断で複製してツイッター上にアップロードした行為がプライバシー侵害等にあたると認定された事例です。

投稿された写真は鞭を持って座っている男性の正面に、女性である原告が縄で緊縛された状態で吊るされている状況を撮影したものでした。このような写真の内容に照らして一般人の感受性を基準に公開を欲しないものであるため、本人の許諾なく写真を公開することはプライバシー権を侵害すると判断されています。

さらに人は自己の容ぼう・姿態を撮影されたり写真をみだりに公表されない人格的な利益を有しており、被写体の女性において公開を欲しない写真を意に反してツイッター上にアップロードされたことは、原告の人格的利益をも違法に侵害すると判断されています。

裁判所はプライバシー権等の侵害による慰謝料の請求を認めました。しかし本件写真が原告の同意のもとで第三者のツイッター上に既に公開されている点や、当時その第三者のツイッターアカウントへのアクセスが特に制限されていなかった点を考慮して、原告がプライバシー権の侵害により被った精神的苦痛を慰謝するのに必要な金額は30万円であると認定しました(東京地方裁判所平成30年9月27日判決)。

ブログやネット掲示板に個人情報を書き込んだ事例

この事例は、被告がブログやインターネット掲示板に原告の個人情報を投稿したとしてプライバシー権侵害を主張して損害賠償を求めた事例です。

公開された記事の中には、原告の実名・顔写真・住民票上の住所・携帯電話番号が掲載されていました。

裁判所は住所や電話番号が病歴や前科ほど秘匿性が高くないとしつつ、個人の私生活に深く関わる情報であり、通常、家族や親しい知人、仕事や日常生活の関係で連絡を取る必要がある者など「限られた範囲内において必要な限度で共有されることが想定されている」として、「個人の住所及び電話番号は、一般に、不特定の第三者に知られたくない私生活上の事実又は情報にあたる」と認定しました。

このようなプライバシー侵害により原告が被った精神的苦痛による損害について、50万円であると判断しています(東京地方裁判所令和3年11月5日判決)。

プライバシーを侵害されたら弁護士に相談を

プライバシー権の侵害行為について根本的に解決したい・迅速に確実に解決したいと考えるのであれば、やはり弁護士に依頼することをお勧めします。 誹謗中傷の解決方法としては、発信者やプロバイダに対して投稿削除の交渉をしたり、それに続く損害賠償の請求をしたりといった法的対応が、解決への近道になるからです。

しかし、このような法律事件の代理人となれるのは、弁護士だけと定められています(弁護士法72条)。 仮に、検索順位の低下や検索にかからないようにするなどのテクニカルな対策が取れればいいと考えて、弁護士以外の業者に依頼したとしても、法的措置が必要となった時には改めて弁護士に依頼する必要が出てきます。

ネットの誹謗中傷・プライバシーの侵害は解決が急がれる事案です。法律と交渉のプロである弁護士を代理人に立てることにより、より迅速な解決が見込めます。

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