被害者から「警察に被害届を出す。」と言われた、被害者に被害届を出されて警察から呼び出しを受けた、逮捕されたなどという場合、「できれば被害届を取り下げて欲しい」と思う方も多いのではないでしょうか?被害届を取り下げてくれればなんとなくいい方向に向かう、そんな漠然としたイメージを抱いている方も多いでしょう。
そこで、この記事では、
- 被害者に被害届を出されるとどうなるのか。
- 被害者が被害届を取り下げるとどうなるのか。
という点について弁護士が詳しく解説してまいります。ぜひ最後までご一読いただき、被害者に被害届を出されたら、被害者が被害届を取り下げたらどうなるのか具体的にイメージしていただければと思います。
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目次
被害届とは~告訴(状)との違い
まずは、被害届の意義、被害届と告訴状の違いから解説します。
⑴ 被害届とは
被害届とは、被害者(あるいはその代わりの者)が捜査機関に対し被害事実を申告するための書類のことをいいます。たとえば、強制わいせつ罪(刑法176条)の被害届には、被害者が、いつ(日時)、どこで(場所)、どんな方法・態様で、どんな被害に遭ったのか、被疑者(犯人)は誰なのか、不明な場合は犯人の特徴はどうなのか、被疑者に対してどんな感情か(処罰感情)などということが記載されます。
⑵ 被害届と告訴(状)の違い
告訴状は、被害者(その他権限を有する者)が捜査機関に対して被害事実を申告する書類という点では被害届と同じです。しかし、以下の点で違います。
① 処罰の意思表示の記載が必要か否か
書類上に「犯人に対して処罰を求める」と記載しなければならないのが告訴状、そうした記載をしてもよいが、しなかったからといって問題とならないのが被害届です。
② 申告できる罪が限定されるか否か
罪の中には被害者等の告訴がなければ起訴できない、つまり、被疑者を刑事裁判にかけることができない罪(たとえば、器物損壊罪(刑法261条)、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)など)があります。これを親告罪といいます。親告罪については告訴状がなければ起訴されません。他方で、親告罪以外の罪については告訴状か被害届かの決まりはありませんが、通常、被害届が出されることが多いでしょう。
③ 期限の長短
親告罪については、一定の罪を除いて、被害者が「犯人を知った日から6か月以内」でなければ告訴されません。他方で、被害届にはそうした期限はありません。つまり、時効(公訴時効)が完成するまでは被害届を出される可能性はあります。なお、主な犯罪の時効は以下のとおりです。時効期間は「犯罪が終わった日」から起算します。したがって、各罪が終わった日から起算して下記の年数が経過するまでの間は被害届を出される可能性があるといえます。
主な犯罪の時効(時効の起算点は「犯罪行為が終わったとき」) | |
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時効期間 | 罪名 |
なし | 殺人罪 |
25年 | 現住建造物等放火罪 |
15年 | 強盗致傷罪 |
10年 | 強制性交等罪(旧強姦罪)、強盗罪、傷害罪 |
7年 | 強制わいせつ罪、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪 |
5年 | 横領罪、児童買春罪 |
3年 | 器物損壊罪、暴行罪、痴漢、盗撮 |
1年 | 軽犯罪 |
被害届を警察に出されるとどうなる?
では、警察から出頭要請を受けていない、逮捕されていないなどという場合に被害届を警察に出されたらどうなるのか、という点についてみていきましょう。
⑴ 被疑者(犯人)特定のための捜査が始まる
被害者が警察へ被害届を提出すると、警察は捜査を始めます。被害届の提出は警察の捜査の端緒(きっかけ)の一つです(警察の捜査の端緒は他にも、告訴、告発、自首、内部告発、情報提供などがあります)。
そして、被害者が被害届を提出した時点で、被害者が被疑者を特定できていない場合はもちろん、特定できている場合(被疑者であることが明白な場合を除く)でも、警察はまずは申告の対象となった人が本当に被疑者かどうか、つまり被疑者特定のための捜査から始めます。
なぜなら、全くの白である人(被疑者・犯人でない人)を捜査の対象とすることはできないからです。
たとえば、交通事故直後に被疑者を特定することが困難なひき逃げの場合は、被害者に対する事情聴取のほか、交通事故現場に遺留された物的証拠の収集・解析、交通事故現場周辺の防犯ビデオカメラ映像の解析、目撃者の確保・事情聴取など慎重に行って被疑者を特定していきます。
また、性犯罪の場合などで被害者が被疑者はこの人だ、と特定できている場合でも、被疑者であることが明白である場合を除き、いきなり被疑者を取調べる、逮捕するということはしません。
まずは被害者に対する事情聴取や、被害者が有している物的証拠の精査・分析などを行って被疑者を特定した上で、被疑者に対する取調べ、逮捕などを進めていきます。
⑵ 特定された後は出頭要請、逮捕など
被疑者として特定された後は、今度は被疑者に対する捜査が進みます。
警察が被疑者の身柄拘束を考えていない場合は取調べのための出頭要請を受けるでしょう。
また、並行して自宅などのガサ(捜索・差押え)を受けることもあります。
なお、出頭要請を受けた場合に拒否することもできますが、要請を無視し続ける、正当な理由なく要請を拒否し続ける場合は逮捕されることもあります。
また、警察が当初は身柄拘束を考えていなくても考えがかわり、逮捕に切り替わる場合もあります。
警察が被疑者の身柄拘束を考えている場合は、突然、自宅等に警察官が訪れ逮捕されます。また、並行してガサを受けることもあるでしょう。
逮捕後の流れと影響
では、警察に逮捕されたらどうなるのか、逮捕後の流れと逮捕による影響についてみていきましょう。
⑴ 逮捕後の流れ
警察に逮捕されると警察署内の留置施設に収容されます。
その後、警察官による弁解録取(被疑者から逮捕事実について弁解を聴く手続)を受け、身柄拘束が必要と判断された場合は逮捕から48時間以内に事件が検察庁へ送致(送検)され、必要ないと判断された場合は釈放されます。
送致された場合は、検察官による弁解録取を受けます。ここで身柄拘束が必要と判断された場合は、送致から24時間以内に裁判官に対して勾留請求されます。
必要ないと判断された場合は釈放されます。勾留請求された場合は裁判官による勾留質問を受けます。
ここで勾留が必要と判断された場合は勾留決定が出ます。必要ないと判断された場合は勾留請求却下決定が出ます。
これに対して検察官は不服を申し立てることができます。検察官が不服申し立てをしない、あるいは申立てをしてもそれが認められなかった場合は釈放されます。反対に、不服申立てが認められた場合は勾留されます。
勾留されるとはじめの身柄拘束期間は「10日間」です。「はじめ」と申し上げたのは、10日間を過ぎるあたりで勾留期間を延長されるおそれがあるからです。延長期間は最大10日間です。もっとも、この勾留期間中に不服申立てなどを行って釈放を求めていくことも可能です。
捜査機関による捜査が終わると起訴、不起訴の刑事処分が決まり、起訴された場合は刑事裁判を受ける必要があります。
刑事裁判で有罪とされ確定した場合は、裁判官から言い渡された刑に服する必要があります。
⑵ 逮捕による影響
逮捕されると次の影響が出てきます。
① 日常生活が送れなくなる
→肉体的・精神的に疲弊してしまう
逮捕されると基本的には留置施設で生活しなければなりません。加えて、捜査員による厳しい取調べなども待ち受けています。そうすると、肉体的にも精神的にも疲弊してしまう可能性があります。
② テレビ、ネット、新聞などに情報が流れる
→社会復帰後の人生に影響する
逮捕は、一番、マスコミが興味を示す情報と言えます。そのため、逮捕されるとテレビ、ネット、新聞などに情報が流れてしまう可能性があります。ネットに情報が掲載されたままでいると、社会復帰後の人生にも影響が出る可能性があります。
③ 起訴され、刑罰を受けるおそれがある
→就職、仕事、収入、家族に影響が出る
他の理由がある場合は別として、逮捕されたこと自体を理由に就職できない、解雇されるということはありません。しかし、逮捕後に起訴され、刑罰を受けた場合、話は別です。罪や刑の内容などによっては就職や仕事に影響が出てくるかもしれません。仮に解雇されたという場合は収入に影響し、それがご家族の生活にも影響してくることでしょう。
被害届を取り下げてもらうには?取り下げたらどうなる?
被害者に被害届を出されると、逮捕、勾留、起訴、刑罰などにつながる可能性があることはお分かりいただけたかと思います。
そこで、こうした不利益を回避するためには、一刻もはやく被害者に被害届を取り下げていただく必要があります。
では、被害者に被害届を取り下げていただくにはどうすればよいのか、取り下げていただいた場合はどうなるのか場合わけして解説します。
⑴ 被害届を取り下げてもらうには示談
被害者に被害届を取り下げていただくには、被害者と示談交渉し示談を成立させることが先決です。
示談の内容として、被害弁償金、慰謝料を支払う代わりに被害届を取り下げていただくこと(被害者が被害届を捜査機関に提出する前であれば、被害届(に加えて告訴状、告発状)を捜査機関に提出しないこと)を条件とすることができます。
もっとも、身柄を拘束されておらず、物理的に被害者との示談交渉が可能な場合でも、示談交渉は弁護士に任せましょう。
そもそも被害者の連絡先を知らない場合は、連絡先を取得することから始めなければなりません。
しかし、被害者の連絡先を把握している捜査機関が被疑者(加害者)に直接被害者の連絡先を教えることはしません。
この点、弁護士であれば被害者の意思しだいで教えてもらうことができます。
また、仮に、被害者の連絡先を把握している場合でも、直接コンタクトを取ることは絶対にやめましょう。
事件の当事者同士で交渉がうまく進展することは期待できず、最悪の場合逮捕されてしまう可能性があるからです。
⑵ 被害届を取り下げてもらったらどうなる?
では、被害者に被害届を取り下げてもらった場合、どうなるのでしょうか?以下、場合分けしてご説明します。
① 被害者が捜査機関に被害届を提出する前
事件が刑事事件化することを避けることができます。したがって、警察から呼び出しを受けて取調べを受ける、逮捕されるなどということがなくなります。
② 被害者が捜査機関に被害届を提出した後
微罪処分(事件が検察庁に送致されずに、警察官の訓戒のみで終わる処分)、早期釈放(逮捕、勾留された場合)、不起訴に繋がりやすくなります。検察官が起訴する前に示談を成立させ、その結果を検察官に提示することが必要です。
まとめ
被害届は被害者が捜査機関に被害の事実を申告するための書類です。
捜査機関に被害届が出されると、取調べ、逮捕など警察の捜査につながります。
こうした事態を避けたい方、あるいは不利益を少しでも軽くしたい方は、はやめに弁護士に相談し、被害者に被害届を取り下げていただけるよう活動してもらう必要があります。
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