目次
①器物損壊罪の「損壊」の意義を明らかにした判例
事案の概要
この事案は、被告人が飲食店で営業上来客の飲食の用に供すべき器物に放尿した行為について、器物損壊罪にあたると判断された事例です。
この事例では被告人が飲食店の食器に放尿したとはいえ、洗浄・殺菌した後であれば再度食器として利用することが可能であるため「損壊した」とはいえないのではないかという点が問題となりました。
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判決文の抜粋
「刑法第261条にいう損壊とは、物質的に器物そのものの形状を変更または滅失させる場合のみならず、事実上若しくは感情上そのものを再び本来の目的の用に供することができない状態にい至らしめた場合をも包含するものとする」と判示しています(大審院明治42年4月16日判決)。
弁護士の解説
器物損壊罪とは、他人の財物の効用を害し、その他利用可能性を侵害する犯罪です。
そのため「損壊」とは、物の物理的損壊のみならず、その効用を害する一切の行為をいうと考えられています。
そのため本件のように食器に放尿した場合も、感情上その食器を利用して飲食することはできなくなってしまうため、この場合にも損壊であると判断されました。
なお器物損壊罪には他人の財物の存在自体を滅失させる場合も含まれます。そのため他人の財物を利用してなんらかの利益を図ろうとする窃盗罪などよりも法定刑が軽くなっているのです。
②土地の上に立て看板を立てたことが器物損壊罪とされた判例
事案の概要
この事例は、高校の校庭として使用されている土地に「アパート建設現場」と書いた立札を掲げ、幅6間長さ20間の範囲で2か所に杭を打ち込み板付けをして、保健体育の授業などに支障を生じさせた被告人の行為に、器物損壊罪が成立するかが争われた事例です。
判決文の抜粋
「土地の持分に対し登記を経て賃借権の設定を受けた者が、右土地に対しすでに賃借権の設定を受けていた地方公共団体がこれを、その設置かつ管理にかかる高等学校の校庭として使用していた場合に、この事実を以て自己の賃借権を侵害するものであるとして、実力を以て該校庭に「アパート建築現場」と墨書した立札を掲げ巾六間長さ二〇間の範囲で二箇所にわたり地中に杭を打込み板付けをして、もつて保健体育の授業その他生徒の課外活動に支障を生ぜしめたときは、該物件の効用を害するから器物損壊罪を構成するものと解するを相当とする」と判示しました(最高裁判所昭和35年12月27日判決)。
弁護士の解説
「損壊」とは、物質的に物の全部又は一部を害し、又は物の本来の効用を失わせる行為をいいます。このような判例・通説の考え方を前提とすると、土地の上に立て看板を立てて使用できなくした場合にも「土地の効用を害する行為」であるといえるため器物損壊罪が認定されています。
さらに同判例は「公立高等学校の管理する器物が損壊された場合に、その事実を告訴する権利を有するものは、当該地方公共団体の教育委員会であるが、本来高等学校に対する管理権を有する地方公共団体の長もまた、適法な告訴権をもつと解すべき」として、器物損壊罪の告訴権者となれる者の範囲について判示しています。
③器物損壊罪の告訴権者について判断した判例
事案の概要
この事例は、被告人により住んでいる土地家屋のブロック塀が破壊された事例です。
この事例で、被告人を告訴した人物が土地家屋の所有者ではなく、その所有者の配偶者であったことから告訴権者には該当しないのではないかということが問題となりました。
判決文の抜粋
「「犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。」と規定しているのであるから、右大審院判決がこれを毀棄された物の所有者に限るとしたのは、狭きに失するものといわなければならない。そして、原判決の認定したところによると、告訴をしたAは、本件ブロツク塀、その築造されている土地およびその土地上の家屋の共有者の一人であるBの妻で、右家屋に、米国に出かせぎに行つている同人のるすを守つて子供らと居住し、右塀によつて居住の平穏等を維持していたものであるというのであつて、このような事実関係のもとにおいては、右Aは、本件ブロツク塀の損壊により害を被つた者として、告訴権を有するものと解するのが相当である」と判示されました(最高裁判所昭和45年12月22日判決)。
弁護士の解説
器物損壊罪については、「告訴がなければ公訴を提起することができない」と規定されています(刑法第264条、261条参照)。そのため適法な告訴がされていることは処罰の前提として重要な意味を持っています。この点、本判決は器物損壊罪の告訴権者を物の所有者に限るという判断は狭すぎる解釈であるとして判例変更をしている点が重要なポイントです。
同様の考え方から本判決に先立ち「賃借人」に告訴権を認める判例も出されています(最高裁判所昭和35年12月27日決定)。
器物損壊罪の告訴権者が物の所有権者に限定されてないとして、その限界がどこまでかという問題は残っています。物の利用関係・管理関係には様々なタイプの物が存在しているためその外延についてケースバイケースで判断していく必要もあるでしょう。
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