秘密漏示罪とは?構成要件や判例、看護師も主体になるかを解説

秘密漏示罪(ひみつろうじざい)とは、医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人、宗教・祈禱・祭祀の職にある者、または、これらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らした場合に成立する犯罪です(刑法第134条1項・2項)。罰則は6月以下の懲役または10万円以下の罰金です。

この記事では、刑事事件に強い弁護士が、

  • 秘密漏示罪の構成要件(成立要件)
  • 看護師は秘密漏示罪の対象(主体)となるのか
  • 秘密漏示罪の判例

などについてわかりやすく解説していきます。

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秘密漏示罪の構成要件

秘密漏示罪の条文(刑法第134条)によると、同罪の構成要件(成立要件)は次の通りです。

  • ①医師や薬剤師などの一定の身分を有する者が
  • ②正当な理由がないのに
  • ③業務で知った人の秘密を
  • ④漏らすこと

(秘密漏示)
第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。

刑法 | e-Gov法令検索

以下、それぞれの要件について解説します。

「一定の身分を有する者」とは

秘密漏示罪は、行為者(犯罪の主体)が一定の身分を有することで初めて成立する「真正身分犯」に属する犯罪です。

一定の身分を有する者については、秘密漏示罪を規定する刑法第134条1項・2項に列挙されており、同罪の主体になるのは、次の職業(身分)にある者・あった者です

  • 医師
  • 薬剤師
  • 医薬品販売業者
  • 助産師
  • 弁護士、弁護人(弁護士以外の者が弁護人になった場合の「特別弁護人」)
  • 公証人
  • 宗教・祈禱・祭祀の職(神主や僧侶、神父や牧師のこと)

上記の身分の者からサービスを受けるには、自己の秘密を開示せざるを得ないという点から要保護性が高いと考えられており、これらの身分は限定列挙(挙げられている例に限定すること)です。

なお、公務員がその課せられている守秘義務に違反して秘密を漏示した場合には、国家公務員法違反や地方公務員法違反、住民基本台帳法違反として処罰の対象となります。また、公務員をそそのかして(教唆して)秘密を漏示させた者も、公務員法のそそのかし罪で処罰の対象となります(国家公務員法111条、地方公務員法62条参照)。

「正当な理由」とは

秘密漏示罪が成立するには、人の秘密を漏らしたことにつき「正当な理由がないこと」が必要です。正当な理由がある場合には、違法性が阻却され、秘密漏示罪は成立しません。

法令で告知・報告が義務付けられている場合に、その義務を履行するために人の秘密を漏らしたとしても、正当な理由があるといえます。

例えば、感染症法に定められた特定の感染症患者を診断した医師には保健所に届出をする義務があります。このような届出は法令に基づくものであり秘密漏示罪に問われません。

なお、秘密の主体である本人が秘密を第三者に開示することに同意している場合にも「正当な理由」が認められることになります。

例えば、産業医が労働者から相談を受けた、職場でのセクハラ・パワハラ等による心身の不調などについても、労働者の同意があれば配属先の上司などに報告しても同罪に問われることはありません。

また、弁護士が相談者から殺人等の重大犯罪の計画があることを聞いて警察に通報するケースや、依頼を受けて紛争当事者となった弁護士が、刑事裁判における主張・立証のために必要と判断して、業務上知り得た他の依頼人の秘密を証言する行為も、緊急避難(刑法第37条1項)や正当行為(刑法第35条)として秘密漏示罪が成立しないものと考えられます。

「業務で知った人の秘密」とは

秘密漏示罪の客体は「人の秘密」です。そして、秘密については、「業務上取り扱ったことについて知り得た」ことが必要です。したがって、業務とは無関係の情報源から秘密を知ったという場合には処罰の対象外です。

秘密の主体となる「人」には、自然人のみならず、企業などの法人や団体を広く含んでいると考えられています。もっとも、死者や既に解散した団体の秘密は対象外です

「秘密」の定義については、学説上以下のような説が存在しています。

  • 主観説:秘密の主体が秘匿する意思を有していれば足りる説
  • 客観説:客観的にみて秘匿する利益がなければならないという説
  • 秘匿の意思と秘匿の利益の双方が必要という説

学説上いずれの説も有力で、最高裁判所による判例は存在していません。

「漏らす」とは

秘密漏示罪が成立するためには、人の秘密を「漏らす」ことが必要です。

人の秘密を「漏らす」とは、秘密を、それを知らない者に対して告知することをさします

漏らした相手方が了知することは必要はなく、漏らした相手が1人でも犯罪は成立します。さらに他の人に伝えることを禁止して伝えた場合であっても犯罪が成立することになります。

秘密漏示罪は親告罪

秘密漏示罪は親告罪です(刑法第135条)。親告罪とは、被害者等による告訴がなければ検察官は公訴を提起することができない犯罪です(刑事訴訟法第230条)。「告訴」とは、「犯罪の被害者やその他一定の関係者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の訴追や処罰を求める意思表示」のことをいいます。

親告罪の告訴は、「犯人を知った日から6カ月(これを「告訴期間」といいます)」を経過した場合にはすることができません(刑訴法第235条)。

この「犯人を知った」とは、犯人が誰かを知ることをいい、犯人の住所・氏名などの詳細を知っている必要はないものの、少なくとも「犯人が何人(なんぴと)たるかを特定し得る程度に認識」することが必要とされています。

なお、秘密漏示罪の公訴時効は3年ですが、被害者等に告訴されないまま告訴期間を経過すれば、公訴時効が完成する前の段階で犯人は罪に問われなくなります。

看護師も秘密漏示罪の主体になる?

看護師が患者の秘密を漏らした場合にも、秘密漏示罪の対象となるのでしょうか。

秘密漏示罪の主体は限定列挙であり、看護師は同罪の主体として規定されていません。したがって、看護師には秘密漏示罪は成立しません

しかし、看護師も医師と同様、患者やその家族の秘密やプライバシーに関する情報に触れる機会の多い職業です。

そこで「保健師助産師看護師法」という法律で看護師にも守秘義務が課されています

同法には「保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする」と規定されています(保健師助産師看護師法第42条の2)。

看護師がこの守秘義務に違反して業務上知り得た人の秘密を漏らした場合には、「6月以下の懲役」または「10万円以下の罰金」が科され、秘密漏示罪と同じ重さの刑罰が科されることになります(同法第44条の4第1項)。

この罪についても親告罪とされている点は秘密漏示罪と同様です(同条2項)。

秘密漏示罪の判例

弁護士が秘密漏示罪に問われた事案

この事案は、被告人が身代わりであることを知った弁護人が、秘密漏示罪や犯人隠避罪に問われた事案です。

まず、被告人が身代わりであることを知った弁護人は、その意思のいかんに関わらず、被告人利益を擁護する職責を有しており、この職責を果たすにあたり、たとえ業務上知り得た他人の秘密を漏洩する結果を生じても違法性は阻却され秘密漏示罪は成立しないとされています(大審院昭和5年2月7日判決)。

しかし一方で、弁護人が真犯人がいることを知りながら、身代わり被告人が自己の犯罪のように供述するのを黙認して審理を終え、真犯人の発見を妨害した行為については、弁護人の職責に違反し犯人隠避罪が成立すると判断されています。

医師が秘密漏示罪に問われた事案

この事案は、裁判所から精神鑑定を嘱託された医師(鑑定医)が、ジャーナリストに鑑定資料を閲覧・交付したことが秘密漏示罪にあたるとして起訴された事件です。

医師側は、鑑定は医療行為ではないので、鑑定資料は「業務上取り扱ったことについて知り得た」人の秘密にはあたらないと反論しました。

しかし最高裁判所は、医師が、医師としての知識、経験に基づく、診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合に、その鑑定の過程で知り得た人の秘密(鑑定対象者以外の者の秘密を含む)を正当な理由なく漏らす行為は秘密漏示罪にあたる、と判断し有罪としています(最高裁判所平成24年2月13日決定)。

まとめ

この記事では、秘密漏示罪の要件や罰則などについて解説してきました。

秘密漏示罪は親告罪ですので、被害者の告訴がなければ犯罪が成立することはありません。そのため、被害者との間で示談を成立させられた場合には、犯罪に問われるリスクは低下します。したがって逮捕・起訴を回避したいという場合には、刑事事件の経験豊富な弁護士に依頼して早急に被害者と示談交渉することが重要でしょう。

当事務所では、犯罪被害者との示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守ります。秘密漏示罪にあたる行為をしてしまい逮捕のおそれのある方、既に逮捕された方のご家族の方は当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。お力になれると思います。

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