公然わいせつの有名判例を弁護士が解説

判例①目撃者が比較的少人数であったとしても公然性があると判断された事案

事案の概要

この事案は、料金を取って旅館の密室内で性行為の実演を行ったことが公然わいせつ罪に問われた事案です。

被告人側は、性交実演の場所が公開または開放されていない旅館の2階6畳の密室内であり、見物客も特定した最少2人~最多5名の比較的少人数であったことから公然ということはできないと主張しました。

判例分抜粋

この事案に対して裁判所は、

「同条にいわゆるわいせつの行為とは性欲の刺げき満足を目的とする行為であつて、他人に差恥の情を懐かしめる行為を云うのであり、又公然とは不特定又は多数人の認識し得べき状態を云うのであつて、必ずしも現に不特定又は多数人に認識せられることを要しないのである。従つて、特定の少数人のみの認識し得る状態においては原則として公然とは云い得ないのであるが、もしそれが現に特定の少数人か認識し得るにすぎない状態にあるにせよ、偶発的に行われたものではなく一定の計画の下に反覆する意図をもつて不特定人を引入れこれを観客として反覆せられる可能性のあるときは上記の趣意から見て、不特定又は多数人の認識し得べき状態であると解すべきであり、従つてこの場合には公然性を具有するに至るものとしなければならない」

と判示しています(最高裁判所昭和30年6月10日判決)。

弁護士の解説

本件は、見物客から料金をとって性行為の実演を行う、いわゆる「のぞき」を行った事案で、見物客が2人〜5人の比較的少人数の前で行われました。

さらに、本件で見物客であったのは被告人らを検挙する意図のもとで内偵していた警察職員でした。

最高裁判所は実際にわいせつ行為を目撃した者が比較的少人数であったとしても、不特定または多数人の「認識し得べき状態」で行われた場合には公然性があると判断しています

判例②動画投稿サイトを管理運営していた者も公然わいせつ罪の共同正犯とされた事案

事案の概要

この事案は、インターネット上の動画の投稿サイト及び配信サイトを管理・運営していた被告人らが公然わいせつ罪の共同正犯に問われた事案です。

被告人らは、実際に無修正わいせつ動画を投稿した者ではないため、動画を投稿した各投稿者との間に共謀が成立しているか否かが争われました。

判例分抜粋

「被告人両名及びZは,本件各サイトに無修正わいせつ動画が投稿・配信される蓋然性があることを認識した上で,投稿・配信された動画が無修正わいせつ動画であったとしても,これを利用して利益を上げる目的で,本件各サイトにおいて不特定多数の利用者の閲覧又は観覧に供するという意図を有しており,前記のような本件各サイトの仕組みや内容,運営状況等を通じて動画の投稿・配信を勧誘することにより,被告人両名及びZの上記意図は本件各投稿者らに示されていたといえる。

他方,本件各投稿者らは,上記の働きかけを受け,不特定多数の利用者の閲覧又は観覧に供するという意図に基づき,本件各サイトのシステムに従って前記投稿又は配信を行ったものであり,本件各投稿者らの上記意図も,本件各サイトの管理・運営を行う被告人両名及びZに対し表明されていたということができる。そうすると,被告人両名及びZと本件各投稿者らの間には,無修正わいせつ動画を投稿・配信することについて,黙示の意思連絡があったと評価することができる。  そして,本件わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪及び公然わいせつ罪は,本件各投稿者らが無修正わいせつ動画を本件各サイトに投稿又は配信することによって初めて成立するものであり,他方,本件各投稿者らも,被告人両名及びZによる上記勧誘及び本件各サイトの管理・運営行為がなければ,無修正わいせつ動画を不特定多数の者が認識できる状態に置くことがなかったことは明らかである。加えて,被告人両名及びZは,本件公然わいせつの各犯行については,より多くの視聴料を獲得することについて,C,D及びEらとその意図を共有していたことも認められる。

以上の事情によれば,被告人両名について,Z及び本件各投稿者らとの共謀を認め,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪及び公然わいせつ罪の各共同正犯が成立するとした原判断は正当である」(最高裁判所令和3年2月1日決定)。

弁護士の解説

動画投稿サイトを管理・運営する被告人らにはわいせつ動画の投稿者との間に公然わいせつ罪の共謀があったことが認定されています

本件においては以下のような事実が認定されています。

まず、動画配信サイトは、Webカメラで撮影した動画をインターネットを通じて生中継で会社が管理するサーバに配信することができるものでした。

さらに、無料配信形態と有料配信形態があり、有料配信形態の動画が視聴された場合には配信者に報酬が支払われる仕組みや、出演者(パフォーマー)を管理する会社・個人(エージェント)が視聴料を設定しポイントを報酬として受け取ることができる仕組み、売上上位者の名前や金額を表示する仕組みなど、配信者により多くの動画を配信するよう促す措置が講じられていました。

そのうえで、被告人らは会社の業務全般を管理・運営しており、サイト上には相当数の無修正わいせつ動画が投稿・配信されており、それらを放置するという方針を採っていました。

以上のような事情のもと、被告人らと本件各投稿者らの間には、無修正わいせつ動画を投稿・配信することについて黙示の意思連絡があったと判断されています。

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