老朽化して廃墟(長期間使われず荒廃した施設)となったホテル、旅館、病院、工場、学校などの心霊スポットに無断で侵入してその様子をyoutubeで配信する廃墟系ユーチューバーが人気を博しています。また、そういった動画を観たユーザーが、肝試しをしたり、スリルを求めて廃墟に立ち入ってしまうこともあります。
しかしここで、
廃墟とはいえ、許可なく勝手に他人の建物に踏み入ることは不法侵入になるのでは?
といった疑問をお持ちの方もいることでしょう。
結論から言いますと、廃墟に勝手に立ち入ると、建造物侵入罪などの罪に問われる可能性があります。
この記事では、不法侵入事件に強い弁護士が、
- 廃墟への不法侵入で問われる可能性のある罪
- 廃墟への不法侵入で逮捕された事例
- 廃墟に不法侵入で逮捕されるとどうなるのか
などについてわかりやすく解説していきます。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
目次
廃墟への不法侵入で問われる可能性のある罪
建造物侵入罪にあたることも
正当な理由がないのに、人の住居に侵入した場合は住居侵入罪が、人の看守する邸宅(住居用に作られたが現在は使用されていないもの。空き家・別荘など)、建造物(住居や邸宅以外の建造物)もしくは艦船に侵入した場合は建造物侵入罪が成立します(刑法第130条参照)。
廃墟は人の住居ではありませんが、その廃墟が「人の看守する」邸宅・建造物であれば建造物侵入罪が成立する可能性があります。
これらの犯罪は、「誰に立ち入りを認めるか」という建造物に対する管理権(住居権)を保護するために規定されています。そのような制度趣旨から、「人の看守する」の「人」とは建造物の管理者を指し、人の立ち入りや滞留について許諾権を有する者のことをいいます。また「看守」とは、建物などを事実上管理・支配するための人的・物的設備を施すことを指し、具体的には門衛・守衛を置いたり出入口を施錠したりする行為がこれに当たります。
そのため、廃墟であっても施錠されていたり立ち入り禁止の表示がされていたりする邸宅・建造物に立ち入る行為は「建造物への管理権者の意思に反した立ち入り」であるとして、建造物侵入罪に問われる可能性があるのです。
軽犯罪法違反に問われることもある
それでは廃墟などに「管理者がいない場合」や、相続人不在などで「誰のものでもない場合」であれば犯罪は成立しないのでしょうか。
そのような場合でも「軽犯罪法違反」で犯罪に問われる可能性があります。軽犯罪法とは刑法犯と比較して軽微な秩序違反行為を取り締まるために定められている法律で、33個の違反行為が明記されています。
そして軽犯罪法には、「人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建造物又は船舶の内に正当な理由がなくひそんでいた」行為を犯罪として規定しています(軽犯罪法第1条1号参照)。軽犯罪法に違反した者には「拘留」または「科料」という罰則が科されることになります。
「拘留」とは、1日以上30日未満の刑事施設への拘置を指します。また「科料」は1000円以上1万円未満の財産刑をいいます。
もっとも、軽犯罪法違反行為を現認された場合であっても警察に逮捕される可能性は高くはありません。
刑事訴訟法には、「30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪」については現行犯逮捕が制限されています。つまり、軽微な犯罪の場合には「犯人の住所若しくは氏名が明らかでない場合」または「犯人が逃亡するおそれがある場合」でなければ現行犯逮捕ができない旨が規定されています(刑事訴訟法第217条参照)。
そのため軽犯罪法違反行為を現認され警察官が駆けつけた場合であっても、その場で氏名・住所を明かして任意の取り調べにも応じる旨を確約するという対応を示していれば逮捕される可能性は低くなります。
現行犯逮捕ではなく後日逮捕状に基づく通常逮捕の場合であっても上記軽犯罪については、「被疑者が定まった住居を有しない場合」または「正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合」に限定されています(刑事訴訟法第199条但書き参照)。
廃墟への不法侵入後の行為によって問われる可能性のある犯罪
窃盗罪
立ち入った廃墟の中に残置されている家財道具や装飾品などを無断で持ち出してしまうと「窃盗罪」に問われる可能性があります。
他人の所有物の占有を侵害して自己の占有に移転する行為は「他人の財物を窃取」する行為として窃盗罪が成立します(刑法第235条参照)。
窃盗罪が成立した場合には、「10年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」が科されることになります。
器物損壊罪
廃墟であるといって、立ち入りの際にドアや窓を破壊したり、建物内の設備や物を壊した利した場合には「器物損壊罪」に問われる可能性があります。
他人の財物の効用を害し、利用可能性を侵害した場合には「他人の物を損壊し」たとして器物損壊罪が成立します(刑法第261条参照)。
「損壊」には物理的な損壊のみならずその効用を害する一切の行為が含まれると考えられていますので、看板を取り外して捨てたり物を隠匿したりする行為も器物損壊に含まれることになります。
器物損壊罪が成立した場合には、「3年以下の懲役」又は「30万円以下の罰金若しくは科料」が科されることになります。
廃墟の心霊スポットへの不法侵入で逮捕された事例
廃墟に不法に侵入したことで逮捕された近年の事例が複数あります。
ある事例では心霊スポットと地元の人にはささやかれていた廃墟となったホテルが舞台となりました。このホテルには肝試しなどで無断で立ち入る人が後を絶ちませんでしが、そんなあるときホテルにサバイバルゲーム目的で立ち入った3名が建造物侵入の容疑で現行犯逮捕されてしまうという事件が発生しました。
また、スケート場跡地では正当な理由なく立ち入ったとして2名の男性が逮捕されたという事件もありました。この男性らは2人組の心霊系YouTuberで、彼らの投稿された動画の中で当該場所を「有名な心霊スポット」として紹介していました。
このような動画配信者の場合には、投稿された動画が犯罪の明らかな証拠として公表されてしまっているので逮捕される可能性も高まります。
廃墟の不法侵入で逮捕されるとどうなる?
廃墟への不法侵入で逮捕された後は、以下の流れで手続きが進んでいきます。
- 警察官の弁解録取を受ける
- 逮捕から48時間以内に検察官に事件と身柄を送致される(送検)
- 検察官の弁解録取を受ける
- ②から24時間以内に検察官が裁判官に対し勾留請求する
- 裁判官の勾留質問を受ける
→勾留請求が却下されたら釈放される - 裁判官が検察官の勾留請求を許可する
→10日間の身柄拘束(勾留)が決まる(勾留決定)
→やむを得ない事由がある場合は、最大10日間延長される - 原則、勾留期間内に起訴、不起訴が決まる
- 正式起訴されると2か月間勾留される
→その後、理由がある場合のみ1か月ごとに更新
→保釈が許可されれば釈放される - 勾留期間中に刑事裁判を受ける
被疑者は逮捕されてから勾留請求がされるまでの①~⑥までの間(最大72時間)は弁護士以外の者と連絡をすることができません。会社勤めしている方や学校に通われている方は無断欠勤・無断欠席となってしまいますので、できるだけ早急に弁護士との接見を希望し、弁護士に依頼して家族などから勤務先や学校に休みの連絡を入れてもらう必要があります。
もっとも、⑥で裁判官により勾留請求が許可されると、その後、起訴・不起訴が決まるまで最大20日間は身柄拘束されますので、勤務先や学校に隠し通すことが厳しい状況になってきます。もし起訴されて刑事裁判で有罪判決となれば懲戒解雇や退学処分もあり得ます。また、執行猶予付き判決となった場合でも有罪には変わりありませんので前科がついてしまいます。
このような事態を回避するためにも、廃墟への不法侵入で逮捕されるおそれがある場合や逮捕されてしまった場合には、弁護士に相談して適切な弁護活動を開始してもらう必要があります。
廃墟への不法侵入で逮捕された場合にすべきこと
逮捕される前に廃墟の所有者と示談を成立させることができれば、警察に被害届を提出しないことに合意していただけるため、警察が事件を認知することはなく逮捕を回避できます。では、既に逮捕されてしまった場合にはどのような対応をとるべきでしょうか。
まずは弁護士と接見する
逮捕された後は一刻もはやく弁護士との接見を要請しましょう。警察官に申し出れば、警察官が手配してくれます。知っている弁護士や逮捕前から選任している弁護士がいれば、その弁護士を指定して要請します。知っている弁護士がいない場合、逮捕前から選任していない場合は当番弁護士との接見を要請します。
接見では取り調べで不利な供述調書に署名捺印させられないよう法的なアドバイスもしてくれますし、今後の手続きの流れ、見込み等について説明を受けることができます。
被害者と示談を成立させる
廃墟への不法侵入で逮捕された場合は、被害者である廃墟の所有者に真摯に謝罪の気持ちを伝え、盗んだものや壊したものがある場合には被害弁償を尽くしたうえで出来るだけ早急に示談を成立させることが重要となります。
もっとも、被疑者は外部と自由に連絡を取ることが禁止されますので自分で示談交渉することはできません。また、仮に在宅事件に切り替わって釈放された場合でも、警察が廃墟の所有者の連絡先を教えてくれるわけでもなく、一般の方が所有者の連絡先を調べて示談交渉を開始することが困難なケースも少なくありません。
そのため、示談交渉は弁護士に依頼して、謝罪文等で被害者に反省の気持ちを伝えてもらい、示談成立に向けて動いてもらう方が良いでしょう。
示談をすることはすなわち不法侵入したことを認めたことになりますので、逃亡や証拠隠滅のおそれがなくなったと捜査機関に判断されやすくなり、早期釈放に繋がりやすくなります。
また、警察から検察に送検された後でも、廃墟の所有者と示談が成立することで「被害者の処罰感情が低下した」と検察官が判断し、不起訴処分になる可能性が高まります。不起訴処分を得れば前科もつきませんので実質的に無罪を獲得したのと同様の効果を得ることができます。
さらに、起訴されたとしても、裁判官は示談を有利な情状として勘案しますので、懲役の期間が求刑よりも短くなったり、実刑のところが執行猶予になるなど量刑が軽くなることも期待できます。
弊所では、不法侵入の被害者との示談交渉を得意としており、早期釈放、不起訴の獲得実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、廃墟の不法侵入で逮捕されるおそれのある方、既に逮捕されてしまった方のご家族の方は弁護士までご相談ください。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|