盗撮目的でトイレに侵入し建造物侵入罪に問われた事例
事件の内容
この事件は40代・会社員の男性が、盗撮をする目的で近所の大型スーパーに設置されている女子トイレ内に立ち入り、スマホのカメラを使用してトイレの個室内を撮影しようとした事例です。
女子トイレ内に侵入し撮影していたところ不審な行為をしているとして女性客に見つかってしまいました。スーパーの責任者は警察に通報し、その後駆け付けた警察官に男性は、建造物侵入、迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されてしまいました。
その後、警察署に連行され取り調べを受けたのちに釈放され在宅捜査に切り替わりましたが、できれば不起訴にしてもらいたい、盗撮行為を反省しているので被害者と示談したいとの希望から弊所に相談に来られました。
※守秘義務との関係上、一部内容を変更しています。
盗撮目的でトイレに侵入すると問われる罪
住居侵入罪・建造物侵入罪
「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった」場合には、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立します(刑法第130条参照)。罰則は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
「住居」とは、人の日常生活に利用される場所のことを指し、「邸宅」とは居住用の建造物で住居以外(空き家や別荘、付属地など)を指します。「建造物」とは住居、邸宅以外の建物を指します。今回のケースでは、侵入した場所が商業施設であるスーパーの女子トイレへですので、建造物侵入罪に該当します。
そして、盗撮目的で商業施設のトイレに立ち入ることは「正当な理由」がありませんので、相談者の男性は逮捕されるに至っています。
不法侵入はどこから?住居侵入罪になる分かれ目と逮捕後の流れを解説
迷惑防止条例違反
各都道府県では迷惑防止条例を制定して、盗撮行為を処罰の対象にしていることが多いです。
東京都の迷惑防止条例を参考に見てみると、「便所」で「人の通常衣服で隠されている下着または身体」を「撮影したり、撮影目的で機器を差し向けたり、設置すること」は処罰の対象となっています。
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(前略)
二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
(後略)
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
東京都の迷惑防止条例に違反して盗撮等をした場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることになります(同条例8条2項参照)。
今回のケースでは、「便所」で「撮影」をしたわけですから、男性の行為は迷惑防止条例違反となります。なお、仮に今回のケースで、男性が女子トイレに立ち入った直後に取り押さえられた場合には迷惑防止条例違反とはなりません。迷惑防止条例の盗撮の罪に未遂規定はないからです。
もっとも盗撮が未遂のケースでも、盗撮目的で女子トイレに立ち入った時点で上記の「建造物侵入罪」に問われますし、以下で説明する「軽犯罪法の”のぞき見た”」に該当し、同法違反となります。
軽犯罪法違反
軽犯罪法には、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常着衣をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た」場合を処罰の対象としています(同法1条23号参照)。
軽犯罪法に違反した場合には、拘留または科料が科されることになります。
今回のケースでは、正当な理由なく便所(トイレ)に侵入しのぞき見(盗撮も含む)していますので軽犯罪法違反となりますが、建造物侵入罪とは補充関係にあるため、建造物侵入罪が成立している今回のケースでは適用されていません。
弁護活動の内容と結果
弁護人が逮捕後、適切に対応し取り調べに対しては適切に出頭する旨を確約したところ、男性は2日後に身体拘束から解放されました。さらに弁護人が被害者女性と示談交渉し示談金を支払うことで示談を取りまとめることができました。
他方、店舗に対しても謝罪文や示談金を準備して示談交渉を試みましたが、店舗側の方針で示談を受け入れてもらうことができませんでした。そこで弁護人は被疑者には作成した謝罪文や示談金を支払う用意があることを検察官に報告することにしました。
弁護士による弁護活動の結果、盗撮については不起訴を勝ち取ることができました。他方、建造物侵入罪については略式起訴されてしまいましたが、結果として罰金の支払いのみで終了することができました。
まとめ
盗撮目的で、公衆トイレ、公共施設や商業施設のトイレに侵入すると、建造物侵入罪や迷惑防止条例違反に問われます。
初犯で前科がなく、被害者と示談が成立している場合には、今回のケースのように不起訴や略式起訴による罰金刑で済む可能性もあります。とくに被害者との示談成立は、不起訴獲得や刑の減軽に有利な事情となりますので非常に重要です。
もっとも、警察が被疑者に被害者の連絡先を教えてくれることはありませんし、仮に被害者の連絡先がわかったとしても、性犯罪の被害者が加害者との直接的な示談交渉に応じることはまずありません。
この点、弁護士であれば連絡先を教えても良いという被害者も多く、また、弁護士であれば被害者の心情に配慮した冷静な話し合いができますので示談が成立する可能性が高まります。
当事務所では、盗撮目的でのトイレへの侵入事件で、被害者との示談交渉、早期釈放、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、お困りの方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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