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離婚の公正証書とは?メリット・デメリットを解説
公正証書とは、ある当事者間(私人間)における一定の事実の存在などに関して、公証人という公務員が作成する公文書のことをいいます。
公正証書は公文書であるため、その記載内容について非常に信用力が高い文書とされています。そのため万一、当事者間においてある事柄に関してトラブルが発生した場合でも、それを公正証書として残しておけば内容の事実の証明が容易となります。
日本における離婚では、当事者の協議による離婚が圧倒的多数を占めています。当事者が協議によって離婚する場合、離婚条件に関して取り決めしておくべき事項がたくさんあります。財産分与や慰謝料の有無、子供の親権者を誰にするのか、養育費はいくら支払うのかなどについて明確に決めておかなければなりません。これらの条件を明確にしておかないと、あとになって当事者間でトラブルが発生する原因ともなってしまいます。
では、当事者でこれらの離婚条件に関して合意が成立し、その内容を公正証書にした場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。以下で解説していきます。
メリット
離婚条件を公正証書で作った場合には、主につぎのようなメリットを受けることができます。
①裁判なしに強制執行できる
公正証書の内容が、一定の金銭の支払いに関するものである場合において、その不払いがあった場合には、相手方に対して即強制執行することが認められます。ただし、そのためには認諾条項が必要です。「認諾条項」とは、支払うはずのお金を約束どおり支払わなかった場合には、裁判を経ずに強制執行を受けることを相手が認めているという条項です。
通常であれば強制執行するためには、金銭の支払いを求め裁判を起こし、勝訴判決を得る必要があります。そのためには当然、手間暇がかかり面倒な手続きをしなければなりません。相手に強制執行するためには、このようにハードルが高いため、事実上「泣き寝入り」してしまうケースも少なくありません。
しかし、離婚条件について公正証書を作成しておけば、このような面倒な手続きをすべて省略し、いきなり相手の財産に対して差し押さえなどをすることができるのです。この点は、公正証書の最大のメリットと考えてよいでしょう。
後述するように、公正証書を作るときには面倒な手続きが必要とはなりますが、このメリットと比較すればはるかにメリットの方が多い手続きであることがお分かりいただけるでしょう。
②相手方にプレッシャーをかけることができる
公正証書は、公証役場で公証人に作成される厳格な公文書です。そのため、相手方も公正証書の内容に違反した場合には大変なことになる、という自覚を持っているのが大半です。
なぜなら、認諾条項のある公正証書を作ったケースでは、金銭を支払わなかった場合には即強制執行を受けてしまうということを公証人から説明を受けているはずだからです。
慰謝料や養育費の不払いなどのために強制執行され、自分の給料が差し押さえなどされるのは誰でも避けたいと思うものでしょう。認諾条項付きの公正証書を作っておけば、強制執行を避けるため、相手も極力支払いをしようとします。
ただし、認諾条項付きの公正証書を作るにあたり相手方の承諾が得られない場合には、認諾条項付きの公正証書を作ることはできません。この場合、認諾条項のない公正証書を作ることになります。
しかし、仮に認諾条項がなかったとしても、離婚条件について公正証書を作っておくことはメリットとなります。
公正証書まで作った以上、金銭の不払いなどのトラブルが裁判になった場合には、自分が不利になるという自覚を相手方も持っているはずだからです。
つまり、離婚条件に関する書面を公正証書で作っておけば、たとえ認諾条項の無いものであったとしても相手方に約束を守らせるための無言のプレッシャーを与えることができるのです。このプレッシャーによって、相手による自発的な支払い率の向上が期待できます。
財産開示手続きを利用できる
公正証書を作っておけば、財産開示手続きを利用することができます。
財産開示手続きとは、相手が今もっている財産を開示するよう裁判所から相手に対して働きかけてもらうための手続きです。
金銭の未払いが続いたときに相手の財産を差し押さえるといっても、その前提として相手が今どんな財産をもっているのか把握しておく必要があります。
あなたから相手に働きかけることも可能ですが、金銭の未払いが続いているときは、相手があなたの求めに素直に応じることは期待できないでしょう。
そこで、裁判所という公的機関を通じて相手の今もっている財産を開示させようというのが財産開示手続きです。
相手が正当な理由がなく、裁判所の出頭要請に応じないときは罰則(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が用意されています。
第三者からの情報取得手続きを利用できる
公正証書を作っておけば、第三者からの情報取得手続きも利用することができます。
ここでいう第三者とは、第三者からどんな情報を取得したいかによって異なります。養育費などの金銭の未払いが続いたときは給与を差し押さえることが多いですが、給与を差し押さえるには相手が勤めている勤務先の情報を取得する必要があります。勤務先の情報を取得するには市区町村、または日本年金機構など厚生年金を取り扱う団体が第三者となります。
第三者から相手の勤務先の情報を取得することで、勤務先が相手に払う給与を差し押さえ、給与の中から養育費などの未払い分の金銭を回収することができます。
原本がなくならない
離婚の公正証書は原本、正本、謄本の3部が作られます。正本と謄本は原本の写しで、原本と同一の効力があります。正本は金銭を請求する権利をもつ権利者に、謄本は金銭を支払う義務がある義務者に交付されます。
一方、原本は、原則20年間、公正証書を作った公証役場で保管されます。万が一、正本や謄本をなくしてしまったという場合でも、公証役場に保管されている限り、公証役場に正本・謄本の交付を申請すれば発行してくれます(ただし、費用(1枚につき250円)がかかります)。
デメリット
離婚に関する条件を公正証書にする場合、上記のようなメリットを受けることができます。しかし、同時につぎのようなデメリットも考えられます。
①手間・暇がかかる
公正証書を作成する場合、基本的には夫婦両方が決められた日時に公証役場を訪れなければなりません。そして公証人によって本人確認や意思の確認など一定の手続きが行われます。
このため、どうしてもある程度の手間・暇がかかってしまいます。
これに対して当事者で離婚協議書などを作成する場合には、基本的に当事者だけで作ることができるため公正証書と比較して手間・暇は少なくなります。
②費用が掛かる
離婚条件に関して公正証書を作る場合、一定の費用が掛かります。
これは、公証人への手数料などを支払う必要があるからです。具体的な手数料の額に関しては、公正証書に記載されている金額によって決定されることになります。なお、公正証書作成の際に必要となる具体的な費用に関しては、後述いたします。
これに対して当事者間で離婚協議書などを作る場合には、費用が掛かりません。
③相手方の協力が必要
離婚条件を公正証書にする場合、ある程度相手方の協力が必要となります。
公正証書を作るためには、基本的に公証役場を訪れるなど面倒な手続きが必要となります。このため、どうしてもある程度以上相手方に協力してもらう必要があるのです。相手が協力してくれれば問題ありませんが、公正証書の作成に協力的でない場合には、最悪のケースとして公正証書の作成をあきらめざるを得ないという可能性もあります。
公正証書に認諾条項を付ける場合にも、相手方の協力が必要です。
公正証書の作成|最初にすべきこと
離婚条件を公正証書で残した場合、大きなメリットを受けることができます。
それでは、離婚条件に関して公正証書を作る場合、どのようなプロセスが必要となるのでしょうか?
公正証書を作るためには、まず何より初めに離婚条件をどうするのかについて当事者間で合意しておくことが必要です。
事前に決めておくべき内容
協議離婚に関する条件を公正証書にするためには、当事者間でつぎのような事項に関して明確に取り決めをしておかなければなりません。
(1)離婚の合意
協議離婚の条件について公正証書を作成する場合、夫婦の当事者が離婚することに合意していることを明示する必要があります。
現時点では離婚に合意していても、のちに相手の気持ちが変わり「離婚には合意していない」などと言い出した場合、スムーズな離婚が望めなくなる可能性があります。事実、このようなトラブルは世間にたくさん存在するのです。
このようなことを避けるためには、まず何と言っても当事者間に離婚の合意が成立したという事実を明確にしておく必要があるのです。
(2)慰謝料について
離婚に際して夫婦の一方から相手方に対して、慰謝料が支払われることがあります。通常の場合、慰謝料は離婚原因を作った有責配偶者が相手方に対して支払うことが一般的です。
離婚するに際して、慰謝料を支払うのかどうか、支払う場合にはその金額などを決めておきましょう。慰謝料は、一括ではなく分割で支払うことにすることも可能です。分割にする場合には、支払い条件などについてキッチリ明確に決めておく必要があります。
(3)財産分与について
夫婦が離婚する場合、当事者間で財産分与がなされる場合があります。離婚する際には、当事者間で財産分与するかどうかを決めておきます。
財産分与する場合には、どのような財産を分与するのかなどに関して、具体的に決めておくことが大切です。財産分与は慰謝料と同様、分割での支払いとすることが可能です。
参考:「離婚時の財産分与とは?少しでも多くもらうための4つのポイント」
財産分与や慰謝料を分割で支払う場合
当事者の事情によっては、財産分与や慰謝料を分割払いとすることもあります。
このような場合には、つぎの事項についても取り決めしておくとよいでしょう。
①毎回の支払時期・金額
財産分与や慰謝料を分割払いとする場合には、最初の支払から返済の終了まで、なるべく具体的に期日と金額を決めておくことが大切です。この点の取り決めがあいまいだと、のちのトラブルの原因となる可能性が高くなるからです。
毎月の分割とするのであれば、「毎月何日までにいくら支払う」のか、ボーナス時期には加算するのかなどについて決めておきましょう。
できれば、支払いに関するスケジュール表を作っておくと、より安心です。
②遅延利息について
毎回の分割払いの期日内に分割金が支払われない場合、その延滞日数に応じて利息の支払いを要するのかどうかについて決めておきます。
③期限の利益の喪失について
必要に応じて期限の利益の喪失の有無について定めておきます。
「期限の利益の喪失」とは、分割払いの約束がある場合において、相手方が約束どおり毎回の支払いを怠ったことを条件として、それ以降は分割を認めず残金の一括払いとなるという契約です。
(4)親権者について
離婚する夫婦の間に未成年の子供がいる場合、離婚後どちらを親権者にするかに関して決める必要があります。親権者が決まらない場合に、離婚をすることができません。
協議離婚の場合、親権者を夫婦のどちらにするのかについては、当事者の協議によって自由に定めることができます。しかし、離婚後に親権者を変更するためには家庭裁判所で調停などの手続きが必要となりますので、注意が必要です。親権者をどちらにするのかの判断は、慎重に行う必要があります。
親権と監護権は分離も可能!
離婚に際して親権者を決める場合、当事者の合意があれば、親権者のほかに監護親を定めることが可能です。この場合、夫婦それぞれが親権者または監護親となります。
親権者と監護親を分けた場合、離婚後に子供を引き取ることになるのは監護親となります。この場合、親権者となる親は子供と一緒に暮らすことができなくなりますが、子供が成人するまで子供の財産の管理や法律上の行為の代理人として子供とかかわることができます。
(5)養育費について
離婚する夫婦の間に未成年の子供がいる場合、一般的には親権者が子供を引き取り養育することになります。
この場合、子供を引き取らなかった親は親権者に対して養育費を支払う法律上の義務があります。
このため、離婚する際には離婚条件のひとつとして、養育費の支払いに関しても取り決めする必要があります。
養育費に関する条件を定める場合には、つぎのような事柄に関して、なるべく具体的に取り決めをしておくことが大切です。
①支払いの期間
いつから支払いを開始するのか、いつまで支払うのかを明確に決めておきましょう。支払い期間を明確に定めなかった場合、のちにトラブルとなる可能性が高くなりますので、注意してください。
なお、養育費の支払い義務は、子供が社会的に自立できる時まで継続するものとされています。実際上、養育費の支払い終了の目安は、子供が成人した時というのが一般的です。ただし、子供が大学まで行く場合には、大学卒業まで支払うことにするという取り決めも可能です。
②支払いのペース
養育費の支払いのペースについて明確に決めておきましょう。
養育費は毎月支払うのが一般的ですが、当事者の事情によっては、それ以外の定めとすることも可能です。
③支払日
養育費の支払い日を決めておきます。
たとえば、「支払いは毎月末日までに行う」、「毎月30日に支払う」などと決めます。
④養育費の額
養育費が毎回いくら支払われるのか決定しておきます。
養育費の額に関しては、当事者の協議によって自由に定めることが可能です。一般的な相場から離れた金額であったとしても、当事者の合意がある以上有効です。
ただし、相場からかけ離れて高い金額を決めてしまった場合には、離婚後養育費の不払い問題が発生する可能性が高くなります。逆に相場よりも低い金額にした場合には、離婚後親権者が生活に困ることになる可能性が考えられます。
離婚後における、このようなトラブルを避けるためにも養育費は一般的な相場を基準にして決定するとよいでしょう。
養育費の相場については、以下の記事が参考になります。
⑤支払方法
養育費をどのような方法で支払うかを決めておきましょう。
実際の事例では、親権者の指定する金融機関の口座に振込送金することが一般的です。
⑥その他必要事項
必要に応じて、つぎのような項目についても取り決めする場合もあります。
特別な支出があった場合の対応
子供がケガや病気で入院・手術などが必要となった場合など緊急な支出が発生したときに、養育費の支払いをその分増額するかどうかについて決めます。
事情変更があった場合の対応
養育費を受け取る側と支払う側に関して、再婚や失業など生活状況の変化があった場合に、養育費の額を増減するのかどうかについて決めることも可能です。
(6)面会交流について
夫婦の間に未成年の子供がいる場合、離婚後子供は親権者に引き取られることになるのが一般的です。
この場合、親権者でない親(非親権者)としては子供と離れ離れに生活することになります。しかし、その場合でも、非親権者には定期的に子供と面会し一定の時間を一緒に過ごす権利が認められています。この権利を「面会交流権」といいます。
当事者において面会交流を認める場合には、面会交流権の内容について決めておきましょう。
具体的には、つぎのような事柄について当事者間で取り決めをしておくと、のちのトラブルを防止することに役立ちます。
①面会交流の頻度
面会交流をどのくらいのペースで行うのか決めておきます。
面会交流の頻度を決めるときには、子供を引き取らない親と子供との親密度などを考慮して決定するとよいでしょう。
たとえば、「毎月1回、第二日曜日に面会交流を認める」、「2週間ごとに面会交流を認める」、「面会交流は毎週末行う」などと決めます。
②面会交流の方法
面会交流は、なにも親と子供が実際に顔を合わせ時間を過ごすという方法ばかりに限定されるものではありません。電話やメール、SNSなどを通じてのやりとりも立派な面会交流です。
当事者間で面会交流をどのように行うのかを決めましょう。
③面会交流1回の時間
1回ごとの面会交流の時間を決めます。
「面会交流の時間は、午前10時から午後5時までとする」、「面会交流は12時間以内とする」などと決めます。
④宿泊させるかどうか
面会交流の際に、子供の宿泊を認めるのかどうか決めておきます。
「面会交流では、宿泊を認めない」、「月に一度、宿泊を認める」などと決めることが一般的です。
⑤子供の送迎について
面会交流の際に、子供をどうやって送り迎えするのか決めます。
「親権者が相手方の自宅に子供を送り迎えする」などと決めます。
⑥お互いの連絡方法
面会交流を実施する際には、親権者と非親権者との間で連絡を取り合うことが必要となります。そのため、当事者間の連絡方法を決めておかなければなりません。
当事者間の連絡方法を決める場合には、緊急事態の発生を考え、なるべく電話など即時に相手とやり取りのできる方法にしたほうが良い結果となることが多いようです。
面会交流は子供の権利でもある
面会交流権というと、離婚によって子供と離れて暮らすことになる親の権利のように思われる方も多いかもしれません。もちろん、その考えは間違ってはいません。しかし、面会交流権は子供の権利でもあるということを理解しておいてください。
離婚後には元夫(妻)と顔を合わせたくない、連絡を取りたくないという気持ちから、面会交流を制限したいと思うケースも多くあるでしょう。しかし、面会交流を制限した場合、子供の権利も制限することになる可能性があるのです。
離婚条件として面会交流権を協議する場合には、面会交流は相手方のためだけでなく子供のための制度でもある、ということを考えておく必要があります。
なお、面会交流の取り決め方などに関して、より詳しい情報が知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
(7)その他必要事項について
離婚条件として押さえておくべきポイントは、上記のような事項となります。しかし、当事者間の状況により、これ以外にも必要事項がある場合には、それについても記載しておいた方がよいでしょう。
①清算条項
離婚条件に関して当事者が合意した内容以外で、当事者に「債権債務がない」ことを確認することがあります。「債権債務がない」とは、財産分与や慰謝料の支払いをもって、もはや当事者間に「貸し借り」がないということを明確に確認するものです。これを「清算条項」といいます。
公正証書の一条項として、この清算条項を入れた場合、あとになってさらに金銭の要求などができなくなります。
財産分与の支払いをもって、もはや相手との貸し借りがないと思っていたのに、あとになって慰謝料の請求などをされたら大変です。将来のトラブルを避けるためにも、清算条項は入れておいた方がよいと思われます。
②年金分割
たとえば、夫婦間で年金分割の取り決めをした場合、その旨を公正証書に盛り込むことが可能です。
(8)不払いの場合には強制執行を受けることについて(「認諾条項」)
冒頭において公正証書の最大のメリットとして、一定の金銭を相手が支払わない場合、すぐに強制執行できることをご紹介しました。
公正証書には、このように非常に大きな効力を持つ便利な書類です。しかし、即時の強制執行が認められるためには公正証書の内容として、金銭の不払いの場合には相手が裁判なしに強制執行を受けることを受け入れている事実が記載されている必要があります。これを「認諾条項」といいます。
世の中には、離婚後において養育費の不払いなど離婚条件に関する約束が守られないケースが多発しています。そのような場合に、すぐに強制執行の手続きができるようにしたい時は、この認諾条項についても当事者間で合意しておくことが必要です。そして、合意ができた場合には必ず公正証書内に認諾条項を記載することになります。
合意内容は書面に残すことが大切
離婚の条件について上記のような事項に関して合意が成立した場合、その内容を書面に残しておくことが大切です。
メモ書き程度でも構いませんから、各項目について当事者間でどのような取り決めが行われたのかを明記しておきましょう。
この書面は、公正証書を作る際に役に立ちます。合意内容を書いた書面はかならず作成し、公正証書の作成を依頼するときに持参するようにしてください。手続きが圧倒的にスムーズに進むはずです。
公正証書の利用の手順とは?
離婚条件に関して当事者で上記のような事柄について合意が成立した場合、いよいよ実際に公正証書を作成する手続きを始めることになります。
この際、つぎのような手順で手続きを進めるとスムーズです。
(1)必要書類などを集める
離婚条件に関する書類を公正証書にするためには、公証人に依頼することが必要です。
その際には、つぎのような書類が必要となります。まずは、これらの書類を確実に集めることから始めましょう。
①夫婦それぞれの身分証明書
公正証書を作成する際には、公証人に夫婦それぞれの身分証明書を提示する必要があります。身分証明書としては、つぎのようなものを用意すればよいでしょう(どれか1つ)。
- 運転免許証
- パスポート
- 印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)と実印
- 住民基本台帳カード
②夫婦の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
離婚条件を公正証書で残す場合には、夫婦の戸籍が必要となります。戸籍謄本は役所で発行されてから3か月以内のものでなければいけません。
夫婦がまだ離婚していない場合には、夫婦は同一の戸籍に入っているため、戸籍は一通提出すれば足ります。しかし、離婚している場合には夫婦それぞれの戸籍が一通ずつ必要となります。
なお、離婚届を役所に提出したばかりで、まだ新しい戸籍謄本の交付を受けられない場合には、役所で「離婚届受理証明書」の交付を受けて公証人に提出することになります。
③離婚条件についての合意書
公正証書作成の事前準備として、当事者間で協議し合意した離婚条件を記載した書面が必要です。
もし、まだ離婚条件に関して合意が成立していない場合、そもそも公正証書を作成することができません。離婚条件や認諾条項を付けるかどうかに関して、公証役場で当事者がもめることなどがないように、離婚条件に関してはしっかりと話し合い、決めておく必要があります。
④夫婦両方の実印・印鑑証明書
公正証書作成当日には、(元)夫婦両名が公証役場を訪問し、公正証書に署名・押印など一定の手続きをする必要があります。
この際、押印に使用するハンコは、役所に印鑑登録している実印でなければいけません。また、実印であることを証明するために発行後3か月以内の印鑑証明書も添付することになっています。
⑤その他必要書類
公正証書を作成する際に必要となるものは、基本的に上記のようなものとなります。
しかし、当事者の合意内容によっては、さらにつぎのような書類が必要となることがあります。
財産分与をする場合
離婚条件として夫婦の一方から相手方に対して財産分与を行う場合、事情に応じてつぎのような書類が必要となることがあります。
実際の事例で、財産分与の対象とされることの多い主な財産に関して見てみることにしましょう。
預貯金を財産分与する場合
預貯金が財産分与の対象となっている場合、つぎのような書類の提出が必要です。
- 預貯金の通帳(コピーでも可)
財産分与の対象が不動産の場合
財産分与の対象が不動産である場合、主につぎのような書類が必要になります。
- 不動産登記事項全部証明書(または、登記済み権利証)
- 固定資産評価証明書(または納税証明書)
- 住宅ローンに関する書類(住宅ローンが残っている場合)
財産分与の対象が自動車の場合
自動車が財産分与の対象である場合、主につぎのような書類が必要です。
- 車検証(コピーでも可)
- 自動車のローンに関する書類(ローンが残っている場合)
なお、自動車にローンが残っている場合、ローン会社の所有権留保がなされていることがあります。この場合、自動車は法律上ローン会社のものであり、夫婦のものではありません。そのため、その自動車は財産分与の対象にはならないので注意してください。
所有権留保のついている自動車は、離婚後も自動車の使用者が引き継ぎ、自動車ローンの債務者が返済を継続することになるのが一般的な扱いです。
年金分割をする場合
(元)夫婦が離婚に際して年金分割する場合、つぎのような書類が必要となります。
- 夫婦それぞれの年金手帳
必要書類に関しては公証役場に確認すること!
離婚に関する条件は、夫婦の事情によってさまざまです。財産を多く持っている夫婦が離婚する場合もあれば、めぼしい財産のない夫婦が離婚するケースもあります。
離婚に際して公正証書を作成する場合には、具体的にどのような書類が必要なのか公証役場に確認することが一番です。公証役場に問い合わせれば丁寧に教えてくれるはずです。
(2)最寄りの公証役場を調べる
公正証書の作成を依頼する場合、まず最寄りの公証役場を調べる必要があります。これは、公正証書を作成する権限を持つ公証人が公証役場にいるからです。
公証役場は、全国に約300箇所ありますので、当事者にとってもっとも都合の良い役場を利用するとよいでしょう。公証役場は、以下のサイトから検索することができます。
(3)事前相談の日時を決める
公正証書は、一定の厳格な手続きの元に作成される書類です。そのため、公正証書を作ろうと思い立って公証役場に行っても、即日作成してもらうことはできません。離婚条件を公正証書にする場合には、まずはじめに公証人と面談し、作成すべき書類の内容について事前相談する必要があります。
公正証書を作る場合、まずは手続きを予定している公証役場に電話をして、事前相談すべき日時を予約しましょう。事前予約は必ずしておかなければならないというものではありませんが、公証役場が混んでいる場合には、長い時間待たされることになる可能性もあります。手続きをスムーズに行うためにも、あらかじめ予約してから公証役場を訪問することをおすすめします。
公証役場の受付時間
公証役場の受付時間は、つぎのようになっています。
営業日:月曜日~金曜日(祝祭日は休み)
営業時間:午前9時から午後4時30分
公証役場に問い合わせをする場合には、上記の時間内に行ってください。
(4)作成依頼のため公証役場を訪れる
公正証書を作成するためには、作成してもらう書類の内容について打ち合わせを行う必要があります。打ち合わせを行うために、事前予約した日時に公証役場を訪問します。
この際には、「公正証書の利用の手順とは?」のところでご紹介した必要書類を忘れず持参してください。また、離婚条件に関して当事者で合意した内容のわかる書面も持参しましょう。公正証書に記載される内容は、基本的に当事者で合意した内容がベースとなります。
作成依頼のための公証人との面談は、(元)夫婦両方が行う必要はありません。当事者のどちらか一方だけで行うことも可能です。
なお、この段階では、まだ料金はかかりません。
(5)原案の確認・修正
面接時に提出した書類をもとに、公証人が公正証書の原案を作成します。当事者は、作成された原案を公証役場まで行くかファックスで受け取るなどの方法で内容を確認します。
原案の内容に修正を希望する箇所があれば、その旨を公証人に伝えます。この場合には、後日修正後の原案を再び確認する作業を繰り返すことになります。
(6)最終的な確認
当事者と公証人は、必要に応じて原案の修正・確認を行い、最終的に公正証書の内容とする文案を決定します。
文案について(元)夫婦が納得した場合、基本的にそれがそのまま公正証書の内容となります。
(7)作成当日に公証役場を訪れる
公正証書に関して最終的な文案が完成した場合、公証役場と当事者の相談によって、実際に公正証書を作成する日時を決めることになります。その日時には、一定の手続きをするため、基本的に夫婦両方が公証役場を訪れることになります。
公証役場で(元)夫婦両名は、作成された公正証書の内容を読み、問題がないか確認します。問題がない場合には、それぞれが公正証書に署名・押印することになります。そして最後に、公証人が必要事項を記載し、公正証書は完成します。完成した公正証書は、(元)夫婦にそれぞれ1通ずつ交付されることが一般的です。
公正証書作成費用は、このときに支払うことになります。
相手方と顔を合わせたくない場合の対処法
離婚原因が相手による暴力や虐待、暴言などの場合、たとえ公正証書の作成のためといっても、相手方と顔を合わせたくないと思うケースもあるでしょう。
そのような場合には、公正証書を作成する手続きに関して、弁護士などを代理人として立てることも可能です。場合によっては、(元)夫婦双方が代理人を立てて公正証書を作成することもできます。
ただし、公証役場によっては代理人による手続きを認めないという扱いをしているところもあります。
代理人による公正証書の作成ができるのかどうかに関しては、手続きを予定している公証役場に問い合わせてみてください。
手続きの詳細に関しては公証役場に確認を!
公正証書を作成する場合の一般的な手順は、以上のとおりです。
しかし、上記手順などに関しては、公証役場によっては若干の違いがある可能性もあります。そのため、実際の手順などに関しては、利用を予定している公証役場に問い合わせてみるとよいでしょう。
公正証書を作る際の費用とは?
公証人に公正証書を作ってもらう場合、手数料など一定の費用が掛かります。
離婚条件に関して公正証書を作成する場合、公証役場に直接依頼する場合と法律の専門家に依頼して行う場合の2つのパターンが考えられます。
(1)公証役場にかかる費用
公正証書を作成するためには、公証役場で所定の手数料を支払う必要があります。具体的には、つぎのような費用の負担が必要となります。
①公証人手数料
公証役場で公正証書を作る場合には、その書類に記載されている金銭の額に応じて、公証人への手数料がかかることになります。
これは「公証人手数料」と言われるもので、どういった場合に、どれくらいの手数料がかかるのかは政令によって定められています。
実際にかかる公証人手数料は、公正証書に記載される金銭の額(下の表での「目的の価額」)に応じて、つぎのように料金が決まることになっています。
公証人手数料 | |
---|---|
目的の価格 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円に5000万円までごとに13,000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円に5000万円ごとに11,000円を加算 |
10億円を超える場合 | 249,000円に5000万円ごとに8,000円を加算 |
②その他費用
公証役場で公正証書を作成する場合、上記公証人手数料以外にも料金が発生することがあります。公正証書として作成される書類の枚数が一定以上になった場合、料金が加算されるのです。
公正証書として作成される書類が4枚までであれば、別料金は発生しません。しかし、5枚以上となった場合には、1枚超過するごとに手数料250円が発生することになります。
公正証書の枚数が極端に多くなる場合でなければ、基本的にはそれほど気にする必要はないでしょう。
公証人手数料の支払方法
公証人手数料は、公正証書を受け取る際に公証役場において現金で支払うことになります。
(2)専門家への費用
公正証書の作成に関して法律の専門家に依頼した場合、専門家への費用が掛かることになります。
公正証書は、自分で公証役場に相談し、直接書類の作成を依頼することができます。しかし、公正証書を作る手続きは少し専門的な部分があるため、手続きに関して不安があるような場合もあるでしょう。特に離婚条件に関して当事者間で取り決めする場合、どのような内容にしたらいいか悩むこともあると思います。
そのような場合には、公正証書の作成を弁護士など法律の専門家に相談し、作成の仲介をしてもらうことも可能です。弁護士に夫婦の事情を細かく説明すれば、当事者の実情に即した離婚条件を考えてもらうことができるでしょう。
公正証書の作成自体は公証人が行うものですが、弁護士に仲介をしてもらうことによって、より当事者の事情に即した内容で文案を考えてもらうことができるというメリットがあります。
実際の費用はどれくらい?
それではここで、公正証書を作成する場合、実際にどれくらいのお金がかかるのか見てみることにしましょう。
(1)公証役場に直接依頼する場合
弁護士などの専門家を介さず、直接公証役場に公正証書の作成を依頼した場合、実際にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか?
実際の費用に関しては、財産分与や慰謝料の額によって大きく変動するため、一概に「○○万円」ということはできません。しかし、仮に財産分与や慰謝料の支払いがなく、一般的な相場範囲内の養育費の支払い程度の内容である場合、2~3万円くらいであることが一般的です。高くても5万円くらいを目安に考えておけばよいと思います。
もちろん、事前に費用がどれくらいになるかについて公証役場に問い合わせることも可能です。気になるようであれば、電話して聞いてみましょう。
(2)弁護士など専門家を介して作成する場合
弁護士など法律の専門家を介して公正証書を作成する場合、公証人への手数料のほかに専門家へ支払う費用も発生します。
公正証書作成の仲介を依頼できる専門家には、弁護士や司法書士、行政書士などがいます。
具体的な報酬額に関しては、それぞれの職種や事務所によっても大きく異なりますので、依頼を検討している事務所に問い合わせてみるとよいでしょう。
公正証書は離婚前に作るべき
離婚に関する条件を公正証書にする場合、離婚成立後よりも成立前に作っておくことが大切です。
離婚成立後に公正証書を作ろうとした場合、相手が非協力的になる可能性が考えられるからです。離婚によって基本的に元夫婦は別居することになるため、場合によっては連絡さえ付かなくなるという事例もたくさんあります。
離婚条件に関する公正証書がない場合、離婚条件に関して当事者にトラブルが起こったケースにおいて法律的に不利になる可能性が高くなってしまいます。
たとえば、養育費の支払いに関して「毎月5万円支払う」という合意があるにもかかわらず、離婚後相手が養育費の支払いに応じないケースを考えて下さい。このような場合に、もし公正証書を作成していたとすると、当事者間に「毎月5万円」の支払いに関する合意があったことが確認できることになります。公正証書に認諾条項がある場合、相手方に対してすぐに強制執行することも可能です。これに対して公正証書を作成しておかなかった場合、当事者の合意内容が不明確となってしまうため、法律的に不利な立場に置かれることになってしまう可能性があります。
離婚条件に関する公正証書は、できるだけ離婚成立前に作成を完了しておくように心がけるとよいでしょう。
離婚後に作成することも可能
上記のように、離婚に関する公正証書は離婚成立前に作成しておくことがベストです。
しかし、当事者の事情によっては離婚成立前に作成することができない場合もあるでしょう。離婚に関する公正証書は、何も離婚前にしか作ることのできないものではありません。離婚後にも作成することは十分可能です。
離婚成立前に作成できない場合には、離婚成立後でも構いませんから、なるべく公正証書を作っておくとよいでしょう。
繰り返しになりますが、公正証書を作っている場合とそうでない場合は、いざというとき法律的な立場が圧倒的に不利となってしまいます。
公正証書と離婚協議書の違いとは?
夫婦が協議離婚する際、離婚の条件に関して離婚協議書を作成することがあります。
離婚協議書は、主に離婚条件を明確にするために作成されるものであり、その意味では離婚条件に関する公正証書(離婚給付契約公正証書)と類似した書面です。
しかし、離婚給付契約公正証書と離婚協議書には、つぎのような点において決定的な違いがあります。
(1)離婚給付契約公正証書
離婚条件に関する公正証書は、公証人という特別な公務員によって作られる公文書です。このため、記載されている内容に関しては、法律上強力な証明力が認められます。
また、相手が養育費など一定の金銭の支払いを怠った場合、すぐに強制執行を受けることを認めている条項(「認諾条項」)がある場合には、公正証書に基づき即刻強制執行することが法律上認められています。
(2)離婚協議書
公正証書が公文書であるのに対して離婚協議書は、基本的に夫婦当事者で作成される私文書にすぎません。離婚協議書の内容に関して、仮に弁護士など法律の専門家が関与したとしても私文書であることに変わりありません。このため、記載内容の証明力という点で公正証書に劣ることになります。
また、私文書である離婚協議書には、それだけで相手方に強制執行することが認められません。このため強制執行するためには、裁判を起こし勝訴判決を受けるという手続きが必要になってきます。仮に離婚協議書内に認諾条項を付けておいたとしても、強制執行のためには勝訴判決が必要です。
離婚の公正証書に書けないもの
強制執行に利用したり、強力な証拠として提出できたりする公正証書ですが、どのような記載をしても良いというわけではありません。
ここでは公正証書に記載できないもの、記載しても意味がないものについて解説していきます。
まず、法律上無効であることを合意していても、何ら効果はありません。当事者が自由に処分・判断することができない事項を、合意して記載することもできません。他人の権利や法律で決められている事項を好き勝手変更することはできないからです。
具体的に以下のような事項は、公正証書に記載しても無効です。
- 養育費を支払わない旨の合意:養育費の支払請求権は、子の福祉のために子どもに認められている権利であるため、親権者が一方的に放棄の合意をしたとしても、子どもは自由に請求することができます。
- 養育費の請求金額を変更しない旨の合意:そのような合意があった場合にも、父母の収入の変動やその他事情変更を考慮して、事後的に養育費の金額を変更することは可能であると考えられています。
- 子どもとの面会交流を認めない旨の合意:面会交流権についても、子ども自身に認められている権利ですので、父母が放棄したとしても子どもの方から請求することができます。また、「養育費の支払いを遅滞した場合には、遅滞が解消されるまでは面会交流できない」と記載しても、両者はそのような対価関係にたたないため、無効です。
- 公序良俗に違反すること、法律に違反することの合意:公序良俗に違反する合意や利息制限法を超える金利の約束など、法律に違反する合意を記載しても無効となります。
まとめ
今回は離婚する際に公正証書を利用する方法、そのメリットなどを中心にご紹介しました。
離婚する場合、夫婦当事者間には取り決めをしておくべき離婚条件がたくさんあります。これら取り決めに関して書面に残しておかないと、のちに当事者間のトラブルの原因となることがあります。
そのようなことを避けるためには、離婚条件が具体的にどのようなものであるのかに関して、公正証書を作っておくことが効果的です。
なお、公正証書の作成や離婚条件に関して当事者でどのように決めたらいいのかお悩みの場合には、お気軽に当事務所にご相談ください。当事務所では、相談だけであれば何回でも無料で承っております。
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