配偶者や浮気相手に慰謝料を請求するための証拠として真っ先に考えられるのが「メール」ではないでしょか?
メールだけで何とか浮気を証明し、慰謝料を請求したい、そんな方も多いはずです。
そこで、この記事では、
- メールだけで慰謝料請求することが可能かどうか
- メールの内容によって慰謝料請求できる場合とできない場合
について解説してまいります。
また、記事の中盤から後半では、
- メールで浮気の慰謝料を請求する場合の相場
- メールを「証拠」とする方法と注意点
についても解説してまいります。
ぜひ、最後までご一読いただき、メールを使った慰謝料請求する際の参考としていただけると幸いです。
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目次
メールのやり取りだけを理由に浮気(不貞行為)の慰謝料請求することが難しい理由
この記事をご覧の方の中には、配偶者がメールをしているのを見て「浮気しているのではないか?」、「不倫をしているのではないか?」などと一度は不安、不満になったことがある方も多いと思います。
中には慰謝料請求を検討されている方もおられるのではないでしょうか?
しかし、結論から申し上げると、メールのやり取りだけを理由に慰謝料請求することはできません。
そもそも、配偶者や浮気相手に対して慰謝料請求するためには、あなたが、配偶者と浮気相手との間で「不貞行為」が行われたこと(不貞行為の事実、あるいは不貞行為があったことを推認させる(うかがわせる)事実)を証明する必要があります。
不貞行為とは、夫婦の一方が、その自由な意思で配偶者以外の方と肉体関係を持つことです。
この点、メールのやり取りが不貞行為でないことは明らかですから、メールのやり取りだけを理由に慰謝料請求することはできません。
なお、慰謝料請求の法的根拠は民法第709条、第710条に求められます。
(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負うものは、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
民法第709条は不法行為による損害の賠償を求めるための規定、民法第710条は「財産以外の損害」、つまり、精神的損害の賠償を求めるための規定です。
そして、両方の規定により不法行為による慰謝料請求が認められるわけです。
このことからもお分かりいただけるように、あなたが、配偶者や浮気相手に対して慰謝料請求するためには不法行為、つまり不貞行為(=貞操義務違反)を証明する必要があるのです。
メールの内容から慰謝料請求できる場合とできない場合がある~3つの判例紹介
もっとも、メールのやり取りではなく、メールの内容そのものに踏み込み、その内容から不貞行為が行われたことを推測して慰謝料請求できる場合があります。
要は、慰謝料請求できるかどうかはメールの内容しだいということになります。ここで、参考となる3つの判例を紹介します。
メールの内容から慰謝料請求できた場合①【東京地裁 平成22年1月28日】
妻(Y)が夫(X)に単身旅行と偽り、浮気相手(A)と香港、マカオに海外旅行した事案です。
YとAは、4日間、旅行先のホテルの同室で寝泊まりしていました。
Aは、海外旅行後、Yに対して「幸せな四日間。」、「日が経つにしたがって思い出されることは幸せなことばかりです。」、「あの旅は本当にステキなものでした。」などというメールを送っていました。
裁判所は、「AはYに対し、頻繁にメールを送り、Yからも折々に返信を受けていることが認められるところ、その内容に照らせば、AとYは、相当に深い関係にあったと推認される。」としました。
その上で、「Aが、海外旅行後に上記のメールをYに対して送信していること、YはXに対してAと海外旅行に行くことを隠して海外旅行に出かけ、旅行先のホテルにAと同室で宿泊していたことからすると、今回の海外旅行に際し、AとYとの間で不貞行為があったと認めるのが相当である。」と判断しています。
つまり、不貞行為を直接証明する証拠はないものの、メールの内容から「不貞行為があった」と推認される、としているのです。
もっとも、裁判所はAとYが同室に宿泊していた事実も認定しています。
したがって、仮に、裁判所がAとYが同室に宿泊していたことを認定しなかった場合、メールの内容だけで不貞行為があったことを認めていなかった可能性がある、ということもできます。
メールの内容から慰謝料請求できた場合②【東京地裁 平成24年11月28日】
これは元妻(Y)が、元夫(X)と浮気した浮気相手(A)に対して慰謝料請求したという事案です。
AからXに対しては次のようなメールが送信されていました。
「チュ」
「今電卓叩きながらXのことを考えている。」
「もう少しギュウして欲しかったけれど、眠さには勝てないから。」
「Hだね。バイアグラはいらないよ、私Hじゃないもん。」
「血まみれになるからギュウはできないよ。終わったらして。」
他方で、XからAに対しては次のようなメールが送信されていました。
「逢いたいよぅ。この間みたいにいっぱいぶちゅぶちゅしてのんべんだらりと過ごしたいよぅ。」
「え~今日こそいちゃいちゃしようと朝から楽しみにしていたのに。。。」
「金曜日いちゃいちゃできる?」
「俺の彼女はAちゃんで、Aさんの彼氏は俺なんだから。」
元妻は、上記のメールの内容は元夫と浮気相手との間で不貞行為があったことを推認させるものだと主張し、証拠として裁判に提出しました。
一般的な感覚からすれば、「いちゃいちゃ。」などという表現から不貞行為があったものと考えてもおかしくはないような気がします。
ところが、裁判所は、「これらのメールは全体として、AとXの不適切な交際を想起させるものであり、Xの妻であったYが、AとXとの不貞関係を疑ったことは無理からぬものではあるものの、これらを総合しても、現実にAとXが性交渉を持ったと認めることは困難であり、不貞関係の存在を認めることはできない。」として、不貞関係の存在を認めませんでした。
他方で、裁判所は、「このようなメールは、性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの、AがXに好意を抱いており、Yが知らないままAとXとが会っていることを示唆するばかりか、AとXとが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり、これをYが読んだ場合、Yらの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。」として、YのAに対する慰謝料(30万円)請求を認めています。
このように、不貞行為の存在は認められないものの、夫婦の婚姻生活の平穏を害したことを理由として慰謝料請求が認められる場合があります。
メールの内容から慰謝料請求できなかった場合③【東京地裁 平成25年3月15日】
これは、浮気の男女間で、性交渉を強く示唆する内容のメールが頻繁に行われていたほか、「愛しているよ。」、「大好きだよ。」などというメールのやり取りが行われていたという事案です。
この点、裁判所は、「メールは往々にして過激な表現になりがちなものであり、また、浮気の男女間は小学校の同級生であるという気安さから、気晴らしにきわどい内容を含むメールや電話のやり取りを楽しんでいたとも考えられる。」「浮気の男女間で交わされたメールに性交又は性交類似行為を示唆するような表現が多数あるからといって、浮気の男女間で実際にこれらの行為に及んでいたと断定することは躊躇される。」と判断し、不貞関係があったことを認めず慰謝料請求を認めませんでした。
また、上記に加えて、浮気の男女が名古屋と東京という遠隔地に居住しており、現実に不貞関係を持つことができなかったという事情も上記の結論の結論に影響したのではないかと考えられています。
メールで浮気の慰謝料を請求する場合の相場
浮気の慰謝料の相場は
- 離婚せず配偶者との婚姻関係を継続した場合:50万円~100万円
- 浮気が原因で配偶者と別居に至った場合:100万円~200万円
- 浮気が原因で離婚に至った場合:150万円~500万円
と言われています。
もっとも、上記はあくまで目安であって、50万円以下となる場合もあれば、500万円以上となる場合もあります。
また、慰謝料の相場に上記のような幅があるのは、慰謝料が様々な要素を考慮して決められるからです。様々な要素とは、たとえば、
- 婚姻期間
- 浮気が発覚するまでの配偶者との婚姻(生活)状況
- 浮気の回数、期間、内容(不法行為の違法性、悪質性)
- 浮気の主導者
- 子の有無、妊娠の有無
- 浮気相手との間の妊娠、子の有無
- 配偶者と離婚するかしないか(慰謝料請求時に関係が修復されているか否か)
- 配偶者、浮気相手の認否・反省の程度、社会的制裁の有無
- 配偶者、浮気相手が浮気発覚後、浮気を止めてくれたかどうか
- 配偶者と浮気相手の職業・社会的地位、年収(収入)・資産、預貯金額
などがあります。
このうち、メールについてあてはまるのは「浮気の回数、期間、内容」、すなわち、不貞行為(不法行為)の違法性、悪質性です。
つまり、不貞行為があったと認められるようなメールの内容(前記判例①)であればそれだけ違法性、悪質性は大きいと判断され慰謝料が増額されるでしょう。
他方で、メールの内容から不貞行為があったとは認められないという場合(前記判例②)、不貞行為があったと認められる場合より、慰謝料は低くなることが予想されます(前記判例②では、裁判所により認定された慰謝料は30万円でした)。
慰謝料請求するために価値のあるメールと価値のないメール
慰謝料請求するために価値のあるメールとは、不貞行為があったことを推認させる(うかがわせる)メールです。
冒頭で解説しましたが、配偶者や浮気相手に対して慰謝料請求するには不貞行為の事実、あるいは不貞行為があったことを推認させる事実を証明しなければなりません。
メールは後者の事実を証明するのに役立つ証拠です。
具体的には、前記判例①のような旅行がいったことが分かるメール、あるいは「昨晩は気持ちよかった。」、「君(あなた)との体の相性は抜群だよ。」、「また、泊りに行きましょう。」などという(ラブ)ホテルや自宅に宿泊したことが分かるメールです。
メールの内容それ自体から不貞行為があったことを推認させることが分からなくても、他の事情や証拠と相まって旅行や(ラブ)ホテル、自宅に寝泊まりしたことが分かるメールでも構いません。
他方で、慰謝料請求するために価値のないメールとは、不貞行為があったことを推認させる(うかがわせる)ものではないメールです。日常会話はその典型です。
また、上記のように、メールの内容が他の事情や証拠と相まって不貞行為があったことを推認させる証拠となりうる反面、その逆のケースもあります。前記判例③がまさにそのケースでした。
メールの内容が慰謝料請求するために価値のある証拠かどうかは、その内容単体のみを見て判断するのではなく、他に現れた事情(前記判例①ではAとYが同室に宿泊していたという事実、前記判例②では浮気相手同士が名古屋と東京という遠距離に居住していたという事実)やメール以外の証拠に現れた事情も考慮しながら検討していかなければなりません。
メールを「証拠」にする方法と注意点
配偶者や浮気相手が不貞行為を認めているのであれば、配偶者、浮気相手からスマートフォンなどの端末を受け取り、メールの内容を見て写真や動画を取ればよいでしょう。
しかし、配偶者や浮気相手が不貞行為を認めない場合はそうはいかないことから、別の方法を考える必要があります。
すなわち、端末がスマートフォンの場合、
- スマートフォンのロックを解除して勝手に開き、メールの内容を見る
- IDとパスワードを使い、LINEアプリなどに入ってメールの内容を見る
などという方法から、最終的にご自身のスマートフォンでメールの内容を写メするという方法です。
スマートフォンのロックを解除して勝手に開き、メールの内容を見る
この方法については、まず、スマートフォンのロックを解除する行為、メールの内容を見る行為、メールの内容を写メする行為が相手のプライバシー権を侵害する行為ではないか?という問題が生じます。
確かに、上記いずれの行為もプライバシー権を侵害する行為です。しかし、実際には、この点はあまり問題とはなりません。
なぜなら、不貞行為が疑われることを行いながら、自分のことは棚に上げてプライバシー権の侵害を主張するのは虫が良すぎると弁護士や裁判官は考えるからです。
また、実際問題、警察とは異なり、一般市民が証拠を集める方法には限界があります。
仮に、上記のような方法を許容しなければ、もはや被害者は慰謝料請求する方法を失ってしまうおそれすらあります。
したがって、突き詰めれば上記の行為はプライバシー権を侵害する行為ではありますが、そうした行為によって集められた証拠は証拠として使えるということになります。
他方で、暴行や脅迫を用いて無理矢理、ロックを解除させるなど、犯罪行為にあたる方法を用いて集められた証拠は証拠として使うことはできませんので注意が必要です。
IDとパスワードを使い、LINEアプリなどに入ってメールの内容を見る
この行為は「不正アクセス禁止法」という法律に抵触し、前記の暴行や脅迫などと同じ犯罪行為ですのでやってはいけません。
暴行、脅迫などを用いて得た場合と同様に証拠として使うことはできません。
まとめ
メールを慰謝料請求の証拠として使う場合には、まずその集め方に注意しなければなりません。
犯罪行為に触れるようなことをして得たメールは証拠として使えない可能性があります。
また、メールの内容を写真で撮る際は、誰が見ても誰と誰のやり取りで、どんなやり取りをしているのか分かるように工夫しなければなりません。
その上で、メールの内容が不貞行為があったことを示す証拠となり得るかどうかを検討していく必要があるでしょう。
メールの集め方や証拠として使えるのかどうかお困りの際は、早めに弁護士や探偵に相談しましょう。
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