不貞行為(ふていこうい)とは、夫婦や内縁関係にある者が、配偶者以外の異性と自由意思で性的関係(肉体関係)を持つことです。不貞行為は夫婦間の義務である「貞操義務」に違反し、法律上の離婚原因(法定離婚事由)として定められています。不貞行為をされた側は離婚請求や慰謝料請求をすることができます。
以下では、離婚問題に強い弁護士が、
- どこからが不貞行為(性的関係・肉体関係)にあたるのか。
- 離婚請求や慰謝料請求をするために必要な不貞行為の証拠
- 不貞をした配偶者や不貞相手への慰謝料請求の相場
などについてわかりやすく解説していきます。
配偶者に不貞行為をされている方で、記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には、お気軽に弁護士までご相談ください。
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不貞行為とは
不貞行為とは、冒頭でもお伝えしましたが、簡単に言うと「既婚者が配偶者以外の異性と自由な意思で性的関係(肉体関係)を持つこと」です。
判例(最高裁昭和48年11月15日判決)では、不貞行為の定義について以下のように判示しています。
民法七七〇条一項一号所定の「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであつて、この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わないものと解するのが相当である。
つまり、どこからが不貞行為になるのか、ならないのかは、「性的関係(肉体関係)」の有無によって決まります。
では、「性的関係(肉体関係)」とはどのような行為を指すのでしょうか。以下で確認しましょう。
性的関係(肉体関係)とはどこから?
性的関係(肉体関係)とは、いわゆるセックス(男性器を女性器に挿入させる行為)のほか、口腔性交(オーラルセックス)や肛門性交などの性行為の類似行為も含まれます。また、裸で抱き合う、一緒に入浴するといった性的に密接な関係も含まれます。
不貞行為と「浮気・不倫」の違いは?
不貞行為と違い「浮気」「不倫」は法律用語ではありませんが、その意味について辞書では以下のような記載がされています。
「浮気」
(性愛の対象として)特定の人に心をひかれやすいこと。
配偶者・婚約者などがありながら、別の人と情を通じ、関係をもつこと。「不倫」
道徳にはずれること。特に、配偶者以外と肉体関係をもつこと。
このように、性的関係(肉体関係)がある場合はもちろん、ない場合でも、浮気や不倫にあたることがわかります。そのため、キスする、手をつなぐ、食事デートをする、ハグするなどの性的な関係を伴わない行為も浮気や不倫にあたります。他方で、不貞行為は、性的関係(肉体関係)があって初めて成立するものです。つまり、浮気や不倫といった広い概念の中に「不貞行為」が含まれていると考えることができます。
不貞行為の法的責任
裁判で離婚請求をすることができる
離婚は、夫婦の話し合いでなされるのが原則ですが、夫婦の一方が離婚に同意してくれない場合には、離婚裁判で裁判官に離婚を認めるかどうかを判断してもらわなくてはなりません。その際、法律で定める一定の離婚事由がないと離婚請求は認められません。この離婚事由を「法定離婚事由」(民法第770条1項)といいます。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。民法 | e-Gov法令検索
そして、民法第770条1項1号に「配偶者に不貞な行為があったとき」と規定されていることから、配偶者に不貞行為があった場合には、裁判で離婚請求をすることが可能となるのです。
なお、不貞行為などによって婚姻関係が破綻した場合、その破綻の主な原因を作った側の配偶者を有責配偶者といいますが、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。
ただし、
- 夫婦の別居が相当長期に及んでいる
- 夫婦に子供がいない
- 離婚請求を認めることが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない
といった条件が揃えば、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性もあります。
有責配偶者とは?有責配偶者からの離婚請求が認められる条件と時効
慰謝料請求をすることができる
日本では一夫一婦制を採用しており、また、法定離婚事由に不貞行為が含まれていることから、夫婦は互いに配偶者以外の異性と性交渉を持たない義務(貞操義務)があるとされています。
したがって、夫婦の一方が不貞行為をすることは貞操義務違反となり、不貞をされた配偶者は不法行為にもとづく慰謝料請求をすることができます(民法第709条)。
また、配偶者の不貞相手に対しても不法行為にもとづく慰謝料請求が可能です。不貞行為は、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」を侵害する行為であるためです。
不貞行為にならない・なりにくいケース
プラトニックな関係
前述の通り、不貞行為とは配偶者以外の異性と肉体的に性的な関係を持つことを指します。このため、配偶者と相手方との関係がプラトニックな関係にとどまっている場合には不貞行為には該当しません。プラトニックな関係とは、具体的には、キスやハグをする、手をつなぐ、デートや食事をする、電話・メール・LINEなどで愛を語り合うといった行為をするものの、性的な行為を伴わない関係です。
なお、一般的に考えた場合、夫婦以外の異性と配偶者がキスした場合、浮気ととらえることが多いかもしれませんが、法律的に見た場合には、キスは不貞行為に該当しません。
ただし仮に性的な関係はなかったとしても、2人の関係が社会通念上妥当な範囲を超え、それが原因で夫婦関係の破綻を招いた場合には、法定離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し離婚が認められることもあります。
無理やり肉体関係を持たされた場合
配偶者が異性と肉体的な関係を持ったとしても、それが無理やりされた(いわゆる「レイプ」「強姦」)ものであれば不貞行為には該当しません。
ある行為が不貞行為に該当するかどうかは、配偶者以外の異性と性的関係を持つことを受け入れる気持ちがあるかどうかによって判断されます。したがって、配偶者の自由意思に基づかない性行為は不貞行為とはならないのです。
別居して既に婚姻関係が破綻している場合
夫婦が別居するに至っており既に婚姻関係が破綻していると認められる場合には、原則として不貞行為とはなりません。
なぜなら既に婚姻関係が破綻している場合には、婚姻共同生活の平和維持という権利・法的保護に値する権利がすでに消滅してしまっているため、不貞された配偶者側に何ら権利侵害がないと考えられるからです。
判例も、妻Xの配偶者である夫Aと第三者Yが肉体関係を持った場合において、XとAとの「婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、YはXに対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である」と判示しています(最高裁判所平成8年3月26日判決)。
なお、単身赴任や親の介護のために別居している場合には、正当な理由がありますので婚姻関係が破綻していると判断されることは少ないでしょう。
1回限りの不貞行為
たとえ1回限りでも、配偶者以外と性的関係を持てばそれは不貞行為となります。酔っていてつい…も言い訳にはなりません。また、会社の上司や同僚などの異性にしつこく誘われ、つい断り切れなくて1回だけ性的関係をもった場合も同様です。いくらしつこく誘われようとも、自分が強い意志をもって断れば断りきれたと判断されるからです。
もっとも、法定離婚事由を定める民法770条では、「配偶者に不貞行為があったとき」を離婚事由としている一方、同条2項で「裁判所は~一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却できる」と規定しています。そして、離婚裁判において1回限りの不貞行為で離婚請求が認められたケースは非常に少ないのが現状です。つまり、離婚裁判で裁判所は、1回限りの不貞行為ではまだ夫婦の関係修復が可能であって婚姻関係を継続させておく意味があるという判断に傾きやすいということです。
したがって、離婚裁判において不貞行為を理由とした離婚請求が認められるためには、ある程度継続的に不貞行為が行われていた事実がないと難しいでしょう。
ただし、その1回限りの不貞行為によって夫婦関係が悪化し、婚姻関係が破綻したといえる状態になった場合には、法定離婚事由の一つである「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性もあります。
1回~数回程度の風俗通い
たとえ1回だけでも、性風俗店で性サービスを受ければ不貞行為となります。
ただし、それをもって必ずしも離婚事由としての不貞行為になるとは限りません。判例(横浜家庭裁判所平成31年3月27日判決)においても、夫が1度だけ風俗を利用した事案につき、「仮にあと数回の利用があったとしても、被告(夫)は発覚当初から原告(妻)に謝罪し、今後(風俗を)利用しない旨を約束していること~からすると、この点のみをもって、離婚事由に当たるまでの不貞行為があったとは評価できない」と判示して妻からの離婚請求を認めませんでした。
そのため、離婚裁判で不貞行為を理由とした離婚請求が認められるには、夫が反復・継続的に風俗に通っている事実がないと難しいでしょう。
もっとも、風俗通いが妻に発覚したことで夫婦関係が悪化し、長期の別居をするなど、婚姻関係が破綻したと判断される場合には「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性もあります。
結婚後の風俗通いは不貞行為になる?離婚や慰謝料請求はできる?弁護士が解説
不貞行為を証明するための証拠
不貞行為を理由に離婚請求や慰謝料請求する場合には、請求する側が、不貞行為の事実を証明する必要があります。
以下では、不貞行為(性的関係)があったことの証拠となり得るものをいくつか紹介します。ただし、不貞の証拠は、「1つあれば必ず不貞行為を証明できる」とは限りません。そのため、各種の証拠をなるべく豊富に集めるように心がけるとよいでしょう。
写真・動画
肉体関係そのものが撮影された写真や動画があれば決定的な証拠となりますが、なかなか入手できるものではありません。
しかし、肉体関係があったと強く推認できる写真や動画があれば、それは不貞行為の証拠となります。ラブホテルへの出入りが確認できるものがそれに該当します。
ただし、不貞された側の配偶者は当然相手に顔を知られているため、ラブホテルまで尾行することは困難でしょう。また、ラブホテルへの出入りの一瞬を逃さず撮影する技術も必要です。そのため、撮影は探偵に依頼し、調査報告書を証拠として用いるようにしましょう。もっとも、探偵への依頼費用は数十万~100万円以上かかることもあるため、貰える慰謝料より高額になることも。弁護士と相談の上、費用対効果を検討する必要があるでしょう。
音声記録
夫婦間の話し合いの際に、配偶者が不貞行為の事実を認める旨の音声を録音しておくと、のちの話し合いや裁判で有利な証拠となることがあります。うちうちの話し合いでは不貞行為を認めていたものの、裁判などになると不貞行為の事実を否定するというパターンも考えられるからです。
このようなケースに備えるためには、スマホの録音アプリやボイスレコーダーをいつでも起動できる状態にしておき、配偶者が不貞行為について発言する会話内容を記録しておくことが有効です。
メール・LINEなどの履歴
不貞行為の相手方とのやり取りは、現在ではメールやラインなどスマホを使うことが非常に多くなっています。
そのやり取りの中に、ラブホテルに二人で行ったことが分る内容や、肉体関係があったと思われる内容、例えば「昨日は気持ちよかったよ」「早くまたエッチしたい」といった文があれば、それは肉体関係があったことを強く推認できる証拠となります。日付や相手のメールアドレス(LINEアカウント)、前後の文章も含め写真で撮影するなどして保存しておくようにしましょう。
その他、不貞行為の証拠となり得るもの
- ホテルの領収書や、ホテルの利用料をクレジットカード払いした場合の利用履歴
- 不貞行為の事実を知っている友人・知人などの第三者の証言
- 不貞相手とのデートやデート内容がわかる、日記、手紙、スケジュール表など
- 夫婦間では用いないアダルトグッズ
- 不貞相手からのプレゼント
不貞行為の慰謝料請求
不貞行為の慰謝料相場
不貞行為の慰謝料相場はおよそ50万円~300万円です。
ただし、不貞行為が原因で離婚にまで至ったのか、離婚はせずに別居しただけなのか、離婚も別居もせずに婚姻生活を継続したのか、によって相場は以下のように異なります。
- 離婚した場合:200万円~300万円
- 別居した場合:100万円~200万円
- 離婚も別居もせずに婚姻生活を継続した場合:50万円~100万円
不貞行為により離婚という重大な結果を生じさせた場合には慰謝料は高額になり、逆に結婚生活への影響が最も少なかった「婚姻生活の継続」のケースでは少額になります。
ただし、上記の相場はあくまでも目安であって、当事者の事情によりケースバイケースです。
では、慰謝料の額を決めるにあたり、どのような諸事情が判断材料とされるのでしょうか。以下で確認しておきましょう。
慰謝料額の判断材料
慰謝料の金額は、当事者の話し合いで決定することができます。話し合い次第では、慰謝料をまったくもらわないことも、相場と比較して相当高額に定めることも自由です。
しかし、当事者の話し合いがつかず裁判所が慰謝料を算定する場合には、当事者の細かい事情を判断材料とすることになります。裁判所が慰謝料の算定をする場合には、主としてつぎのような諸事情を判断材料とします。
- ①有責配偶者の所有する財産の額
→不貞行為を犯した配偶者が高額な財産を持っているほど、慰謝料も高額となります。 - ②当事者の結婚期間
→夫婦の結婚していた期間が長ければ長いほど、慰謝料は高額となります。 - ③夫婦関係の状態
→不貞行為によって夫婦関係が破綻した場合には、慰謝料は高額となる傾向があります。 - ④その他離婚原因の存在の有無
→有責配偶者のほうに不貞行為以外にも法定離婚事由がある場合には、より高額となります。 - ⑤不貞行為の程度
→頻繁に浮気していたなど不貞行為の程度が重いほど、慰謝料額は高額となるのが一般的です。 - ⑥不貞行為の期間
→不貞行為が行われていた期間が長いほど、慰謝料は高額となります。 - ⑦請求者側の落ち度の有無
→慰謝料を請求する当事者の落ち度も判断材料となります。 落ち度があると判断された場合には、慰謝料額はその分差し引かれることになります。 - ⑧未成年の子供の有無
→夫婦間に未成年の子供がいる場合、高額となるのが通常です。
慰謝料の請求方法
慰謝料を相手方に請求する方法としては、内容証明郵便など裁判外で行う方法と裁判所を利用して請求する方法があります。
繰り返しになりますが、慰謝料は裁判外で請求するよりも弁護士を立てて裁判上支払いを求めるほうが高額となる傾向があります。
不倫の相手方に対する慰謝料の請求を検討している場合には、まず弁護士に相談し適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
慰謝料請求権の時効に注意!
不倫など不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権は、不貞行為の存在および相手方が誰であるかを知った時から計算して3年以内に行使する必要があります。
この期間を経過してしまうと、慰謝料請求権は時効によって消滅し、もはや慰謝料を貰うことができなくなってしまうので注意してください。
また、不貞行為のあった時から20年経過した場合も、それ以降は慰謝料請求権の行使ができなくなります。
まとめ
今回は、法定離婚事由の1つである「不貞行為」について、ご紹介させていただきました。
配偶者に不貞行為に該当する行為がある場合、配偶者が離婚を拒否していたとしても裁判を起こすことで離婚することができる可能性があります。また、配偶者や不貞行為の相手方に対しては慰謝料など、損害賠償の請求をすることが法律上認められます。
離婚を求めて裁判を起こす場合も、慰謝料を求めて裁判を起こす場合でも、裁判を有利に進めるためには有力な証拠を提出することが大切です。どのようなものが有力な証拠となるのか、また証拠を集めるためのコツなどを知るためには弁護士に相談することがベストです。
当事務所では全国どちらからのご相談でも24時間無料にて承っております。夫(妻)の不貞行為で離婚や慰謝料請求をご検討の方はまずは当事務所の弁護士までご相談ください。
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