「妻(夫)がセックスを拒否する…セックスレスは離婚理由になるのだろうか」
このようにお考えではないでしょうか。
逆に、セックスレスを理由に夫(妻)から離婚を切り出されて悩まれている方もいることでしょう。
そこでこの記事では、離婚問題に強い弁護士が、
- セックスレスを理由に離婚できるかどうか
- どんなケースでセックスレスを理由に離婚できるのかできないのか
- セックスレスを理由に離婚する際、どんな証拠を集めておけばよいのか
- セックスレスが原因で離婚する場合、慰謝料請求できるのか
などについて解説していきます。
ぜひ最後までご一読いただき、セックスレスを理由に離婚する際の参考にしていただけると幸いです。
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目次
セックスレスとは
セックスレスとは夫婦間に長期間性交渉がない状態のことです。
セックスレスになる原因には、
- そもそも夫婦間で性交渉を望んでいない(しかし、夫婦間の仲はいい)
- 夫婦が別々に遠距離で暮らしていて性交渉することが物理的に不可能
- 夫婦が高齢で体力的に不安
など様々だと思いますが、上記の原因が離婚に発展することはほとんどありません。問題なのは、夫婦のいずれかが性交渉を望んでいるものの、相手がそれを受け入れないというケースではないでしょうか?
相手から性交渉を頑なに拒否されると、「この人と婚姻を継続できるのだろうか?」、「別に好きになった人ができたのではないだろうか?」、「浮気、不倫しているのではないだろうか?」などと疑心暗鬼になり、性交渉を望む相手としてはセックスレスを理由として「離婚しようか」と考えるようになるのです。
セックスレスを理由に離婚できる?
協議離婚や調停離婚であれば、話し合いで合意ができれば、セックスレスを理由に離婚することができます。
しかし、話し合いがまとまらずに裁判離婚となった場合、裁判離婚は裁判所による一方的な判断で強制的に離婚させることができる手続きですから、いかなる理由でも離婚させることができる、とするわけにはいきません。
そこで、法律(民法770条)では裁判離婚できる理由(法定離婚事由)を、以下の5つに絞っています。
第770条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。民法第770条 - Wikibooks
この点、セックスレスが1号~4号に当たらないことは明らかです。
他方で、セックスレスが5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当することがあります。「婚姻を継続し難い事由があるとき」とは、回復が見込めないレベルまで婚姻関係が破綻するほどの理由や原因がある場合のことです。
もっとも、その概念は広いため、セックスレスが婚姻を継続し難い重大な事由に当たるかどうかはケースバイケースとなります。以下で各ケースを見ていきましょう。
婚姻を継続し難い重大な事由として離婚が認められやすい7つの具体例
セックスレスを理由に離婚できるケース
それでは、セックスレスが「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たり得るケースをみていきましょう。
妻が子どもを望んでいるにもかかわらず性交渉を拒否し続けられた場合
妻が子どもを望んでいるにもかかわらず性交渉を拒否し続けられた場合は「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる可能性があります。
出産を望んでいる女性にとって、子どもを産むことほど幸せなことはありません。そうした女性にとってセックスレスとは相手との婚姻を継続する意味がないのに等しいこと、といっても過言ではありません。
女性の出産に対する希望が大きければ大きいほど、女性が高齢であればあるほど「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる可能性は高くなるといえます。
セックスレス以外にも原因が疑われる場合
セックスレスそのものというよりセックスレスに陥った原因が「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる場合も考えられます。
典型なのがセックスレスを拒否する相手の浮気、不倫ではないでしょうか。
肉体関係の伴わないプラトニックな浮気・不倫では裁判離婚の法定離婚事由にはあたりませんが(浮気、不倫の発展形である不貞行為は法定離婚事由です)、浮気、不倫によって生活費を入れない、長期間別居している、などという事態が続けば「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる可能性は十分にあります。
その意味では遠因であるセックスレスを理由に離婚できるといえるでしょう。
セックスレスを理由に離婚できないケース
セックスレスを理由に離婚できないケースとは、離婚理由が「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たらない場合です。
冒頭での「セックスレスとは」でも述べましたように、セックスレスに陥った原因は人により様々です。それを一括りにして「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるということはできません。
- そもそも夫婦間で性交渉を望んでいなかった場合
- 高齢になるにつれて性交渉が減少してゆき自然と性交渉がなくなった場合
- 単身赴任などで物理的に性交渉をすることが出来なかった場合
- 仕事などが忙しくすれ違いで性交渉する機会が持てなかった場合
- 病気等で物理的、肉体的に性交渉することが難しかった場合
などはセックスレスを理由に離婚することは難しいといえます。
セックスレスがどれだけの期間続けば離婚できる?
1年程度が目安です。
1年未満だと相手がセックスに応じる可能性もあって、セックスレスと認められづらいですし、反対にセックスレスの期間が長くなると「セックスレスでも良好な婚姻関係が維持できている」と判断され離婚できなくなる可能性があります。
なお、協議や調停では、離婚理由がセックスレスであると否とを問わず、相手が離婚に合意すれば離婚が成立します。一方、裁判で離婚するには夫婦関係が修復できないほどに破綻してしまった事情が必要で、かつ、離婚を請求する側がその事情が存在することを証拠によって証明する必要があります。
この点、確かに、セックスレスも夫婦関係が破綻してしまったことを推認させる事情にはなりえますが、他の事情(不貞、不倫・浮気、DV、悪意の遺棄、別居期間など)もあわせて証明できるとより離婚できる可能性が高くなります。
セックスレスを理由に離婚しようとする場合の特有の問題点
セックスレスを理由に離婚しようとする場合の特有の問題点は、セックスレスという問題が極めてプライベートで、夫婦以外の第三者の相談対応が難しい、という点です。
たとえば、夫から暴力を振るわれた、という場合は警察やDVの相談機関などに相談しやすいでしょう。
しかし、セックスレスについては、もともと夫婦が第三者に相談しづらい性質のもので、どうしても夫婦内で解消してしまいがちです。
また、仮に勇気をもって相談できたとしても、プライベートな問題ゆえに第三者がその相談に対応しづらいという特徴があります。
また、上記のとおりセックスレスはプライベートな問題ゆえに、それを離婚理由とする場合はセックスレスを証明する証拠の集め方にも注意する必要があります。
つまり、基本的にセックスレスを客観的に証明できる証拠はありませんから、離婚に向けて、普段からご自身で証拠を集めておく必要があるのです。
セックスレスを理由に離婚する際に必要となる証拠
では、セックスレスを理由に離婚する際にはどんな証拠が必要なのでしょうか?
以下では、裁判離婚を目指す際に、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」を証明するための証拠についていくつかご紹介してまいります。
日記
日記には、主に、
- 日頃の生活状況
- 性交渉に関する状況
について記録します。
「日頃の生活状況」については、夫(又は妻)の生活パターン(何時に出社し、何時に帰宅するかなど)を記録します。日頃の生活状況を記録する趣旨は、セックスレスを離婚理由とする場合に、相手からの「仕事などが忙しくすれ違いで性交渉する機会が持てなかった(性交渉する機会を持てなかったことはやむを得ないことだ)」という主張を潰すためです。
次に「性交渉に関する状況」については、あなたが夫(又は妻)に対して性交渉を求めた日、性交渉を求めた際の言動、相手の言動・反応状況などを記録します。これらのことを記録することで、相手からの「あなたがセックスレスを望んでいた」という主張を潰すことができます。また、あなたが相手との性交渉のために努力をしていた、それにもかかわらず改善されなかった、ということを証明するための証拠にもなり得ます。
メール、ボイスレコーダー
上記のことを日記に記録することが難しい場合は、メールやボイスレコーダーで記録するのも一つの方法です。
もっとも、メールの場合は、裁判官が一連のメールからどんな内容の会話をしているのか分かるように記録・保存しておくことが大切です。
また、ボイスレコーダーの場合は、相手の承諾を得る必要はありませんが、相手から録音していることに気づかれないことはもちろん、音声が鮮明に記録されるかどうか(裁判官が聴いて会話の内容が分かるかどうか)についても気を付ける必要があります。
セックスレスを原因とした離婚で慰謝料請求できる?
慰謝料請求の可否
慰謝料は「精神的苦痛」に対する賠償です。そして、精神的苦痛を受けた、というためには、相手の行為が「不法行為」といえなければなりません。では、いかなる場合に相手の行為が不法行為に当たるのかといえば、それは、あなたの相手との婚姻関係を築いていくという利益が害されたときです。
最高裁判所(最判昭和37年2月6日)は、性交渉が婚姻関係を築いていく上での重要な要素であることを認めています。したがって、性交渉の機会すら得られないセックスレスは「不法行為」に当たり、それによってあなたは精神的苦痛を被ったということになって慰謝料請求することができる可能性があるのです。
セックスレスが不法行為に当たる場合としては、前述した離婚理由と重なりますが、たとえば、「理由もなく性交渉を頑なに拒否し続けられた場合」、などが考えられます。
他方で、セックスレスが不法行為に当たらない場合としては、たとえば、「夫婦のいずれもが性交渉を望んでいない場合」、などが考えられます。
慰謝料の相場と慰謝料算定の要素
セックスレスを理由とする場合の慰謝料の相場は100万円~300万円程度です。後述しますが500万円の慰謝料請求が認められた判例もあります。
幅が広いため参考にならないかもしれませんが、これには理由があります。すなわち、慰謝料を算定するためには、
- 婚姻期間
- セックスレスに至るまでの経緯
- 相手の性交渉に対する対応
- 子どもの有無
- 相手の社会的地位、年収
など様々な要素を勘案しなければならず、これらの要素の内容は人それぞれの事情によって異なるからです。
セックスレスを理由に慰謝料を請求する場合は、慰謝料算定の際に考慮される有利な事情をいかに主張、立証できるかが高額な慰謝料を獲得するためのポイントとなります。
セックスレスで慰謝料請求が認められた判例
慰謝料120万円が認められた事例
この事例は、生活費に事欠く状態であるのに家庭を顧みず出歩き、妻との性交渉が全くない状態であるにもかかわらずポルノビデオを見て自慰行為を行う夫の行為について「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚と慰謝料の支払いが認められた事例です。
- 夫が妻と話し合って充分な説明をしないまま交際と称して出歩く態度に、妻は思いやりのなさを感じていたこと
- 家庭を顧みて妻の不満を解消する夫の努力が不十分であったこと
- 性交渉は入籍後約5カ月内に2~3回程度と極端に少なく、それ以降は性交渉がない状態であるのに対して、夫はポルノビデオを見て自慰行為をしている態度は正常な夫婦の性生活からすると異常というほかないこと
裁判所は以上のように判断し、Yの行為は夫婦関係を破綻させるに至るもので、夫婦関係を継続し難い重大な事由があると判断し慰謝料120万円の支払いを命じました(福岡高等裁判所平成5年3月18日判決)。
慰謝料請求150万円が認められた判決
この事例は、夫婦間の婚姻関係が、妻Yのいわれなき性交渉拒否や暴言、暴力、同居・協力の拒否により破綻したとして夫Xから慰謝料が請求された事例です。
本件では以下のような事実が認定されています。
- 妻Yと前夫との結婚生活がYの性交渉拒絶を原因に喧嘩が絶えないものであり、Yが100万円を支払い離婚するに至っていたこと
- XとYは結婚初夜から別居までただの一度も性交渉がなく、Yは生理や疲れているなどといって拒否し続けていたこと
- 性交渉の拒否は次第にエスカレートしていき、Xが性交渉を求めるたびに、雑言、暴言を発し暴力を振るうようにもなっていったこと
以上の事情からXとYの婚姻関係は、Yが男性との性交渉に耐えられない性質からくるXとの性交渉拒否により破綻するに至った、と認定されています。本件ではXに認められる慰謝料は本件に現れた一切の事情を総合的に考慮して150万円が相当であると判断されています(岡山地方裁判所津山支部平成3年3月29日判決)。
慰謝料500万円が認められた事例
この事例は、妻Xに対して夫Yが性的不能者であることを隠して結婚したことが原因となって離婚するに至ったとして、XがYに不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。
- YはXとの婚姻以降別居するまでの間、Xに触れることもなく性交渉を求めてきたこともなかったこと
- Yが性交渉に及ばなかった理由については疲労困憊・奇形児出生の危険を回避したなどと言い訳をしているがいずれもその場しのぎの思い付きの言い逃れであること など
上記事情を考慮し、XYの婚姻生活が短期間で解消したのはもっぱらYにのみ原因があると判示しました。そして本件で離婚することをやむを得ない状況にさせたYにはXに対して慰謝料500万円を支払う義務があると認定しました(京都地方裁判所平成2年6月14日判決)。
セックスレスで離婚請求や慰謝料請求する方法
まずは夫婦での話し合い
夫婦間のセックスレスを原因として相手方配偶者に離婚請求や慰謝料請求を考えている方は、まずは当事者間で話し合いを行いましょう。
夫婦は、当事者間の協議によって自由に離婚することを合意することができます(民法第763条参照)。これを協議離婚といいます。話し合いを行って相手が要求に任意に応じる場合には、もっとも早くスムーズに解決することができます。
次に解説する離婚調停や離婚裁判の手続きを利用する場合には、手続き的な負担や経済的な負担が発生してきますので、できるだけ協議による合意を目指すべきでしょう。
ただ、当事者間による任意での話し合いといっても、こちらに有利な証拠が多い方が、自身が望む内容で相手を説得しやすくなりますし、後々の手続きを見越して合意しておいた方が得策だと相手が思う可能性もあります。
離婚調停
当事者間の話し合いでは離婚がまとまらない場合には、家庭裁判所の「離婚調停」の手続きを利用することができます。
「離婚調停」とは、家庭裁判所の裁判官と一般市民から選ばれた調停委員2名が当事者の間に入り双方の事情を聴きながら、話し合いで離婚や慰謝料について合意できる内容を探っていく手続きです。
調停委員は法律的な評価に基づいて実情に応じて助言や互譲を促してくれます。そのためセックスレスであなたが負った精神的な苦痛を説得的に説明することができれば、調停委員が味方についてくれて、相手方配偶者を説得してくれる可能性もあるのです。
離婚裁判
離婚調停手続きにおいて当事者間の話し合いがまとまらず調停が成立しなかった場合(これを「不調」といいます)、離婚や慰謝料の支払いを求める当事者が裁判所に訴訟を提起して決着を目指すことになります。これが「離婚裁判」です。
離婚裁判では、口頭弁論期日に出頭して当事者双方が証拠に基づいて主張・反論を展開し、最終的には裁判官が離婚の可否・慰謝料支払い義務の有無について判断することになります。
裁判手続きはもっとも厳格な手続きなので、セックスレスに関する証拠を提出したり、証言をすることが必要となる場合もあります。そのため本人にとっては相当心理的な負担がかかる可能性もあります。
そのため弁護士に依頼してすべての手続きを一任することで手続き的な負担を軽減するべきでしょう。
セックスレス離婚についてよくある質問
最後に、セックスレスについてよくある疑問にお答えします。
セックスレスによる離婚は親権に影響する?
セックスレスによる離婚が親権に影響することは基本的にはありません。
親権を決めるにあたって揉めた場合は、どちらの親が子供の親権をもつことが子供にとってよいか、という基準から親権を決めます。具体的には、これまでの監護状況・監護実績、離婚後の監護の継続性、親と子供との情緒的なつながりの程度などの諸要素を総合的に鑑みて親権が決められます。たとえ、セックスレスになったことについて一方的な落ち度がある方でも、子供の親権をもった方が子供のためによいと考えられるケースは数多くあります。
セックスレスによる離婚は養育費に影響する?
セックスレスによる離婚が養育費に影響することはありません。
そもそも養育費は親の子供に対する扶養義務に基づいて負担するものです。法的な親子関係が継続する限りは、子供が精神的にも経済的にも自立できるまでの未成熟子の間は、子供と離れて暮らす親は養育費を負担する義務を負い続けますし、子供と一緒に暮らす親は養育費を請求し続けることができます。
まとめ
協議離婚、調停離婚ではセックスレスを理由とするか否かにかかわらず、夫婦が離婚すること、離婚のために取り決めるべき事項に合意すれば離婚することができます。
他方で、裁判離婚では、セックスレスが「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうかがまず問題となります。裁判でセックスレスを理由に離婚をする場合は、集めた証拠で「その他婚姻を継続し難い重大な事由」を証明できるかがポイントです。
いずれの離婚形態で離婚するにせよ、セックスレスは夫婦にとっても非常に難しい問題であるがゆえに、セックスレスを離婚理由とする場合は話し合いや裁判が難航することが予想されます。今現在、セックスレスでお悩みで離婚を検討されている方がおられましたら、早めに弁護士へ相談することをお勧めいたします。
弊所では、セックスレスを原因とする離婚請求・慰謝料請求を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力でサポートしますので、セックスレスで離婚して慰謝料請求したいとお考えの方は弁護士までお気軽にご相談ください。相談する勇気が解決へと繋がります。
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