民法第752条では、結婚した男女(夫婦)は同居・協力・扶助の3つの義務を負うことが規定されています。そのうち、同居義務に違反することを「同居義務違反」といいます。具体的には、正当な理由がないのに配偶者の同意なく一方的に別居を強行することです。
(同居、協力及び扶助の義務)
第752条
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
この記事では、主に以下の点について、離婚問題に強い弁護士が詳しく解説していきます。
- 一方配偶者の同居義務違反に対し、他方の配偶者は何ができるのか。同居の強制や慰謝料請求はできるのか。
- 裁判で、同居義務違反と認められやすい、または、認められにくいケース
記事を最後まで読むことで、同意のない別居を強行された側の配偶者はどのような対処法がとれるのか、視点を変えれば、同意のない別居をした側が負う責任はどのようなものか、を知ることができます。
目次
同居義務違反に対してどのような対処法がある?
同居義務違反をされた側は、違反した側の配偶者に対してどのような対処法をとれるのでしょうか。以下で解説します。
同居調停を申し立てることができる
同居義務違反をした配偶者と話し合っても同居に応じない場合は、管轄の家庭裁判所に同居調停(夫婦関係調整調停)の申立てをすることができます。
調停手続きでは家庭裁判所の裁判官1人と、民間から選出された専門的な知識や経験がある調停委員2人で構成される「調停委員会」が当事者の間に入って話し合いで解決できるかを模索します。当事者双方は調停委員を介してお互いの言い分を主張することになりますので客観的な視点をもって冷静に話し合いを行うことが期待できます。
ただし、同居調停でも相手方が同居に応じない場合は調停不成立となり審判に移行します。そして、出て行った配偶者に同居義務違反が認められる場合は、家庭裁判所は同居義務の履行を命じる審判(同居命令)を下すことができます。
同居を強制できる?
では、同居命令を根拠に、同居を強制することはできるのでしょうか。
この点、裁判所は、同居義務については直接強制も間接強制もできないと判示しています(大審院昭和5年9月30日)。すなわち、夫婦の同居義務はお互いの協力や助け合いを基礎とする性質上、同居を拒否する配偶者の身体を無理やり拘束して同じ屋根の下に住まわせたり(直接強制)、金銭の支払いを命じて不利益を課すことで心理的に圧迫し同居を強制(間接強制)することはできません。
そのため、同居するよう命じられたとしてもそれに対する制裁はありませんので、事実上同居義務違反をしている配偶者を拘束することはできず、実効性に乏しいといえます。
もっとも、相手配偶者が同居命令を無視して別居を続ければ、その事実が、法定離婚事由の一つである「悪意の遺棄」の一事情として考慮されます。これについては次で解説します。
離婚請求
裁判上の離婚が認められる条件は民法で法定されており、これを「法定離婚事由」といいます。法定離婚事由には、配偶者の不貞行為や3年以上の生死不明などのほか「悪意の遺棄」という離婚事由があります(民法第770条1項2号)。「悪意の遺棄」とは、婚姻生活を破綻させる意図を持って(またはそれを容認して)、正当な理由がなく夫婦間の同居・協力・扶助の義務を継続的に懈怠することを指します。
したがって、婚姻関係を破綻させる、または、破綻しても構わないという意図で、配偶者の一方が正当な理由なく同居義務に違反すれば、悪意の遺棄があったとして裁判で離婚請求が認められる可能性もあります。
慰謝料請求
身勝手に別居を強行しておいて、さらに生活費を入れないようなケースでは、同居義務のほか、協力義務・扶助義務にも反しますので、上記でお伝えした「悪意の遺棄」に該当する可能性が高いでしょう。同居義務違反が「悪意の遺棄」として認められる場合には、配偶者の権利・法律上の利益を侵害したとして不法行為による慰謝料請求が認められることがあります。
また、愛人や不倫相手と同棲するために別居を強行したようなケースでは、同居義務違反が同時に「不貞行為」に該当し、配偶者の貞操権侵害となります。この場合の不貞行為の慰謝料についても高額になることが予想されます。
悪意の遺棄や不貞行為の慰謝料相場については事案の悪質性によって変わりますが、数十万円~100万円のものから、婚姻関係を破綻させるような悪質性の高いものについては100万円~300万円程度認められることもあります。
同居義務違反と認められやすいケース
以下のような事情があれば同居義務違反が認定される可能性があります。
夫婦関係が破綻していないのに勝手に家出した場合
既に婚姻関係が破綻している状況で一方配偶者が別居を開始しても同居義務違反とはなりません。
しかし、喧嘩や口論による一時的な家出や別居、婚姻期間に比べて別居期間がごくわずか、別居後も頻繁に連絡を取っている、といった場合には婚姻関係が破綻しているとまでは言いにくく同居義務違反となる可能性があります。
また、仮に別居期間が1年以上とある程度長期的であったとしても、婚姻の期間と別居の期間の対比、別居に至る経緯などを総合考慮して婚姻が破綻していないと認定された場合には同居義務違反になることもあります。
配偶者と生活スタイル・価値観が合わないといって家に帰って来なくなった場合
自分で稼いだお金は自分の好きに使いたいといった理由や相手と生活スタイルが合わないという理由から家に寄り付かなくなり別居して暮らしているような場合も、別居の期間にもよりますが、同居義務違反に該当する可能性があります。
浮気相手と一緒に暮らすために別居している場合
不貞(不倫・浮気)目的の別居には当然正当性は認められませんので同居義務違反になる可能性が高いでしょう。また、他方配偶者に対する貞操義務違反ともなります。さらに、別居後に家庭に生活費を入れない場合には「悪意の遺棄」にも該当します。
裁判例では配偶者の一方が浮気をして出て行った事案において、夫婦共同生活が今後も維持される可能性が否定できないとして、別居に正当な理由がないと判断したものがあります。
同居義務違反と認められにくいケース
以下のような場合には同居義務違反が認めらない可能性があります。
一方的に居住地を決められた場合
住む場所により、生活環境や子育て環境、住環境などが左右されるため、夫婦が住む居住地は双方にとってとても重要なものです。そのため、夫婦が住む場所は話し合いにもとづいて決定されるべきものですから、仮に一方が勝手に居住地を決め、それにもう一方の配偶者が従わなかったとしても同居義務違反とはなりません。
単身赴任や別居に同意がある場合
夫婦の他方が自宅から離れた勤務先に通勤するために家から離れて生活している場合には、同居義務違反とは認められません。なぜなら家計を維持するための経済活動として一時的に離れて暮らしているだけであり、両当事者ともやむを得ず離れて暮らすことを了承しているからです。したがって、単身赴任を理由として別居している場合には離婚事由にも該当しません。
同様に、夫婦が協議して納得したうえで別々に暮らしている場合にも「同意」があるとして同居義務違反にはあたりません。例えば、そもそも結婚する段階でお互いに別々の家で生活することを約束する「別居婚」などがあたります。また、家族や親族の介護のために実家を離れられないため結婚後も一緒に暮らさず別居している場合も当事者の同意があると考えられますので同居義務違反とはなりません。
冷却期間のために別居している場合
夫婦関係にトラブルを抱えていてお互い冷静に考えるために冷却期間を置くために別居するケースもあります。このような場合も夫婦で話し合った末、お互いが納得して別居していることになりますので、別居に「同意」があったと考えられます。ただし、何の話し合いもせずに一方的に家を出て生活費も入れなくなったという場合には「悪意の遺棄」の法定離婚事由に当たる可能性があります。
DV・モラハラ被害から逃げている場合
配偶者から家庭内暴力(DV)被害を受けていたり、モラハラ被害を受けている場合、そのような被害から逃げるために別居を強行することは同居義務違反にはなりません。自己の身体・精神に対して現に加害が加えられている、または加えられそうになっている場合には、自身の身の安全を守ることが最優先であると考えられますので、別居することについて正当な理由があるといえるからです。
まとめ
夫婦の同居義務に違反して一方的に別居を強行した場合には、民法752条で規定されている同居義務に違反します。
同居義務に違反している配偶者が拒否すれば同居を強制することはできませんが、不貞目的で別居したケースや、別居後に婚姻費用の分担義務を果たさなかったようなケースでは、法定離婚事由である不貞行為や悪意の遺棄に該当し、離婚請求や慰謝料請求が認められる可能性もあります。
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