- 「離婚後でも財産分与はできるのだろうか…」
- 「財産分与の時効は何年だろう…」
このようにお考えではないでしょうか。
結論から言いますと、財産分与は離婚後にすることもできますが、離婚成立後2年以内に行わなければならないという期限が設けられています。ただし、財産分与の調停・審判・判決により確定した金銭支払などの請求権の時効は10年です。
この記事では、離婚問題に強い弁護士が、上記内容に加え、「2年経過後も財産分与を行えるケース」などについてもわかりやすく解説していきます。
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目次
離婚後の財産分与の時効は?
離婚後に財産分与を行うには2年という期限がある
財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いたと認められる財産を夫婦で分け合うことです。財産分与は財産分与請求権という権利の一種ですので、権利を行使できる期限が設けられています。
この点、民法768条2項では、離婚が成立した日から2年以内であれば財産分与を請求できると規定しています。
いつまでも財産分与請求権が行使できるとなると、行使される方としては、果たして財産を処分してよいのかどうか不安定な地位に立たされます。そのため、こうした状態を解消するために離婚成立から2年という期限が設けられているのです。
なお、離婚が成立した日(離婚届が市区町村役場に受理された日)から2年ですので、たとえば、離婚前に3年別居してその後離婚が成立したとしても、その成立した日から2年の期限の進行が開始されます。
財産分与請求権は「消滅時効」ではなく「除斥期間」
上記の通り、財産分与請求権を行使できるのは離婚成立後2年間です。そして、注意しなくてはならないのは、この2年間の期限は「消滅時効」ではなく「除斥期間(じょせききかん)」です。
消滅時効とは、権利を行使できる時点から一定期間が経過し、期間が経過することよって利益を受ける人(財産を分与する側)が「権利を消滅して欲しい」と主張した(これを「援用」といいます)場合に権利が消滅する制度のことです。
しかし、財産分与請求権については、この消滅時効ではなく、除斥期間という消滅時効とは別の制度によって権利が消滅することとなっています。
除斥期間とは、一定期間経過すると当然に権利が消滅する制度です。
一見、消滅時効と何ら変わりはないように思えますが、実際は全く異なります。
まず、消滅時効の場合、期間の満了を猶予すること(延期すること)、更新する(一定程度進行した期間をリセットして振り出しに戻すこと)が可能ですが、除斥期間は期間満了の猶予、更新ができません。
また、上記のとおり、消滅時効の場合は、期間の経過によって利益を受ける人が援用することが必要ですが、除斥期間では援用するまでもなく当然に権利が消滅します。つまり、消滅時効であれば相手が消滅時効の援用をしていなければ、時効成立後でも訴訟を提起して請求することができますが、除斥期間では期間経過後に訴訟を提起して請求ができなくなります。
財産分与が確定した後の請求権の時効
上記の通り、財産分与請求権は、離婚の時から2年を経過することで除斥期間により消滅してしまいます(民法第768条2項参照)。
しかし、離婚から2年以内に裁判手続を利用して財産分与による財産請求権を確定させた場合には10年間権利が失われることはありません。
なぜなら「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年よりも短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は10年とする」と規定されているからです(民法第169条1項参照)。
この10年については除斥期間ではなく消滅時効期間ですので、相手方が請求に応じない場合には訴訟を提起することで時効の完成猶予・更新をすることができます(民法第147条参照)。
財産分与を2年経過後でも行えるケース
元夫婦同士が財産分与に合意した場合
除斥期間経過後も、元夫婦同士が財産分与に合意するのであれば、財産分与を行うことは可能です。
除斥期間は、離婚が成立した日から2年間が経過すると財産分与請求権を消滅させる制度ではありますが、財産分与に関する合意を排除するものではないからです。
ただし、離婚後、2年以上経過してから財産分与をすると、外形的には財産分与か贈与かの区別がつきません。本来財産分与には贈与税が課税されることはありませんが、税金逃れのために贈与を財産分与と偽っていると判断されると贈与税を課税されるリスクが伴います。そのため離婚後はできるだけ早急に財産分与を済ませることをお勧めします。
相手がすべての財産を公表しなかった場合
相手がすべての財産を公表しなかった場合は、他方の財産分与請求権を侵害したとして相手に損賠賠償責任を問うことができます。
つまり、厳密には財産分与でありませんが、本来、相手が財産を公表していたならば得られたはずであろう(失われた)利益を損害と見立て、その損害分を金銭で賠償させることができる、というわけです。
損害賠償請求権の消滅時効は、相手及び損害をしったときから3年です。
したがって、仮に除斥期間が経過していたとしても、相手がすべての財産を公表していないと知ったときから3年を経過していないのであれば、相手に金銭の支払いを請求することが可能です。
財産分与の対象となる財産と請求方法
財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻後から離婚(又は別居)までに夫婦が協力して築いたと認められる財産(共有財産)です。例えば、以下に挙げるようなものが財産分与の対象となります。
- 土地や建物などの不動産資産
- 現金・預貯金
- 車やバイク
- テレビやソファ、美術品などの動産類
- 各種保険の解約に伴う解約返戻金
- 株式や債券、投資信託
- 将来受け取れる蓋然性が高い退職金 など
他方で、夫婦の一方が婚姻前から有してた財産、あるいは婚姻後に取得した財産であっても夫婦が単独で得た財産(特有財産)は財産分与の対象ではありません。例えば、以下に挙げるようなものは財産分与の対象財産とはなりません。
- 婚姻前に相手が築いていた預貯金
- 婚姻前に相手が購入した車、家電、家具などの動産
- 相手が親から贈与されたもの、相続した不動産 など
財産分与の対象となる財産を知るには?
別居前であれば、自宅に届く郵便物や保管書類から配偶者の財産を調査することも可能です。しかし別居して財産分与が争われている段階で相手方の財産を調査することは非常に困難な場合もあります。
任意の財産調査が難しい場合にも、以下の制度を利用することで財産分与の対象となる財産を調べられる場合があります。
弁護士会照会
弁護士会照会制度とは、財産分与事件の依頼を受けた弁護士が弁護士会を通じて各種機関に情報の開示を求めていく手続きです。
銀行や信用金庫の本店充てに、本店や全支店における相手方名義の預貯金の有無や預貯金を有している場合にはその支店名・口座科目・現在の残高を照会することで、回答が得られる場合があります。
また、相手方の固定電話や携帯電話番号を把握している場合には、通信会社に対し電話料金の引落口座を照会できることがあります。クレジットカード会社に対しては、相手方との契約の有無や契約している場合の引き落とし口座を照会できることもあります。
実際に回答を得られるか否かは、事案の内容や照会先の対応にもよりますが、様々な方法により相手方の財産について照会できる可能性があります。
調査嘱託
家庭裁判所は、必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、又は銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができると規定されています(家事事件手続法第62条参照)。
これを調査嘱託といいます。
調査嘱託をする主体は裁判所ですので、当事者は裁判所の職権発動を促すために申立てを行うことになります。金融機関などへの嘱託を希望する場合には、当該金融機関などが嘱託の対象となる者(口座名義人など)を特定できるよう情報を嘱託申立書に記載する必要があります。
具体的に嘱託の対象者となる相手方の氏名・生年月日・住所を記載する必要がありますが、金融機関が把握している情報が異なっている可能性があることから、できるだけ旧姓や旧住所についても記載しておくことが望ましいでしょう。
財産分与の請求方法
まずは相手との話し合いで財産分与を請求します。協議でお互いが合意できればその内容に沿って財産分与を実施することになります。
しかしこれまで申し上げてきたとおり、離婚後に財産分与の話し合いをする場合は、財産分与の除斥期間(離婚が成立した日から2年)に注意が必要です。上記の通り、除斥期間は消滅時効と異なり、期間が延長される、リセットされることはありません。
そのため、話し合いがまとまらないでいるといつの間にか除斥期間が経過してしまうという事態にもなりかねません。このような事態を回避するためには、以下でお伝えするように、家庭裁判所に対して「財産分与請求調停」を申し立てましょう。
財産分与請求調停の申し立て
財産分与請求調停の申立て先は、家庭裁判所は元夫婦間で取り決めがない限り、申し立てされる夫(又は妻)の住所地を管轄する家庭裁判所です。
一度調停を申し立てると、仮に、調停が行われている間に2年が経過しても、財産分与することは可能です。
また、調停を申し立てると、相手に財産を処分されてしまうことも考えられます。
そこで、相手に財産を処分されてしまわないために、財産分与調停を申し立てるとともに「財産処分禁止の審判前保全処分」も申し立てましょう。申し立てが認められると、相手は財産を勝手に処分することができなくなります。
ただし、調停委員や裁判官の仲介のもとでも話し合いで協議がまとまらない場合には、調停は不成立(不調)となります。
調停不成立の場合は審判に移行
調停が不成立の場合には審判に移行することになります。
この場合、審判手続きに移行することになり調停を担当していた裁判官がそのまま審判官として財産分与の方法などについて判断することになります。財産分与の方法が決定し、相手に支払い義務が認められれば支払いを命ずる審判が下されます。相手がこの命令に従わない場合には相手の財産を強制執行して差し押さえることもできます。
審判事件については、裁判官が当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官が行った調査の結果などを考慮して審判されることになります。
この審判に不服がある当事者は、2週間以内に不服(即時抗告)の申立てをすることで、高等裁判所に審理をしてもらうことができます。再審理を行う裁判所は高等裁判所ですが、即時抗告の抗告状は原裁判所(審判を行った裁判所)に提出する必要がありますので注意が必要です。
まとめ
財産分与(請求権)は離婚が成立した日から2年で消滅します。財産分与については可能な限り、離婚前に解決しておくことをお勧めします。
仮に、離婚後に財産分与を行う場合は、可能な限り早い段階で、家庭裁判所に対して「財産分与請求調停」、「財産処分禁止の審判前保全処分」を申し立てましょう。
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