離婚する場合に親権者とならない親は、離婚後子供と一緒に生活することができなくなります。
その場合、子供を引き取らない親には、法律上子供と定期的に面会する権利が認められます。
離婚する場合には、この面会方法などについて取り決めをしておく必要があります。
今回は、「面会交流権」をテーマに解説させていただきます。
- ①面会交流権とは、どのような権利なのか
- ②面会交流権の内容は、どう決めるべきか
- ③面会交流内容の具体例(文例つき)
- ④面会交流権を相手が認めない場合の対処法
……などについて、ご紹介いたします。
法律に詳しくない方でも、弁護士監修のもとわかりやすく解説いたしますので、ぜひ最後までお読みください。きっと有益な情報が得られるはずです。
なお、本記事では、離婚によって子供を引き取る側の親を「親権者」。子供と離れて暮らす親を「非親権者」と表記させていただきます(親権を監護権と分離させていないことを想定)。
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目次
- 1 1.面会交流権とは?
- 2 2.面会交流権は法律上の権利!
- 3 3.面会交流の内容は当事者が自由に決められる
- 4 4.面会交流は子供の利益が最優先
- 5 5.面会交流権は親子両方のためにある
- 6 6.面会交流はいつ決めるべきか?
- 7 7.面会交流の内容はいつでも変更可能
- 8 8.面会交流の条件を決めるための基準
- 9 9.面会交流権の内容として決めるべき内容
- 10 10.面会交流を決める具体的な手順
- 11 11.有利な面会交流権を取得するためのポイント
- 12 12.面会交流権の内容は離婚協議書に明記すべき!
- 13 13.離婚協議書への記載例(文例)
- 14 14.面会交流権が認められない2つのケース
- 15 15.相手が養育費を払わない場合、面会交流を拒絶できる?
- 16 16.面会交流できない場合の3つの対処法
- 17 17.決めたはずの面会交流が守られない場合の対処法
- 18 18.面会交流条件を書面に残す重要性
- 19 19.まとめ
1.面会交流権とは?
子供のいる夫婦が離婚する場合、夫婦のどちらか一方を親権者と定める必要があります。
日本では離婚後、子供の両親による共同親権が認められていないためです。
この場合、子供は親権者が引き取り育てることになります。
親権者でない親(非親権者)は、離婚後子供と一緒に生活することができなくなります。
しかしだからといって、子供と一生会えなくなってしまうわけではありません。
夫婦が離婚し、たとえ子供と離れ離れになったとしても、法律上親子関係があることには変わりがありません。
子供の親である以上、定期的に子供と面会する権利が法律によって認められるのです。その権利が「面会交流権」です。
離婚によって子供と離れ離れに生活することになる親にも、法律上、子供と定期的に面会し一緒に時間を過ごす権利が認められるのです。
2.面会交流権は法律上の権利!
子供のいる夫婦が離婚する場合、夫婦のどちらか一方を親権者と定める必要があります。
親権者となったほうの親は、子供を引き取り一緒に生活する権利が認められます。
親権者にならなかったほうの親(非親権者)は、離婚によって子供を手放すことになりますが、それによって子供とまったく会えなくなってしまうわけではありません。
上記のように、面会交流権が認められるため、定期的に子供と会うことができるのです。
3.面会交流の内容は当事者が自由に決められる
上記のように面会交流権とは、離婚によって子供と生活することのできなくなる非親権者が、子供と会うための権利です。
しかし、子供と会うための方法に関しては、当事者の事情によって千差万別です。
数か月に一度、数時間程度の面会しか許されないケースもあれば、毎週子供と面会し夏休みなど長期の休暇には一緒に旅行するというケースもあります。
場合によっては、子供との面会を希望しても、まったく面会交流権が認められないというケースもあるのです。
これら面会交流権の内容は、基本的に(元)夫婦および子供の話し合いによって自由に定めることができることとされています。
4.面会交流は子供の利益が最優先
離婚に際して子供を手放したほうの親(非親権者)には、上記のように面会交流権が認められます。これは民法766条によって認められた正当な権利です。
民法766条1項では、頻度や方法など面会交流権の内容を定める場合には、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定めています。
離婚に際して夫婦間で面会交流の内容を決める場合には、子供にとって最も良い結果となるように面会交流の頻度や方法などを定める必要があるのです。
この理屈は、離婚がどの形態によるものであっても同様です。
つまり離婚が当事者の協議による場合だけでなく、調停や裁判などによる離婚であっても、面会交流の内容は子供の利益を最優先して決められるべきものなのです。
5.面会交流権は親子両方のためにある
「面会交流権が認められる」というと、まるで非親権者である親のための権利のように考えてしまいがちです。しかし、この考え方は少し違っています。
離婚によって離れ離れになってしまった子供と会えるということは、確かに非親権者にとっては権利であることは間違いありません。
しかし、これは同時に子供にとっての権利でもあるのです。
面会交流は子供にもプラスとなる
離婚によって、子供は非親権者である親と、離れて暮らさなければならなくなります。
普通に考えた場合、この状況は子供の養育上好ましいものではありません。
子供が健全に成長していくためには、親権者とだけでなく非親権者とも、なるべく頻繁に顔を合わせ交流することが好ましいのです。
しかし両親の離婚によって、子供は非親権者と顔を合わせる機会が少なくなってしまいます。
それでは、子供の健全な成長の妨げになる恐れも否定できません。
面会交流権は、子供の健やかな成長のために認められる権利でもあるのです。
離婚が子供に与える影響
両親が離婚するということは、子供にとって大きな心理的ストレスを与えるものです。
離婚が成立するまでに両親がケンカをしたり、離婚後には引っ越しや非親権者と会えなくなるなどの事実は、子供に大きなショックを与えます。
この傾向は、子供が小さいほど大きくなります。
夫婦として離婚することを避けることができないとしても、離婚するとき、そして離婚後は最大限子供のケアを心がけてあげてください。
なお、離婚が子供に与える影響、そして面会交流を決める際に気を付けたいポイントについては、以下のサイトのビデオが参考になります。
参考:ビデオ「離婚をめぐる争いから子どもを守るために」(裁判所サイト)
6.面会交流はいつ決めるべきか?
面会交流に関する取り決めをすべき時期は、①離婚によって子供と別居することになる場合と②離婚前から別居している場合とでは異なります。
①離婚によって別居するケース
夫婦が離婚するまで同居している場合、通常、子供は夫婦と一緒に生活していることになります。
この場合、夫婦が離婚によって別居することで、非親権者と子供は離れて生活することになります。
このケースでは、面会交流権の内容に関しては、夫婦当事者間でいつ取り決めすることも可能です。
ただし、面会交流権を有利な条件で取得したい場合には、なるべく離婚成立前に決めておくことをおすすめします。
離婚成立前に決めておくことが大切
子供との面会交流を希望する場合、離婚によって子供と別居することになるケースでは、面会交流権の内容は離婚成立前に決めておくことが大切です。
離婚成立後、子供と別れてから面会交流に関して取り決めをした場合、有利な条件で面会交流権を認めてもらうことが難しくなる可能性があります。
日が経つにつれ、子供とは徐々に疎遠になっていきますし、親権者の方もすでに別れた配偶者とのやり取りを嫌う傾向があるからです。
このため、面会交流に関する話し合い自体が成立しないという事例も多数存在します。
仮に話し合いが成立したとしても、不利な条件となることが一般的といえるでしょう。
面会交流権の内容を非親権者にすこしでも有利な条件とし、離婚後早い段階から子供と面会できるようにするためには、面会交流の条件は離婚成立前に取り決めすることが重要です。
②離婚前から別居しているケース
正式に離婚が成立する前から夫婦が別居している場合、多くの事例では妻が子供を連れて家を出ていくことになります。
この場合、夫は離婚成立前から子供と離れて生活することになります。
面会交流権といえば、離婚成立後だけに認められる権利というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、実は離婚前でも認められる権利なのです。
離婚前でも面会交流は可能
通常の場合、面会交流は夫婦の離婚後、親子が離れて暮らすようになってから始まります。
しかし、離婚成立前から夫婦が別居している場合には、離婚が成立する前であっても面会交流権の行使は認められています。
たとえ一緒に生活していなかったとしても、法律上親子であることには変わりがありません。親である以上、自分の子供と面会する権利があります。
このため離婚前であったとしても、子供と離れて生活している以上、面会交流権が認められるのです。
これは親の権利というだけでなく、子供の権利でもあるのです。
7.面会交流の内容はいつでも変更可能
面会交流権の内容については、一度決めたからといって、ずっと同じ条件のままにする必要はありません。
夫婦当事者の事情の変化、子供の成長などによって適宜変更することは可能です。必要に応じて、当事者で話し合ってみるとよいでしょう。
8.面会交流の条件を決めるための基準
夫婦当事者間において面会交流の条件を決める場合、つぎのような要素を総合的に考慮して決めるとよいでしょう。
- 現時点での子供と非親権者との関係性
- 子供と非親権者のこれまでの関係性
- 子供の年齢
- 子供の意思や都合
- (元)夫婦当事者の意思や都合
面会交流の内容は、上記のような各事項を総合的に判断し、当事者、とくに子供にとってもっとも利益となるように決めることをおすすめします。
9.面会交流権の内容として決めるべき内容
夫婦の話し合いによって面会交流の条件を決める場合、主につぎのような事項について明確にしておく必要があります。
面会交流の条件は、基本的に当事者の話し合い次第で、どのように決めることも可能です。ただし、あくまでも子供の利益を優先することを忘れないようにしてください。
面会交流の条件として絶対に決めておくべき事項と、なるべくなら決めておきたい事項に分けてご紹介します。
(1)かならず決めておくべき条件
面会交流の条件として、以下の項目に関しては、かならず決めておく必要があります。
①子供の送迎方法
面会交流の際、子供を非親権者にどうやって引き渡すか、どうやって引き取るかについて決定しておきます。
自分の住所を知られたくないような場合には、近所の公園などで子供を受け渡すなどの方法をとることが多いようです。
②子供との面会場所
面会交流を行う際の、子供との面会場所を定めます。非親権者と子供が実際に面会を行い、一緒に時間を過ごすことになる場所を明確に決めておくことが大切です。
面会交流の場所は、当事者の事情により、公園やショッピングモールなど公的な場所となることもあります。非親権者の住居とすることも、当然可能です。
「非親権者の自宅において面会交流を実施する」
③面会交流の頻度
面会交流をどのくらいのペースで行うのか決めておきます。
一般的には月1回程度とすることが標準的な定め方です。しかし、子供が比較的近所に住んでいて良好な親子関係である場合などには、より頻繁に面会交流を認めてもよいでしょう。
逆に当事者が遠方に住んでいる場合などには、数か月に一度などとすることも可能です。
「面会交流を毎週末認める。」
④面会の継続時間
毎回、どれくらいの時間面会を認めるかを決めておきます。
面会の時間の長さに関しては、親子関係を基準にして決めるとよいでしょう。親子関係があまり良好でない場合には、なるべく短い時間とします。面会交流を継続するにつれて親子関係が良好になった場合には、より長い時間に変更することを検討してもよいでしょう。
「面会時間は12時間以内とする」
「面会時間は、毎週第2土曜日の午前10時から午後5時までとする」
⑤宿泊させるかどうか
面会の際に子供が非親権者の自宅に宿泊することを認めるかどうかを決めておきます。
宿泊を認める場合には、その頻度も決めておきましょう。
非親権者と子供との親子関係が良好であれば、宿泊は最初から認めてもよいでしょう。
「面会交流のたびに宿泊させる」
もし、子供の宿泊を認めない場合には、「宿泊は認めない」旨を明確に取り決めておきます。
⑥お互いの連絡方法
面会交流を行うためには、子供の両親間での連絡のやり取りが不可欠です。急な事情による面会方法の変更などのためにも、元夫婦間での連絡方法を決めておきましょう。
万一の緊急事態などに備えるためにも、連絡方法はひとつだけでなく、複数の方法を決めておくと安心です。
「メールで連絡する」
「ラインを利用してやり取りする」
(2)できれば決めておきたい項目
面会交流の内容として、なるべく決めておいた方がよい項目はつぎのようなものとなります。
①実際の面会以外の交流の可否
面会交流は、実際に親子が面会するだけとは限りません。電話やメールなどでのやり取りも立派な面会交流となります。
このような形での交流を認めるかどうかを、事前に決めておくとよいでしょう。認める場合には、その頻度についても決めておくとトラブル防止につながります。
「週に一度、子供との電話のやり取りを認める」
②非親権者の肉親との面会を認めるか
非親権者の肉親、特に子供のおじいちゃん・おばあちゃんに合わせることを認めるのかどうか決めておくとよいでしょう。
③子供との旅行を認めるか
子供との宿泊を認める場合、非親権者が子供を連れて旅行することを認めるかどうかを決めておくとよいでしょう。
特にゴールデンウィークや夏休みなど、長期の休暇期間中には子供と一緒に旅行に行きたいと思う親も多いものです。そのような場合に、旅行を認めるのかどうか決めておいてもよいでしょう。認める場合には、旅行の範囲(「国内に限る」など)や日数について決めておきます。
「子供との旅行に関しては、必要に応じて当事者で協議して決める」
旅行を認めない場合には、その旨をはっきりと取り決めしておきましょう。
④学校行事の行事に参加できるかどうか
面会交流の一環として、運動会や入学・卒業式などに参加することを認めるかどうかを決めておく事例もあります。
面会交流の条件は子供の利益を最優先に!
面会交流の内容の各種条件に関しては、つい非親権者である親などの都合などによって決めてしまいがちです。
しかし、面会交流は親だけではなく子供のためのものでもあります。面会交流の内容に関しては、親の希望や都合で決めるのではなく、子供の意見・都合を優先して条件を決めましょう。
そのためには、子供の成長などによって柔軟に面会条件を変更する必要があります。
面会交流の条件はある程度柔軟に
離婚する際には、財産分与や養育費に関する条件など、いくつも取り決めをする必要があります。
その際、基本的には各条件についてできるだけ具体的に決めておくと、のちのトラブルの防止に役立ちます。
しかし、面会交流権の内容に関しては話が異なります。
面会交流の諸条件に関しては、あまりに具体的に決めてしまった場合、当事者のその時々の事情に合わせづらくなり、かえって面会交流をスムーズに実施するための障害となることがあるのです。
そのため、面会交流の諸条件はある程度柔軟に定めておくことも大切です。
たとえば面会交流の頻度についていえば、「面会交流は月1度、第2土曜日」などと具体的・硬直的に決めるのは、なるべく避けるべきです。
なぜなら、たまたま第2土曜日が当事者にとって都合の悪い月があった場合には、その月には子供とまったく会うことができなくなってしまうからです。
そのようなことを避けるためには、「面会交流は月1度、日時に関してはその都度当事者の協議によって定める」などと、ある程度の「幅」を与えて決めておくとスムーズな面会交流の実施に役立ちます。
10.面会交流を決める具体的な手順
面会交流権の諸条件について決定する場合、具体的にはつぎのような手順で行うことになります。
当事者で話し合う
面会交流権の内容に関しては、まずは何よりも(元)夫婦当事者での話し合いが優先されます。当事者が納得している内容であれば、面会交流をまったく認めないとすることも可能です。
調停
面会交流の条件について、(元)夫婦当事者間で話し合いが成立しない場合、家庭裁判所で調停を行う必要があります。これを「面会交流調停」といいます。
家庭裁判所では、調停委員が夫婦の間に入り、両者の意見の調整を行います。また、家庭裁判所が当事者からの事情聴取だけでは不十分と判断した場合、家庭裁判所調査官による調査が行われることがあります。
調査官による調査について
面会交流権に関する調停では、必要に応じて家庭裁判所調査官によって子供との面談や家庭訪問などが行われることがあります。
これらの調査によって収集された情報は、調停委員が当事者を説得する際の材料とされたり、審判になった場合には審判の判断材料となります。
試験的面会交流の実施
面会交流権調停では、試験的面会交流が実施されることがあります。
これは家庭裁判所調査官が立ち会う中で、家庭裁判所内の一室に子供と非親権者を同席・面会させ、当事者の様子をうかがうためになされるものです。
この結果、子供と親が良好な関係なのかどうかなど、当事者の関係性が確認されることになります。
調停の終結
上記のような手続きを経て、当事者間に合意が成立した場合、調停は終了となります。
その際には、面会交流の内容を記載した調停調書が作成されます。調停によって合意が成立したにもかかわらず、合意どおりの面会交流が行われない場合には、履行勧告や強制執行などが認められることになります。
審判
当事者間で調停によっても合意が成立しない場合、調停は不成立となります。この場合、調停手続きは自動的に審判手続きに移行することになっています。
審判手続きでは、家庭裁判所が当事者の事情を総合的に考慮し、面会交流権を認めるかどうか。認める場合にはその条件などを決定することになります。
審判手続きによって、当事者間の面会交流権の内容に関する争いは、一応の解決が図られることになります。
ただし、審判内容に不満がある場合には、不服の申し立てが認められます。この場合には、2週間以内に高等裁判所に即時抗告をすることになります。
11.有利な面会交流権を取得するためのポイント
離婚に際して子供を手放す親から考えた場合、離婚後の面会交流は子供とのきずなを繋ぐもっとも重要な権利です。
子供と一緒に生活できない以上、なるべく有利な条件としたいと思うのは誰であっても当然のことでしょう。
面会交流の条件を自分に有利にするためには、つぎのような手順で交渉するとよいでしょう。
自分の理想の条件を考える
夫婦間で面会交流の条件について協議する場合、非親権者としては事前に自分の理想とする面会交流の条件を考えておくことが重要です。
すでにご紹介した面会交流の頻度、面会の方法、宿泊させるのかどうかなどについての条件を、できるだけ具体的に決めておきましょう。
その際には各条件に関して、どこまでなら譲歩できるのかについても考えておくとよいでしょう。
自分の希望を主張する
離婚によって子供と別居することになる非親権者からすれば、面会交流権は上記のように非常に大切な権利です。
面会交流の条件が自分にとって不利になるということは、その分だけ子供と自分の関係が疎遠になることを意味します。
夫婦間で面会交流の条件を決める際には、自分の希望をハッキリと主張し、なるべくその条件を相手に受け入れてもらうように努力することが大切です。
なかなか交渉がまとまらなかったとしても、すぐに感情的になるようなことは避けましょう。感情的になることは、交渉をかえって難航させる原因となります。
譲れるところは譲り、柔軟な姿勢で交渉してください。
無理な要求はしないこと
面会交流の条件を協議するに際して、自分の理想の条件を相手に認めさせることは重要なことです。ただし、あまりに無理な条件を要求することは考え物です。
相手にとって受け入れがたい条件を要求すると、かえって交渉がまとまらなくなる原因を作ることになってしまいます。
自分の希望する面会交流の条件を考える際には、相手の立場も考え、相手が受け入れることのできる範囲がどこまでなのかを検討することも大切です。
合意が成立しない場合には悪影響も!
当事者間で交渉がまとまらない場合、家庭裁判所での調停が必要になります。
そうなると面会交流の条件が決まるまでに、当事者間で協議する以上に手間暇が余計にかかることになってしまいます。
その場合には夫婦当事者双方だけでなく、子供にとっても悪影響を及ぼす可能性があります。当事者間の関係も、さらに険悪となってしまうことでしょう。
そのようなことを避けるためにも、面会交流に関する話し合いは、なるべく当事者間で合意できるように努力することが大切です。
ほかの条件の譲歩も必要
面会交流の条件を自分に有利な内容とするためには、場合によっては面会交流権以外の条件について譲歩することも必要です。
交渉の場であまりに強硬な姿勢を貫けば、交渉自体が不成立になるなど、かえって自分に不利となる可能性も考えられます。
そのような場合には、面会交流の条件について譲歩しない代わりに、毎月支払う養育費の額を増額するなど交換条件を提示するなどして交渉してみるものよいでしょう。
後述するように法律的に見た場合、面会交流と養育費はまったくの別問題です。
しかし実際問題として、面会交流権の交渉の材料として養育費の問題を利用することは、面会交流の条件を有利にするために必要なケースがあるかもしれません。
12.面会交流権の内容は離婚協議書に明記すべき!
夫婦間で子供との面会交流に関して取り決めが成立した場合、その内容を具体的に書面に残しておくことは非常に大切なことです。
そうすることで、あとになって細かい条件などについて「言った」「言わない」のトラブルを避けることができるからです。
面会交流権の内容については「離婚協議書」を作成し、当事者の合意内容に関して明記するようにしましょう。
離婚協議書とは?
離婚協議書とは、通常離婚する際に作成される書類です。離婚協議書には、離婚に際して当事者間で合意された離婚条件などを明記することになります。
離婚協議書には、主につぎのような内容を記載しておくと、のちのち当事者間でトラブルが発生することを防止することができます。
- 夫婦両方が離婚に合意したこと
- 親権者をどちらにするか
- 財産分与の有無、分与する財産
- 慰謝料の有無、慰謝料の金額
- 養育費の支払いの諸条件
- 面会交流に関する諸条件
- その他必要事項
離婚する場合には、以上のような各項目に関して当事者で話し合い、それぞれどうするのか具体的に決定しておくことが大切です。
離婚協議書には、以上のような重要事項を明記し、夫婦両方がそれぞれ署名押印することをおすすめします。
離婚協議書に押すハンコは、できれば実印を使用し、お互いの印鑑証明書をつければ万全です。
離婚協議書を作る場合には、2通作成するようにしましょう。そして、夫婦がそれぞれ1通ずつ持ち、保存しておきます。
書類は有力な証拠となる
上記のように、離婚に際しては夫婦の一方から相手方に対して、慰謝料や財産分与・養育費などの支払いが約束されることがあります。
しかし世間では、離婚後この約束が守られないケースがたくさん存在します。
特に養育費に関しては、支払い期間が長いため、離婚後しばらくすると支払ってもらえなくなるという事例が非常にたくさんあるのです。
しかし、そのような場合でも、上記のような内容を明記した離婚協議書を作っておけば、当事者の取り決め内容がどのようなものであったのかを主張する際に有力な証拠とすることができるのです。
証拠がないと法律的に不利になる!
離婚条件に関して約束が守られない場合、最終的には裁判を起こさなければならないケースがあります。
裁判においては、何よりも「証拠」が物をいいます。証拠がなければ「言った」「言わない」の水掛け論となってしまい、裁判を有利に進めることが難しくなります。
しかし離婚協議書など、離婚条件を明記した書類があれば、裁判上非常に有力な証拠となるのです。
離婚協議書があれば、裁判を起こさなくても、書類を相手に提示することによって相手に約束を守らせることができるケースも少なくありません。
このように協議内容を書類に残しておくことは、非常に大切なことなのです。
公正証書で作っておくと安心
離婚協議書を作成する場合において、もっとも安心できるのは書類を公正証書で作っておくことです。
公正証書とは、公証人という特別な公務員によって厳格に作成される書類です。
離婚協議書を公正証書で作っておいた場合、慰謝料や養育費など金銭の支払いがなされないときには裁判などをすることなく、相手方の財産に対して強制執行をすることが認められます。
将来、相手方に養育費の不払いなどの恐れがあるような場合には、離婚協議書は公正証書で作成することをおすすめします。
13.離婚協議書への記載例(文例)
離婚協議書の中に面会交流権の内容を記載する場合、つぎの文例を参考にするとよいでしょう。
こちらでは当事者の都合に合わせ、いくつかのパターンを想定してみました。
離婚協議書を書く場合には、夫を「甲」、妻を「乙」などとして記載するとよいでしょう。
①一般的な面会交流の記載例
面会交流の条件について、もっとも柔軟に対応できる決定方法です。
当事者の関係が険悪でなく、お互いの連絡に支障がない場合には、面会交流の内容としてつぎのように決めておくと便利です。
その時々の当事者の都合などを反映し、柔軟に面会交流を行うことが可能となります。
実際の具体的な日時、場所、方法などについては、子供の利益を最優先に考慮し、甲乙および長男との協議によって定める。
これは、面会交流の対象となる子供が誰であるのか、面会交流の回数だけを決めておく場合の文例となります。
その他の事項に関しては、その時々の都合によって当事者の協議で決めようというパターンです。
子供との面会交流を認めるべき親権者が、面会交流権の必要性などを認識している場合などには、このような決め方が適しています。
②子供の宿泊を認める場合の記載例
面会交流に際して、子供が非親権者のもとに宿泊することを認めることがあります。この場合、つぎのような文例を参考にして離婚協議書に記入するとよいでしょう。
(2)ゴールデンウィーク中は、2日以内の宿泊を伴う面会交流とする。
(3)夏休み期間中は、合計して5日程度の宿泊を伴う面会交流とする。
(4)その他、子供に長期休暇があるときは、適宜当事者間で面会交流を定める。
(5)具体的な面会交流の日時などに関しては、子供の意見・利益を最優先し、当事者間で定める。
③当事者間での協議が難しい場合の記載例
元夫婦の間が険悪で、面会交流の条件に関して離婚後、当事者で話し合うことが難しい場合があります。
そのような場合には、離婚協議書には面会交流の諸条件について詳細に記載する必要があります。
各条件を詳細に決めておく場合の文例
当事者間で面会交流の具体的内容を話し合うことができない場合、つぎのような文例をベースとして協議書を作成してください。
乙は甲に対し、甲が当事者間の長男〇〇(平成○○年○○月○〇日生まれ)と二男△△(平成△△年△△月△△日生まれ)と面会交流することを認める。なお、その際の条件に関しては、つぎのとおりとする。
(1)面会交流の回数:毎月2回
(2)面会交流の日時:毎月最終日曜日の午前10時から午後5時まで
(3)面会交流の場所:甲の住所地
(4)子供の送迎方法:甲が乙の住所まで子供を迎えに行き、面会交流終了後には甲が乙の住所まで送り届けるなお、当事者間の連絡方法は、お互いの指定するアドレスへのメールのやり取りをもって行うこととする。
必要がある場合には、上記内容にさらに必要事項を加筆するとよいでしょう。
14.面会交流権が認められない2つのケース
通常の場合、離婚に際して子供を手放した親には、離婚後も子供と会う権利が認められます。
しかし、つぎのような事情がある場合には、この権利が認められない可能性があるので注意が必要です。
子供への暴力・虐待があった場合
親権を持たない親が離婚前に子供に対して暴力や虐待を行っていた場合、面会交流権が認められない可能性が高くなります。
これは、面会交流権を認めることによって再び子供が暴力の犠牲などになることを避けるため当然の措置といえるでしょう。
ただし、妻への暴力・虐待があった場合でも、子供に対しては暴力などがないケースでは面会交流が認められる可能性があります。
その他、子供の利益にならない場合
すでに解説させていただいたように、面会交流は子供の利益を最優先して認められるかどうかが判断されるものです。
このため、親権者でない親と子供を面会させることが総合的に見て子供の利益にならないと判断されるような特別な事情がある場合、面会交流権は制限されることがあります。
たとえば、競馬場やパチンコ屋などギャンブルをする場所に子供を連れて行ったり、親に過度の飲酒や精神疾患がある場合などには面会交流権が制限される可能性があります。
15.相手が養育費を払わない場合、面会交流を拒絶できる?
面会交流権と養育費に絡んだ問題として実務でよく受ける質問に、つぎのようなものがあります。
「元夫が養育費を支払わないから子供に会わせていません。これって、法律的に問題ありませんよね?」
養育費は子供を引き取り育てている側の親からすれば、非常に大切な収入源です。
相手が養育費を支払わない以上、自分としても子供に会わせたくないという気持ちは十分わかります。
しかし、この対応は法律的に考えた場合には問題があります。
面会交流権と養育費の支払いは別問題!
上記のようなトラブルは、実は世間ではたくさんあるものです。
しかし、法律上面会交流権と養育費をもらう権利は、まったく別の問題とされているのです。
このため養育費をもらっていないということを理由として、面会交流を拒否した場合、拒否した側の親には慰謝料の支払いなど法律上の責任が課されることにもなりかねません。
養育費がもらえない場合には、面会交流とは別個の手続きである養育費の支払いを求める調停を行う必要があります。
まずは面会交流を継続すること
相手方が養育費を支払わない場合、上記のように、親権者の側が面会交流を拒否するという対応をとるケースがあります。
しかし、このような対処法は、あまりお勧めできる方法ではありません。
養育費を支払わない側としては、その事実について多少なりとも罪悪感を抱いているものです。
しかしそれにもかかわらず報復として相手方に対して面会交流を認めないと、逆に相手方に養育費不払いに関する罪悪感をなくさせることにつながる可能性があるからです。
相手が「面会交流が認められない以上、養育費を支払う必要はない」などと考えた場合、養育費の不払いに関する罪悪感を消滅させることにもなりかねません。
養育費の不払いに対する罪悪感が少なくなると、今後も継続的に不払いとなってしまう恐れもあります。
もし養育費の不払いがある場合でも、しばらくは面会交流の継続を認めることが大切です。
面会交流を続けるうちに非親権者としては子供との関係性の向上を望むことになり、結果として養育費の支払いにつながることもあるのです。
養育費が不払いとなっているときには、養育費の支払いについて相手方と交渉しつつも、面会交流を続ける方がよい結果となることが多いようです。
養育費を求めて調停を
粘り強く交渉した結果、相手方がどうしても養育費を支払ってくれない場合には、支払いを求めて調停を行うことになります。
これを「養育費請求調停」といいます。
面倒な手続きをすることにはなりますが、養育費をもらう権利は親権者にとって非常に重要なものです。
不払いが続く場合には、断固たる姿勢で調停手続きを行うべきです。
「履行勧告」の利用ができる場合も!
養育費に関して、すでに調停や審判が成立している場合、相手の不払いに関しては家庭裁判所の「履行勧告」という制度を利用することも可能です。
これは調停調書や審判書によって認められている内容を相手方が履行しない場合、家庭裁判所から養育費の支払いを履行するように促してもらう制度です。
利用できる手段は、できるだけ有効に利用し、養育費の支払いを求めましょう。
16.面会交流できない場合の3つの対処法
正当な理由なく親権者が面会交流を認めてくれない場合、非親権者の側としては子供との面会を認めるよう何らかの対策を講じる必要があります。
そのような場合には、つぎのような対策を検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、すでに当事者間で面会交流を認める約束があるにもかかわらず、親権者が面会交流を認めない場合、後述するように親権者に対して強制執行や慰謝料の請求をすることができます。
当事者で話し合う
面会交流を行うためには、何よりも子供を引き取り養育している親権者の協力が欠かせません。親権者に面会交流を認めてもらうよう、粘り強く交渉してみましょう。
その際には、面会交流権は法律上認められている正当な権利であること。また、面会交流を認めることは子供にとってもメリットがあるものであることなどを、相手に伝えることが大切です。
粘り強く説得し、相手の理解が得られるよう努力してください。
もし、それが難しいようであれば、つぎのような方法を検討する必要があります。
第三者機関を利用する
離婚原因が夫婦の一方からの暴力や肉体的精神的な虐待、モラハラ(暴言・無視)などの場合、離婚後顔を合わせるのが精神的につらいというケースは意外とたくさんあるものです。
たとえ子供との面会交流のためとは言え、そのような場合には元夫(妻)と顔を合わせたくないという理由から面会交流を認めたくないという事例もあります。
また、子供に対しても同様の虐待などが行われるという不安から面会交流を拒絶したいというケースもあるでしょう。
このような場合には、子供の受け渡しや面会中の付き添いなどを第三者機関に依頼してみるというのも有効な選択肢です。
FPIC(公益社団法人 家庭問題情報センター)などでは、「面会交流援助サービス」を行っています。
子供の年齢に制限があったり有料であったりと各種の制限もありますが、どうしても面会交流を求めたい場合には検討してみるとよいでしょう。
調停を申し立てる
面会交流について裁判外の話し合いで合意が成立しない場合には、家庭裁判所で調停(面会交流調停)を行う必要があります。
面会交流調停の詳細に関しては、上記「面会交流を決める具体的な手順」のところで解説させていただいておりますので、そちらをご覧ください。
親権を争っている場合は要注意
夫婦間で子供の親権が争われ、裁判にまで発展するケースもあります。
この場合、親権の取得を有利にしたい場合には、相手方に面会交流を認めるべきです。
なぜなら、相手方の権利である面会交流権を拒否することは、親権者としてふさわしくないと裁判所に判断される一因となりかねないからです。
つまり、面会交流の拒否は、親権の獲得にとって不利になる可能性があるのです。
そのようなことを避けるためには、最低でも1か月に1回程度は面会交流を認めたほうがよいでしょう。
17.決めたはずの面会交流が守られない場合の対処法
(元)夫婦間において取り決めたはずの面会交流が、離婚後実行されなくなるというのも世間ではよくある事例です。
このような場合、面会交流を認めない親権者の側に対して、つぎのような請求をすることができます。
なお、これらの請求を行うためには、何よりも証拠が物を言います。
裁判で有利な判決を得るためにも、面会交流権について当事者で取り決めをした場合には書面を作っておくことが重要です。
慰謝料請求
親権者が面会交流の約束を破っている場合、慰謝料を請求することも可能です。
この場合、当事者が面会交流権の条件について取り決めをしていることが必要です。
約束しているにもかかわらず、正当な理由なく相手が面会交流を拒否している場合、法律上慰謝料の請求が認められる余地があります。
この場合、親権者によって面会交流が拒否されることによって、非親権者がこうむった精神的被害を金銭に見積もり慰謝料を算定することになります。
つねに慰謝料が認められるわけではない
面会交流について当事者が取り決めをしたにもかかわらず、親権者が面会交流を拒否している場合には、上記のように慰謝料の支払いが認められる可能性があります。
ただし、相手が面会交流を拒否したからといって、常に慰謝料の請求が認められるとは限りません。
慰謝料の請求が認められるためには、拒否している相手方(子供を引き取っている親権者側)にある程度以上、強度の違法性が必要となります。
たとえば調停や審判などで面会交流の内容が決まっているにもかかわらず、正当な理由なく長い年月面会を拒否している場合などには、慰謝料の請求が認められる可能性が高くなります。
面会交流拒否による慰謝料の相場
面会交流権の行使が拒否されたことにより慰謝料の請求が認められた場合、その金額はそれぞれの事情によりケースバイケースです。
ただ、これを大まかに見た場合には慰謝料の金額は数十万円から100万円程度が相場と考えてよいでしょう。
面会交流拒否の期間が長い場合や、その他の特殊な事情がある場合には、さらに高額な慰謝料の支払いが命じられる可能性もあります。
18.面会交流条件を書面に残す重要性
当事者間で面会交流の条件に関して合意が成立した場合、その内容を書面に残すことは非常に大切なことです。
離婚協議書など、面会交流の取り決め内容を証明する書面があれば、いざ相手が約束を守らないときに法的手段をとる場合、非常に有利になるのです。
また、相手が子供と合わせてくれない時には、親権者側に対して書面を提示することで素直に面会を認めるようになる可能性も十分考えられます。
調停や審判で面会交流が認められている場合の対処法
面会交流の条件について、すでに調停や審判が行われている場合には、つぎのような方法を利用して面会交流を求めることも可能です。
履行勧告を利用する
調停や審判で面会交流の内容が決まっている場合には、「履行勧告」という制度を利用することができます。
これは家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所から相手方(親権者)に対して面会交流を認めるように促してもらう制度です。
履行勧告には法的な強制力はありませんが、家庭裁判所からの履行勧告には相手方に心理的圧力をかける効果を期待することができます。
実際、家庭裁判所の履行勧告によって面会交流が認められるようになったという事例は、世の中にたくさんあります。
強制執行する
調停や審判によって面会交流の方法が一定以上具体的に決められている場合には、相手方に対して強制執行することも可能です。
法律の常識として、強制執行を行うためには相手方に対して訴訟を提起し、勝訴判決を取得する必要があります。
しかし面会交流に関して調停や審判がすでに行われている場合、強制執行するために、わざわざ改めて裁判を起こす必要はありません。
法律上、調停調書などには確定判決と同様の法的効力が認められるからです。
強制執行の方法
この場合の強制執行は、「面会交流を拒否するたびに〇万円の制裁金を課す」、などという間接強制という強制執行方法となります。
面会拒否に対する間接強制の実例としては、面会交流の拒否1回につき3万円~10万円の制裁金が課されるのが一般的です。
ただし、中には1回の拒否で100万円の制裁金が課された事例もあるので注意が必要です。
19.まとめ
今回は、「面会交流権」をテーマに解説させていただきました。
離婚によって子供を手放した親には、定期的に子供と面会する面会交流権が認められます。これは親としての当然の権利であると同時に、子供の権利です。
面会交流権の条件を決める場合には、子供にとって何が一番利益となるのかを最優先してください。
もし親権者がいっさい面会交流を認めない場合には、必要に応じて調停の申し立てなどが必要となります。
面会交流権を相手が認めてくれないなど困りごとがある場合には、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。
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