旦那さんや奥さんが不倫をしたとき、不倫相手や不倫をした配偶者に対して慰謝料を請求することができるということは皆さんもご存知かと思います。
しかしながら、
- 慰謝料を確実に支払ってもらうために、どのような手順で話を進めて行ったらよいか
- どのような書面を作成したらよいのか
といった点についてはご存じないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そのような皆さまの疑問点を解消するために、
- 不倫が発覚した際の示談の進め方や示談書に記載すべき事項
- 示談書を作成する際の注意点 など
について、これまで多数の不倫問題に関わってきた弁護士が解説いたします。
なお、この記事を読めば、ご自身で示談を進めたうえで、示談書を作成することができるよう具体的な示談書の記載例を盛り込んで説明を行うとともに、示談書のテンプレートも自由にダウンロードできるようにいたしました。ぜひ、ご活用ください。
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目次
示談書とは?
示談及び示談書とは?
示談とは、一般的に、裁判などの法的な手続によらずに当事者による話し合いで不倫問題をはじめとするトラブルを解決することをいいます。
ここでの話し合いには当事者が自ら行う場合のほか、弁護士など代理人を立てて行う場合も含みます。
示談書とは、上記のような示談で話し合って決めた内容を記載した文書のことをいいます。
不倫の示談書についていえば、当事者が話し合いで決めた慰謝料の金額や支払方法といった内容などを記録した文書になります。
示談書を作成する目的とは?
示談書を作成する目的は、後になって言い合いにならないよう、話し合いで決めた内容を明確にしておくという点にあります。
そもそも、示談書を作成しなくても、話し合いで決めた内容に当事者は拘束されることになります。
しかしながら、後になって、合意した内容につき、言った言わないの争いになることがあります。
こういった事態を避けるために、誰が、いつ、どのような内容を決めたのかという点について証拠を残しておくわけです。
特に不倫の示談となると、事案の性質上、当事者が感情的になる場合も多くございます。
後になって「あの時脅されて要求に応じた」などと言われないようにするため、示談書を作成しておくことは非常に重要であると言えるでしょう。
示談書と誓約書の違い
誓約書は誓約する側が一方的に差し入れる書面となりますので、誓約者だけが内容を守ることになります。
他方、示談書は当事者で決めた内容を記載した書面であり、当事者双方が内容を守る必要があります。
このように、書面の内容を守らなければならない人数が異なるという点が違いとして挙げられます。
誓約書は、不倫の事実を認めさせたうえでこれ以上の継続をさせないよう、とりあえず差し入れさせるという使われ方が多いかと思います。
話し合いを進めたうえで最終的に決めた内容については、後の言い争いを避けるためにも、適切な内容を盛り込んだ示談書を作成しておくべきでしょう。
不倫の示談書に記載する内容と書き方
不倫の示談書に記載する一般的な内容と書き方(記載例)について解説いたします。
不倫の事実について
まずは、不倫の事実について記載します。
不倫をした当事者(不倫相手及び不倫をした夫または妻)が誰であるのか、不倫によって損害を受けたのは誰であるのかを明らかにしましょう。
※「乙」と甲の配偶者である「丙」が不倫をした場合の記載。以下の記載例も同様とする。
「乙は、丙との間で不貞行為があったことを認め、これにより、甲に精神的損害を被らせたことについて心より謝罪する」
慰謝料の金額について
特別な事情のない限り、不倫をした当事者は、不倫により損害を受けた夫や妻に対して損害賠償として慰謝料を支払う義務を負います。
示談書においてはこの慰謝料の金額をいくらとするのか、明確にしておきましょう。
慰謝料の支払方法について
慰謝料の支払を誰が、いつ、どのような方法で行うのかといった点を明らかにしておきましょう。
一般的には、以下の事項を記載します。
- 慰謝料を一括で支払うのか、分割で支払うのか
- 一括で支払うときの支払日
- 分割で支払うときの支払スケジュール
- 現金手渡しで支払うのか、振込で支払うのか
- 振込先の情報(金融機関名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義人)
- 振込で支払うときの振込手数料は誰が負担するのか
「乙は、甲に対し、前項の金員を、令和〇年〇月末日限り、甲の指定する口座(〇〇銀行 〇〇支店 普通口座 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 口座名義 〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする」
「乙は、甲に対し、前項の金員を、下記のとおり分割して、甲の指定する口座(〇〇銀行 〇〇支店 普通口座 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 口座名義 〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする」
令和〇年〇月〇日限り 金〇円
令和〇年〇月〇日限り 金〇円
期限の利益の喪失について
慰謝料を分割で支払うとなったとき、支払が遅れても何らペナルティがないとすれば、いつまで経っても支払ってもらえないということになりかねません。
そのため、一定の回数支払を怠ったり、それが一定額に達したりしたときには、慰謝料の総額からそれまで支払った金額を差し引いた残額につき、一括で支払わなければならないという約束をすることがあります。
このように、残額について、本来であれば分割で支払うことが可能であるにもかかわらず、支払を怠ったことで、一括で支払わなければならなくなることを「期限の利益の喪失」といいます。
接触の禁止について
示談書には、不倫の当事者が今後は接触をしないと約束する旨の記載をすることもできます。
このときには、接触が禁止される当事者が誰であるのか、接触が許される例外的な場合はあるのかといった内容を記載していくことになります。
口外の禁止について
示談書には、不倫の事実のほか、示談や示談書の内容を当事者以外の第三者に話さない(口外しない)と約束する旨の記載をすることもできます。
このときにも、接触の禁止の記載の場合と同様に、口外が禁止される当事者が誰であるのか、口外が許される例外的な場合はあるのかといった内容を記載していくことになります。
禁止事項に違反した際のペナルティについて
既に触れた「接触の禁止」や「口外の禁止」といった条項の違反したときのペナルティについて盛り込むことも可能です。
違反時には違約金などの名目で一定の金額を支払うと約束することが多いかと思います。
なお、この記載により、違反が発覚したときに速やかに請求が可能になるというメリットのほか、違反行為を抑止するという効果も期待できます。
求償権の放棄について
不倫は、第三者である不倫相手と不倫をした夫または妻の共同不法行為(民法第719条1項)とされ、不倫をした二人は連帯して慰謝料を支払う義務を負います。
そのため、不倫をした自己の配偶者、不倫相手のいずれに対しても慰謝料の全額を請求することができます。
しかしながら、二人に対して全額を請求できるとはいえ、一方が全額を支払ったときには、それ以上の請求をすることはできません。
この時、全額を支払った不倫当事者が他方の不倫当事者に対して、責任の割合(当事者が半分ずつ責任を負うというケースが多いかと思います)に応じた一定額を請求できる権利を「求償権」といいます。
多くのケースでは第三者である不倫相手にだけ慰謝料を請求することが多いかと思います。
これは不倫をした自己の配偶者に慰謝料を請求しても、同じ家計からの支出となってしまうことがあるため、あくまで家計の外にいる第三者に対してのみ責任を追及したいとお考えの方が多いからです。
この際に、第三者が慰謝料全額を支払った後、不倫をした自己の配偶者に対する求償権の行使を認めれば、結局、自己の家計から慰謝料を払うことと同じになってしまうため、予め求償権を放棄する旨、示談書に盛り込むわけです。
「乙」と甲の配偶者である「丙」が不倫をした事案を使って具体的に説明します。
この事案で、慰謝料の金額が300万円とされ、不倫相手である乙が全額を甲に対して支払ったとき、乙は丙に対して、特別な事情がない限り、半額の150万円を支払うよう請求することができます(これを求償権の行使といいます。)
甲としてみれば、配偶者である丙が、乙の求償権の行使に応じて150万円を支払うのであれば、結局、自分たちの家計からお金が出ていくことになってしまうわけです。
それは納得がいかないという甲の希望を叶えるため、予め乙が丙に対して行使できるはずの求償権を放棄するという記載を示談書に盛り込むことがあります。
清算条項
通常、示談書の最後に、示談によって紛争を終わらせたことを確認する清算条項を記載します。
これは、示談の当事者において債権や債務がないこと(貸し借りがないこと)を確認する記載になります。
この清算条項がないと、後から別途請求を受ける可能性があるため、慰謝料を払う側にとっては特に重要な記載であるといえます。
不倫慰謝料の示談書テンプレートのダウンロード
以下のリンクから、不倫慰謝料の示談書のテンプレートをダウンロードできます。
ただし、事案によって示談書に記載すべき内容は異なりますので、上記で説明した、「不倫の示談書に記載する内容と書き方」を繰り返し読んだうえで、加除修正を行うようにしてください。
示談は法律的には和解契約に該当しますが、和解契約で規定した権利関係に反する主張は後からできなくなるのが原則(「和解の確定効」といいます)です。記載に不備のある示談書を取り交わしてしまうと取り返しのつかない事態にもなりかねませんので、ご不安な方はテンプレートを使用せずに、弁護士に示談書の作成を頼るようにしましょう。
不倫の示談書を取り交わす手順
以下、示談交渉をスタートしてから実際に慰謝料(示談金)が入金されるまでの一般的な流れを説明いたします。
示談交渉を進める
既に触れたとおり、当事者本人で話し合いを進めることもできますし、弁護士などの代理人に交渉を任せることも可能です。
最終的に示談書の記載をどのようにするかという観点から話し合いを進めていくと良いでしょう。
示談交渉は対面でしなければならないものではなく、電話やメールなどの方法によって進めることも可能です。
電話であれば細かいニュアンスを確認することができるというメリットがありますし、メールであれば交渉の経緯を保存できるというメリットがあります。
交渉の局面に応じて、最も適切な方法を選択しましょう。
示談書を当事者の数だけ作成する
話し合いがまとまったら、当事者で決めた内容を盛り込んだ示談書を作成します。
この際、示談書は当事者の数だけ作成しましょう。
例えば、不倫相手だけとの間で示談書を作成するのであれば2通、自己の配偶者も当事者とするのであれば3通の合意書を作成することになります。
各当事者が全ての示談書に署名押印する
示談書には当事者全員が署名押印をします。
この署名押印をすることにより、各当事者が示談の内容を正確に理解し、納得していることが裏付けられることになります。
なお、署名押印にあたっては、当事者が一堂に会して行っても良いですし、郵送で各当事者が順番に行っても構いません。
細かい話になりますが、ご自身が署名押印済の示談書を2通相手方に送り、相手方に署名押印してもらって1通のみ返信してもらえれば(または、相手方から署名押印済の示談書を2通郵送してもらい、当方で署名押印して1通のみ返送する方法でも構いません)、郵送は一往復で済みます。
各当事者が示談書を1通保管する
示談書には支払スケジュールのほか、禁止事項などが盛り込まれておりますので、取り交わしをしてそれで終わりということにはなりません。
内容を確認する必要が出てくることもありますので、必ず各当事者が持ち帰って大切に保管をしておきましょう。
なお、示談書は紛失や劣化などのおそれもあるため、念のため、画像データ化しておくと安心です。
慰謝料の入金を確認する
一括払いであれば、支払日に全額の支払があるかどうか、分割払いであれば、決められた日に決められた金額の支払が滞りなくされているかを確認していきます。
示談書で決めた慰謝料の金額全額が支払われれば、基本的には紛争は終結したとお考えいただいて良いかと思いますが、支払後も禁止事項に違反しないよう注意すべきことは言うまでもありません。
不倫の示談書を作成するにあたっての注意点
示談書の作成にあたっては、以下の点を注意しましょう。
示談書案の作成はこちら主導で行う
示談書案は、当事者のうち誰が作成しても問題ありません。
しかしながら、相手に示談書案の作成を委ねてしまうと、自分が盛り込みたい内容や表現が欠けてしまったり、逆に相手に有利な内容や表現となってしまったりするおそれがあります。
示談書案の作成は可能な限り当方で行いましょう。
分かりやすい内容で簡潔に記載する
示談書は誰が見ても内容を正確に理解できるよう、分かりやすく、簡潔に記載しましょう。
示談書を作成する目的は、後になって言い合いにならないよう、話し合いで決めた内容を明確にしておくという点にあると説明いたしました。
内容について解釈が分かれるような書き方は避けましょう。
公序良俗に反するような内容は避ける
公序良俗とは「公の秩序および善良の風俗」の略であり、これに反する法律行為は無効とされています(民法第90条)。
簡単に言えば、常識に反するような妥当性を欠く行為の効力は認められないということです。
不倫慰謝料の示談書においては、例えば「慰謝料の金額を1億円とする」など、極めて高額の慰謝料を設定したり「謝罪として100発殴らせる」といった内容は無効とされる可能性がありますので注意が必要です。
テンプレートはあくまで参考にとどめる
本サイトを含めて、インターネット上では示談書のテンプレートをダウンロードすることが可能かと思います。
テンプレートは無駄なく、漏れのない合意書を作成するうえで、方向性を確認することができることから便利ではありますが、テンプレートをそのまま利用できるケースばかりではありません。
テンプレートが事案に即した内容となっているか確認のうえ、必要な加除訂正を行うなどしてください。
必要に応じて専門家に相談する
本サイトを参考にしていただければ、ご自身で示談を進め、示談書を作成することも可能かと思います。
しかしながら、ここまで触れてきたように、示談書の作成にあたってはご注意いただく点もあり、法的な判断を必要とする場合も少なくありません。
ご判断に迷うことがあれば、示談書を取り交わしてしまう前に、弁護士や行政書士などの専門家に相談をしましょう。
不倫の示談書を公正証書で作成するメリット
公正証書とは
公正証書とは、公証人が作成する公文書のことをいいます。
事前に文案を作成したあと、当事者双方が同席のうえ、公証役場で公正証書を作成します。
公正証書の作成は、ご自身で行うこともできますし、弁護士など代理人に任せることも可能です。
なお、公正証書の作成にあたっては、公証役場に費用を支払う必要がございます。
示談書を公正証書で作成するメリット
示談書は公正証書で作成しなければならない、というものではありません。
ご自身で作成した示談書によっても、当事者は拘束されることになります。
ただ、強制執行を受諾した旨の記載がある公正証書で作成をしておけば、相手方が慰謝料を支払わなかったとき、裁判所の判決を経ることなく、相手方の資産に対して強制執行ができるというメリットがございます。
すなわち裁判をする負担をカットできるわけです。
相手方が支払ってくれるか資力が不安なとき、特に、慰謝料を分割で払うという約束をしたときは、示談書を公正証書で作成しておいたほうが安心でしょう。
なお、示談の段階で示談書を公正証書で作成すると合意ができているのであれば「本合意を内容とする強制執行認諾条項付の公正証書を速やかに作成する」といった内容の記載を示談書の中に設けておくと良いでしょう。
不倫の示談書の作成を専門家に依頼するメリット
示談書は自分でも作成できる
これまでも説明してきたとおり、示談書はご自身でも作成することが可能です。
ご自身で示談書を作成する一番のメリットは、コストをかけずに済むという点になります。
専門家に示談書の作成を依頼するメリットとは
しかしながら、示談書を作成するにあたっては、法的な判断を要する場面も少なくありません。
内容が不明確であったり、妥当性を欠くものであったりすれば、後に言い争いになってしまうことを回避するという示談書の目的を達成することができませんし、場合によっては、示談書が無効であると判断されてしまう可能性もございます。
また、不倫相手と示談を含めて直接のやり取りをするというのは大きなストレスがかかるかと思いますし、やり取りをしているうちに感情的になって不倫相手との間でトラブルが発生する可能性も否定できないところです。
ストレスを軽減しつつ、新たなトラブルとなる可能性を回避し、法的に有効な示談書を作成するためには弁護士をはじめとする専門家に任せてしまったほうが安心かと思います。
弁護士であれば、皆さまの代理人として示談交渉を行い、示談書の作成から入金の管理まで行うことができます。
その間、皆さまは直接の対応をする必要はなく、基本的には弁護士からの報告を受け、意向を伝えるだけで紛争を処理することが可能となります。
若井綜合法律事務所では、これまで不倫の慰謝料請求のご相談やご依頼を多数お受けしてまいりました。不倫の慰謝料請求をお考えの方は若井綜合法律事務所にお気軽にお問い合わせください。
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