
インターネット上の誹謗中傷の投稿者を特定するには、SNSや掲示板の運営会社、経由プロバイダから発信者情報の開示を受ける必要があります。しかし、匿名で投稿された書き込みの任意の開示請求にはほとんど応じてもらえないのが現実で、裁判所を介した仮処分の申立てや訴訟の提起が不可欠となります。
「仮処分と訴訟は難しそうで不安」「どんな流れで認められるのか知りたい」とお感じの方もいるのではないでしょうか。申立てが認められるか否かを左右する最大の争点は「権利侵害の明白性」で、2022年改正の開示命令との使い分けも判断のポイントになります。
この記事では、ネット誹謗中傷の犯人特定に強い弁護士が、次の点について解説します。
- 発信者情報開示の仮処分の流れと2つの要件
- 仮処分の最大の難所「権利侵害の明白性」とは
- 経由プロバイダへの消去禁止仮処分と開示請求訴訟
- 2022年改正の開示命令との使い分け
なお、誹謗中傷の投稿者特定でお悩みの方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談へお気軽にご連絡ください。
手続きの全体像は以下のとおりです。

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発信者情報開示の仮処分の流れと要件
サイト運営者に、投稿者のIPアドレスやタイムスタンプ等の情報を開示してもらうために裁判所を介して行うのが「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」です。具体的な流れと、認められるための要件を順に見ていきます。
申立てから発令までの4ステップ
発信者情報開示の仮処分命令の申立てから発令までは、次の4つのステップで進みます。
- 裁判所に仮処分命令申立書を提出
- 審尋(裁判官との面談)
- 立担保(法務局に担保金10万円〜30万円を納める)
- 仮処分命令の発令(これによりIPアドレス等の情報がサイト運営者から開示される)
申立書には、後述する「被保全権利」と「保全の必要性」を疎明する必要があります。なお、削除を求める仮処分も基本の進行は同じです。削除請求の詳細は「削除の仮処分の流れ」をご覧ください。
認められるための2つの要件
仮処分の発令には、次の2つを疎明することが要件となります。
- ①被保全権利
- ②保全の必要性
それぞれの中身を順に確認します。
①被保全権利
被保全権利とは「守るべき権利」のことです。発信者情報開示の仮処分における被保全権利は、情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)5条が定める「発信者情報開示請求権」です。
同条が定める開示請求権の要件は、特定電気通信による情報の流通であること、権利侵害の明白性、開示を受けるべき正当な理由など6つに整理されます。各要件の詳細は「発信者情報開示請求が認められる要件」で解説しています。
このうち、仮処分の実務で最大の難所となるのが「権利侵害の明白性」です。次のH3で詳しく説明します。
②保全の必要性
投稿者を特定するためには、最終的に、経由プロバイダから契約者情報を開示してもらうことになります。
経由プロバイダから契約者情報の開示を受けるには、サイト運営者から開示されたIPアドレスとタイムスタンプを、まずは経由プロバイダに伝える必要があります。
経由プロバイダは、そのIPアドレスとタイムスタンプをもとに、「このIPアドレスで〇年〇月〇日にネットにアクセスしていた契約者はこの人だ!」と判別しますが、そのアクセスログは、経由プロバイダでの保存期間が3〜6か月しかありません。
サイト運営者からIPアドレス等を開示させるのに時間を費やしていては、アクセスログが消去されて投稿者の特定ができなくなる怖れがありますので、保全の必要性は認められるでしょう。
権利侵害の明白性とは
被保全権利の要件のうち、仮処分の実務で最大の争点となるのが「権利侵害の明白性」です。投稿によって権利を侵害されたという事実を示すだけでは足りず、「違法性阻却事由(その投稿が違法とならない事情)の存在をうかがわせる事情がないこと」まで疎明することが求められます。
通常の不法行為訴訟では違法性阻却事由は被告側が主張立証するのが原則ですが、発信者情報の開示の場面では、投稿した側の表現の自由やプライバシーに配慮する必要から立証責任が転換され、請求者側により重い負担が課せられています。
「疎明」の意味
仮処分の手続きで求められるのは「証明」ではなく「疎明」です。疎明とは、一応確からしいと裁判官に推測させる程度の挙証で足りるとされており、通常人が疑いを差し挟まない程度の確信を必要とする「証明」と比べて緩和された概念です(民事保全法13条2項)。
ただし「疎明で足りる」とはいえ、権利侵害の明白性は他の仮処分よりも厳しく審査される傾向があり、十分な資料を揃えて申し立てる必要があります。
名誉毀損で主張・疎明すべき4つのポイント
投稿の類型として最も多いのが名誉毀損です。事実摘示型(具体的な事実を示すタイプ)の名誉毀損で「権利侵害が明らか」と認められるには、次の4点について具体的に主張・疎明することが求められます。
- ①一般読者の通常の読み方からみて、投稿がどのような意味・内容を含むか(投稿が請求者を指しているとわかる同定可能性も含む)
- ②その内容が請求者の社会的評価をなぜ下げるといえるか
- ③投稿に事実の公共性・目的の公益性が認められないこと
- ④仮に公共性・公益性が認められるとしても、投稿された事実の重要部分が真実とはいえないこと
実務では、①〜③よりも④の「真実性の不存在」が中心争点になることが多いとされます。投稿が短文であったり、他の投稿への返信として書かれている場合のように、文脈を読み取らないと意味が分かりにくい投稿では、①の段階で明白性が否定されることもあります。
なお、論評・意見の形式で書かれた投稿(意見論評型)では、上記に加えて「意見論評の域を逸脱した人身攻撃ではないこと」も主張すべき項目になります。投稿の類型ごとに主張・疎明のポイントが変わるため、申立書の準備段階で弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
申立先となる管轄裁判所
仮処分命令申立書を提出すべき管轄裁判所は、サイト運営者の所在地を管轄する地方裁判所となります。
ただし、X(旧Twitter)やFacebook、YouTubeといったサイトは海外法人が管理・運営しています。それぞれ日本法人もあるものの、サービス提供自体は海外法人が行っているため、日本の裁判所に管轄があるのかどうかが問題となります。
この点ですが、民事訴訟法では、日本において事業を行う者(外国会社を含む)に対する訴えのうち、日本における業務に関するものは、日本の裁判所に提起できると規定されています(民事訴訟法3条の3第5号)。
海外法人といえども、日本人相手に日本語でサービス提供をしていることから日本において事業を営んでいるといえるでしょう。
そのため、サイト運営が海外法人によるものであっても、日本の裁判所である東京地方裁判所に仮処分命令の申立てが可能です(民事訴訟法10条の2、民事訴訟規則6条の2)。海外法人が管理するサイトでの手続きについて詳しくは「誹謗中傷サイトの管理人が海外法人の場合の手続き」をご参照ください。
発信者情報消去禁止の仮処分の申立て
投稿者の特定にあたっては、最終的に経由プロバイダに対して通常訴訟(発信者情報開示請求訴訟)を起こすことになります。しかし訴訟が終結するまでには6か月前後かかるため、訴訟係属中にプロバイダ側でアクセスログが消去される恐れがあります。
そこで、訴訟を提起する前に、経由プロバイダに対して発信者情報(アクセスログ)の消去禁止を求める仮処分命令を申立てます。
なお、申立て後に経由プロバイダから「訴訟を提起してもらえれば判決まではログを保存します」といった内容で和解の提案があるケースもあります。審尋や立担保の手間を考えると、和解に応じた方が得策な場面も多くあります。
経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟
これまでは仮処分の流れや要件についてお伝えしてきましたが、経由プロバイダに発信者情報開示請求をする場合には仮処分を用いることができません。
なぜなら、発信者情報消去禁止の仮処分命令の申立てによりアクセスログさえ経由プロバイダに保存されていれば、「急がないと犯人特定が不可能になってしまう」という状態ではないからです。
つまり、緊急性がない以上、仮処分命令の申立ての要件の一つである、「保全の必要性」を満たさないため、仮処分ではなく訴訟提起という手段を用いなくてはなりません。
まず、経由プロバイダ(NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク等)の本社所在地(ほとんどが東京)を管轄する地方裁判所に訴状を提出します。
訴状を受け取った裁判所は、訴訟要件等に不備がないかチェックし、問題がなければ訴状の副本が経由プロバイダに送達され、約1ヵ月後に最初の裁判の日程が伝えられます。
その後、2〜3回程度の裁判で結審し、原告(訴訟を起こした人)の訴えが認められれば勝訴判決が下されます。
この場合、被告である経由プロバイダは、控訴・上告という手続きで、高等裁判所や最高裁判所まで争うことも可能ですが、通常は地裁判決に従い、顧客である契約者の情報を原告に開示してくれます。
なお、開示請求を行っても投稿者の特定に至らないケースもあります。具体的なケースについては「IPアドレス開示請求は意味ない?犯人特定ができない4つのケース」で解説しています。
仮処分・訴訟と「発信者情報開示命令」の使い分け
ここまで解説した仮処分+訴訟の手続きに加え、2022年10月施行の改正プロバイダ責任制限法(現:情報流通プラットフォーム対処法)により、新たに「発信者情報開示命令」という制度が創設されました。投稿者の特定を目指す場合は、両者のどちらを選ぶかが最初の分岐になります。
仮処分+訴訟の特徴
従来からの2段階手続です。サイト運営者に対しては仮処分でIPアドレス等の開示を受け、経由プロバイダに対しては消去禁止仮処分でログを保全したうえで本案訴訟を提起します。要件を厳格に審査されますが、明白性の立証で勝ちきれば各段階で確実に進む安定感があります。
発信者情報開示命令の特徴
2022年改正で導入された非訟手続(訴訟よりも簡易・迅速な裁判手続き)で、1つの手続きの中でサイト運営者(コンテンツプロバイダ)と経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)の双方に開示を求めることができます。サイト運営者に経由プロバイダの情報を提供させる「提供命令」、ログ消去を禁止する「消去禁止命令」も同一手続きで申立て可能です。
導入後の利用は急速に広がっており、2024年の申立件数は前年比約1.7倍の6,700件超に達したと報じられています。従来1年〜1年半かかっていた手続きが、ケースによっては3か月ほどで投稿者の住所・氏名が開示されるところまで短縮されているとされます。
どちらを選ぶか
| 手続き | 期間の目安 | 担保金 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 仮処分+訴訟 | 半年〜1年程度 | 10〜30万円 | 確実に進めたい/開示命令で対応していない事案/相手方が非協力的 |
| 発信者情報開示命令 | 3か月〜半年程度 | 原則不要 | 期間・費用を抑えたい/現在は主流の選択肢 |
投稿者を特定した後の損害賠償請求の流れや慰謝料相場については「名誉毀損で慰謝料や損害賠償請求する人のための全手順と相場を公開」で詳しく解説しています。
発信者情報開示の仮処分は弁護士にご相談ください
発信者情報開示の仮処分・訴訟は、申立書の準備から審尋、立担保、訴訟提起まで、複数の手続きを段階的に進めなければなりません。特に最大の難所となる「権利侵害の明白性」の主張・疎明には専門的な判断が求められ、適切な疎明資料を揃えなければ仮処分が認められないケースもあります。
加えて、経由プロバイダのアクセスログは保存期間が3〜6か月と短いため、対応が遅れると投稿者の特定そのものが不可能になります。2022年改正で新設された開示命令との使い分けも含め、事案ごとに最適な手続きを選択することが、投稿者特定の成否を分けます。
すでに誹謗中傷投稿を発見された方、投稿者を特定して損害賠償を請求したい被害者の方、自分で手続きを進めるべきか弁護士に依頼すべきか迷っている方は、できるだけ早い段階でご相談ください。当事務所はインターネット上の誹謗中傷問題に豊富な実績があり、依頼者の利益を守るため弁護士が迅速に動きます。
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この記事の監修者
ネット誹謗中傷の削除請求・犯人特定・損害賠償請求に豊富な実績を持つ。掲示板やSNSでの名誉毀損・プライバシー侵害・風評被害に対し、発信者情報開示請求による投稿者の特定から慰謝料請求まで一貫して対応。法人・個人を問わず、ネット上の権利侵害から依頼者を守るために迅速に行動している。

