プロバイダ責任制限法のガイドラインに沿った発信者情報開示請求(任意開示による請求)に、サイト運営者や経由プロバイダが応じてくれくれることはあまり期待できません。
表現の自由や、投稿した人のプライバシーとの兼ね合いから、「裁判所から開示しろと言われたら開示します」という立ち位置をとることが殆どだからです。
任意による開示請求が形骸化していると嘆くかもしれませんが、誹謗中傷等の権利侵害をした者を特定するためには現実を直視し、「裁判を介した開示」を求める必要があります。
そこでここでは、仮処分の申し立て、訴訟といった裁判所を介した発信者情報開示請求の流れや要件について、画像付きで弁護士がわかりやすく解説していきます。
全部読み終えるのに4分ほどかかりますが、読んでわからないことがあったり、専門家への依頼を検討されている方は気軽に弁護士に相談してみましょう。
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記事の目次
仮処分・訴訟を用いた発信者情報開示請求の流れ
まず最初に、仮処分命令の申し立てと訴訟を用いた発信者情報開示請求の流れを以下の画像で確認しておきましょう。
この画像のように、ステップ①にて発信者情報開示請求の仮処分命令の申し立てを行い、サイト運営者からIPアドレスとタイムスタンプ等を開示してもらいます。
次いで、ステップ③にて発信者情報消去禁止の仮処分命令の申し立てを行い、投稿者特定に必須であるアクセスログを経由プロバイダが消去しないように対策をとります。
そして、ステップ④にて発信者情報開示請求訴訟を提起し、経由プロバイダから契約者(投稿者)の氏名や住所等の情報を開示してもらいます。
ではさっそく、それぞれの流れなどについて見ていきましょう。
発信者情報開示の仮処分命令の申し立て
サイト運営者に、投稿者のIPアドレスやタイムスタンプ等の情報を開示してもらうために裁判所を介して行う、「発信者情報開示の仮処分命令の申し立て」について説明します。
申し立ての流れ
発信者情報開示の仮処分命令の申し立ての流れは、削除の仮処分と同じになりますので、削除の仮処分の流れをまずはご覧になってください。
簡潔にまとめると以下のような流れになります。
- 裁判所に仮処分命令申立書を提出
- 審尋(裁判官との面談)
- 立担保(法務局に担保金10万円~30万円を収める)
- 仮処分命令の発令(これによりIPアドレス等の情報がサイト運営者から開示される)
仮処分が認められるための要件
仮処分が認められるためには以下の2つがあることを明らかにすることが要件となります。
- ①被保全権利
- ②保全の必要性
この2つの要件についても、削除の仮処分と同じですので、削除の仮処分の要件をご覧になってください。
では、発信者情報開示の仮処分命令の申し立てにおける、被保全権利や保全の必要性とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
①被保全権利
被保全権利とは「守るべき権利」のことですが、ここでの守るべき権利は、プロバイダ責任制限法4条に規定されている「発信者情報開示請求権」です。
つまり、発信者情報開示請求権という権利が認められれば、被保全権利が存在することになります。
発信者情報開示請求権が認められるための要件は、発信者情報開示請求の要件をご覧になってください。簡潔にまとめると以下の6つとなります。
- ①特定電気通信による情報の流通があること
- ②自己の権利が侵害されたとする者が開示請求すること
- ③権利が侵害されたことが明らかであること
- ④開示を受けるべき正当な理由があること
- ⑤開示を請求する相手が「開示関係役務提供者」であること
- ⑥開示請求する情報が「発信者情報」であること
②保全の必要性
投稿者を特定するためには、最終的に、経由プロバイダから契約者情報を開示してもらうことになります。
経由プロバイダが契約者情報を開示するためには、サイト運営者から開示されたIPアドレスとタイムスタンプをまずは経由プロバイダに伝えます。
経由プロバイダは、そのIPアドレスとタイムスタンプをもとに、「このIPアドレスで〇年〇月〇日にネットにアクセスしていた契約者はこの人だ!」と判別するのですが、そのアクセスログは、経由プロバイダでの保存期間が3~6か月しかありません。
サイト運営者からIPアドレス等を開示させるのに時間を費やしていては、アクセスログが消去されて投稿者の特定ができなくなる怖れがありますので、保全の必要性は認められるでしょう。
申し立てをする管轄裁判所について
仮処分命令申立書を提出すべき管轄裁判所は、サイト運営者の所在地を管轄する地方裁判所となります。
ただし、TwitterやFacebook、Youtubeといったサイトは海外法人が管理・運営しています。それぞれ日本法人もあるものの、サービス提供自体は海外法人が行っているため、日本の裁判所に管轄があるのかどうかが問題となります。
この点ですが、民事訴訟法で、「日本において事業を行う者(外国会社を含む)に対する訴えは、日本の裁判所に提起できる」と規定されています(民事訴訟法3条の3の5号)。
海外法人といえども、日本人相手に日本語でサービス提供をしていることから日本において事業を営んでいるといえるでしょう。
そのため、サイト運営が海外法人によるものであっても、日本の裁判所である東京地方裁判所に仮処分命令の申し立てが可能です(民事訴訟法10条の2、民事訴訟規則6条の2)。
発信者情報消去の仮処分命令の申し立て
この後に説明しますが、投稿者を特定するためには、最終的には経由プロバイダに対して通常訴訟(発信者情報開示請求訴訟)を起こすことになります。
しかしこの訴訟が終結するまでには6か月前後かかります。
そうすると、上で述べたように、経由プロバイダのアクセスログの保存期間が3~6か月ですので、訴訟で争っている間にログが消去されてしまう怖れがあります。
そこで、投稿者を特定するための訴訟(発信者情報開示請求訴訟)を起こす前に、発信者情報(アクセスログ)消去禁止の仮処分命令の申し立てを裁判所に起こします。
なお、申し立てを行った後に、経由プロバイダから和解の提案がある場合があります。
「弊社に発信者情報開示請求訴訟を起こすのであれば一定期間はログを保存し、訴訟提起されれば訴訟が終わるまでログを消去しません」といった内容です。
この記事の、申立の流れでもお伝えしましたが、裁判官との面談(審尋)や立担保の手間暇を考えれば和解に応じた方が得策でしょう。
発信者情報開示請求訴訟
これまでは仮処分の流れや要件についてお伝えしてきましたが、経由プロバイダに発信者情報開示請求をする場合には仮処分を用いることができません。
なぜなら、発信者情報消去の仮処分命令の申し立てによりアクセスログさえ経由プロバイダに保存されていれば、「急がないと犯人特定が不可能になってしまう」という状態ではないからです。
つまり、緊急性がない以上、仮処分命令の申し立ての要件の一つである、「保全の必要性」を満たさないため、仮処分ではなく訴訟提起という手段を用いなくてはならないのです。
訴訟の流れ
まず、経由プロバイダの本社所在地(ほとんどが東京)を管轄する地方裁判所に訴状を提出します。
訴状を受け取った裁判所は、訴訟要件等に不備がないかチェックし、問題がなければ訴状の副本が経由プロバイダに送達され、約1ヵ月後に最初の裁判の日程が伝えられます。
その後、2~3回程度の裁判で結審し、原告(訴訟を起こした人)の訴えが認められれば勝訴判決が下されます。
この場合、被告である経由プロバイダは、控訴・上告という手続きで、高等裁判所や最高裁判所まで争うことも可能ですが、通常は地裁判決に従い、顧客である契約者情報を原告に開示してくれます。
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