発信者情報開示請求の仮処分と訴訟の手続き

「発信者情報開示の仮処分とは、どんな手続きなのか」「仮処分の後に訴訟まで必要なのか」と、誹謗中傷の投稿者を特定する方法を調べている方もいるのではないでしょうか。発信者情報開示の仮処分とは、SNSや掲示板の運営者に投稿時のIPアドレス等を開示させる裁判手続きのことです。仮処分で開示されるのはIPアドレス等までのため、その後、IPアドレスから判明した経由プロバイダ(投稿者が利用した通信会社)に対して、開示命令(2022年に始まった裁判手続き)の申立てか訴訟で、投稿者の住所・氏名の開示を求めます。

手続きはアクセスログが消える前に進める必要があり、仮処分では、権利侵害が明らかであることを資料で示せるかが重要になります。

この記事では、ネット誹謗中傷の犯人特定に強い弁護士が、次の点について解説します。

  • 仮処分の申立てから発令までの流れと期間・担保金
  • 仮処分が認められる要件と「権利侵害の明白性」
  • 住所・氏名の開示を求める開示命令と訴訟

お読みいただくことで、ご自身のケースでどの手続きをどの順に進めればよいか、見通しを立てられます。

なお、誹謗中傷の投稿者特定でお悩みの方は、一人で抱え込まず、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談をご利用ください。地域を問わずご相談を承っています。

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発信者情報開示の仮処分の流れと要件

匿名の投稿者の特定は、サイト運営者から投稿時のIPアドレスとタイムスタンプ(投稿日時の記録)の開示を受ける段階と、経由プロバイダ(アクセスプロバイダともいいます)から契約者の住所・氏名の開示を受ける段階の、2段階で進みます。

このうち1段階目で使われる代表的な手続きが、民事保全法にもとづく発信者情報開示の仮処分です。裁判外でサイト運営者(コンテンツプロバイダ)に開示を求める方法もありますが、応じてもらえないことが少なくありません。

1段階目から「発信者情報開示命令」を使う方法もあります。サイト運営者への開示命令の申立てに提供命令(サイト運営者に経由プロバイダの名称などを提供させる命令)をあわせて申し立て、判明した経由プロバイダにも開示命令を申し立てれば、2つの申立てを一連の手続きとして一体的に審理してもらえます。もっとも、提供命令に適切に対応しないサイト運営者もいるため、経由プロバイダの記録が消える前に急いで開示を受ける手段として、今も仮処分が多く使われています。

投稿者を特定するまでの流れ(サイト運営者への開示の仮処分または開示命令→経由プロバイダへの開示命令または開示請求訴訟)

ここでは、仮処分の流れと、認められるための要件を見ていきます。

申立てから発令までの4ステップ

発信者情報開示の仮処分は、申立てから発令まで次の4つのステップで進みます。

  1. 裁判所に仮処分命令申立書を提出
  2. 債権者面接と審尋
  3. 担保金を納める(立担保)
  4. 仮処分命令の発令(その後、サイト運営者からIPアドレス等が開示される)

申立書では、後述する2つの要件を疎明する必要があります(民事保全法13条2項)。疎明とは、裁判官に「一応確からしい」と推測させる程度の立証のことで、通常の訴訟で必要な「証明」よりも緩やかなものです。

申立て後は、まず申立人と裁判官の面接(債権者面接)が行われ、その後、原則として審尋(サイト運営者も呼んで、裁判官が双方の言い分を聞く手続き)が開かれます。裁判所が申立てを認める判断をすると、通常は担保金(発令が不当だった場合に相手方の損害を補うための保証金)の額が決まり、申立人がその額を法務局に納めます(供託)。担保金は、開示の仮処分では10万円程度(事案によっては30万円程度)が目安です。

申立てから発令までは、1〜3か月程度かかるのが一般的です。なお、投稿の削除を求める仮処分も基本の進行は同じです。削除の場合の詳しい手続きは「削除請求の仮処分|誹謗中傷を消す流れと期間・費用」をご覧ください。

認められるための2つの要件

仮処分が認められるには、「被保全権利」と「保全の必要性」の2つを疎明する必要があります。

①被保全権利

被保全権利とは、仮処分によって守ろうとする権利のことです。発信者情報開示の仮処分では、情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)5条が定める「発信者情報開示請求権」がこれにあたります。

同条が定める開示請求権の要件には、特定電気通信による情報の流通であること、権利侵害が明らかであること、開示を受けるべき正当な理由があることなどがあります。このうち「権利侵害の明白性」は、後ほど詳しく説明します。各要件の詳細は「発信者情報開示請求とは?開示命令による手続きを解説」で解説しています。

②保全の必要性

経由プロバイダが契約者を割り出すには、サイト運営者が開示したIPアドレスとタイムスタンプが必要です。ところが、経由プロバイダのアクセスログ(接続の記録)は、保存期間が3〜6か月程度しかないことが多いため、サイト運営者を訴えて判決を待っていては、その間に投稿者を特定する手がかりが失われかねません。

このように急いで開示を受ける必要があるため、サイト運営者に対するIPアドレス等の開示請求では、保全の必要性が認められやすいとされています。

権利侵害の明白性とは

被保全権利の要件のうち、発信者情報開示の仮処分で特に重要なのが「権利侵害の明白性」です。投稿によって権利を侵害されたことを示すだけでは足りず、「違法性阻却事由(その投稿が違法とならない事情)の存在をうかがわせる事情がないこと」まで疎明しなければなりません。

通常の損害賠償請求では、違法性阻却事由は投稿した側が主張・立証するのが原則です。これに対し、開示の場面で違法性阻却事由についての負担が被害者である請求者側に課されているのは、投稿者の表現の自由やプライバシーに配慮するためです。請求者側としては、投稿のスクリーンショットに加え、投稿内容が真実でないことを示す資料など、十分な証拠をそろえて申し立てることが大切です。

名誉毀損を理由に仮処分を申し立てる場合、具体的な事実を示すタイプ(事実摘示型)の投稿で「権利侵害が明らか」と認められるには、次の4点を具体的に主張・疎明することが求められます。

  1. 一般読者の通常の読み方からみて、投稿がどのような意味・内容を含むか(投稿が請求者を指しているとわかる同定可能性も含む)
  2. その内容が請求者の社会的評価をなぜ下げるといえるか
  3. 投稿に事実の公共性・目的の公益性が認められないこと
  4. 仮に公共性・公益性が認められるとしても、投稿された事実の重要部分が真実とはいえないこと

意見・論評の形で書かれた投稿では、主張・疎明すべき点がこれとは異なります。どの点をどう疎明するかは投稿ごとに検討が必要なため、申立書の準備段階から弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

申立先となる管轄裁判所

発信者情報開示の仮処分の申立先は、原則としてサイト運営者の所在地を管轄する地方裁判所です。

ただし、X(旧Twitter)やFacebook、YouTubeといったサイトは海外法人が運営しているため、日本の裁判所に申し立てられるかが問題になります。

この点、民事訴訟法は、日本において事業を行う者(外国会社を含む)に対する訴えのうち、日本における業務に関するものは、日本の裁判所に提起できると定めています(3条の3第5号)。仮処分も、本案の訴えを日本で起こせる場合には申し立てられるため、海外法人が運営するサイトでも、日本の裁判所に仮処分を申し立てることができます。日本に事務所・営業所がなく、代表者などの住所も日本にないため管轄裁判所が定まらない場合は、東京地方裁判所に申し立てます(民事訴訟法10条の2、民事訴訟規則6条の2)。海外法人が管理するサイトでの手続きについて詳しくは「海外サイトの誹謗中傷でも開示請求できる?特定の限界と対処法」をご参照ください。

仮処分の後に経由プロバイダへ行う手続き

サイト運営者からIPアドレス等の開示を受けたら、次はそのIPアドレスを管理する経由プロバイダを調べ、投稿者(契約者)の住所・氏名の開示を求めます。

ただし、住所・氏名の開示は、原則として仮処分では認められません。アクセスログの保存は消去を禁止する手続きで確保できるので、住所・氏名まで急いで開示させる必要はないと考えられ、保全の必要性を満たしにくいためです。この段階では、発信者情報開示命令の申立てか訴訟の提起によって開示を求めることになります。

発信者情報開示命令の申立て

発信者情報開示命令は、2022年10月施行の法改正で新設された、訴訟よりも簡易・迅速な非訟手続です。経由プロバイダに対しては、現在はこちらが使われることが多くなっています。経由プロバイダへの申立てとあわせて消去禁止命令を申し立てれば、審理中にアクセスログが消されることも防げます。

発信者情報消去禁止の仮処分

開示命令ではなく訴訟で住所・氏名の開示を求める場合、訴訟が終わるまでに数か月から半年程度かかることもあり、その間にアクセスログが消去されるおそれがあります。

訴訟の前にまず経由プロバイダへログの保存を依頼し、任意に応じてもらえないときは、ログの消去禁止を求める仮処分を申し立てます。開示命令で進める場合は、前述の消去禁止命令でログを守れるため、この仮処分は通常必要ありません。

発信者情報開示請求訴訟

訴訟で開示を求める場合は、被告となる経由プロバイダの本社所在地を管轄する地方裁判所に訴状を提出します。発信者情報開示請求訴訟は通常2〜3回の期日で結審し、判決が言い渡されます。

経由プロバイダは判決に対して控訴することもできますが、控訴せずに判決に従い、契約者情報(住所・氏名)を開示するのが通常です。

開示命令や訴訟で投稿者を特定できれば、不法行為にもとづく損害賠償の請求などに進めます。特定した後の損害賠償請求の流れや慰謝料相場については「名誉毀損の慰謝料相場はいくら?請求できる条件を弁護士が解説」で詳しく解説しています。

なお、開示請求を行っても投稿者の特定に至らないケースもあります。どのような場合に特定できないかは「IPアドレス開示請求は意味ない?犯人特定ができない4つのケース」で解説しています。

発信者情報開示の仮処分は弁護士にご相談ください

発信者情報開示の仮処分では、申立書の作成から債権者面接・審尋、担保金の供託までを短期間で進める必要があります。申立書では特に「権利侵害の明白性」の示し方が重要で、投稿の内容によって何をどう示すべきかが変わります。仮処分の後に開示命令と訴訟のどちらを使うかも含めて、専門的な判断が欠かせません。

誹謗中傷を受けながら手続きを調べるのは、精神的な負担も大きいものです。すでに投稿を見つけた方や、自分で手続きを進めるか迷っている方は、アクセスログが消える前の早い段階でご相談ください。

当事務所はインターネット上の誹謗中傷問題に豊富な実績があり、依頼者の利益を守るため弁護士が迅速に動きます。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

ネット誹謗中傷の削除請求・犯人特定・損害賠償請求に豊富な実績を持つ。掲示板やSNSでの名誉毀損・プライバシー侵害・風評被害に対し、発信者情報開示請求による投稿者の特定から慰謝料請求まで一貫して対応。法人・個人を問わず、ネット上の権利侵害から依頼者を守るために迅速に行動している。

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メディア掲載 フジテレビ「とくダネ」/ ダイヤモンド・オンライン / @DIME / サイゾー 他多数
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