インターネットが爆発的に普及した結果、今ではほぼ全世代でインターネットが利用されています。
しかしそれとともにネットのトラブルも急増しました。匿名で気軽に書き込みができることから、自分の素性を隠したまま気に入らない人や企業を誹謗中傷するトラブルは後を絶ちません。単なる誹謗中傷にとどまらず、元恋人やネット上で知った人などに執拗につきまとって嫌がらせをするネットストーカーと呼ばれる犯罪も増えています。
今回は、SNSなどで行われているネットストーカーについて解説します。
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記事の目次
ネットストーカーの被害事例
ネットストーカーはサイバーストーカーとも呼ばれます(略してネトスト、ネスカと呼ばれることもあります)。
最近では、ネット上で執拗に付きまとわれた人が現実にも被害を受けるという痛ましい事件も起きています。
実社会でもストーカー行為を行う人がいますが、ネットストーカーは主にオンライン上で特定の人物につきまとって嫌がらせなどを行う行為です。具体的な被害内容を見てみましょう。
写真などから個人情報を特定してくる
ツイッターやフェイスブックなどのSNS上では、誰でも簡単に写真が投稿できます。
SNSをプライベートな日記がわりに利用している人も多いものですが、「今日は□□に行った」「今〇〇にいる」などのコメントとともに、現地の画像を投稿することはめずらしくありません。
しかし、投稿された写真に写っている看板や街の風景などから、その場所がどこかを特定し、個人情報を集めて居場所を突き止め、投稿者を特定するという被害もネットストーカー被害の特徴です。
日々重ねられる投稿を全て遡ってチェックし、その人の自宅や勤務先、通勤経路を割り出す・交友関係を持っている人の自宅や人物特定をするなど、執着されてしまえばどこまでも個人情報を調べられる可能性があります。
そうして個人情報を突き止めて、「あなたのことを知っていますよ」ということを伝えるために執拗にメッセージを送ってくるなどの行動を取るストーカーも多くいます。
プライバシーを勝手に公開される
フェイスブックは基本的に本名でのアカウント開設が必要となっていますが、フェイスブックにあげられた本人の投稿や友達のコメントなど、あらゆる情報を参照して相手の本名や現住所などを突き止めてくるストーカー被害が多いことを書きました。
この情報を元にダイレクトメッセージを送ってきたり、不特定多数が閲覧できるコメント欄で本人の個人情報やプライバシーを勝手に公開したり、といった被害も出ています。
本人が誰なのか分かる状態で、「不倫をしている」「会社で横領を働いている」などと嘘の事実を拡散する誹謗中傷の被害を受けているケースもあるようです。
元彼・元カノからの嫌がらせ
過去に交際していた元彼・元カノから、別れた時のトラブルなどが原因で恨みを買ってしまって、別れた後も執拗に嫌がらせをされるというケースも少なくありません。
中には、交際中に相手に送った自分の裸の画像をSNS上で投稿されたり、交際中に知り得たプライベートな事実などを公開されたりといったトラブルもあります。
≫元カレ・元カノからの嫌がらせを早急に終わらせるための2つの対処法
ネットストーカーも規制対象に!ストーカー規制法とは
実生活でストーカー被害を受けた場合には、ストーカー規制法を適用してある程度厳しい対処ができますが、以前はメールを執拗に送ってくるなどのネットストーカーについてはストーカー規制法の対象とはならず、取り締まりが困難でした。
しかし、平成28年にストーカー規制法の改正が行われ、SNSなどでのネットストーカー行為についても規制の対象に含まれました。
「ストーカー」の定義
ストーカー規制法は、つきまとい等のストーカー行為を定義し、どんな目的や行動がストーカーに当たって本法律の適用になるかを明確にしています。
ストーカー規制法2条では、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」をもって以下の行為を行うことを規定しています。
1 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
2 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
3 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
4 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
5 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
6 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
7 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
8 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。
ネットストーカー被害としては、先ほども書いた通り「拒まれても執拗にメールやダイレクトメッセージを送ってくる」「元交際相手の裸の画像を送るなどの嫌がらせをする」などがあげられますが、これらはストーカー規制法で規定されているつきまとい等の要件に該当します。
ストーカー規制法の罰則
ストーカー規制法に抵触する行為を行なった場合は1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科されます。
警察は、ストーカー規制法を根拠として、ストーカー行為を行った人に対して禁止命令を出すことができますが、この禁止命令に反してストーカー行為をしたときには刑はさらに重くなり、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されます。
ストーカー規制法は親告罪から非親告罪に
親告罪とは、被害者が告訴をしなければ犯罪として起訴されないもののことで、強姦罪や侮辱罪などがその例です。
ストーカー規制法違反の場合もかつては親告罪だったため、被害者が動かなければ警察は動いてくれませんでした。
しかし今回の改正により、ストーカー規制法は非親告罪となりました。これは、殺人罪や詐欺罪などのように、被害者の意向にかかわらず警察が動いて逮捕や起訴の対象になるということを指します。
度重なる悪質なストーカー被害に対し、本格的な規制が始まっています。
ネットストーカーはいろいろな犯罪に該当する
ネットストーカー被害にはいろいろな種類があり、被害も多岐に渡ります。
そのため、ストーカー規制法以外にも犯罪行為が成立することも珍しくありません。どのような犯罪になりやすいのでしょうか。
リベンジポルノ防止法違反
元交際相手の裸や性的な画像をSNSなどに投稿したり、メールで送りつけて恐怖心を与えたりといった行為はストーカー規制法にも該当しますが、リベンジポルノ防止法にも抵触する部分があります。
ストーカー規制法とリベンジポルノ防止法の違いはどこにあるのでしょうか?
まず大きな違いはその「目的」です。
リベンジポルノ防止法でも、人物が特定できる状態で裸など性的な画像を流出させることを規制対象としていますが、ストーカー規制法のように「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」のためにそれを行ったかどうかは問われません。
また、リベンジポルノ防止法で規制対象となる画像の要件は細かく規定されており、水着や下着の写真ではリベンジポルノ防止法に抵触しないこともあります。
このように、リベンジポルノ防止法とストーカー規制法とではそれぞれ足りないところを補うような位置付けになっています。
名誉毀損罪
ネット上で執拗につきまとった上、SNSのコメント欄や自分自身のタイムライン上などで誹謗中傷にあたるようなコメントを撒き散らすストーカーもいます。
その投稿の内容が被害者の名誉を傷つけた場合には、名誉毀損罪(刑法230条)として刑事処罰の対象となります。
≫ネットの誹謗中傷を名誉毀損罪で刑事告訴する手続を徹底解説!
脅迫罪
「会ってくれないなら殺してやる」「明日家の前で待ち伏せする」などのメールが届いたら、誰でも恐怖で固まりますよね。
ネットストーカーの中には、こういった害意を含んだ内容のメールを何通も送りつけてくる人がいます。
こういった言動で相手を恐怖に陥れた場合には、脅迫罪(刑法222条)が成立することがあります。
傷害罪
執拗に電話やメールなどを繰り返し、それが原因で被害者がうつ病やノイローゼを発症した場合には、傷害罪(刑法204条)が成立する可能性もあります。
もちろんネットストーカーの域を超え、実際に被害者と接触して暴力を振るって怪我を負わせた場合にも傷害罪は成立します。
ネットストーカー対策
ここでは、ネットストーカーの被害にあわないための対策法をまとめました。
1.自宅周辺のエリア情報は投稿しない
ネットストーカーは、どんな些細な情報でも逃しません。
例えば、「今日は朝から雨が降っていて出勤するのが憂鬱」と投稿すれば、その投稿時刻に雨が降っている地域を気象庁発表の最新気象データから絞り込めます。
さらに、「近所でパトカーが何台も駆けつけて大騒ぎ!なにか事件があったのかな…」と投稿すれば、各都道府県警察がネットで公表している事件・事故発生マップやニュースなどからさらに自宅住所のエリアを絞り込まれることになります。
先ほど紹介した最新気象データでは、雨のほかに、暴風や落雷が起きている地域も細かく調べることが可能です。
その他にも、最近では地域の催し物の予定などもネットで公表していることも少なくありません。
自分が住んでいる地域の気象情報やイベント、出来事などはSNSやブログには絶対に載せないように注意しましょう。
2.近所の風景や顔写真をアップしない
ネットストーカーは、単なる近所の風景画像からその撮影場所を特定することにも長けています。
方法としては、その画像をヤフー知恵袋やOKWaveなどの質問サイトに添付して場所を質問したり、Exif情報と呼ばれるデジタル写真の撮影場所や日時の情報を調べるサイトやアプリを使います。
また、地域情報から絞り込むことができたエリア内に、風景画像と一致する場所がないかをストリートビューでくまなく調べることもあります。
このように、風景画像1枚から自宅があるエリアを簡単に割り出すことができるのです。
割り出されないための予防としては、exif情報を写真から消すことができるツールを使ったり、スマホの設定で画像の位置情報(GPS)をoffにしておくなどの対策が必要でしょう。
しかし、画像の位置情報を消したとしても、ストリートビューで風景画像の場所を地道に調べられることは防げませんので、やはり自宅近隣の風景や建物の画像をアップロードしないことが最も有効な対策でしょう。
また、顔写真もアップすることで、特定された自宅エリアにリアルストーカーが訪れてきて探し出される危険性もあります。
SNSやブログなど、不特定多数の人目に触れる場所に自分の姿態が写った画像をアップしないようにしましょう。
3.SNS上での自分の投稿やコメントを削除する
過去の投稿や、他人のタイムラインに残したコメントなど、自分では大したことがないと思うような情報でも、ネットストーカーにとっては貴重な情報です。
それらの痕跡をたどって色々な情報を入手していきます。
どんな小さな足がかりも掴ませないために、自分が過去に残した投稿を削除するということもポイントです。
4.アカウントを使い分ける
ネットストーカーは、SNSでのアナタの投稿だけでなく、アナタの友達の投稿やリプまで徹底して監視し、追跡してきます。
そのため、いくら自分のプライバシーや個人特定に繋がることを書き込まないよう注意していても友達の投稿で自分の行動や身元がバレることもあるのです。
防ぎようがないこういった事態を避けるためにも、アカウントを二つ作り、片方をリアル用、もう片方を匿名用に使い分けましょう。
いわゆる、「複アカ」「裏垢」「サブ垢」と呼ばれるものです。
リアル用のアカウントは現実の友達以外は覗けない非公開設定にしましょう。
そして、匿名用アカウントではリアル友達とは一切絡まないようにしましょう。
友達経由で情報漏れがあったらアカウントを別けた意味がなくなります。
ネットストーカー対処法
では、対策が間に合わず、既にネットストーカーの被害に巻き込まれてしまったときはどのように対処すべきでしょうか。
一度拒否をしてから無視をする
いきなり無視するのではなく、ネット上での相手のつきまとい行為に対して、「やめて欲しい」と拒否することが大切です。
ストーカーの被害にあったときに警察に相談に行くと、「もう二度と連絡してこないで欲しいとはっきりと相手に伝えてください」と言われます。
拒否した(嫌だという気持ちを伝えた)にもかかわらず、その後もつきまとい行為をしてくるようであれば、ストーカー規制法にもとづき、警察が警告や禁止命令を出しやすくなるからです。
じっさいに、警視庁のストーカー規制法に関するページでも、つきまとい行為の事例として以下のように説明されています。
あなたが拒否しているにもかかわらず、携帯電話や会社、自宅に何度も電話をかけてくる。
あなたが拒否しているにもかかわらず、何度もファクシミリや電子メール・SNS等を送信してくる。
将来的に警察に対応を任せる場合に備えて、無視する前にまずは相手に拒否の意思表示をしましょう。
もし、怖くて自分では意思表示できないという方は、弁護士に頼めば代わりに相手に拒否の意思を伝えることも可能です。
具体体にどう無視すればよい?
ネットストーカーを無視するというのは、単に相手の誹謗中傷やつきまとい行為を指を咥えて黙っているわけではありません。
具体的には、相手をブロックする、(別アカウントを作って連絡等をしてくるなら)SNSのアカウントを削除するなど、積極的に相手からの連絡や接触を断つ形で無視を貫く姿勢が必要です。
そうすることで、相手はアナタに接触を図ることができなくなり、また、情報収集も不可能になることでアナタに固執していた心理状況から脱して事態が改善する可能性もあります。
警察に相談する
無視したにも関わらずネットストーカーが繰り返されるようであれば警察に相談に行きましょう。
アナタの被害申告に対して、警察はネットに書き込みをした犯人を特定し、犯人の住所に警告文書を送ってくれます。
緊急性が高いと判断した場合は、電話で口頭警告を行ってから警告書を送ることもあります。
また、警告したにも関わらず、ストーカー行為を繰り返された場合は、「被害者に近づいてはいけない」という禁止命令を出してくれます。
さらに、被害者に危害が加えられる怖れが高いと警察が判断すると、警告もせずに禁止命令(緊急禁止命令)を犯人に出してくれることもあります。
禁止命令に従わずにストーカー行為をした場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処せられますので、それを怖れて、犯人がつきまとい行為を止めることが期待できます。
脅迫や名誉毀損で訴える
ネットストーカーを警察に相談に行くと、基本的には、警告を出し、従わない場合は禁止命令を出し、それでも尚従わない場合に逮捕するという流れが一般的です。
しかし、このような段階を踏まずに、犯人を逮捕して欲しいと希望する方もいると思います。
その場合は、脅迫罪や名誉毀損罪で警察に被害届(または告訴状)を提出する方法があります。
ネットストーカーによるSNSや掲示板等の書き込みや、送ってきたメッセージの内容が、被害者の身体や生命等に危害を加えるものであった場合は脅迫罪が成立します。
また、被害者の社会的評価を下げるような内容であった場合には名誉毀損罪となります。
加害者をなんとしてでも処罰して欲しいと考えるのであれば、被害届や刑事告訴により警察に犯人を逮捕してもらうようにしましょう。
ネットストーカー被害の証拠は保存しておく
誹謗中傷や執拗な嫌がらせメール、画像の投稿など、いろいろな方法でネットストーカー被害に遭うことがありますが、それらの証拠は全て残しておくことが大切です。
ネットストーカーに対する対応としては刑事告訴や慰謝料の請求訴訟なども考えられますが、何か対応する時には「ストーカー被害を受けていた」という証拠が必要です。
可能な限り保全しておきましょう。
発信者情報開示請求で加害者を特定する
ネット上でのストーカー行為は匿名で行えるため、加害者がわからないという厄介な特徴があります。そのため、発信者情報開示請求を行って加害者を特定する必要があります。
悪質なネットストーカー対策は弁護士に相談
嫌がらせや誹謗中傷など、ネットストーカー被害に遭ってしまったら早急に対応することが必要です。
ストーカー規制法が改正されてネットストーカー被害も規制対象となり、より取り締まりやすくなりました。
しかし、加害者に対して刑事告訴をしたり慰謝料の請求訴訟を起こしたりといった法的対応をするには、男女問題・男女トラブルに精通した弁護士の介入が不可欠です。
できれば早い段階から法律の知識を身につけ、可能な限り自己防衛をすることが、それ以上被害を広げないためにも大切です。
ネットストーカー被害に遭っている可能性があるならば、早急に男女トラブルに強い弁護士に相談することをお勧めします。
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