目次
①緊急逮捕の翌朝の逮捕状請求が「直ちに」とはいえず違法であるとされた判例
事案の概要
本件被疑者は傷害被疑事件で午後7時30分頃、警察署司法巡査に緊急逮捕され、翌日午前8時頃に簡易裁判所の裁判官に対して暴力行為等処罰ニ関スル法律違反被疑事件として逮捕状が請求され、同日午前9時30分頃に被疑者に対して逮捕状が発付されました。
この事案では、緊急逮捕後から逮捕状請求まで時間がかかっているため、「直ちに」とは言えず緊急逮捕の要件を充たさないのではないかと問題となった事案です。
判例分抜粋
これに対して裁判所は、「「直ちに」とはこれをどのように理解すべきであろうか。もと憲法がいわゆる令状主義を原則として規定したのは、これによつて、捜査官の捜査手続における恣意的な運用、あるいは捜査権の濫用による弊害を事前に防止しようとする趣旨であるのであるから、例外的な緊急逮捕の場合についても、「直ちに」を、右の趣旨にそうよう厳格に解釈しなければならないが、直ちに手続がなされたかどうかは、単に緊急逮捕したときから逮捕状の請求が裁判所に差し出されたときまでの所要時間の長短のみによつて判断すべきではない。被疑者の警察署への引致、逮捕手続書等書類の作成、疎明資料の調整、書類の決済等警察内部の手続に要する時間、および、事件の複雑性、被疑者の数、警察署から裁判所までの距離、交通機関の事情等も考慮の外におくべきでなく、したがつて、このような観点からすると、右にいう「直ちに」は、緊急逮捕後「できる限り速かに」という意義に解するを相当とする」と判示しています(京都地方裁判所昭和45年10月2日決定)。
弁護士の解説
この事例では、司法巡査が緊急逮捕してから約12時間30分経過した後になされた本件逮捕状の請求が、「直ちに」なしたものとはいえず、違法と判断されています。
この事例では、簡易裁判所の担当裁判官が「深夜でもあり、翌朝にしてもらえばよい」旨指示したという事情がありました。
しかしこのように裁判官の指示に従ったことで逮捕状の請求が遅滞するに至ったとしても判断資料としては考慮されないことを明らかにしています。
②緊急逮捕の要件である嫌疑の「充分な理由」があるとは言えないと判断された判例
事案の概要
被疑者に対する野球賭博を内容とする常習賭博被疑事件の容疑で裁判官が発した捜索差押許可状により被疑者宅を捜索した結果、対象物件は発見に至りませんでした。しかし、アラビア数字などが記載されたメモ1枚が発見されたため、競馬法の勝馬投票類似の行為をさせて利益を図ったという罪で緊急逮捕され、その後逮捕状の請求がされたという事案です。
このようなメモのみでは、被害者が罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があるとは言えないのではないか、という点が問題となりました。
判例分抜粋
この事案に対して裁判所は、「本件緊急逮捕は罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がなく、且つ急速を要し裁判官の逮捕状を求めることのできない理由の告知なくして行なわれたものであるから、刑事訴訟法二一〇条一項に違反する違法なものというべきであり、かかる違法な逮捕を前提とする勾留は許されない」と判示しています(神戸地方裁判所昭和46年9月25日決定)。
弁護士の解説
裁判所は、以下のような事実を認定して、被疑者には本件被疑事実についていまだ充分な嫌疑はなかったというべきであると判断しています。
- 本件メモが被疑者が作成したものとは認められない
- 競馬に関するメモであると即断することができない
- メモ1枚の存在、記載内容から直ちに被疑者が胴元として張り客から申込みを受けたとは判断できない
- 被疑者が張り客として勝馬投票類似の、申込みをした可能性もある(その場合には緊急逮捕の対象となる罪に該当しない)
気軽に弁護士に相談しましょう |
|