緊急逮捕とは?逮捕できる要件・罪名と他の逮捕との違いを解説
「緊急逮捕」という言葉は聞いたことはあるものの、実際のところ実はあまり理解していない…。緊急逮捕ってなに?

このような方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、刑事事件に強い弁護士が、

  • 緊急逮捕とは
  • 緊急逮捕の要件
  • 緊急逮捕できる罪名やできない罪名
  • 緊急逮捕と他の逮捕(通常逮捕・現行犯逮捕)との違い
  • 緊急逮捕の事例

などについてわかりやすく解説していきます。

緊急逮捕された方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。

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緊急逮捕とは

緊急逮捕とは、ある一定の犯罪について、被疑者を緊急に逮捕する必要があるものの、直ちに裁判官に逮捕状の発布を請求することができないため、いったんは逮捕状なしに被疑者を逮捕し、被疑者を逮捕した後に、裁判官に逮捕状の発布を請求し、逮捕状が発布されれば引き続き身柄を拘束され、発布されない場合は釈放される手続きのことです

緊急逮捕が認められている理由

通常、被疑者を逮捕するには、裁判官に逮捕状の発布を請求し、逮捕状の発布を受け、発布を受けた逮捕状により逮捕するという手続を踏む必要があります。このことは憲法でも要請されている原則です(憲法33条参照)。

もっとも、たとえば、パトロール中の警察官が殺人や放火で指名手配中の被疑者を発見した場合のように、その場で逮捕しなければ逃亡を図られる可能性が極めて高いことから逮捕状がなくても逮捕しなければならない場合があることも事実です。また、現行犯逮捕では、逮捕状がなくても逮捕できますが、上記のようなケースでは現行犯逮捕の要件を満たさないことから現行犯逮捕することもできません。

そこで、はじめは逮捕状なしに逮捕することを認めつつも、事後的に裁判官の逮捕状の発布を逮捕の適法要件としているのが緊急逮捕です。

緊急逮捕が規定されている条文と逮捕できる人

緊急逮捕については、刑事訴訟法第210条に規定されています。

第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
② 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。

刑事訴訟法 | e-Gov法令検索

この条文によると、緊急逮捕できる人は、検察官・検察事務官・司法警察職員(警察官のほか、麻薬取締官、皇宮護衛官、海上保安官なども含みます)となります。誰でもできる現行犯逮捕とは異なり、一般人による緊急逮捕は認められていません。

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緊急逮捕の要件

緊急逮捕の要件は次のとおりです。

死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したこと

まず、被疑者が死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したことが要件です

緊急逮捕できる罪名

緊急逮捕ができる、死刑又は期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪としては以下のようなものがあり、比較的重い罪を犯したことが要件です。

  • 殺人罪(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)
  • 現住建造物放火罪(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)
  • 強制わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)
  • 強制性交等罪(5年以上の有期懲役)
  • 傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
  • 窃盗罪(10年以下の懲役)
  • 強盗罪(5年以上の有期懲役)
  • 強盗致傷罪(無期又は6年以上の懲役)
  • 強盗殺人罪、強盗致死罪(死刑又は無期懲役)
  • 詐欺罪(10年以下の懲役)
  • 器物損壊罪(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料)
  • 薬物(覚せい剤、大麻、麻薬など)関連の使用罪など

緊急逮捕できない罪名

他方で、以下のような、死刑又は期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たらない比較的軽い罪では緊急逮捕することができません。

  • 脅迫罪(2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)
  • 暴行罪(2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)
  • 軽犯罪法違反(拘留または科料)

罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があること

次に、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があることが要件です

後述するように、通常逮捕では罪を犯したと疑うに足りる「相当な理由」があることが要件とされていますが、緊急逮捕の「充分な理由」とは、通常逮捕の「相当な理由」がある場合よりも高度の嫌疑があることを要します。もっとも、緊急逮捕するのは捜査の初期段階であることから、直ちに起訴することができる程度までの嫌疑のあることは必要ではありません。

緊急逮捕する場合、通常逮捕する場合と比べて高度の嫌疑を必要とされているのは、緊急逮捕が裁判官の事前審査を経ないで被疑者の身柄を拘束する逮捕であることから、逮捕にあたって捜査員に特に慎重を求める必要があるからです。

急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないこと

次に、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないことが要件です

急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとは、逮捕状の発布を受ける余裕がない場合、すなわち、逮捕しなければ、被疑者が逃亡又は罪証の隠滅をするおそれがある場合をいいます。

緊急逮捕する理由を告知すること

通常逮捕の場合は被疑者に令状を示すことで逮捕する理由(被疑事実)を伝えることができますが、緊急逮捕は令状なしで逮捕するため、逮捕する理由(被疑事実と急速を要する事情)を口頭で告知する必要があります。これを行わない緊急逮捕は違法となります。

逮捕後に、裁判官から逮捕状の発布を受けること

最後に、被疑者を逮捕した後、直ちに捜査機関が裁判官に対して逮捕状の発布の請求をし、裁判官から逮捕状の発布を受けることが要件です

仮に、裁判官から逮捕状が発布されない場合は、直ちに被疑者を釈放しなければなりません。また、逮捕状の請求は、その後の身柄拘束の必要性についての承認とともに、緊急逮捕の追認を求めるものですので、逮捕後に被疑者を釈放した場合も、逮捕状の請求をしなければならないことになっています。

緊急逮捕と他の逮捕との違い

逮捕には緊急逮捕のほかに通常逮捕、現行犯逮捕があります。ここでは緊急逮捕と通常逮捕との違い、緊急逮捕と現行犯逮捕との違いについて解説します。

逮捕の種類は3パターン!通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕の違いとは

通常逮捕との違い

通常逮捕とは、裁判官が発布する逮捕状を示してする逮捕のことです。緊急逮捕と通常逮捕との違いは次のとおりです。

嫌疑の程度

まず、逮捕時における嫌疑の程度です。

前述のとおり、緊急逮捕では罪を犯したと疑うに足りる「充分な理由」まで必要ですが、通常逮捕では「相当な理由」で足ります。

逮捕できる罪の範囲

次に、逮捕できる罪の範囲です。

前述のとおり、緊急逮捕では「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」と逮捕できる罪が限定されています。一方、通常逮捕では、一定の罪を除き(※)、どんな罪でも逮捕できます。

※30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が住居不定又は正当な理由なく出頭に応じない場合にのみ通常逮捕できることになっています。

手続き

最後に、手続きです。

前述のとおり、緊急逮捕では、はじめ逮捕状なしに逮捕できますが、逮捕後に裁判官に逮捕状の発布の請求をし、裁判官から逮捕状の発布を受ける必要があります。一方、通常逮捕では、逮捕前に、裁判官に逮捕状の発布の請求をして逮捕状の発布を受け、その逮捕状に基づいて逮捕しなければなりません。

現行犯逮捕との違い

現行犯逮捕とは、犯罪を行っている最中または犯罪を行った直後の犯人を逮捕することです。緊急逮捕と現行犯逮捕との違いは次のとおりです。

逮捕の条件

まず、逮捕の条件です。

前述のとおり、緊急逮捕では、罪を犯したことの高度な嫌疑が必要ですが、起訴するに足りるだけの確証までは必要ではなく、あくまで高度な「疑い」があれば逮捕できます。一方、現行犯逮捕では犯人が罪を犯したことが逮捕者にとって明白であることが必要とされます。

逮捕できる罪の範囲

次に、逮捕できる罪の範囲です。

前述のとおり、緊急逮捕では「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」と逮捕できる罪が限定されています。一方、現行犯逮捕では、一定の罪を除き(※)、どんな罪でも逮捕できます。

※30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者の住所若しくは氏名が明らかでない場合、又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り現行犯逮捕できることになっています。

逮捕状の有無

次に、逮捕状の有無です。

緊急逮捕も現行犯逮捕も、逮捕時点では逮捕状が不要という点では共通していますが、緊急逮捕では逮捕後に裁判官から逮捕状の発布を受け、被疑者に提示することが必要です。一方、現行犯逮捕では逮捕状は不要です。

逮捕できる人

最後に、逮捕できる人です。

緊急逮捕では、警察官や検察官、検察事務官など逮捕できる人が一定の人に限定されています。一方、現行犯逮捕は誰でも可能です。

現行犯逮捕とは?逮捕できる要件と身柄拘束された時の対応方法

緊急逮捕された後の流れ

緊急逮捕は、裁判官から逮捕状の発布を受けるタイミングを除いて、逮捕後の流れは通常逮捕や現行犯逮捕と変わりません

緊急逮捕された後に裁判官が逮捕状の発布を認めなければ被疑者は釈放されますが、逮捕状の発布が認められた場合には警察に事情聴取を受け、逮捕から48時間以内に警察から検察官に事件と身柄が送致されます。

被疑者の身柄を受け取った検察官は、送致から24時間以内に被疑者を釈放するか裁判所に勾留請求するかを決定し、勾留請求した場合にそれが認められると、最大で20日間にわたり身柄拘束され、その間に、検察官が被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定します。

他方で、裁判所が勾留請求を認めなかった場合には被疑者は釈放され、在宅捜査に切り替わって刑事事件が進められていきます。被疑者にとってはこれまで通りの生活を送りながら取り調べを受けることができるため、会社勤めや学校に通われている方にとっては大きなメリットとなるでしょう。

もっとも、前述のとおり、緊急逮捕ができる犯罪は比較的重い罪であるため、勾留請求が却下される可能性は高くありません。ただしケースバイケースで早期釈放を目指せる事案もありますので、逮捕されたらできるだけは早急に弁護士に相談し、速やかに弁護活動に着手してもらうことをお勧めします。

緊急逮捕は違憲にならない?

憲法33条には、「何人も現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」と規定されていることから、かつて、緊急逮捕を定める刑事訴訟法の規定は憲法33条に反し違憲ではないかとの主張がありましたが、現在では合憲であるとする解釈が確立されています

判例(最判昭和30年12月14日)は、「刑事訴訟法210条に規定されている厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者を逮捕することは、憲法33条の規定の趣旨に反するものではない」と判示しています。

緊急逮捕された事例

ここでは、実際にあった緊急逮捕の事例をいくつかご紹介します。

県教育委員会に勤務する男性が強制わいせつで緊急逮捕

2022年12月19日、静岡県教育委員会に勤務する男性が、路上で10代の女性の胸などを無理やり触った疑いで強制わいせつで緊急逮捕されています。

女性が自転車から降り、スマートフォンを操作していたところ、男性から自分の自転車を押して前から近づいてきて犯行に及んでいます。

その後、女性が警察に「知らない男に触られた」と警察に通報。駆け付けた警察が近くの路上にいた男性を見つけ緊急逮捕しました。

母親の死体を山中に遺棄し緊急逮捕

2022年12月16日、神奈川県川崎市に住む男性が、母親の死体を山中に遺棄したとして死体遺棄の疑いで緊急逮捕されています。

2日前に、男性の親族が「母親と連絡がとれない」と警察に通報。警察が男性の供述をもとに山中を捜索したところ、母親の遺体を見つけたことから、男性を緊急逮捕しています。

ひき逃げの疑いで緊急逮捕

2022年12月3日、沖縄市に住む女性が、車を運転中、道路に横たわっていた男性をひいて現場から立ち去ったとして、過失運転致傷、道路交通法違反の疑いで緊急逮捕されています。男性はあばら骨を折るなどの重傷を負っています。

消防が警察に「ひき逃げされたと申し立てる人がいる」などと通報。その後、女性から警察に「物に乗り上げたが人かもしれない」と通報があり、警察官が女性とともに現場を確認した後、緊急逮捕しています。

家族が緊急逮捕されたら弁護士に相談

もしも、家族が緊急逮捕されてしまったら、速やかに刑事事件を専門に取り扱う弁護士を探し、今後の対応などについて相談しましょう。まずは、弁護士と逮捕された方との接見をすすめられることが多いかと思います。

接見では、弁護士が逮捕された方から話を聞き、逮捕事実は何か、事実を認めるのか、認めないのかなどを確認し、状況に応じたアドバイスを行います。逮捕直後は精神的に動揺していることが多く、取調べなどで誤った対応をしかねませんので、この段階で弁護士からアドバイスを受けることはとても大切です。

接見を依頼したご家族には、接見後に逮捕事実や今後の見通し、アドバイスなどをご報告します。実際に弁護士に依頼した場合は、釈放や示談交渉などの具体的な弁護活動に向けて動いてくれます。

刑事事件ははやめはやめの対応が大切です。対応が遅れると、その分被る不利益も大きくなるおそれがありますので、ご家族が逮捕されたらためらわずに弁護士に相談してください

弊所では、逮捕された方の早期釈放、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、緊急逮捕された方のご家族の方でお困りの方は、弊所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。

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