
風営法には、違反した場合に罰金や拘禁刑を科す規定があるため、逮捕される可能性があります。
そのため、風営法違反で逮捕されないようにするには、風営法に関する知識をしっかりと身につける必要があります。
とはいえ、風営法には複雑かつ細かなルールがあり、
- 「どのような行為が風営法違反になるのだろうか…」
- 「風営法違反で逮捕はされるのだろうか…もし逮捕されたらどうなってしまうのだろう…」
と感じている方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、風営法違反事件をはじめとした刑事事件に強い弁護士が、
- よくある風営法違反となる行為と罰則
- 風営法違反の逮捕率や逮捕後の流れ
- 風営法違反の摘発で誰が捕まるのか
などについて詳しく解説していきます。
なお、心当たりのある違反行為をしてしまい、逮捕回避や不起訴獲得に向けて早急に対応したいとお考えの方は、記事を最後まで読んだ上で、全国無料相談の弁護士にご相談ください。
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目次
そもそも風営法とは?対象となる店は?
そもそも風営法とは、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」という法律の略称です。
風営法は、風俗営業や性風俗関連特殊営業の営業ルールを定めて、地域環境や子供の健全な育成に悪影響を及ぼさないようにすることを目的に、「風俗営業」と「性風俗関連特殊営業等」に関する営業時間・営業区域、年少者の立ち入り等を規制しています(風営法第1条)。
一般的に「風俗営業」と聞くと、デリヘルやソープランドなどの性風俗店を思い浮かべる方が多いと思いますが、性風俗店は「性風俗関連特殊営業等」に該当します。風俗営業とは、風営法第2条1項で定義されている特定の営業形態を指します。具体的には、以下のような営業が風俗営業に該当します。
〇1号営業:キャバレー、待合、料理店、カフェーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食させる営業
→風営法上の接待とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と規定されています(風営法第2条3項)。簡単に言えば、飲食物の提供を超える会話やサービスを行うことと考えておけば良いでしょう。料理店であっても接待行為があれば風俗営業に該当します。たとえば、キャバクラ、ラウンジ、スナックなどでは、お客の隣の席に座ってお酌や談笑といった接待行為を行うため、風営法の1号営業に該当します。
〇2号営業:喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、客席における照度を10ルクス以下として営むもの
→1号営業のように接待は伴わないものの、店内の照度が10ルクス以下(「10ルクス以下」とは、ろうそく1本程度・上映前の映画館ほどの明るさです)の喫茶店やカップル喫茶、バーなどの飲食店も風俗営業に該当します。
〇3号営業:喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5㎡以下である客席を設けて営むもの
→他からの見通しが困難な5平方メートル以下の客席を設けた店舗も風俗営業に該当します。たとえば、狭い個室のような客席を設けた喫茶店、カップル喫茶、バー、個室居酒屋などが対象となります。
〇4号営業:まあじゃん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業
→雀荘、パチンコ店、パチスロ店も風俗営業に該当します。
〇5号営業:スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるものを備える店舗その他これに類する区画された施設において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業
→ゲームセンターやダーツバーなどの他、飲食店であってもスロットマシンやテレビゲーム機を備えて営業する場合は風俗営業に該当します。
風営法違反となるよくある行為と罰則
ここでは、風営法で摘発・逮捕されるケースが多い違反行為とその罰則について解説します。具体的には、次の行為について説明します。
- ①無許可営業
- ②名義貸し
- ③客引きやつきまとい
- ④未成年者に接待させたなど
- ⑤2025年の改正風営法により違反となる行為
- ⑥その他の風営法違反となる行為
①無許可営業
風営法では、「風俗営業」に該当する事業を行おうとする場合には、風俗営業の種別に応じて、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければなりません(風営法第3条1項)。
先ほどお伝えしたように、飲食店であっても風俗営業に該当することもあります。たとえば、ガールズバーやコンカフェのように、食品衛生法上の飲食店営業許可を取得すれば開業できる形態の飲食店であっても、単なる飲食物の提供を超えてお客に会話やサービス(カラオケでデュエットする、一緒にゲームをするなど)を提供すると、風俗営業1号営業の「接待」行為と警察が判断する可能性があります。その場合、風俗営業の許可を受けずに無許可営業を行ったとして、逮捕・摘発されるおそれがあります。
風俗営業の無許可営業をしていた場合には、刑事罰として5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科が科される可能性があります(風営法第49条1号)。また、偽りその他不正な手段により許可を受けた場合にも同様の刑罰が科されます(風営法第49条2号)。
2025年6月28日に施行された改正風営法により、この無許可営業に対する罰則は従来よりも大幅に強化されています。改正前は「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金」でしたが、上記の通り、現在は拘禁刑や高額罰金を含むより厳しい刑罰が科される可能性があります。
コンカフェが風営法違反で逮捕・摘発されるケースを弁護士が解説
②名義貸し
風俗営業の「名義貸し」は、営業許可を受けた本人以外に営業させる行為であり、風営法上の重大な違反行為です。
風営法第6条では、「風俗営業の許可を受けた者は、その許可に係る営業を他人に営ませてはならない」と明記されており、たとえ親族や知人であっても、他人名義で営業を行えば法令違反となります。
たとえば、風俗営業の許可を持っているA社が、その実体のないペーパーカンパニーで、実際にはB社が運営している場合や、許可を持つ個人が第三者に営業場所や名義を貸し、裏で他人が実質的な運営を行っているような場合が名義貸しに該当します。
このような名義貸しを行った場合には、5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科が科される可能性があります(風営法第49条3号)。
この名義貸しに対する罰則も、2025年6月28日に施行された改正風営法により大幅に強化されました。従来は「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」だったものが、現在は拘禁刑と1,000万円以下の罰金を併科される可能性があるなど、より厳しい処罰対象となっています。
③客引きやつきまとい
風営法では、「営業に関し客引きをすること」、「営業に関し客引きをするため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと」が禁止されています(風営法第22条1項1号、2号)。
「客引き」とは、相手を特定してお店の客として来るように勧誘する行為をいいます。具体的には、特定の通行人に執拗につきまとってお店への入店を勧誘したり、前に立ちふさがって案内する行為が該当します。たとえば、以下のような行為は風営法違反として摘発されるおそれがあります。
- 無視して通り過ぎた通行人の前に立ちふさがる
- 通行人が通り過ぎようとしているにもかかわらず付いて行きながら話しかける
- 「居酒屋いかがでしょう?」「今お時間ありませんか?」などとしつこく声をかける
- ナンパ等を装って声をかける
- 身体や衣服をつかむ、持ち物を取る など
一方で、「呼び込み」は不特定多数に対する声かけやチラシ配布であるため、風営法の規制対象とはされません。ただし、特定の人物に値引き交渉を行うなどすれば、実質的に客引きとみなされるリスクがあります。
客引き行為を行った場合、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、またはこれらの併科が科される可能性があります(風営法第52条1号)。
なお、2025年6月28日施行の改正風営法では、無許可営業や名義貸しの罰則は大幅に強化されましたが、客引き行為の法定刑については今回の改正では変更されておらず、従来と同様の罰則が維持されています。
④未成年者に接待をさせたなど
風営法は18歳未満の未成年者に対してさまざまな規制をしています。
風営法は、風俗営業を営む者に対して、次のような行為を禁止しています(風営法第22条1項3〜6号)。
- 営業所で、18歳未満の者に客の接待をさせること
- 営業所で午後10時~翌日の午前6時までの時間において18歳未満の者を客に接する業務に従事させること
- 18歳未満の者を営業所に客として立ち入らせること(ゲームセンター等5号営業の場合には、午後10時~翌日の午前6時までの時間において客として立ち入らせること)
- 営業所で20歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること
以上のような風営法上の規定に違反した場合には、刑事罰として1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはこれらが併科されるおそれがあります(風営法第50条1項4号)。
⑤2025年の改正風営法により違反となる行為
2025年6月28日に施行された改正風営法は、特に悪質な営業形態を厳しく規制するために制定されました。この改正により、「スカウトバックの禁止」や「色恋営業の禁止」が新たに規制対象となりました。
スカウトバックの禁止
まず、性風俗店の経営者が、求職者の紹介を目的としてスカウトに金品を支払う行為(いわゆる「スカウトバック」)が全面的に禁止されました。
これは、女性の搾取や反社会的勢力との繋がりを助長する温床となっていたためです。この規制に違反した場合には、6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科されることになります。
接待飲食営業における新たな規制
次に、ホストクラブやキャバクラなどの接待飲食営業において、以下の規制が導入されました。
風営法の遵守事項として、以下の行為が新たに規制されました。
- 特定の条件下での「色恋営業」(客の恋愛感情に乗じて関係破綻や従業員の不利益を理由に高額消費を促す行為)
- 料金に関する虚偽の説明
- 客が注文していない飲食物の勝手な提供
これらの遵守事項に違反した場合、直接的な刑事罰はありませんが、指示処分・営業停止・許可取消しなどの行政処分を受ける可能性があります。
一方で、刑事罰の対象となる禁止行為も新設されました。
- 売掛金の支払いを目的として、客を威迫し困惑させる行為
- 威迫や誘惑により、売掛金の返済のために売春やAV出演などを強要する行為
これらの禁止行為に違反した場合、6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
これらの行為は、利用客の正常な判断を阻害し、多額の債務を負わせる悪質な営業手法として、厳しく取り締まられることになります。
⑥その他の風営法違反となる行為
風営法は、上記以外にも、善良な風俗と清浄な風俗環境を保持するために、風俗営業者に対してさまざまな禁止行為や遵守事項を定めています。
よくある違反行為とその罰則をまとめると、以下のようになります。
違反行為 | 概要 | 罰則 |
許可証の不掲示 | 営業所の見やすい場所に許可証を掲示していない行為 | 30万円以下の罰金 |
構造・設備の無承認変更 | 警察の承認を受けずに店舗の構造や設備を変更する行為 | 1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科 |
広告宣伝の違反 | 営業所周辺の風俗環境を害する方法で広告・宣伝を行う行為 | 100万円以下の罰金 |
禁止区域で風俗営業 | 風営法や条例で定められた禁止区域で営業する行為 | 2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、または併科 |
深夜酒類提供飲食店無届営業 | 深夜0時以降に無届で酒類をメインに提供する営業を行う行為 | 50万円以下の罰金 |
風営法違反で逮捕・起訴される?初犯の量刑傾向は?
では、風営法に違反した場合、どのくらいの確率で逮捕や起訴されるのでしょうか。また、初犯の場合の量刑はどの程度になるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
逮捕率は?
それでは、風営法違反による逮捕率はどのくらいなのでしょうか。
検察庁が公表している検察統計調査によれば、2023年において風営法違反により逮捕された事件の総数は、1304件で、逮捕されなかった事件は595件です。
そのため、逮捕率は45.6%となります。
また、風営法違反により警察官に逮捕され検察官に送致された事件は686件で、そのうち逮捕に引き続き勾留された事件は625件です。
そのため、逮捕された事件のうち91.1%は逮捕に引き続き勾留されていることがわかります。
以上より、風営法違反事件の半分程度は逮捕され、逮捕された場合には高い確率で勾留されていることがわかります。
起訴率は?
2023年において検察が処理した風営法違反の事件の総数は1957件で、そのうち、起訴された件数が697件、不起訴となった事件が748件です。
そのため、起訴率は35.6%となります。
起訴された事件のうち、略式命令請求がされた事件が607件、公判請求された事件が90件です。そのため、起訴された事件のうち87%以上が略式命令請求されていることがわかります。
「略式命令請求」とは、検察官が簡易裁判所に対して、正式な裁判によらずに被疑者に罰金や科料などの財産刑を科すよう申し立てる手続です。勾留されている場合は略式起訴された当日に釈放されます。
これに対して、「公判請求」とは、刑事事件において検察官が裁判所に公開の法廷での裁判を求めることをいいます。公判請求されると、被疑者は被告人となり、刑事裁判が行われます。
初犯の場合の量刑傾向は?
風営法違反の初犯であっても、無許可営業や名義貸しの場合には高額な罰金が科され、悪質なケースでは公判請求による拘禁刑に処される可能性があります。
従来は、初犯で再犯のおそれも小さいと判断された場合には、略式起訴により100万円前後の罰金で済むことが多く、比較的軽微な処分が一般的でした。
しかし、2025年6月28日に施行された改正風営法により、無許可営業や名義貸しに対する法定刑が大幅に引き上げられたため、初犯であっても従来より重い処分が下される可能性があります。
一方で、客引きなど改正の対象外の違反行為については、従来どおり50万円前後の罰金刑にとどまるケースが多いと考えられます。
風営法違反の逮捕・摘発事例
風営法違反では、違反の態様や悪質性によって様々な処分が下されています。実際の事例を見ることで、どのような行為がどの程度の処罰を受けるのか、具体的なイメージを掴むことができるでしょう。
ここでは、近年報道された風営法違反の摘発事例を紹介し、違反行為の内容と実際に科された刑罰について解説します。これらの事例は、風営法違反の重大性と、法改正による処罰の厳格化の傾向を示しています。
【ニュース①】暴力団幹部と妻に懲役刑、多額の追徴金を命じた事例
この事例は、佐賀市内で3つの接待飲食店を無許可で営業していたとして、指定暴力団道仁会系の暴力団幹部とその妻が風営法違反の罪で起訴された事例です。
佐賀地方裁判所は、組織的かつ継続的な犯行であり、その犯罪収益が約2800万円に上ることを指摘しました。裁判官は、暴力団幹部が犯行を主導した首謀者であること、また過去にも同様の罪で罰金刑を受けていたことなどを重く見て、懲役1年6ヶ月の実刑判決と罰金200万円を言い渡しました。一方で、経営に不可欠な役割を果たしていた妻にも、懲役10ヶ月、執行猶予3年の有罪判決と罰金100万円が言い渡されました。
さらに、2人には不正に得た2800万円の追徴金が命じられ、組織的な風営法違反に対する厳しい姿勢が示されました。
参考:暴力団幹部に風営法違反の罪で1年6か月の実刑判決 佐賀地裁|NHK 佐賀県のニュース
【ニュース②】無許可ガールズバー経営で元消防士に執行猶予付き有罪判決が出された事例
この事例は、富山市でガールズバーを無許可で経営し、18歳未満の少女を雇用して深夜に接待させていたとして、元富山市消防局の消防士が風営法違反と恐喝未遂の罪で逮捕された事例です。
富山地方裁判所は、未成年を雇用したことや、法律遵守意識の低さを指摘しましたが、被告が罪を認め、深く反省している点を考慮し、懲役1年8ヶ月、執行猶予3年の有罪判決と罰金50万円を言い渡しました。また、共謀したもう一人の無職の男性には、懲役8ヶ月、執行猶予3年の有罪判決と罰金50万円が下されています。
この事件は、社会的な信用を失うだけでなく、若年者であっても違法行為に対する厳しい処分が下されることを示しています。
参考:無許可ガールズバー 有罪 富山地裁 元消防士の22歳に判決:北陸中日新聞Web
【ニュース③】警察の指導後も無許可営業を続けた男に実刑判決が出された事例
この事例は、福島県郡山市で無許可の風俗店を経営し、18歳未満の少女に接待させていたとして、匿名・流動型犯罪グループ(通称「トクリュウ」)のリーダー格の男が風営法違反の罪で逮捕された事例です。
福島地裁郡山支部は、被告が警察の指導を受けた後も、共犯者に無許可営業の継続を指示していた点などを特に悪質と判断しました。その結果、懲役10ヶ月、罰金80万円の実刑判決が言い渡されました。
この判決は、単なる風営法違反にとどまらず、犯罪組織が関与し、法律を軽視して営業を継続するような悪質なケースに対して、執行猶予が付かない厳しい処分が下されることを明確に示しています。
参考:“トクリュウ”リーダー格の男に実刑判決 無許可で風俗店営業、風営法違反などの罪 福島・郡山市 | 福島のニュース│TUF
風営法違反で逮捕された場合の流れ
風営法違反で逮捕された場合の流れは次の通りです。
- 現行犯逮捕または通常逮捕
- 警察官による取り調べ・勾留
- 検察官による起訴・不起訴の判断
- 刑事裁判を受ける
以下で詳しく解説します。
①現行犯逮捕または通常逮捕
風営法違反は、主におとり捜査や私服警官の巡回によって発覚します。また、インターネットの普及により、口コミや通報(タレコミ)を通じて摘発されるケースも増加しています。
警察官が違法な客引きを目撃した場合、その場で現行犯逮捕されることがあります。無許可営業が行われている場合も、営業時間中におとり捜査官が客のふりをして入店し、従業員が接待を行っている様子を確認した上で、経営者を現行犯逮捕することが一般的です。
また、名義貸しのケースでは、捜査によって容疑が固まった段階で逮捕令状が発行され、通常逮捕されることになります。
②警察官による取調べ・勾留
風営法違反の疑いで逮捕された場合には、警察署に連行され、警察による取り調べを受けることになります。逃亡や罪証隠滅のおそれがあり、留置の必要があると判断された場合には、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄と事件記録が検察官に送致されることになります(送検)。
検察官は、事件の送致を受けた場合には24時間以内、かつ最初の身体拘束から72時間以内に勾留するか否かを判断しなければなりません。検察官が勾留の必要がないと判断した場合には、在宅事件に切り替わり、釈放されることになります。
③検察官による起訴・不起訴の判断
検察官が勾留の必要があると判断した場合には、裁判所に対して勾留請求をすることになります。裁判所が勾留を決定した場合には、10日間の身体拘束が継続することになります。さらに、捜査のため必要がある場合には、10日間を上限として勾留を延長することができます。したがって、逮捕・勾留された場合には、最長で23日間(48時間+24時間+10日間+10日間)の身体拘束を受ける可能性があります。
そして、検察官は被疑者を勾留している間に捜査を行い、起訴または不起訴の判断をしなければなりません。
風営法違反の罪については、略式起訴となるケースが少なくありません。
略式起訴とは、検察官が簡易裁判所に対して、正式な裁判手続を経ずに書面でのみ審理を行い、罰金や科料の刑罰を言い渡す起訴方法です。略式起訴された場合、罰金や科料を納めることで刑の執行が完了します。裁判所による略式命令を受けた被告人は、罰金・科料を納付することで手続きを終了させることができます。
そのため、略式起訴された場合には、罰金を支払うことで即日釈放されることになります。
④刑事裁判を受ける
身柄事件の場合には、保釈されない限り、裁判まで引き続き身柄が拘束されます。在宅事件の場合には、指定された公判期日に、自宅から裁判所に出廷することになります。
刑事裁判は、起訴から約1〜2か月後に開かれ、審理を経て判決の言い渡しを受けます。風営法違反事件の場合、否認しているなどの事情がなければ1回目の裁判で審理が終了し、その約2週間後には判決が言い渡されるケースが多いでしょう。
風営法違反の罪で有罪判決を受ける場合であっても、執行猶予が付される可能性もあります。執行猶予が付された場合には、実際に刑務所に入る必要はなく、執行猶予期間に問題なく過ごせば刑が執行されることはありません。
なお、第一審の判決に不服がある当事者(被告人または検察官)は上級裁判所に控訴することができ、第二審の判決に不服がある当事者は上告することができます。過去には、風営法違反(無許可営業)で罪に問われ、1審(地裁)および2審(高裁)で無罪判決となった事案について、検察官が上告したものの、最高裁がその上告を棄却し無罪が確定したケースも存在します。
参考:「クラブ」は風営法違反にあたらず 経営者の無罪確定へ - 産経ニュース
風営法違反の時効について
風営法違反の公訴時効は5年または3年です。
公訴時効とは、犯罪発生後、一定期間内に検察官が起訴しなければ、刑事処分を科すことができなくなる制度です。公訴時効は、刑の重さによって異なります。
2025年6月28日に施行された改正風営法により、無許可営業や名義貸しなどの違反行為については、法定刑が「2年以下の拘禁刑」から「5年以下の拘禁刑」に引き上げられました。刑事訴訟法では、長期5年以下の拘禁刑又は罰金に当たる罪についての公訴時効は5年と規定されているため、これらの違反行為の公訴時効は5年となります。
一方、客引き行為や未成年者への違法行為など、改正の対象とならなかった風営法違反については、従来通り長期5年未満の拘禁刑又は罰金に該当するため、公訴時効は3年です。
時効が完成すると、検察官は起訴することができなくなり、刑事処分を受けることもありません。ただし、無許可営業のような継続犯の場合、営業を停止した時点から時効が開始されます。
風営法違反は行政処分を受けることも
風営法に違反した場合には、刑事処分を受けるのみならず、行政処分や行政指導を受ける可能性もあります。行政処分とは、行政庁(公安委員会)が風俗業者の権利や義務に直接影響を及ぼし、義務を課したり権利を変更したりするものです。違反行為の悪質性を考慮した上で、行政指導または行政処分が行われることになります。
風営法に違反した場合には、具体的に以下のような行政処分等がなされる可能性があります。
- ①許可の取消し
- ②営業停止命令
- ③指示処分
以下、それぞれについて詳しく解説していきます。
①許可の取消し
公安委員会は、風俗営業者が風営法の規定に違反した場合において、「著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき」には、風俗営業の許可を取り消すことができます(風営法第26条1項)。
そのため、以下のような違反行為があった場合には、公安委員会によって風俗営業の許可が取り消される可能性があります。
- 不正な手段で許可を取得した場合
- 客引きをした場合
- 名義貸しをした場合
- 18歳未満の者に客の接待をさせた場合
- 営業停止命令に違反した場合 など
また、風俗営業の許可が取り消された場合には、取消しの日から起算して5年経過していなければ再度許可申請をすることができないため(同法第4条1項6号)、注意が必要です。
②営業停止処分
風営法違反の行政処分として、風俗営業者に対し営業停止命令が下される場合があります。営業停止命令は、風俗営業者が風営法や関連条例に違反した場合、または処分や条件に違反した場合に下されます。
営業停止命令の期間は、違反行為の内容や程度によって異なります。
たとえば、以下のような違法行為の場合には、40日以上6か月以下の営業停止命令が出されることになります。
- 不正な手段による許可取得
- 客引き行為
- 18歳未満の者を客として立ち入らせた
- 20歳未満の者への酒類、たばこの提供 など
③指示処分
指示処分とは、風営法の規定に違反している場合、風俗営業者に対し、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な指示をすることを指します。
指示処分に従わなかった場合は、より重い営業停止処分や許可の取消しとなるため注意が必要です。
風営法違反に関するよくある質問
風営法違反は誰が捕まる?キャストや客は?
風営法違反で逮捕されるのは、その違反行為に関与した当事者です。一般的に逮捕の可能性が最も高いのは経営者ですが、従業員やキャストが風営法違反の事実を知りながら違反行為に加担していた場合には、当該従業員やキャストも逮捕される可能性があります。ただし、風営法違反の事実について故意がない場合は、逮捕されることはありません。
なお、風営法で処罰対象となるのは風俗営業を行う事業者であり、店を利用する客は原則として対象外です。したがって、客が風営法違反で逮捕されることはありませんが、警察による事情聴取の対象となる可能性はあります。
風営法違反で前科はつく?
風営法違反で行政処分を受けただけの場合は前科はつきません。一方、風営法違反で罰金刑や懲役刑の有罪判決を受けた場合には前科がつきます。執行猶予付き判決を受けた場合も同様です。前科とは、有罪判決を受けた経歴を意味しますが、執行猶予がついたとしても有罪であることに変わりはないからです。
風営法違反で逮捕された場合の弁護活動
風営法違反で捜査を受けた場合、早めに弁護士に相談し、捜査段階からアドバイスを受けることで、逮捕のリスクを減らせます。ただし、風営法の保護法益は「善良な風俗・清浄な風俗環境・少年の健全な育成」であり、特定の被害者が存在しないため、示談成立による逮捕回避は難しいことが一般的です。したがって、捜査機関の判断によって逮捕される可能性は十分にあります。
では、風営法違反で逮捕されてしまった後に弁護士と接見し、事件の解決を依頼すると、弁護士は具体的に何をしてくれるのでしょうか。以下で解説していきます。
早期釈放を目指す
前述の通り、風営法違反で逮捕に引き続き勾留されてしまうと、刑事処分(起訴または不起訴)が決定するまで最大で23日間、主に警察署の留置場で身柄を拘束を受けることになります。
経営者や従業員はその間お仕事を休まざるを得ませんし、学生のキャストの方などは学校を休まなくてはなりません。身柄拘束が長引くほど生活に与える影響は大きく、家族や周囲の人に事件のことを知られる可能性も高くなります。
このような状況は、逮捕された方にとって非常に厳しいものです。そのため、弁護士が検察官に対し勾留請求をしないよう求めたり、裁判官に勾留請求を却下して釈放を命じるように働きかけるなどの弁護活動を行い、早期に身柄を解放できるよう尽力します。
不起訴処分を獲得して前科がつくのを回避する
風営法違反で逮捕された場合でも、不起訴処分を獲得すればすぐに釈放されます。また、不起訴処分となれば前科がつくこともありません。
弁護士は、被疑者の状況や事件の内容を踏まえ、以下のポイントを検察官に主張します。まず、初犯であることは再発の可能性が低いと判断され、重要な要素です。次に、事件の内容が悪質でないことを示すことで起訴の必要性を低くします。また、被疑者の社会的背景や人間性を考慮し、社会復帰の可能性を強調します。これらの情状を基に、弁護士は検察官に不起訴が妥当であると認識させるよう尽力し、不起訴処分を目指します。
執行猶予付き判決を獲得する
風営法違反の嫌疑で起訴された場合、刑事裁判で実刑判決による懲役刑を科されてしまうと、実際に刑務所に収監されてしまうことになります。
しかし、執行猶予付きの判決を獲得できれば、たとえ懲役刑の言渡しを受けたとしても、刑務所に収監されることを回避することができます。執行猶予期間中に再犯をしなければ、判決に基づく刑の執行を免れることができます。
したがって、有罪判決を回避できない状況でも、弁護士は、風営法違反事件の再発防止のための具体的な取り組みや更生できる環境作りができていることを主張・立証し、執行猶予の獲得や減軽できるよう努めてくれます。
冤罪の場合は無実を主張する
冤罪の場合には、無実を主張していくことになります。
風営法違反の事実がない場合には、事件について否認する必要があります。実際に風営法違反の疑いで逮捕されたものの、被疑者からよくよく話を聞いてみると、風営法で定められた風俗営業者には該当しなかったという事案も存在しています。
冤罪事件の場合には、弁護士が有利な証拠を収集し、捜査機関に意見書を提出するなどして、早期釈放や不起訴処分の獲得につとめてくれます。
風営法違反の弁護士による解決事例
ここでは、当事務所の弁護士が担当した風営法違反事件の解決事例を紹介します。
※個人情報保護およびプライバシーの観点から、イニシャルを使用し、事件の内容に変更を加えています。
無許可営業の疑いで逮捕された事例
この事例では、無許可で風俗営業をしたとして、いわゆる「雇われママ」であるAさん(40代・女性)が突然、警察に逮捕されてしまった事例です。
Aさんの逮捕に先立ち、女性キャストとの会話やお酒を楽しむ飲食店である「ラウンジ」を無許可で運営していたとして店の経営者(50代・男性)が逮捕されました。その後、事情を知らずに店を切り盛りしていたAさんも警察から事情聴取を受け、共犯者として逮捕されてしまいました。
Aさんの弁護人として就任した弁護士は、Aさんや経営者の男性と接見して詳しく事情を確認したところ、Aさんは単なる雇われママにすぎず、経営には一切タッチしていなかったことから、無許可営業の共犯者とは言えないことが判明しました。
Aさんは逮捕に引き続き勾留されてしまいましたが、弁護人は不起訴の獲得を目指して検察官に意見書を送るなどの弁護活動を行いました。また、Aさんは逮捕直後から弁護人以外との面会を禁止する「接見禁止」が出されていたため、Aさんのご家族からの励ましやメッセージなども弁護人が担っていました。
結果的に、弁護人の弁護活動が功を奏し、Aさんは嫌疑不十分として不起訴となりました。
客引き行為で逮捕された事例
この事例は、法律相談で来所された方の息子であるBさん(20代・大学3年生)が逮捕されたという事件です。
居酒屋で客引きのアルバイトをしていたBさんは、数週間前に店の近くを行き交う通行人に対して、数十メートルにわたり横を歩きながら客引きをしていたところ、その様子を第三者が動画撮影していたことから、後日警察官に逮捕されるに至りました。居酒屋の店長である男性も一緒に逮捕されているということでした。
Bさんのご両親は、Bさんが大学3年生で就職活動を控える身でありながら、起訴されて前科が残ってしまうことは何としても避けたいと強く望まれておりました。当該居酒屋の経営者も逮捕されており、店側の別件の違反行為も疑われる事案でした。
そこで、Bさんの弁護人に就任した弁護士は、両親がBさんを監督下におくことを誓約していることや、Bさんが素直に罪を認めて深く反省していること、Bさんが客引きのバイトを辞めて今後は就活に専念することを約束していること及び弁護士の意見書を検察官や裁判所に提出しました。
弁護人による弁護活動の結果、Bさんの勾留は延長されることなく釈放され、起訴猶予を理由とする不起訴を獲得することができました。Bさんは2週間弱の身体拘束を受けていましたが、幸いにも大学の春休み中であったため、実生活にはほとんど影響を与えることなく事件を解決することができました。
まとめ
以上、今回は風営法違反について、風営法違反で逮捕されるよくあるケースや刑罰、初犯の場合の量刑などについて詳しく解説しました。
仮に、風営法違反の容疑で逮捕されたとしても、初犯で違反の程度が小さい場合には、不起訴や略式起訴で手続きが終了することも少なくありません。
そのため、風営法違反で捜査を受けており警察に逮捕されそうと不安な方や、既に逮捕されてしまった方のご家族の方は、風営法や事業経営に精通している弁護士に一度相談されることをおすすめします。
当事務所は風営法に関するトラブルや経営トラブルの解決実績が豊富な弁護士が在籍しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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