事後強盗(じごごうとう)とは、窃盗の既遂の犯人が盗んだ物を取り返されることを防ぐため、あるいは窃盗の既遂または未遂の犯人が、逮捕を免れまたは証拠を隠滅するために、被害者や目撃者に対して暴行または脅迫を加えた場合に成立する犯罪です(刑法第238条)。
この記事では、強盗事件に強い弁護士が、
- 事後強盗罪の構成要件(成立要件)
- 事後強盗の既遂・未遂の時期
- 事後強盗罪の刑罰
について詳しく解説していきます。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
事後強盗の構成要件
事後強盗の構成要件(成立するための要件)は次のとおりです。
窃盗の犯人であること
まず、事後強盗の主体は「窃盗の犯人」であることが必要です。強盗の犯人が盗んだ物を取り返されることを防ぐために、被害者や目撃者に暴行を加えても事後強盗は成立せず、全体として強盗が成立するか、強盗とは別に暴行または傷害が成立するのみです。
ここでいう「窃盗犯人」とは窃盗既遂の犯人のほか、窃盗の未遂の犯人も含みます。一方、窃盗の目的で他人の家に立ち入ったところ、家人に気づかれたため、逮捕を免れるために家人に暴行を加えたケースのように、いまだ窃盗の実行の着手すら行っていない段階(未遂の前段階)では事後強盗が適用される余地はありません。
後述するように、窃盗の犯人が盗んだ物を取り返されることを防ぐために暴行または脅迫を加える場合には、当然その窃盗行為が既遂に達していることになります。一方、窃盗の犯人が逮捕を免れまたは証拠を隠滅するために暴行または脅迫を加える場合には、窃盗行為が既遂であると未遂であるとを問いません。
強盗罪とは?構成要件や刑罰は?強盗事件に強い弁護士が徹底解説
暴行または脅迫を加えたこと
次に、暴行または脅迫を加えたことが必要です。
暴行または脅迫の相手は必ずしも被害者である必要はなく、窃盗を目撃した目撃者や通報を受け現場に駆け付けた警察官などに暴行または脅迫を加えた場合でも事後強盗が成立する可能性があります。
暴行または脅迫は次のいずれかの意図をもって行われることが必要です。
- ①盗んだものを取り返されることを防ぐため
- ②逮捕を免れるため
- ③証拠を隠滅するため
前述のとおり、①を目的とした暴行または脅迫の場合は窃盗が既遂に達していることが前提となりますが、②または③を目的とした暴行または脅迫の場合は窃盗が既遂であると未遂であるとを問いません。
事後強盗は強盗の一種ですから、暴行または脅迫は、場所的・時間的、被害者らとの人的関係を総合的に判断して窃盗と密接な関連性を有すると認められる状況のもとに行われることを必要とします。判例(最高裁決定昭和33年10月31日など)は、暴行または脅迫が「窃盗の現場」、または少なくとも「窃盗の機会の継続中」になされることが必要としています。
暴行または脅迫が、窃盗の現場ないし窃盗の機会の継続中になされたかどうかは
- ①暴行または脅迫のなされた場所が、窃盗の犯行現場またはこれに接した場所であること(場所的接着性)
- ②暴行または脅迫をした時点が、少なくとも窃盗に着手した以後であって、遅くとも窃盗の犯行後間もなくであること(時間的接着性)
- ③暴行または脅迫をなしたことと当該窃盗の事実との間に関連性があること
が必要とされています。
したがって、たとえば、スーパーで万引きした後、スーパーで万引きを目撃した保安員に声をかけられたため、その場から逃走しようとしたところ、保安員に腕をつかまれたため、その場から逃走するために保安員の顔を殴った場合は①から③の条件すべてを満たすため、事後強盗が成立する可能性が高いです。
一方、万引きした後、路上を歩いていたところ、警ら中の事情を知らない警察官に職務質問を受けたため、万引きの件で逮捕されると勘違いした犯人が、警察官に暴行を加えた場合は公務執行妨害罪が成立する可能性はありますが、少なくとも③の条件を満たさないため、事後強盗は成立しないものと考えられます。
過去には、窃盗の犯人が、犯行から約30分後に、犯行場所から約1キロ離れた場所で、通報を受け駆け付けた被害者から盗んだ物を取り返されそうになったため被害者に暴行を加えたケースで事後強盗の成立を認めた判例(広島高裁昭和28年5月27日)、窃盗の犯行とは無関係な警ら中の警察官から職務質問のために呼び止められたため、逮捕を免れるために警察官に暴行を加えたケースで事後強盗の成立を認めなかった判例(東京高裁昭和27年6月26日)などがあります。
これまで繰り返し述べてきているとおり、事後強盗は強盗の一種ですから事後強盗の暴行または脅迫の程度は、強盗の暴行または脅迫の程度と同じである必要があります。すなわち、事後強盗の暴行または脅迫は、被害者らの反抗を抑圧するに足りる程度のもの(狭義の暴行または脅迫)である必要があると解されています。ただ、具体的状況に照らして客観的に判断して相手方の意思を抑圧するに足りる程度の暴行または脅迫を加えれば足り、現実に相手方の意思を抑圧したかどうかは問いません。
事後強盗の既遂と未遂の時期について
事後強盗の既遂時期については、窃盗の既遂・未遂を問わず、窃盗の犯人が所定の目的で暴行または脅迫を加えた時点と解する見解もありますが、判例(最高裁昭和24年7月9日)は、先行行為である窃盗の既遂・未遂に応じて、事後強盗の既遂・未遂を判断しています。
窃盗の犯人が物を盗んだ後、すなわち、窃盗行為自体が既遂に達してから、これを取り返されることを防ぐため、逮捕を免れるため、または証拠を隠滅するために暴行または脅迫をしたときは、暴行または脅迫を加えた時点で事後強盗の既遂が成立します。窃盗が既遂に達していれば、被害者や目撃者が窃盗の犯人から盗まれた物を取り返したかどうか、窃盗の犯人を逮捕したかどうかに関係なく事後強盗の既遂が成立します。また、窃盗の犯人が盗んだ物を取り返されるのを防いだかどうか、逮捕を免れたかどうか、証拠隠滅の目的を達したかどうかは関係ありません。
事後強盗の未遂が成立するのは、物を盗むために窃盗の実行に着手したものの、何らかの事情によって物を盗むことができず、未遂の状態のまま、被害者や目撃者らの逮捕を免れるため、または証拠を隠滅するために被害者や目撃者らに暴行または脅迫を加えたような場合です。
事後強盗罪の刑罰
事後強盗は強盗の一種ですから、事後強盗の罰則は強盗と同じく「5年以上の有期懲役」です。
なお、強盗犯が強盗の機会に人に怪我をさせた場合は強盗傷人罪または強盗致傷罪、人を死亡させた場合は強盗殺人罪または強盗致死罪が成立します。強盗傷人罪・強盗致傷罪の罰則は「無期又は6年以上の懲役」、強盗殺人罪・強盗致死罪の罰則は「死刑又は無期」です。前述のとおり、事後強盗は強盗の一種ですから、強盗が成立した以後に人に怪我を負わせた場合は強盗致傷罪、人を死亡させた場合は強盗致死罪が適用される可能性があります。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|