強盗罪とは、暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取したり、財産上不法の利益を得る、または、他人に得させることで成立する犯罪です。刑法236条に規定されています。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、以下の点を中心にわかりやすく解説していきます。
- 強盗罪の構成要件(成立要件)
- 強盗罪の刑罰
- 強盗罪に関連した犯罪
- 釈放・不起訴処分・執行猶予・無罪を獲得するための弁護活動や解決例
この記事を読むことで、強盗罪についての網羅的な知識を身に着けることができますし、逮捕されたご家族を救うにはどう行動すべきなのかがわかりますので、最後まで読んでみてください。
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目次
強盗罪の構成要件
強盗罪の構成要件は、
- ① 暴行又は脅迫
- ② 強取
です。
①暴行又は脅迫
暴行とは、たとえば、
- 殴る
- 蹴る
- 叩く
- 押し倒す
- 羽交い絞めにする
- 武器で殴打する
- 被害者の腕・身体を縛る、口をふさぐ
など、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。
脅迫とは、
- 殺すぞ
- 命はないぞ
- ぼこぼこにされたいのか
など、主に人の生命、身体に対して害を加えることを告げることをいいます。
では、相手にナイフを突きつけて「金を出せ。」という行為はどうでしょうか?
この点、相手にナイフを突きつける行為自体が暴行にあたるとも考えられますが、相手にナイフを突きつけているということは、暗に「命が欲しければ金を出せ。」と告げているとも解釈できますので脅迫にあたると考えてもよいでしょう。
強盗罪の暴行・脅迫の程度は、相手の反抗を抑圧する程度に強いものでなければなりません。
相手にナイフを突きつける行為がまさにその典型です。
相手の反抗を抑圧する程度に至らない暴行・脅迫は恐喝罪(刑法249条)の暴行・脅迫であって、恐喝罪が成立するにとどまります。
暴行・脅迫が相手の反抗を抑圧する程度に強いものかどうかは、犯行の時刻・場所その他周囲の状況(人通りの多さ、周囲に助けを求めることができたか否かなど)、凶器使用の有無、凶器の形状・性質、凶器の用い方など犯行の手段方法、犯人と相手の年齢・性別・体格差などを総合的に考慮して判断されます。
したがって、夜間、人通りの少ない夜道での強盗、殺傷能力のある凶器を使用した強盗、犯人が男性で相手が女性の場合の強盗、高齢者を狙った強盗の場合は、強盗罪に問われてしまう典型例といえます。
強取
強取とは、暴行又は脅迫によって相手の反抗を抑圧し、財物(お金など)を自己あるいは第三者の支配下におくことをいいます。
コンビニ強盗の例でいうと、犯人がレジの店員に対してナイフを突きつけて「レジの中にある金を全部よこせ。」と言い、レジの店員から現金を受け取る行為が強取です。
客観的にみて相手の反抗を抑圧する程度の暴行又は脅迫が行われれば足り、暴行又は脅迫によって現実に相手の反抗が抑圧されたことまでは必要ありません。
もっとも、強取といえるためには、一般に、暴行又は脅迫がなされたからこそ財物を奪取できたという、暴行又は脅迫と財物奪取との間に因果関係が認められることが必要です。
そのため、客観的にみて相手の反抗を抑圧する程度の暴行又は脅迫を加えたにもかかわらず、相手が無用な争いを避けるため、あるいは、相手が犯人に同情して財物を交付したという場合に、これが強取にあたるかどうかが問題となることがあります。
この点に関しては、暴行又は脅迫と財物奪取との間に因果関係を認めることはできないとして強盗未遂罪が成立するにすぎないという見解が有力です。
もっとも、同種事案で、強盗既遂罪が成立すると判示した最高裁判例(昭和24年2月8日)もあり、この判断を指示する学説も有力です。
強盗罪の罰則
強盗罪の罰則は「5年以上の有期懲役」です。
強盗罪で起訴され、裁判で有罪との認定を受けると、原則として実刑判決を受けます。なぜなら、執行猶予判決を受けるための要件が、判決で「3年以下の懲役の言い渡しを受けること」だからです。
もっとも、法律上、犯罪の情状に酌量すべき点があるときは減軽できるとされており、裁判官の判断で減軽措置がとられれば、例外的に執行猶予判決を受けることができます。
強盗罪に関連する罪
以下では、強盗罪に関連する罪についてご紹介します。
強盗予備罪
強盗罪は重たい罪であることから、未遂のみならず、未遂の前段階である予備も処罰することとしています。
強盗する目的でナイフなどの凶器を買うなどの行為が処罰対象です。
罰則は「2年以下の懲役」です。
なお、強盗罪のほか放火罪(刑法108条、109条1項)や殺人罪(刑法199条)についても予備罪が規定されています。
事後強盗罪
事後強盗罪は、窃盗犯人(窃盗既遂、未遂も含む)が、財物を取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は証拠を隠滅するために暴行又は脅迫した際に問われる罪です。
強盗罪は基本的に「暴行又は脅迫→財物奪取」の流れとなる罪ですが、事後強盗罪は「財物奪取→暴行又は脅迫」と強盗罪とは流れが反対になる罪です。
もっとも、両罪は順序が逆になっただけで罪の本質は同じですから、事後強盗罪も強盗罪であることにかわりはありません。
そのため、事後強盗罪の罰則も「5年以上の有期懲役」です。
強盗致死傷罪
強盗(既遂、未遂を含む)の機会に人を負傷させた場合は強盗致傷罪、人を死亡させた場合は強盗致死罪に問われます。
ここでいう強盗とは強盗罪の強盗犯人のほか事後強盗罪の強盗犯人も含まれます。
したがって、たとえば、万引きの窃盗犯人が犯人を捕まえようとした店員に対して暴行を加え、それによって店員を怪我させた場合は強盗致傷罪、死亡させた場合は強盗致死罪にまで発展することもあり得ます。
強盗致傷罪、強盗致死罪は結果(怪我、死亡)を発生させる意図がなくても罪に問われます。
一方、強盗するにあたって怪我させる意図、死亡させる意図があった場合は強盗傷人罪、強盗殺人罪に問われます。
強盗致傷罪、強盗傷人罪の罰則は「無期又は6年以上の懲役」、強盗致死罪、強盗殺人罪の罰則は「死刑又は無期懲役」です。
もっとも、同じケースで結果を発生させる意図があったかなかったかのみ異なるという場合は、強盗致傷罪よりも強盗致死罪が、強盗致死罪よりも強盗殺人罪の方が量刑は重たくなります。
強盗・強制性交等及び同致死(殺人)罪
強盗・強制性交等及び同致死(殺人)罪は、刑法改正前の強盗強姦罪、強盗強姦致死罪に相当する罪です。
すなわち、強盗(既遂・未遂を含む)の機会に強制性交等の罪の既遂・未遂、あるいは、強制性交等の罪の既遂・未遂の機会に強盗の既遂・未遂を犯した場合は強盗・強制性交等罪に問われます。
なお、上記の機会に人を負傷させた場合も強盗・強制性交等罪に問われ、負傷させた分は量刑上考慮されることになります。
他方で、強盗・強盗強制等の機会に人を死亡させた場合は強盗・強制性交等致死罪(殺意がない場合)、あるいは強盗・強制性交等殺人罪(殺意がある場合)に問われます。
強盗・強制性交等罪の罰則は「無期又は7年以上の懲役」です。
また、強盗・強制性交等致死罪・殺人罪の罰則は「死刑又は無期懲役」です。
もっとも、強盗と強制性交等のいずれもが未遂に終わり、かつ、負傷・死亡の結果が発生しなかった場合は、裁判官の判断で上記の刑の減軽措置を取られることがあります。
また、強盗罪あるいは強制性交等罪のいずれかの罪について、自らの意思で犯罪を中止したと認められる場合は必ず減軽されます。
強盗罪の弁護活動
強盗罪の主な弁護活動は、被害者への謝罪・示談交渉、釈放・不起訴獲得に向けた活動(保釈請求など)、情状立証、一部否認・無罪主張です。
被害者への謝罪・示談交渉
強盗罪の成立を認める場合は、被害者への謝罪から始めます。
強盗事件の場合、被疑者・被告人が被害者と面識があるというケースは少ないため、捜査機関に対して被害者の氏名、住所、電話番号等の個人情報を教えてくれないか申し入れます。
そして、捜査機関を通じて被害者の個人情報を取得できれば被害者と連絡を取って謝罪をはじめます。
謝罪は、被疑者・被告人に謝罪文を書いていただき、弁護士を通じて被害者に渡します。
被害者に渡す前は弁護士が内容をチェックし、場合によっては修正いただきます。
被害直後は特に受け取りを拒否されることもありますが、粘り強く働きかけを行います。
被害者に謝罪文を受け取っていただいた後は、示談交渉をはじめます。
示談金は被害者との交渉によって決めますが、基本は被害金額をベースとします。
ただ、暴行又は脅迫によって被害者に怖い思いさせていますし、被害者に怪我させた場合などはその分の金額を上乗せしなければ示談することはできません。
被害者が被害届を警察に提出する前に示談できれば、逮捕や刑罰を回避することができます。
強盗罪の場合、被害届が提出された後は逮捕される可能性が高いといえます(※)が、被害者と示談できれば早期釈放、不起訴(起訴猶予)につながりやすくなります。
また、仮に起訴され裁判になった場合でも、示談成立が被告人に有利な情状として勘案され、執行猶予を獲得できる可能性が高まります。
※令和2年度版犯罪白書によれば、令和元年度の強盗の逮捕率は約69%(=警察による逮捕人員「968人」÷強盗罪での既済人員「1,435人」)となっています。なお、ここでいう強盗とは、強盗罪、事後強盗罪、昏睡強盗罪、強盗殺人罪、強盗・強制性交等罪のことを指します。
釈放、不起訴獲得に向けた活動(保釈請求など)
前述のように、強盗罪は逮捕される確率が高い犯罪といえます。
また、強盗罪で逮捕されると釈放されずに勾留されてしまうことが多いのが実情です。
勾留されるとはじめは10日間、その後は最大で10日間身柄を拘束されます。
勾留中は、勾留期間中の釈放を目指します。
強盗罪の成立を認める場合は、前述の被害弁償、示談交渉が主な弁護活動となります。
強盗罪の成立を認めない場合は、被疑者の主張に沿った証拠を可能な限り集め、検察官に対して被疑者が犯人ではないこと、強盗罪は成立しないことなどを主張して早期釈放、不起訴(嫌疑不十分)の獲得に努めます。
勾留のまま起訴された場合は、裁判所に対して保釈請求して釈放を目指します。
保釈請求するにあたっては、被告人の逃亡、罪証隠滅のおそれがないことを裁判所に対して証明(疎明)するために、保釈請求書とともに身柄引受書、被告人の誓約書、身柄引受人に対する事情聴取結果報告書などの書類を提出します。
情状立証
強盗罪の成立を認める裁判では、情状立証が主な弁護活動です。
情状立証とは、被告人にとって有利な情状(※)を証拠書類や証人に対する尋問によって立証することをいいます。
有罪か無罪か、有罪としてどの程度の量刑にするかは裁判官が決めますが、裁判官は被告人のことを何も知りませんから、その裁判官にわかってもらうために立証活動が必要となってくるのです。
被害者と示談を成立させた際に交わした示談書を裁判に提出する行為も立証活動の一つです。
情状立証がうまくいけば、実刑が原則の強盗罪でも執行猶予を獲得することが可能です。
※犯行態様が軽微(武器を使用していない、暴行の回数が1回など)、被害金額が少ない、計画性がない、被害弁償・示談成立済み、前科前歴がない(初犯である)、逮捕当初より罪を認めている、家族などの適切な監督者がいる など
一部否認、無罪主張
一部否認とは犯罪の成否に関する一部を認めないことです。
強盗で多いのが、強盗罪で恐喝罪の成立を主張する、事後強盗罪の事件で窃盗罪と傷害罪の成立を主張する、あるいは、強盗致傷罪の事件で強盗罪と傷害罪の成立を主張するなど、刑が軽くなる犯罪の成立を主張するパターンです。
一部否認の場合も無罪主張の場合も、被告人の主張の裏付けとなる証拠を可能な限り集め、裁判で証人尋問などによって検察側の証拠の不備を浮き彫りにして目的達成に努めます。
強盗罪の弁護士による解決例
最後に、強盗罪の弁護士による解決例をご紹介します。
強盗致傷罪の事件で、窃盗罪と傷害罪に認定落ちし、不起訴を獲得した例
被疑者は、自宅近くのスーパーで食料品を万引きしたところを店員に目撃され、店外で腕を掴んだ店員を振り払ってその場から逃走したところ、勢いで転倒した店員に加療約7日間の怪我を負わせた強盗致傷の事案です。
弁護士が被疑者と接見したところ、被疑者は「店員に見つかり、今後のことを考えたら怖くなって逃げた」、「逮捕を免れる意図はなかった」などと主張して事後強盗罪の成立を否認していました。
そのため、弁護人は、被疑者の意図しない供述調書が作成されることがないよう、取調べでは黙秘することをアドバイスし、並行して被害店舗や店員に謝罪を申し入れました。
被害店舗や店員は快く謝罪を受け入れていただき、被害弁償を済ませ、示談を成立させることができました。
また、検察官に対しては窃盗罪と傷害罪が成立し、かつ、幸いにも被害者の怪我の程度は軽微で、被害者に対しては被害弁償を済ませ、示談を成立させたことから、本件の刑事処分は不起訴(起訴猶予)が相当である旨を主張したところ、主張どおり、不起訴(起訴猶予)を獲得することができました。
コンビニ強盗の事案で執行猶予を獲得した例
被疑者(女性)は、仕事のストレスや交際相手から別れを告げられたことで将来を悲観し、「刑務所に入りたい」との思いからコンビニ強盗2件を企てたものの、いずれも店員に抵抗されて未遂に終わった強盗未遂事案。
その後、被疑者は警察に自首しようと警察署の駐車場にいたところ、警察官に逮捕されたもの。
被疑者は起訴されたものの、弁護士が裁判の被告人質問で、被告人に対して本件犯行に至るまでの経緯や本件犯行の動機、犯行後に警察に自首しようとした経緯や動機などを丁寧に聴き出しました。
また、被告人の情状証人であるご家族に対しては、今後の被告人に対する監督状況などを尋問した結果、懲役2年6月、5年間の執行猶予(保護観察付)の判決を獲得することができました。
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