目次
①死傷結果は財物奪取の際なく強盗の機会に発生すればよいとした判例
事案の概要
AとBは強盗をしようと考え、共謀のうえ、それぞれ日本刀を持ち、被害者V1の自宅に押し入り、日本刀を突きつけて脅迫しました。
財物を被害者から奪い取る前に被害者の三男V2が目を覚まして「泥棒」と連呼して自宅から飛び出したので、Bは抜身の日本刀を持って追いかけました。
この騒ぎを聞き駆けつけた被害者の次男V3とBは出会いがしらに衝突して、日本刀でこの次男V3を切りつけ全治約1カ月の傷害を負わせたのが本事例です。
判例抜粋
裁判所は、「BがV3に傷害を与えたのは、財物強取の手段として暴行を加えた為ではなく、家人にさわがれた為驚いて逃げ出す途中の出来事である・・・強盗傷人罪は財物強取の手段としてなされた暴行に基づいて傷害を与えた場合でなくとも、強盗の機会において傷害を与えれば足るのであるから、Bが強盗傷人として処断さらるべきは当然である」と判示しました(最高裁判所昭和24年3月1日判決)。
弁護士の解説
強盗致傷罪が成立する場合にその致傷結果はどのように発生する必要があるのでしょうか。
議論として、原因行為は強盗の手段である暴行・脅迫から発生する必要があると論じる説(手段説)と、原因行為が強盗の機会に行われれば十分であるという説(機会説)が対立していました。
本件でVに負傷を生じさせた原因行為は、Bが日本刀を持って屋外に逃走した行為ですので、手段説からは強盗致傷罪が成立しない事例でしたが、判例は機会説を採用することを明らかにしてBに強盗致傷罪が成立することを認めています。
②強盗致傷罪の傷害の程度について判断した判例
事案の概要
この事例は、強盗の暴行・脅迫の際に被害者が負った傷害の程度が軽微であったとして、強盗傷害罪が想定している傷害には該当しないとして、強盗致傷罪ではなく強盗罪であると争われた事案です。
この事案の第一審は強盗罪として判断されているため検察側が事実誤認・法令解釈の適用を誤ったものであると主張して高等裁判所に控訴した事案です。
判例分抜粋
裁判所は、「強盗致傷罪は強盗の機会に被害者に傷害を与えることによって成立するものであって、この場合の傷害を他の場合のそれと別異に解すべきものではない。それゆえ本件が強盗致傷罪に該当することは明らかである。被害者の傷害は極めて軽微であって、強盗致傷罪にいう傷害に該らないとして本件を強盗罪に問擬した原判決には事実誤認ないし法令の解釈適用を誤った違法があ」ると判断し、強盗致傷罪を認定しました(広島高等裁判所昭和53年1月24日判決)。
弁護士の解説
強盗致傷罪については、傷害の程度についてもどのように考えるべきなのか議論があります。
つまり強盗罪は反抗を抑圧する程度の暴行を要求していることから、軽度の傷害結果については強盗罪として想定された範囲内であると考える余地があるということです。このように考える被告人側からは、軽度の傷害については強盗致傷罪のいう傷害には当たらないのではないかという主張がなされました。
しかし、この判決では、強盗致傷罪いう「傷害」は、他の罰条にいう「傷害」と別異に解すべきではないと判断し、傷害の程度によって強盗傷害罪の成否は影響を受けないことを明らかにしました。
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