常習累犯窃盗(じょうしゅうるいはんせっとう)とは、常習的に窃盗・窃盗未遂を繰り返した人に適用される可能性のある罪で、盗犯等の防止及び処分に関する法律(盗犯防止法)の第3条に規定されています。判例(最高裁昭和44年6月5日)によると、「窃盗~を行う習癖を有する者を、その習癖のない者より重く処罰するため、通常の窃盗その他の罪とは異なる新たな犯罪類型を定めたもの」とされています。
以下は常習累犯窃盗の条文です(文語体で規定された古い法律で読みにくいと思われますので読み飛ばしていただいて構いません)。
第三条 常習トシテ前条ニ掲ゲタル刑法各条ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニシテ其ノ行為前十年内ニ此等ノ罪又ハ此等ノ罪ト他ノ罪トノ併合罪ニ付三回以上六月ノ懲役以上ノ刑ノ執行ヲ受ケ又ハ其ノ執行ノ免除ヲ得タルモノニ対シ刑ヲ科スベキトキハ前条ノ例ニ依ル
この記事では、窃盗事件に強い弁護士が、
- 常習累犯窃盗の成立要件
- 常習累犯窃盗と窃盗罪の違い
- 常習累犯窃盗の罰則
- 常習累犯窃盗と執行猶予
などについてわかりやすく解説していきます。
常習累犯窃盗で逮捕されそうな方やそのご家族の方で、この記事を読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
常習累犯窃盗の成立要件
常習累犯窃盗が成立するには、次の要件を満たす必要があります。
①窃盗の既遂または未遂の罪を犯したこと
まず、本件において、窃盗既遂罪または窃盗未遂罪(以下、両者を合わせて「窃盗の罪」といいます。)を犯したことが要件です。
②窃盗の罪を常習として犯したこと
次に、窃盗の罪を常習として犯したことが要件です。
「常習として」とは、反復して特定の行為を行う習癖があることをいいます。窃盗の習癖があるかどうかは、主に前科・前歴、性格、素行、犯行動機・手口・態様・回数を総合的に勘案して判断されます。このうち、前科・前歴が最も有力な判断要素ですが、③で前科を有することが要件となっていますから、③の要件を満たすことのみをもって窃盗の習癖があるとは判断されません。
③行為前の10年以内に、窃盗の罪または窃盗の罪と他の犯罪との併合罪について、懲役6月以上の刑の執行を受けたことが3回以上あること
次に、行為前の10年以内に、窃盗の罪(既遂のほか、未遂も含む)または窃盗の罪と他の犯罪との併合罪について、懲役6月以上の刑の執行を受けたことが要件です。
「行為前の10年以内」とは、本件の窃盗既遂罪または窃盗未遂罪が開始される前の10年以内に、という意味です。窃盗行為が複数回行われた場合は、行為が開始された時が基準となります。
「窃盗の罪または他の犯罪との併合罪について」とは、窃盗の罪のみならず、窃盗の罪と殺人罪、あるいは傷害罪などのように、窃盗の罪と併合罪の関係に立つ他の罪でも刑の執行を受けた場合も常習累犯窃盗罪が成立し得ることを意味しています。
「10年以内に~刑の執行を受けたことが3回以上ある」とは、10年以内の3回の刑のうち最初の刑の執行終了日が10年以内で、かつ、最後の刑についてはその刑の執行が着手されていれば足りるという意味です。そのため、たとえば、仮釈放中に窃盗の罪を犯した場合は常習累犯窃盗罪に問われる可能性があります。
「刑の執行を受けた」とは、現実に、刑務所での服役が開始したことが必要ですから、執行猶予付きの判決を受けて執行猶予期間中である場合は「刑の執行を受け」たことにはあたりません。つまり、常習累犯窃盗の要件である「刑の執行を受けたことが3回以上あること」の回数に執行猶予付き判決は含まれません。もっとも、執行猶予が取り消され、刑の執行を受けた場合には、刑の執行を受けたことにあたります。
常習累犯窃盗と窃盗罪との違い
常習累犯窃盗と窃盗罪との主な違いは次のとおりです。
まず、規定されている法律が違います。前述のとおり、常習累犯窃盗は盗犯等の防止及び処分に関する法律の第3条に規定されています。一方、窃盗罪は刑法の第235条に規定されています。
次に、成立要件が違います。窃盗罪は「他人の財物を窃取した」ことが成立要件ですが、前述のとおり、常習累犯窃盗は窃盗の罪が成立することのほかに、常習性や前科の要件が必要です。
次に、罰則が違います。常習累犯窃盗の罰則は3年以上の有期懲役です(上限20年)。一方、窃盗罪の罰則は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金(懲役の下限は1年、罰金刑の下限は1万円)です。
常習累犯窃盗の罰則
前述のとおり、常習累犯窃盗の罰則は3年以上の有期懲役(上限20年)です。
窃盗罪よりも刑が重くなる理由
窃盗罪よりも常習累犯窃盗の方が罰則が重たいのは、過去に窃盗の罪で刑務所に服役した事実があるにも関わらず再度、窃盗の罪を犯したことに強い非難を加えるべきであって、窃盗の習癖をもつ者は、将来、再び窃盗の罪を犯す可能性が高いといえることから、重い罪を科すことで再び窃盗を繰り返すことを防止しようという理由があるからです。
累犯加重がなされた場合の刑罰
累犯とは次の3つの要件にあたる新たな犯罪のことをいいます。
- ①過去に懲役受刑者として服役していたこと
- ②①の刑期を終えてから5年以内に新たな犯罪を犯したこと
- ③②の新たな犯罪で有期懲役に処せられたこと
新たな犯罪が累犯にあたると、その罪の刑の上限が2倍となり、その範囲内で量刑が科されます。たとえば、新たに窃盗の罪を犯し、常習累犯窃盗で有罪判決を受けたとします。常習累犯窃盗の刑の上限は「20年」ですから刑の上限は40年となりますが、有期懲役の上限は「30年」ですから、3年以上30年以内の範囲内で量刑を科されることになります。
前述のとおり、常習累犯窃盗では「行為前の10年以内に、窃盗の罪または窃盗の罪と他の犯罪との併合罪について、懲役6月以上の刑の執行を受けたことが3回以上あること」という要件があります。そのため、ケースによっては、常習累犯窃盗の要件と累犯の要件の両方を満たす場合があり、その場合には常習累犯窃盗にも累犯が適用されることになります。
常習累犯窃盗の執行猶予について
前述のとおり、常習累犯窃盗は刑が重たい罪です。ここでは常習累犯窃盗で執行猶予がつくことがあるかどうかを解説します。
常習累犯窃盗は執行猶予をつけられる?
まず、執行猶予がつくためには、判決で「3年以下の懲役」の言い渡しを受けることが必要なところ、常習累犯窃盗の罰則は「3年以上の有期懲役」ですから、常習累犯窃盗の判決で懲役3年の言い渡しを受ける可能性もなくはありません。仮に、懲役3年の判決の言い渡しを受けた場合は執行猶予がつく可能性があります。
また、情状に特に酌量すべきものがあるときは、罰則の長期及び短期を2分の1に減軽されることがあります。これを酌量減軽といいます。常習累犯窃盗で酌量減軽されると、長期の懲役が15年(=30年÷2)、短期が1年6月(=3年÷2)となり、最も軽くて1年6月の判決の言い渡しを受ける可能性があります。常習累犯窃盗で酌量減軽された場合でも、執行猶予がつく可能性があります。
執行猶予とは?実刑との違いや認められる条件をわかりやすく解説
執行猶予が付けられるケースと付けられないケース
では、常習累犯窃盗で執行猶予がつくケースとつかないケースをみていきましょう。
執行猶予が付けられるケース
常習累犯窃盗で執行猶予がつくケースとしては、まず、今回の事件の判決の時点で前の刑の刑期を終えてから5年以上が経過している場合です。
また、新たに犯した窃盗が未遂に終わった場合や既遂でも被害額が千円未満の僅少だった場合や被害者と示談が成立し、被害者の処罰感情が緩和されている場合は酌量減軽によって執行猶予となる可能性があります。
執行猶予が付けられないケース
一方、常習累犯窃盗で執行猶予とはならないケースとしては、今回の判決の時点で前の刑の刑期を終えてから5年以上が経過していない場合です。この場合は執行猶予の要件を満たさないことから執行猶予とはなりません。
また、前の刑で執行猶予付きの判決を受けたものの、その執行猶予期間中に窃盗の罪を犯してしまい、常習累犯窃盗で裁判にかけられ有罪となれば、酌量減軽がなされたとしても量刑の下限は1年6月です。執行猶予期間中に犯罪を犯した場合にさらに執行猶予となるには、判決で1年以下の懲役の言い渡しを受ける必要がありますから、この場合も執行猶予とはなりません。
常習累犯窃盗と保釈について
保釈とは起訴後の釈放のことです。保釈には、一定の例外事由に該当しない限り保釈が認められる権利保釈と一定の事由に該当してもなお裁判官の裁量によって保釈を認める裁量保釈があります。
このうち、権利保釈の例外事由として「常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した」という規定があります。この点、常習累犯窃盗の罰則は3年以上の有期懲役で、懲役の長期が20年であることから、常習累犯窃盗は「常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪」あたり、権利保釈での保釈は認められません。
一方、裁量保釈による保釈は認められる可能性があります。裁量保釈による保釈が認められるためには、クレプトマニアの治療のため定期的に病院に通院する必要があるなどの特別の事情があることが必要となります。
常習累犯窃盗犯がクレプトマニアの場合の責任能力
刑事責任能力は、物事の善悪を区別する能力(是非弁識能力)とこの能力にしたがって自分の国道を制御する能力(行動制御能力)から構成されます。そして、いずれかの能力が完全にかけている状態のことを心神喪失、いずれかの能力が著しく弱まっている状態のことを心神耗弱といいます。
クレプトマニアとは、物を盗みたいという衝動をコントロールすることができずに盗みを繰り返してしまう精神疾患です。裁判でクレプトマニアだと認定されれば行動制御能力が完全にかけている(心神喪失)か、あるいは著しく弱まっている(心神耗弱)と判断される可能性はあります。
もっとも、過去の裁判でクレプトマニアを理由に心身喪失、あるいは心神耗弱と判断した裁判例、判例はなく、クレプトマニアを理由に無罪や減軽を勝ち取るには非常にハードルが高いといわざるをえません。
ただ、通常の判断能力を有する方が窃盗の罪を犯した場合と比べると、非難の度合いは低いと判断される余地はありますから、情状面を争い、量刑上有利な判決を得るよう努めていくことは可能です。
常習累犯窃盗の罪を犯した場合の対応
常習累犯窃盗で逮捕されそう、あるいは、ご家族が既に逮捕されてしまった場合には、できるだけ早急に弁護士に相談し、被害者との示談交渉を一任したほうが良いでしょう。
逮捕前に被害者と示談を成立させることで、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがないとして早期釈放や逮捕の回避につながる可能性があります。
また、起訴前に被害弁償をして示談を成立させることで、被害回復がなされたことから、検察官が不起訴処分とする可能性も高まります。起訴されたとしても、示談の成立は、量刑上、被告人にとって最も有利に働く情状ですから、執行猶予を獲得したい、できる限り懲役の長さを短くしたいという場合にも示談を成立させるべきです。
もっとも、加害者本人が被害者と示談交渉すると被害者の感情を逆なでしてしまう可能性もあります。また、逮捕後に勾留されずに釈放されたとしても、警察は被害者の連絡先を被疑者に教えることはありませんので、示談交渉そのものができないことがあります。この点、弁護士であれば連絡先を教えてもよいという被害者もいますし、経験豊富な弁護士であれば被害者の感情に最大限の配慮をしつつ円滑に交渉を進めることが可能です。
また、弁護士に依頼することで、取り調べ時に不利な供述をとられないためのアドバイスがもらえますし、保釈請求するための釈放後の環境の整備や、身柄引受人との調整などもサポートしてくれます。
弊所では、常習累犯窃盗の示談交渉、逮捕の回避、早期釈放、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、常習累犯窃盗で逮捕されそうな方、ご家族が逮捕されてお困りの方は弊所の弁護士までお気軽にご相談ください。
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