強盗致傷とは強盗の機会に被害者などに怪我を負わせてしまった場合に問われる罪です(刑法第240条前段)。たとえば、コンビニ強盗やタクシー強盗の際に怪我を負わせたようなケースで成立します。罰則は無期又は6年以上の懲役となっており原則として執行猶予は付きません。また、初犯でも重い刑期が科される可能性の高い犯罪です。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 強盗致傷の構成要件(成立要件)
- 強盗致傷で執行猶予がつく割合
- 強盗致傷の刑期・量刑の傾向
- 初犯でも重い刑期になるのか
などについて解説していきます。
なお、強盗致傷の罪に問われる可能性のある方、既に逮捕された方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
強盗致傷とは
冒頭でお伝えしたように、強盗致傷とは強盗の機会に被害者などに怪我を負わせてしまった場合に問われる罪で、刑法240条前段に規定されています。罰則は無期又は6年以上の懲役です。
(強盗致死傷)
第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。刑法 | e-Gov法令検索
なお、刑法240条後段は強盗致死(強盗殺人)に関する規定です。
強盗致傷罪の構成要件
強盗致傷罪が成立するための要件は次のとおりです。
「強盗」の犯人であること
まず、「強盗」の犯人であることが必要です。
ここでいう「強盗の犯人」には、強盗罪(刑法236条)の犯人のほか、事後強盗罪(刑法238条)、昏睡強盗罪(刑法239条)の犯人も含みます。
また、強盗は既遂に達している必要があるという見解もありますが、通説・判例(最高裁昭和23年6月12日など)は未遂の強盗も含まれると解しています。
したがって、たとえば、盗みをしようと思って他人の家に立ち入ってタンスなどを物色していたところ家人に見つかり、110番通報されそうになったため、通報させまいと家人に殴る・蹴るなどの暴行を加えてその場から立ち去ったような事後強盗未遂の事案で、その後、家人が怪我をしたことが判明した場合は、強盗致傷罪に問われる可能性があります。
強盗罪とは?構成要件や刑罰は?強盗事件に強い弁護士が徹底解説
人に怪我を負わせたこと
次に、人に怪我をさせるという結果が発生することが必要です。
強盗致傷の「負傷」とは、強盗致傷罪が重たい罪である以上、傷害罪(刑法204条)の傷害よりも程度の重たいものである必要があるという見解があります。ただ、実務では、傷害罪の傷害と同程度で足り、特に重大な傷害に限る必要はないとの見解のもとで強盗致傷罪が適用されています。
したがって、加療期間が数か月から数年かかる傷害の場合はもちろん、数日、数週間で済む場合の傷害の場合でも強盗致傷罪に問われる可能性があります。
強盗の機会に人に怪我をさせたこと
次に、人に負わせた怪我が強盗の機会に生じたといえることが必要です。
学説の中には、人に怪我を負わせたという結果は、強盗の手段である暴行・脅迫から生じる必要があるいう見解がありますが、通説・判例(最高裁昭和25年12月14日)は、人の怪我は必ずしも強盗の手段である暴行・脅迫から生じたことを必要とせず、単に強盗の機会になされた行為から人の怪我という結果が発生すれば足りると考えています。
したがって、たとえば、コンビニエンスストアで店員にナイフを突きつけ現金を脅し取り、店から逃走したところ、店から50メートルほど離れた地点で、犯人を見失わず追いかけてきた店長を殴って気絶させ怪我をさせた、という事案では、確かに、店長の怪我という結果は強盗の手段である暴行・脅迫から生じたものではありませんが、強盗の機会に生じたものといえるため、強盗致傷罪に問われる可能性があります。
人に怪我をさせることへの認識がないこと
次に、人に怪我をさせることへの認識がないことが必要です。
人の怪我という結果を生じさせる意図がなくても犯罪が成立してしまう罪を結果的加重犯といいますが、強盗致傷罪は結果的加重犯の一つです。結果的加重犯は他にも傷害致死罪(刑法205条)などがあります。
強盗致傷罪では、強盗の手段たる暴行・脅迫の意図は必要ですが、その結果である人の怪我を負わせることまでの意図は不要です。したがって、「気づかないうちに人に怪我をさせていた」、「知らない間に人に怪我をさせていた」というような場合でも強盗致傷罪に問われてしまう可能性があります。
強盗傷人罪(強盗傷害罪)との違い
強盗傷人罪(強盗傷害罪)は、強盗の犯人が他人に怪我をさせることに対する認識・認容(故意)を持ちつつ他人を怪我させることで成立し得る犯罪です。強盗致傷罪と強盗傷人罪(強盗傷害罪)との違いは、人の怪我という結果の発生に対する故意があるかないかです。すなわち、故意がない場合は強盗致傷罪、故意がある場合は強盗傷人罪(強盗傷害罪)が適用されます。
なお、強盗致傷罪も強盗傷人罪(強盗傷害罪)も適用される条文は同じ刑法240条前段で、強盗傷人罪の罰則も「無期又は6年以上の懲役」です。
強盗致傷で未遂が成立することはある?
刑法243条(窃盗・強盗の未遂についての規定)では「刑法240条(強盗致傷・強盗致死についての規定)の未遂は罰する」と規定されていますから、規定を素直に解釈すれば強盗致傷罪の未遂は成立すると考えられます。しかし、実際には、強盗致傷罪の未遂は成立しないと考えられています。
まず、そもそも強盗致傷罪は人の怪我という結果が発生することが犯罪の成立要件ですから(結果が発生しなかった場合は強盗罪または事後強盗罪が成立するにすぎません)、強盗致傷罪の未遂が成立するケースとして考えられるのは、強盗が未遂の場合だけです。
しかし、前述のとおり、強盗致傷罪の「強盗」は既遂のみならず未遂の場合も含まれますし、強盗致傷罪は人の財物よりも人の身体を保護する罪ですから、強盗が未遂でも人の怪我という結果を発生させた以上は強盗致傷の既遂罪が成立すると考えられています。
なお、刑法243条が適用されるのは、強盗犯人が故意に人を殺害しようとしてこれを遂げることができなかった強盗殺人未遂罪のケースだと考えられています(最高裁昭和32年8月1日など)。
強盗致傷の法定刑と時効
強盗致傷罪の法定刑は、無期又は6年以上の懲役です。酌量減軽(刑法第66条)や自首減軽(刑法第42条1項)がなされない限り執行猶予がつかない実刑判決になります。また、「無期」とは無期懲役を指しますが、無期懲役の仮釈放までの平均期間は30年超え35年以内が一般的ですので、強盗致傷罪がいかに重い犯罪であるかがわかります。
また、強盗致傷の公訴時効は、15年です(刑事訴訟法第250条)。
強盗致傷は裁判員裁判の対象事件
裁判員裁判とは、国民の中から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加する制度です。裁判員裁判の対象となる事件は、死刑まはた無期にあたる罪など、一定の重大犯罪の疑いで起訴された事件です。
そして、上記の通り、強盗致傷の罰則は「無期または6年以上の懲役」ですので、強盗致傷は裁判員裁判の対象事件となります。
強盗致傷で執行猶予はつく?
強盗致傷でも執行猶予がつく場合があります。
執行猶予の条件について定めた刑法第25条では「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言い渡しを受けたときは~その刑の全部の執行を猶予することができる」と規定されています。前述の通り、強盗致傷罪の罰則は「無期または6年以上の懲役」ですので、執行猶予がつく条件が満たされていません。つまり、原則的には強盗致傷は執行猶予がつかない罪です。
しかし、酌量減軽について定めた刑法第66条では「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる」と規定されています。情状酌量が認められると、法定刑の短期の2分の1が、科すことができる刑の下限となります。強盗致傷の法定刑の短期は6年ですから、情状酌量によりその2分の1である3年の懲役刑まで減軽してもらえれば執行猶予がつく可能性も出てくるのです。
情状酌量の判断にあたり考慮される事情としては以下であげるようなものがあります。
- 犯行態様(犯行の回数、武器使用の有無、単独か共犯か)
- 犯行の計画性(偶発的か計画的か)
- 犯行の動機(私利私欲のためか、経済的な困窮からか)
- 犯行の結果(怪我・被害の程度、被害金額、後遺症の有無など)
- 被告人の反省の程度(当初から罪を認めているか、不合理な弁解に終始して罪を否認しているかなど)
- 被害弁償、示談成立の有無
- 更生可能性(被告人に更生意欲があるか、適切な監督者・身元引受人がいるか、更生に向けた環境が整っているかなど)
- 再犯可能性(前科・前歴の有無、執行猶予中かどうか、常習性の有無、犯行の原因は消滅しているか、犯行グループから脱却できているかなど)
情状酌量で執行猶予をつけるために被告人ができることとしては、反省の態度を示して更生可能性があると判断してもらうこと、そして、被害弁償・示談の成立が重要となってくるでしょう。
強盗致傷の量刑傾向
続いて、実際の強盗致傷罪の刑の重さ(量刑)をみていきましょう。
強盗致傷の量刑・執行猶予になる割合
令和4年度版犯罪白書の「裁判員裁判対象事件 第一審における判決人員(罪名別、裁判内容別)」によると、令和3年度中に強盗致傷罪で起訴され判決を受けた人(215人)の量刑は次のとおりです。
【無罪or無期~懲役3超】
無罪 | 有罪 | ||||||
無期 | 20年超 | 20年以下 | 15 年以下 | 10年以下 | 7年以下 | 5年以下 | |
1 | - | 1 | - | 12 | 53 | 62 | 45 |
【3年以下】
実刑(※1) | 全部執行猶予(※2) |
8 | 33(20) |
※1 一部執行猶予判決を受けた人はいません
※2 ( )は保護観察付き執行猶予判決を受けた人の数です
強盗致傷罪で無罪判決を受けた人は「1人」で全体の0.4%、有罪判決を受けた人は「214人」で全体の約99%です。
次に、有罪判決を受けた人のうち、実刑判決を受けた人は「181人」で全体の約85%、全部執行猶予判決を受けた人は「33人」で全体の約15%です。
以上からすると、強盗致傷罪で有罪だと、全部執行猶予判決を受ける可能性はないとはいえないものの、高い確率で実刑判決を受けてしまう可能性があることがわかります。
強盗致傷は初犯でも重い刑期になる?
初犯であることは、犯人にとって有利な事情として裁判官に考慮してもらえることは間違いありません。
しかし、強盗致傷罪は強盗という極めて悪質な手段によって他人の財産に損害を加えている上に、人に怪我まで負わせているわけですから、数ある犯罪の中でも極めて悪質性の高い犯罪として位置づけられています。それゆえ、強盗致傷罪の罰則は「無期又は6年以上の懲役」と重く設定されているわけです。
実際にどれほどの量刑になるかは、犯行態様、被害者の結果、被害者の処罰感情などの諸事情を勘案して判断されることになりますが、上の量刑傾向をみてもおわかりいただけるように、強盗致傷罪の場合、一般的には、初犯であっても厳しい量刑を受けることは覚悟しておかなければいけません。
強盗致傷の弁護活動
事実を認める場合は示談交渉が主な弁護活動となります。
検察官は起訴、不起訴の刑事処分を決めるにあたり、裁判官は量刑を決めるにあたり、示談が成立しているかどうかを確認します。示談の成立は刑事処分や量刑の判断にあたって最も影響が大きい事情の一つですから、仮に、示談が成立していれば不起訴、執行猶予となる可能性が高くなります。
もっとも、強盗致傷の加害者との示談交渉に直接応じる被害者などいません。被害者側が弁護士を立てる可能性もあります。相手と対等な立場で示談交渉を進めるには弁護士の力が必要です。身柄を拘束された場合は必然的に弁護士に示談交渉を依頼しかありません。
一方、事実を認めない場合は依頼者の主張に沿った弁護活動を展開します。
そもそも犯行現場におらず自分は犯人ではない、強盗致傷は成立しない(窃盗罪と傷害罪なら成立する)など、様々な主張をしていくことが考えられます。まずは、依頼者の方からじっくり話を聴き、あわせて取調べなどに対するアドバイスも行っていきます。
当事務所では、強盗致傷の示談交渉・不起訴・執行猶予獲得の弁護を得意としております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、罪に問われる可能性のある方、逮捕された方のご家族の方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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