万引きは窃盗の手口の一つで、発覚すると窃盗罪という犯罪に問われます。
そして、万引きが私たちに身近な犯罪であることから、窃盗罪も比較的身近な犯罪といってよいのではないでしょうか?
もっとも、窃盗罪がどんな犯罪なのか詳細までご存知の方は少ないと思います。
そこで、本記事では、窃盗罪の構成要件、罰則について解説した上で、窃盗罪の検挙率、身柄率、不起訴率、弁護活動について弁護士が詳しく解説します。
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目次
窃盗罪の構成要件
(窃盗)
第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
窃盗罪が成立するための要件(構成要件)は、
- ① 他人の財物
- ② 窃取
- ③ 故意
ということになります。
以下、それぞれの要件について詳しく解説します。
①他人の財物
他人の財物とは自分以外の人が支配(占有)する財物という意味です。
この他人(占有者)の財物に対する支配は、どういう「形態」で財物を支配しているかという「客観的要素」と占有者の財物に対する「支配の意思」がどの程度及んでいるかという「主観的要素」との2つの要素から成り立ちます。
まず、客観的要素については、占有者が財物を把持・監視しているように、財物が占有者の物理的・現実的な支配力の及ぶ場所にあることを必要とするものではなく、社会通念上、占有者の支配力が及ぶ場所と認められる限り、占有者の財物に対する支配力は及んでいると判断されます。
たとえば、占有者(Bさん)が用事でたまたま事務所の机の上に財布を置いたままにして一時的に席を離れた隙に、Aさんがその財布を奪ったという場合、確かに、Bさんは財布を現実に把持・監視しているわけではありませんが、その財布に対するBさんの支配力は及んでいる(財布が「他人の財物」である)と判断されるでしょう。
次に、主観的要素については、財物を支配しているという積極的な意思表示や財物一つ一つへの支配の意思までを必要とするものではありません。
財物に対する客観的な支配が認められ、かつ、その支配の範囲内にある財物一般に対する意思がある限り、占有者が積極的に財物を放棄するという意思表示をしない以上、占有者の財物に対する支配の意思は及んでいると判断されます。
すなわち、主観的要素は、占有者の財物に対する客観的要素に疑義が生じてきた際にはじめて検討するという程度の補完的な意味合いでしかありません。
したがって、上記の置き忘れの例でも、占有者(Bさん)の財布に対する客観的要素を満たしている限り、Bさんが財布を放棄したという意思表示がない以上、Bさんの財布に対する支配の意思は及んでいると判断されます。
窃取
窃取とは、暴行・脅迫によることなく、占有者の意思に反してその占有を排除し、目的物を自己又は第三者の占有に移すことをいいます(暴行・脅迫を手段とした場合が強盗罪(刑法236条、5年以上の有期懲役)です)。
万引き、置き引き、スリ、車上荒らし、などの言葉は「窃取の手口」を表現する言葉にすぎず、本質的な意味はすべてこの「窃取」という言葉に集約されます。
故意
窃盗罪の故意とは、他人の占有を排除して、他人の財物を自己又は第三者の占有に移そうとする意図のことです。
また、窃盗罪の場合、上記の故意に加えて不法領得の意思が必要とされています。
不法領得の意思とは、判例(最判昭和26年7月13日)によると「権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従って利用若しくは処分する意思」と解されています。
「権利者~自己の所有物として」までを権利者排除意思、「その経済的用法~処分する意思」までを経済的利用処分意思といいます。
もっとも、この経済的利用処分意思の意義を上記のように厳格に解すると、たとえば、下着のコレクション目的で下着を盗んだ犯人を窃盗罪で処罰できないという不都合が生じます。
なぜなら、下着の経済的用法とは下着を着用することであって、上記の窃盗犯人には経済的利用処分意思がないと判断せざるを得ないからです。
そのため、経済的利用処分意思については「財物から生じる何らかの効用を享受する意思」と緩やかに解する裁判例(東京地裁昭和62年10月6日)もあり、実務でもそのように運用されているのが現実です(下着の窃盗犯ももちろん窃盗罪で処罰されています)。
窃盗罪の罰則
窃盗罪の罰則は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
窃盗の手口と検挙件数
窃盗の手口は、万引き、侵入盗(空き巣、忍び込み、事務所荒らし、出店荒らしなど)、自転車盗、車上狙い、置引き、など様々です。
令和2年度版「犯罪白書」(以下、犯罪白書といいます)の「窃盗 検挙件数の手口別構成比」によると、令和元年度の窃盗罪の検挙件数(警察が窃盗犯人(被疑者)を特定し、捜査を開始した件数)は「180,897件」で、手口別(検挙件数上位5位のもの)に分けると以下の表のとおりとなります。
窃盗の手口別検挙件数(令和元年度)と逮捕・起訴の可能性 | |||
---|---|---|---|
窃盗の手口 | 検挙件数 | 逮捕の可能性 | 起訴の可能性 |
万引き | 65,814 | 初犯、被害金額が少額の場合は逮捕されないこともある | 被害弁償、示談なしでも微罪処分、不起訴で終わることも |
侵入盗 | 37,083 | 初犯であっても逮捕・勾留される可能性が高い | 被害弁償、示談すれば不起訴となる可能性もある |
自転車盗 | 11,004 | 被害者に自転車を還付すれば逮捕されない可能性大 | 被害者に自転車を還付し、示談すれば不起訴で終わることも |
車上ねらい | 10,951 | 住居不定者により行われることも多く、逮捕の可能性が高い | 被害弁償、示談できなければ起訴される |
置引き | 6,799 | 万引き、自転車盗よりは逮捕・勾留される可能性が高い | 被害弁償、示談できれば不起訴で終わることも |
窃盗罪と身柄拘束率(逮捕・勾留率)
窃盗が発覚するとどれくらいの確率で逮捕されるのでしょうか?
この点、犯罪白書の「検察庁既済事件の身柄状況(罪名別)」によれば、窃盗罪の逮捕率は約33%(窃盗罪で処分を受けた人「87,681人」のうち、窃盗罪で警察に逮捕された人「28,802人」)で、3人に1人の確率で逮捕されていることが分かります。
また、窃盗罪で逮捕された後、勾留された勾留率は約90%(窃盗罪で逮捕され検察庁へ送検された人「26,609人」のうち、勾留された人「23,881人」、勾留されなかった人は「902人」)で、逮捕されるとかなり高い確率で勾留されてしまうことが分かります。
窃盗罪と不起訴率
犯罪白書の「検察庁終局処理人員(罪名別)」によれば、窃盗罪の不起訴は約57%(起訴、不起訴となった人員「74,485人」のうち不起訴となった人員は「42,323人」)でした。
不起訴のうち、被害者に対する被害弁償や被害者との示談で起訴猶予による不起訴となった人員は「31,787人」でした。
また、起訴された人員「31,162人」のうち、正式起訴された人員は「26,008人」、略式起訴された人員は「6,154人」でした。
窃盗罪の弁護活動
窃盗罪の弁護活動は、被害者への謝罪・被害弁償・示談交渉、再犯防止に向けた環境作りのサポート、身柄拘束に関する意見書を提出する・不服を申し立てる、犯人ではないことを主張する、の4点です。
被害者への謝罪・被害弁償・示談交渉
罪を認める場合は、まず、被害者へ謝罪することから始めます。
謝罪は、弁護士が立会いの下、被害者に直接会って謝罪する、あるいは、謝罪文を書き、弁護士を通じて被害者に渡す、という方法があります。
被害者に直接会って謝罪する場合は、当日混乱することがないようあらかじめ打ち合わせを行います。
謝罪文は一度、弁護士が目を通し、内容が適切かどうかを確認し、できあがったものの写しをとります。
謝罪が終わったら、被害弁償、示談交渉を行います。
窃盗(特に万引き)の場合は、被害者の意向しだいで被害金額のみの弁償(被害弁償)で済むこともありますが、それに加えて数万円から数十万円を加算して示談することもあります。
被害弁償した際の領収書、示談した際の示談書、謝罪文の写しは検察官や裁判所に提出し、不起訴(起訴猶予)や執行猶予の獲得を目指します。
再犯防止に向けた環境作りのサポート
窃盗の前科・前歴が複数あり、窃盗の常習性が認められる場合などは再犯防止に向けた環境づくりをサポートします。
まずは、窃盗に至った経緯、動機、背景を丁寧に分析し、原因ごとの再犯防止策をアドバイスします。
友人・知人との交友関係が原因の場合は、縁を切ることの大切さを教示し、具体的な切り方をアドバイスします。
精神的な病気(窃盗症)が原因の場合は、専門の病院を紹介し、定期的に通院しているかどうかを確認しながら、治療の経過、症状の回復具合をみていきます。
再犯防止に向けた活動内容や経過を報告書にまとめ、検察官や裁判所に提出して不起訴(起訴猶予)や執行猶予の獲得を目指します。
身柄拘束に関する意見書を提出する、不服申し立てをする
逮捕される前は、対策を講じた上で、在宅事件のまま捜査を進めるべき旨の意見書を作成し、捜査機関に提出します。
逮捕された場合は、検察官に対しては勾留すべきではない旨の意見書、裁判官に対しては検察官の勾留請求を許可すべきではない旨の意見書を提出する、あるいは検察官や裁判官と直接面談して勾留すべきでないことを主張します。
万が一、勾留された場合は、その裁判官の判断に対して不服(準抗告)を申し立てます。
勾留期間ははじめ10日ですが、不服申し立てが認められた場合は10日を待たずして釈放されます。
犯人ではないことを主張する(犯人性を否認する)
窃盗罪では、目撃者等から犯行を現認された場合を除き、被疑者・被告人と犯人との同一性、すなわち犯人性を否認することが多いです。
犯人性を否認する場合は、被疑者・被告人の主張の裏付けとなる証拠を収集し、捜査機関が被疑者・被告人が犯人であることを根拠づける証拠の証明力に疑義があることを指摘するなどして不起訴(嫌疑不十分)や裁判での無罪獲得に努めます。
窃盗事件の弁護士費用の相場
刑事事件の弁護士費用は着手金、報酬金、日当費、実費に分けることができます。
着手金は事件の難易度(在宅事件か身柄事件か、認め事件か否認事件か、単独事件か共犯事件かなど)によって異なりますが、20万円から40万円(税別、以下同じ)が相場です。
着手金は、弁護士に依頼した直後に発生する費用で、弁護活動の成果にかかわらず返金されません。
報酬金は弁護活動の成果に応じて発生する費用で、「釈放」につき20万円、「執行猶予」・「不起訴」につき30万円、「被害弁償」・「示談」につき10万円などと設定されています。
弁護活動の成果の数が多ければ多いほど報酬金は高くなります。
日当費は弁護活動に対する固定費で、「法廷出廷(1回)」につき5万円、「接見(1回)」、「(事務所外での)示談交渉」につき1万円などと設定されています。
法廷への出廷や接見の回数などが多くなればなるほど日当費は高くなります。
実費は交通費や郵送費など、弁護活動によって実際にかかった費用です。
以上より、在宅事件で、被害者との示談が成立し、不起訴を獲得したと仮定した場合、弁護士費用は70万円前後の着手金、報酬金(着手金20万円、報酬金50万円(=不起訴30万円、被害弁償10万円、示談10万円)に日当費と実費を加算した弁護士費用がかかる計算です。
窃盗事件の弁護士による解決例
最後に、窃盗事件の弁護士による解決例をご紹介します。
ドラッグストアでの万引きで、会社側と交渉して不起訴(起訴猶予)を獲得した例
公務員である被疑者が、育休期間中に、ドラッグストアで商品6点を万引きしたという事案です。
被疑者は、別のドラッグストアでも万引きしていましたが、その件は被疑者自らが商品を買い取り、被害弁償を済ませていました。
しかし、本件は、会社の方針で被疑者からの被害弁償には応じないという決まりとなっていたため、弁護士に依頼されました。
弁護士は、会社側に謝罪の意思を伝え、被害者に代わって被害品を買い取り、示談を成立させて会社側と示談書を取り交わしました。
そして、検察官に示談書(写し)を提出した結果、不起訴(起訴猶予)を獲得することができました。
また、弁護士は被疑者の職場にも、被疑者が万引きに至った経緯や被疑者の反省の程度、職場復帰への意欲等を丁寧に伝えました。
その結果、被疑者は懲戒処分(停職)を受けたものの免職は免れることができました。
被害額が大きく、起訴が見込まれたものの不起訴(起訴猶予)を獲得した例
被疑者が、大型ショッピングストアで商品かごに次々と商品を入れ、レジで精算することなく商品売り場を後にしたところ、保安員に見つかったという事案です。
被害額は約5万円にも上り、被疑者に万引きの前歴があったことから起訴が見込まれる事案でしたが、弁護士がお店側に対して被疑者が反省していること、二度とお店に立ち入らないことを誓約していることを伝え、被害品の買い取りを行って示談した結果、不起訴(起訴猶予)を獲得することができました。
執行猶予期間中の万引きで不起訴(起訴猶予)を獲得した例
被疑者は、万引き前科3犯(最終前科は懲役1年 3年間執行猶予)を有し、執行猶予期間中にスーパーの食料品を万引きしたという事案です。
被疑者自身、「執行猶予期間中に万引きすれば、実刑となり刑務所に入らなければならなくなる」という自覚があったものの、現実味を帯びてくると不安で夜も眠れない日々を過ごしていたようで、母親とともに何とかして実刑を避けることはできないかという思いで弁護士に相談に来られました。
弁護士としては、まずスーパーに謝罪を申し入れ、示談交渉を始めて示談を成立させました。
また、被疑者は万引き前科3犯を有し、被疑者自身も本件以外にも2、3件ほど万引きをしたと話していたことから、窃盗症(クレプトマニア)の疑いがあり、専門病院においてカウンセリングや治療を受けていただくことにしました。
被疑者には家族の協力を得ながら定期的に病院に通院していただき、通院の都度、弁護士に報告していただいてその結果を報告書にまとめました。
また、ご家族にはこれまで被疑者の万引きを防止できなかった理由を振り返っていただき、今後は反省点を活かしながら被疑者の再犯防止、更生のため協力していただけることを誓約していただきました。
そして、弁護士が、検察官に対して、被害店舗との間で示談が成立していること、被疑者が専門の病院に定期的に通院しており、家族も被疑者の更生に協力する旨誓約していることなどを丁寧に伝えた結果、不起訴(起訴猶予)を獲得することができました。
執行猶予期間中の万引きで起訴されたものの、再度の執行猶予を獲得した例
被疑者(60代、専業主婦)は、スーパーで買い物中、お金を出すのが惜しくなり、商品数点を買物袋の中に入れ、他の商品の精算を済ませてレジを通過したところで、被疑者の犯行の一部始終を目撃していた保安員に現行犯逮捕されたという事案です。
被疑者は、本件より約1年前に、同じ万引きで懲役6月、3年間執行猶予の有罪判決を受けたばかりで、本件はその執行猶予期間中の犯行でした。
被疑者は、逮捕後送検される前に釈放されましたが、その後、在宅事件として捜査が進められ起訴されました。
被疑者は、裁判所から起訴状謄本を受け取って起訴されたことを知り、実刑を避けたい、再度の執行猶予を獲得したい、といいう思いで相談に来られました。
弁護士は、被疑者に窃盗症の疑いがあると考え、被疑者やその家族に専門病院への通院、治療を受けることを勧めました。
裁判では、被告人が被害品を買い取って被害弁償していること、被害店舗が被告人の処罰を望んでいないことを主張し、さらには被告人の治療にあたる専門家を証人として出廷させて、現在の治療の進捗状況、症状の回復具合、今後の治療、症状の回復見込みなどについて尋問し、さらに被告人の夫を証人として出廷させて今後、被告人の更生のために最大限サポートしていくことを誓約していただきました。
その結果、判決では再度の執行猶予(懲役1年 5年間執行猶予 保護観察付)を獲得することができました。
まとめ
窃盗罪は「他人の財物」、「窃取」、「故意」を成立要件とする犯罪で、罰則は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と財産犯では珍しく罰金刑が設けられています。
窃盗罪の場合、逮捕されないことの方が多いですが、窃盗の手口、被害金額等によっては逮捕されることも十分に考えられます。
罪を認める場合は被害者への謝罪、被害弁償、示談が弁護活動の中心となりますが、令和元年度中、窃盗罪で処分された人のうち約半数の方が起訴猶予による不起訴処分を受けています。
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