ひったくりとは、手荷物を持っている歩行者や籠に荷物を入れている自転車に近づき、その背後から、あるいはすれ違いざまに瞬間的に物を奪い取る犯罪手口の一つです。
警察に事件が発覚すると、主に窃盗罪または強盗罪で検挙・逮捕されます。窃盗の場合は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金、強盗の場合は5年以上の有期懲役が科せられます。
逮捕されると、刑事処分(起訴または不起訴)が決定するまで最大で23日間身柄を拘束されることになります。
この記事では、窃盗・強盗事件に強い弁護士が、
- ひったくりをするとどんな罪に問われるのか
- ひったくりで逮捕される確率
- ひったくりで逮捕されるとどうなるのか
- ひったくりで逮捕された場合の対処法
- ひったくりで逮捕された事例
などについてわかりやすく解説していきます。
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目次
ひったくりとは
冒頭でお伝えしたように、ひったくりとは、手荷物を持っている歩行者や籠に荷物を入れている自転車に近づき、その背後から、あるいはすれ違いざまに瞬間的に物を奪い取る犯罪手口の一つです。
ここでは、
- ひったくりの手口
- ひったくりの被害にあいやすい方
- ひったくりの被害が発生しやすい時間帯
について解説します。
ひったくりの手口
ひったくりの手口としては、
- 深夜など人目につかない時間帯を狙う
- 気づかれないよう被害者の背後から近づく
- 女性や高齢者を狙う
- 逃走しやすいよう自転車、原付バイクを使う
といった点に特徴があります。
ひったくりの被害に遭いやすい方
ひったくりに遭いやすいのは圧倒的に男性よりも女性です。
警察庁の「令和3年の刑法犯に関する統計資料」によると、令和3年に警察が認知したひったくりの件数「544件(性別が判明しているもの)」のうち「412件(全体の約75.2%)」が、女性が被害者のひったくり事案だったとのことです。
男性がよく利用するリュックやたすき掛けのバッグと違い、女性がよく利用している手提げバッグやショルダーバッグはすれ違いざまに奪い取りやすいといった点がその理由の一つとして挙げられます。
また、女性のほか高齢者もひったくり被害に遭いやすい傾向です。女性や高齢者がひったくりの被害に遭いやすい理由としては、抵抗がない、あるいは抵抗があっても力が弱いため比較的簡単に物を奪いやすい、逃走しやすいといった点をあげることができます。
その他、女性・男性、若年者・高齢者を問わず、
- 荷物を車道側にもって歩いている人
- 何らの防犯対策をとらずに荷物を自転車の籠に入れている人
- 電話をしながらスマホを注視しながら歩いている人
- 深夜に出歩く機会が多い人
はひったくりの被害に遭いやすいといえます。
ひったくりの被害が発生しやすい時間帯
警察庁の「令和3年の刑法犯に関する統計資料」によると、令和3年に警察が認知したひったくりの件数「535件(被害者の年齢、発生時間帯が判明しているもの)」の時間帯ごとの件数は次のとおりです。
【午前】
0-2時 | 2-4時 | 4-6時 | 6-8時 | 8-10時 | 10-12時 |
46 | 24 | 35 | 8 | 18 | 42 |
【午後】
12-14時 | 14-16時 | 16-18時 | 18-20時 | 20-22時 | 22-24時 |
41 | 53 | 69 | 66 | 85 | 48 |
これからすると、ひったくりの件数が多いのが「20-22時」の時間帯で、次いで、「18-20時」が多く、両者で全体の約28.2%を占めており、「18-6時」までだと全体の約57%を占めており、暗くなった時間帯、深夜の時間帯にひったくりの被害に遭いやすいことがわかります。
暗くなった時間帯だと、日中に比べて人通りも少ないことから目撃者も少なく、バイクのナンバーや服装、背格好が覚えられにくいといった利点が加害者にあるためです。
ただし、10-16時の時間帯もひったくりの件数は少なくありません。この時間帯は買い物などで外に出ることが多い高齢者が狙われやすい時間帯といえます。
ひったくりをするとどんな罪で逮捕される?
警察にひったくりしたことが発覚すると主に窃盗罪、強盗罪で検挙・逮捕される可能性があります。
窃盗罪
窃盗罪は刑法235条に規定されています。
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。刑法 | e-Gov法令検索
窃取とは、専門的にいうと、財物の持ち主の意思に反して持ち主の財物を奪い、自己の占有下に置く行為をいいます。ひったくりも窃取の一態様ですから、ひったくりを行えば窃盗罪に問われる可能性があります。
窃盗の罰則は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
強盗罪
ひったくりの多くは窃盗罪に問われますが、たとえば、荷物とハンドルを右手で握って自転車を運転している被害者の背後から原付バイクで近づき、追い越しざまに荷物を無理やり引っ張るなどして、被害者に転倒の危険を感じさせて荷物を奪い取った、というように、物を奪い取る手段として暴行を用いた場合は強盗罪に問われる可能性もあります。
強盗罪は刑法236条に規定されています。
(強盗)
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2(略)刑法 | e-Gov法令検索
このように、強盗罪は暴行又は脅迫を手段として他人の財物を奪い取る犯罪です。また、強盗罪の暴行又は脅迫は、相手の反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要があると考えられています。
この点、ひったくりでは暴行又は脅迫を手段としないものが多く、ひったくりで強盗罪に問われるケースは多くはありません。ただし、ひったくりだからといって強盗罪が適用されないわけではなく、相手の財物を奪うときにとった何らかの手段が、相手の命や体に危険を及ぼすおそれが大きいと認められる場合は、強盗罪の暴行にあたるとして強盗罪に問われる可能性があります。
強盗罪の罰則は、5年以上の有期懲役です。
また、強盗の結果、相手に怪我を負わせた場合は強盗致傷罪(刑法240条前段)、相手を死亡させた場合は強盗致死罪(刑法240条後段)に問われる可能性もあります。強盗致傷罪の罰則は無期又は6年以上の懲役、強盗致死罪の罰則は死刑又は無期懲役です。
ひったくりで逮捕される確率は?
令和4年版犯罪白書「検察庁既済事件の身柄状況」によりますと、令和3年度中に検察庁で、窃盗罪及び強盗罪(事後強盗、昏酔強盗、強盗殺人、強盗・強制性交等を含む)で処分を受けた人の総数、逮捕者、非逮捕者の数は次のとおりです。
【窃盗罪】
総数 | 逮捕者 | 非逮捕者 |
76,587 | 24,938 | 51,649 |
【強盗罪】
総数 | 逮捕者 | 非逮捕者 |
1,695 | 730 | 965 |
以上からすると、窃盗罪は約33%、強盗罪は約43%の割合で逮捕されていることがわかります。
また、強盗致傷事件(強盗致傷罪のほか、常習特殊強盗致傷罪、強盗致死罪を含む)については、2021年検察統計年表によると検挙件数、逮捕件数、非逮捕件数は次のとおりです。
【強盗致傷事件】
検挙件数 | 逮捕件数 | 非逮捕件数 |
872 | 283 | 589 |
以上からすると、強盗致傷事件では約32%の割合で逮捕されていることがわかります。
ひったくりで逮捕された後の流れ
ひったくりをして窃盗や強盗などの罪で逮捕された後は、以下の流れで手続きが進んでいきます。
- 警察官の弁解録取を受ける
- 逮捕から48時間以内に検察官に事件と身柄を送致される(送検)
- 検察官の弁解録取を受ける
- ②から24時間以内に検察官が裁判官に対し勾留請求する
- 裁判官の勾留質問を受ける
→勾留請求が却下されたら釈放される - 裁判官が検察官の勾留請求を許可する
→10日間の身柄拘束(勾留)が決まる(勾留決定)
→やむを得ない事由がある場合は、最大10日間延長される - 原則、勾留期間内に起訴、不起訴が決まる
- 正式起訴されると2か月間勾留される
→その後、理由がある場合のみ1か月ごとに更新
→保釈が許可されれば釈放される - 勾留期間中に刑事裁判を受ける
ひったくりで逮捕されてから最大3日間(48時間+24時間)は弁護士以外の者との連絡はとれません。そのため、会社勤めされている方や学校に通われている方は、弁護士を介して家族から会社や学校に休みの連絡を入れるようお願いしましょう。また、勾留が決定すると、刑事処分(起訴・不起訴)が決まるまで最大20日間身柄拘束されます。もし起訴されたら日本では99%以上の確率で有罪判決となってしまいます。そのため、ひったくりで逮捕されてから刑事処分が決まるまでの最大23日間の間に被害者と示談を成立させるなど不起訴に向けた弁護活動が重要となります。
ひったくりで逮捕された場合の対応
万が一ひったくりで逮捕された場合は以下の対応をとってください。
被害者との示談成立が最も重要
ひったくりで逮捕された場合、引き続き勾留される可能性も高いです。
身体拘束期間に捜査が進められ、検察官によって公訴提起(起訴)された場合には、99%以上の確率で有罪判決が出されます。執行猶予が付される可能性はありますが逮捕された段階の初動としては起訴されないように最善を尽くすべきでしょう。
そして起訴・不起訴の判断に非常に重要な影響を影響を与えるのが、「被害者との示談」が成立しているか否かです。
示談とは、被害者が金銭を受け取る代わりに加害者を宥恕するという内容で合意書面を取り交わすことを指します。
示談が成立していれば、一定程度被害者の被害が回復していると捜査機関に判断される可能性があります。また、被害者が宥恕している点で被疑者に刑罰を科す必要性が減少したと判断される可能性もあります。
そのため、ひったくり事件で被害者と示談が成立している場合には、被疑者にとって有利な事情として考慮されることになります。
したがって示談が成立した場合には、被疑者が示談金その他解決金などを被害者に支払ったあとで、示談書や示談金の領収書などを証拠として検察官に提出していくことになります。
弁護士に刑事弁護を依頼する
ひったくり事件での示談の重要性についてお伝えしましたが、被疑者が身体拘束を受けている場合には、自由に被害者と示談交渉をすることはできません。
そこで、弁護士に刑事弁護を依頼して速やかに示談交渉のために活動してもらうことが不起訴を獲得するためにはもっとも重要となります。
ひったくりで逮捕された後に刑事弁護を依頼するには、警察官に弁護士との接見を要請してください。
要請するタイミングは逮捕された直後です。要請のタイミングが遅れれば遅れるほど、弁護士と接見するタイミングも遅れます。また、警察が接見を要請するまでの間、弁護士に接見を要請するまでの間、弁護士が要請を受けてから接見室に出向くまでの間と、3段階もタイムラグがありますから、できる限りはやく弁護士と接見するには、接見のとっかかりとなる要請のタイミングを早くするべきです。
逮捕される前に刑事弁護を依頼していた弁護士がいる場合はその弁護士との接見を要請しましょう。依頼していない場合でも、無料相談などを通じて知っている弁護士がいれば要請はできますが、必ず接見に来てくれるわけではありません。特に指定がない場合は当番弁護士との接見を要請することもできます。
弁護士との接見を通じて「この弁護士に刑事弁護を依頼したい」と思った場合は、弁護士にその旨を申し出て手続きをとってもらいましょう。弁護士に依頼した後は、弁護士が早期釈放、不起訴獲得などの向けて被害者との示談交渉などの弁護活動を始めてくれます。
ひったくりの逮捕事例
最後に、ひったくりの逮捕事例をご紹介します。
令和4年10月22日未明、東京都港区内の路上で、歩行中の38歳の女性の背後から原動機付きバイクで近づき、現金約5万円などが入ったトートバックをひったくったとして48歳の男が逮捕されています。男は令和4年1月~10月にかけて関東地方で合計66件のひったくりを繰り返していたとみられており、本件はその一部の犯行とのことです。
令和4年10月、徳島市内で、自宅に帰宅するため50代の女性が運転していた自転車の前かごから、現金約4000円などが入ったバックをひったくったとして、市内に住む男子高校生が再逮捕されています。男子高校生はこの事件の約2時間前、徳島市内で、男性が運転していた自転車の前かごから巾着袋などをひったくったとして逮捕されており、本件はその余罪です。
令和5年1月27日、千葉県柏市内の病院駐車場で、歩行中の女性の背後から近づき、携帯電話などが入った手提げバックをひったくった疑いで39歳の女が逮捕されています。女は同病院への通院歴があり、防犯カメラの映像からひったくりの犯人として検挙されています。
平成26年7月22日午後5時頃、埼玉県越谷市内の市道で、自転車に乗って帰宅中の女性から、現金約1万5千円が入ったバックをひったくり、その際、女性の方を押してその場に転倒させ、左腕を骨折させるなどの重傷を負わせたとして強盗致傷の疑いで、市内の中学校に通う中学生が逮捕されています。
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