遺留分放棄は生前にできるが念書だけだとダメ!手続き方法を解説

相続放棄という言葉は皆様どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。これはその名の通り、相続する権利を放棄する制度のことです。相続放棄には、自分が本来もらえるはずの財産を手放すことで、他の相続人とトラブルになることを避けることができる効果があります。

じつは、これに似た効果をもつ制度として、遺留分の放棄というものがあります。しかし、遺留分の放棄と相続放棄は、トラブル回避という効果は似ているものの、様々な点で異なります。

今回は、遺留分の放棄について、その方法や効果、放棄を行う時の注意点などをご紹介します。

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遺留分放棄とは

遺言書にいくら「一人の相続人に全ての財産を相続させる」などと書かれていても、兄弟姉妹以外の子供や配偶者、父母などの相続人は、相続財産のうちの一定割合を自分に渡すように請求できます。このように、遺言によっても侵害することができない相続財産のことを「遺留分」と呼びます。

この遺留分を「要りません」といって放棄することが、遺留分放棄です。

遺留分放棄は、基本的に「相続が起きた後のトラブルを回避する」ために行われるものです。例えば、被相続人が会社の経営者で、長男だけに会社を継がせたいと思っていたとしましょう。相続人には長男のほかに、次男がいるとします。このとき、被相続人の相続財産のほとんどが会社の株式だったとしたら、普通に考えると「株式を長男・次男で分ける」となるでしょう

ですが、株式を分けてしまったら、会社経営に次男が関わってくることになってしまいます。被相続人が「長男に全ての株を譲る」と遺言書に残していても、被相続人の死後に次男が遺留分を主張してしまえば意味がありません。ここで生前に次男に遺留分放棄をしてもらえれば、会社の経営権を長男に集中させることができます。

生前の遺留分放棄の手続きや効果について

遺留分放棄は、被相続人が亡くなる前にもすることができます。ただ、その手続きの方法は被相続人の生前と死後とでは大きく異なります。特に生前の遺留分放棄はかなり手間がかかりますので、注意が必要です。

なぜ家庭裁判所の許可を求める必要があるのか

生前の遺留分放棄における大きな特徴は、家庭裁判所の許可が必要なことです。なぜ生前の遺留分放棄のときだけ、家庭裁判所の許可が必要なのでしょうか?

遺留分を有する法定相続人にしてみれば、自分の利益を放棄するだけのこと。他の人に迷惑をかけることがないのなら、口頭で放棄できたり、覚書などを書いたりすれば放棄できたほうが簡単で楽なようにも思えます。

しかしそうすると、相続人を言いくるめて遺留分を放棄させる悪い相続人が出てくる可能性があります。数千万、数億単位の大きなお金が動く相続だけではなく、あまり財産がない相続であっても、いざ相続となると紛争になることが非常に多いのです。

法律は、遺留分を有している法定相続人の権利を守るため、生前の遺留分放棄に関しては裁判所が関与することにし、条件を厳しく定めました。

生前の遺留分放棄の申し立てについて

具体的な遺留分放棄の許可申し立ての概要は以下のとおりです。

1.申立人

遺留分を有する相続人

※18歳以下の未成年は、一定の行為を除いては単独では有効な法律行為ができません。法律行為をするには法定代理人の同意が必要です。

これは相続に関する行為も同様です。そのため、単独では遺留分放棄ができず、親権者や法定代理人の同意が必要になります。

しかし、例えば父親が死亡し、母親と子どもが法定相続人となる場合、母親と子どもでは利益相反という問題が生じます。このような時には、親権者である母親ではなく、子どものための特別代理人を選任する必要があります。

この特別代理人の選任も家庭裁判所が関与して行う必要があるため、未成年の法定相続人がいる場合はこの点も押さえておきましょう。

2.申し立てる時期

被相続人が生きている間(相続が開始する前)

3.申し立て先

被相続人の住所地がある家庭裁判所

※家庭裁判所は、地域に応じた管轄が決まっています。管轄の裁判所は裁判所のサイトから調べることができます。

4.申し立てに必要となる費用

800円分の収入印紙と、連絡用の切手など

※家庭裁判所によって運用が異なることがありますので、詳しくは管轄の家庭裁判所にて確認してください。

5.遺留分放棄の許可申し立てに必要な書類

申し立ての際は、以下の書類が必要です。状況に応じて、裁判所から追加で資料を提出するように指示が出ることがあります。

①家事審判申立書

家事審判申立書には、申立人の本籍や住所、連絡先などの情報を記載します。このほか、申し立ての趣旨や理由についても記載しなければなりません。

申し立ての趣旨欄には、「誰の相続財産に対する遺留分を放棄するのか」について記載します。

申立の理由には、遺留分を放棄する理由を簡潔に記載します。被相続人との関係や、申立人の状況、どうして遺留分を放棄するのかという理由を、第三者にわかりやすいように記載しましょう。

申立の理由が不明瞭だと、裁判所から後日質問などが来ることがあります。裁判所が見て、「遺留分を放棄しても申立人の生活に支障がない」「遺留分を放棄するのに十分な理由がある」ということが納得できるように記載することが大切です。

②被相続人と申立人の戸籍謄本

被相続人と申立人、それぞれの全部履歴事項が記載された戸籍謄本を、申立書に添付します。基本的に、書類は1部ずつ用意すれば問題ありません。

③土地、建物の財産目録

相続財産に土地や建物が含まれている場合、土地の財産目録を作成します。不動産登記簿謄本を参照し、番号や所在地、地番や地目などの項目を埋めていけば問題ありません。土地の財産目録と建物の財産目録は分けて記載しましょう。

④現金や預貯金、株式等財産目録

現金や預貯金、株式などの財産がある場合は、こちらも財産目録を作成します。品目や単位、数量または金額などを記載すれば問題ありません。

特に預貯金に関しては、「少なく記載してもわからないだろう」と考え、目録に実際の相続財産よりも少ない財産を記載する人がいます。また、生前の遺留分放棄となると該当する財産が正確にわかりにくいため、人によってはあまり調べないままに記載するということもあるかもしれません。

しかし、遺留分放棄は申立人の不利益が大きいことから、裁判所が「本当に本人の意思による申立なのか」を詳しく確認します。間違った情報を記載すると「自由意志に基づいた遺留分放棄ではない」と裁判所に判断され、結果的に許可が下りない、一旦は許可が下りても事後的に取り消されるという可能性も出てきます。

少しの違いが申立の結果に大きく影響する可能性は低いと思われますが、申立書に記載した財産と実際の相続財産が大きく異なる場合は、放棄の許可が下りない可能性もありますので注意してください。

遺留分放棄が許可される3つの基準

先ほども書いたとおり、遺留分の放棄は、遺留分権者にとっては不利益が大きい決断です。そのため、裁判所もその観点から「遺留分放棄を許可して良いかどうか」を確認してきます。

具体的には、他の相続人や第三者に騙されたり、強要されたりして放棄の許可申し立てをしていないかどうかを重点的にチェックされます。遺留分の放棄が認められるかどうかの大きなポイントは、以下の3つだと考えられています。

1. 本人の自由意志で遺留分放棄を行っているかどうか

年長者などから強く「遺留分を放棄しろ」と言われているなどの理由がなく、自分の意思で遺留分放棄を決めているかをチェックされます。

2. 遺留分放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか

例えば、被相続人の生前に長女には不動産を贈与したり、生活資金を援助したりして十分財産を譲り渡しているので、長女が遺留分放棄をすることには十分な合理性があるというような場合です。

3. 放棄と引き換えに預金や不動産をもらうなど、放棄の代償性があるかどうか

遺留分放棄をすると、被相続人の財産を一切受け取れなくなる可能性もあります。そのため、遺留分に見合うだけの財産を得ているかどうかという点もチェックされます。

遺留分放棄は撤回・取り消しができる?

一旦遺留分を放棄したけれど、やっぱり遺留分減殺請求をしたい。このように、あとから遺留分放棄を取り消したいと思ったとき、撤回することはできるのでしょうか?

遺留分放棄をしたことによって、生前なら被相続人はそれを踏まえて財産の相続人を検討し直すことになります。もしも死後の遺留分放棄であれば、遺言書などで財産を相続した人が財産を自分のものと確定することにもなります。

そのあとで遺留分放棄の撤回が認められるとなれば、再度改めて遺産分割協議をしたり、相続人を考え直したりしなければなりません。そのため、原則として遺留分放棄は撤回できず、撤回するためには、それ相応の理由と手続きが必要です。

例えば、遺留分の放棄を行ったときとは被相続人や相続人との関係が大きく変わった場合や、遺留分放棄の前提条件となることが守られず、遺留分放棄をすることで著しく不利益を被るような場合には、遺留分放棄の撤回が認められる場合があります。

一旦裁判所から遺留分放棄の許可が下りた後で、遺留分放棄を撤回するときには、家庭裁判所に対して「遺留分放棄許可取り消しの申し立て」を行うことになります。

被相続人の死後(相続開始後)に遺留分放棄をする場合

生前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可を得る必要がありました。しかし、被相続人が亡くなり、相続が開始したあとで遺留分の放棄をする場合は、家庭裁判所の許可は必要ありません。

遺留分減殺請求をしないことが、遺留分を放棄するという意思の表れになります。そのため、改めて書面を作ったり、口頭で約束したりすることも特には必要ありません。

遺留分放棄は遺言書と合わせて活用しよう

遺留分放棄がなされても、遺言書がなければあまり意味がない

特定の相続人に財産を集中させたいのであれば、遺留分放棄と合わせて遺言書を遺しておくことが必要です。

例えば、父親と二人の息子の3人家族がいたとして、父親が自分の死後に家業の旅館経営を長男一人に継がせたいと考えたとします。そこで父親は次男を説得し、家庭裁判所の許可を得て次男に生前の遺留分放棄をしてもらいました。しかし、被相続人である父親が他界したあとに、次男が翻意して、旅館建物の半分は自分のものだと主張しました。じつはこの主張は通ってしまうのです。

なぜなら、遺留分の放棄は、相続放棄とは違いますので、次男は法定相続人として遺産分割協議にも参加できますし、相続財産の半分を自分に寄越せと主張できてしまうのです。そうならないためには、相続財産は全て長男に渡すといった内容の遺言書を父親は作成しておくべきでした。

遺言書の内容を、次男が阻止したいと考えても、既に遺留分放棄の手続きは済ませてしまっています。これにより、次男は遺留分滅殺請求ができない、つまりは長男に全財産がわたることになり、旅館経営を長男一人に任せるという父親の希望が達成されるのです。

このように、生前に遺留分の放棄させしてもらえば安心というわけではなく、必ず遺言書とセットで準備をしておく必要があるのです。

なお逆に、遺言書は作成したが、次男が遺留分放棄に協力してくれないときは、長男に継がせたい旅館以外の財産を次男に生前贈与するなどして、長男との不均衡を埋め合わせすることで協力を仰ぐなどの対策をとる必要があるでしょう。

逆に、遺留分を放棄させたいときは遺言書があってもあまり意味がない

一方で、相続人が遺留分放棄に同意していない場合は、遺言書があってもあまり意味がありません。遺留分放棄は放棄する人の自由意志だからです。

この場合には、相続財産以外の財産を贈与するなど、遺留分を放棄したとしても放棄した人が不利益を被らないようなケアをすることも重要です。

注意!遺留分放棄と相続放棄を間違えないように

遺留分放棄を考えるときに絶対に押さえておきたいのが、遺留分放棄と相続放棄の違いです。相続に関連する放棄であることから混同してしまいがちですが、間違えたでは済まない不利益を被ることになります。2つの違いはしっかり押さえておきましょう。

相続放棄をすると、相続人ではなくなる

遺留分の放棄を行うことによって、遺留分を放棄した相続人は遺留分減殺請求ができなくなります。しかし、先ほども書いたとおり、相続人としての地位に変更はありません。

そのため、遺留分の放棄を行ったとしても遺産分割協議には相続人として参加する権利はありますし、遺言書で相続財産がもらえるようになっている場合はその財産を要求することも可能です。

一方、相続放棄をしてしまうと、相続人の地位そのものを放棄することになります。最初から相続人ではなかったことになるのです。その結果、遺産分割協議に参加することもできませんし、相続財産を受け継ぐこともできません。

相続放棄は生前にできない

遺留分放棄は、被相続人が生きている間でもできました。しかし、相続放棄は被相続人が生きている間はできません。これは、相続放棄をすることで、相続人ですらなくなってしまうなど、遺留分よりも相続放棄の方が放棄する側の不利益が大きいことも理由の一つです。

遺留分放棄をしても、債務は相続する

もうひとつ忘れてはいけないのが、債務の相続についてです。相続放棄をすれば、最初から相続人ではなくなるため、被相続人の債務も相続しません。しかし、遺留分放棄は単なる「遺留分」の放棄なので、相続人の債務は相続してしまうのです。

遺留分放棄をする人が、相続人の借金やローンも相続したくない、という場合は、合わせて相続放棄を行うか、限定承認を行うなどの手続きも合わせて行いましょう。相続放棄や限定承認は「相続人が相続開始を知ってから3ヶ月」という期限があるので、注意してください。

遺留分放棄や相続放棄をしたら、他の相続人の財産が増えるのか

相続人が遺留分放棄をしたら、他の相続人の財産が増えるのでしょうか?相続放棄ならどうなのでしょうか?

例えば相続人が4人いた場合、その中の1人が相続放棄をすることで相続人は4人から3人になります。その結果、各々が相続できる財産も増えます。

ですが、遺留分の放棄をしても相続人の地位には何の影響もないため、4人の相続人のうち、1人が遺留分放棄をしても、相続人は4人のままで、他の相続人の取り分が増えることはありません。

まとめ

遺留分の放棄についてご紹介しました。被相続人が生きている間の遺留分放棄については家庭裁判所の許可が必要となり、家庭裁判所が遺留分の放棄を許可するにあたっては、放棄が相当か、放棄した人が一方的に損害を被らないかなどの事項がポイントになります。

また、特定の相続人に財産を集中させたい場合、遺留分放棄だけではなく、遺言書も合わせて活用することが重要です。

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