このような疑問をお持ちではないでしょうか。
結論から言いますと、遺留分侵害額請求権の時効は、遺留分を主張できる権利者が、相続が開始したこと、および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ってから1年です。
ただし、上記事情を知らなくても、相続開始から10年で除斥期間(じょせききかん)にかかり、遺留分侵害額請求権は消滅します。
また、遺留分侵害額請求権を行使したことで発生した金銭支払請求権は、5年で消滅時効が完成します。
この記事では、遺留分問題に強い弁護士が、上記内容に加え、
- 遺留分侵害請求権の時効を止める方法
- 遺留分侵害請求権の時効に関する注意点
についてもわかりやすく解説していきます。
記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
遺留分侵害請求権の消滅時効と除斥期間
遺留分侵害額請求とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障されている遺産取得分のことです。
そして、被相続人が遺留分権利者以外の者に贈与したり遺贈したことによって遺留分権利者が遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合には、遺留分権利者は贈与を受けた者(受贈者)や遺贈を受けた者(受遺者)に対して遺留分相当額の金銭の支払いを請求できます。この請求を「遺留分侵害額請求」といい、この請求できる権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。
たとえば、妻と子がいる男性が遺言書に「全財産を〇〇(愛人)に遺贈する」と記載していた場合でも、妻と子にはそれぞれ遺留分が認められますので、遺留分侵害額請求権を行使して、〇〇(愛人)に対して遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができます。
なお、遺留分侵害額請求はもともとは「遺留分減殺請求」という名称でしたが、2019年7月の法改正により今の名称へと変更されています。
遺留分侵害額請求権の消滅時効は1年
遺留分侵害額請求が永遠にできるとすれば、いつまでも相続財産を誰が相続するのかが確定しないことになってしまいます。
こうしたことを避けるため、遺留分侵害額請求には、法律(民法第1048条前段)によって以下の消滅時効が設けられています。
相続が開始されたこと(被相続人が死亡したこと)と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことの両方を知って初めて1年間の時効期間がスタートします。なお、「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」とは、自分の遺留分が侵害されるような贈与や遺贈、たとえば全財産が贈与・遺贈されたなどの事実を知っていることが必要です。単に贈与や遺贈があったことを知っただけでは時効期間ははスタートしません。
遺留分侵害請求権の除斥期間は10年
遺留分侵害額請求権は、相続開始の時から10年を経過したときも消滅します(民法第1048条後段)。
上記の1年間で完成する時効のことを「消滅時効」といいますが、この10年間は「除斥期間」といいます。
遺留分侵害額請求権の消滅時効については、繰り返しとなりますが「相続の開始と遺留分を侵害するような贈与や遺贈があったことを遺留分権利者が知った時から」開始されますが、除斥期間については、そのような事情を全く知らなくても、相続開始から10年経過することで権利が消滅します。
例えば、ずっと相続が始まったことを知らずに15年が経過した場合、「相続開始を知ってから1年」の期限は来ていませんが、「相続開始から10年」という除斥期間の期限が来てしまっています。そのため、この場合は遺留分侵害額請求をすることができません。
また、後述しますが、消滅時効と異なり、除斥期間には「更新(期間の進行を中断してリセットすること)」や「完成猶予(期間の進行を一時的に停止させること」がありません。つまり、遺留分権利者は一定の行為をすることで1年の消滅時効を中断したり一時停止することはできますが、除斥期間についてはそれができないということです。
さらに、遺留分侵害額請求の消滅時効は、相手(遺留分侵害額請求では「受贈者」「受遺者」)が時効が完成したことを主張(これを「時効の援用」といいます)して初めて権利が消滅しますが、除斥期間は期間の経過のみで権利が消滅します。
権利を行使した後の金銭支払請求権の消滅時効は5年
遺留分侵害額請求を行使(意思表示)したことで発生する相手方に対する金銭支払請求権は、遺留分侵害額請求権とは別個の権利として新たに消滅時効が進行します。この金銭支払請求権は5年で消滅時効が完成してしまいます(民法166条1項1号)。
したがってせっかく遺留分侵害額請求権を行使してもその後5年間放置しておくと金銭などの取り戻しができなくなってしまいます。
遺留分侵害額請求権の時効・金銭支払請求権の時効を止める方法
遺留分侵害額請求権の時効を止める方法
遺留分侵害額請求権の消滅時効が完成してしまうことを阻止するには、受遺者・受贈者に対する意思表示によって行えばよく、必ずしも裁判を起こして請求する必要はありません。
したがって、一般的には、「遺留分侵害額請求を行使する旨」の通知書を送付することになります。
そしてこの通知書の送付は「配達証明付き内容証明郵便」を利用すべきでです。「内容証明郵便」とは郵便物の内容について、いつ、どのような内容のものを、誰から誰にあてて差し出したかということを差出人が作成した謄本によって証明するものです。この内容証明郵便に配達証明を付すことで相手方に到着した日を記載したハガキが届き、このハガキによって郵便物が配達された事実を証明することができます。
これにより、後になって「遺留分侵害額請求権を行使する内容など書かれていなかった」「そもそもそんな通知は届いていない」といった受贈者や受遺者の主張を退けることができます。
この遺留分侵害額請求の通知書には、以下のような内容を明記しておくことが重要でしょう。
- 遺留分侵害額請求をする本人
- 遺留分侵害請求をされる相手方
- 請求の対象となる遺贈、贈与、遺言の内容
- 遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する旨
- 遺留分侵害額請求の日時
具体的な書面の文面については以下のような内容で記載します。
ただし、内容証明郵便には字数や行数などの制限があるため、内容証明 ご利用の条件等 - 日本郵便を参考にして不備のない通知書を作成するようにしてください。もしご自身で内容証明郵便を作成するのが難しい場合には弁護士に依頼することも検討しましょう。
金銭支払請求権の時効を止める方法
遺留分侵害額請求権を行使することで発生した金銭支払請求権が時効消滅してしまわないようにするには訴訟を提起する必要があります。裁判上の請求をすることでその事由が終了するまでは時効は完成しません(民法第147条1項1号参照)。
また、相手方(受贈者・受遺者)が自らに金銭支払い義務があることを認めた場合にも、その時点から時効期間がリセットされ新たに進行することになります(民法第152条1項参照)。つまり相手方が債務承認をした時点からさらに5年が経過するまでは時効が完成しないということです。
なお、この消滅時効が完成する期間については民法改正の影響があるため注意が必要です。2020年4月1日以降に遺留分侵害額請求権を行使した場合には適用される時効期間は新民法の「5年」となりますが、2020年3月31日以前に行使していた場合には適用される時効期間は旧民法の「10年」となります。
遺留分侵害額請求の時効に関する注意点
遺留分侵害額請求を主張するシーンでは、合わせて遺言書の無効も主張したほうがよいと判断されるケースもあります。
例えば、父親が死亡して子ども3人が法定相続人となっていたケースで遺産分割協議中に遺言書が見つかり、そこには「長男Aに全ての財産を相続させる」という記載があったとします。その遺言書を見つけたのは長男であった場合、他の兄弟から「長男が遺言書を偽造したのではないか」という意見が出てくることも想定されます。
そしてこのケースでは、長男以外の兄弟が遺言書無効確認訴訟を起こすことに加え、遺留分侵害額請求を行うことが考えられます。
このとき、遺言書が無効になれば遺産分割協議が始まるため、遺留分侵害額請求を行う必要性が低いと思われます。しかし、この場合でも遺留分侵害額請求権は行使しておいたほうがいいと思われます。
遺言書無効確認訴訟を起こしたからといって、遺留分侵害額請求権を行使したことにはなりません。そのため、相続開始を知って1年遺留分侵害額請求権を行使しなければ、時効によって消滅してしまうのです。
遺言書無効確認訴訟で敗訴し、さらに遺留分侵害額請求もできないという最悪のケースを避けるためにも、慎重な判断が必要です。悩んだときは弁護士に相談しましょう。
まとめ
今回は、遺留分侵害額請求の時効についてご紹介しました。遺留分侵害額請求権は遺留分権利者が相続開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ってから1年で消滅時効にかかります。また、相続開始から10年の除斥期間で消滅します。さらに、遺留分侵害額請求権を行使した後の金銭支払請求権は5年で消滅時効が完成します。
とくに、遺留分侵害額請求権の消滅時効である1年という期間は短いものです。バタバタしている間に遺留分侵害額請求権を行使できなくなるということのないよう、迅速な行動が求められます。
とはいえ、遺留分侵害請求をするにあたり、財産の総額を調査したり、受贈者や受遺者との交渉など一般の方だと難しいと思われる場面も多々出てくることでしょう。また、相続開始や遺留分を侵害するような贈与や遺贈があったことを知った時期につき争いが生じてトラブルになることもあります。ご自身での対応が困難な場合には弁護士に相談しましょう。
当事務所では、遺留分侵害請求権が時効になる前に遺留分を回収して欲しい方や時効を止めて欲しい方からの無料相談を受け付けております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力でサポートしますのでまずはご相談ください。お力になれると思います。
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