相続対策の1つとして養子縁組が有効だという話を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。実の子供以外の第三者を養子縁組として迎えることで、相続税対策になるほか、法定相続人に渡る相続財産を減らせるとされています。
ところで、「長男には財産を相続させたくない」など、特定の法定相続人に財産を渡したくないと思っても、一定の相続人は一定割合の財産を要求することができます。これを遺留分といいますが、養子縁組をすることで、相続人1人あたりの遺留分割合を減らすことができます。
今回は、養子と遺留分の関係について解説します。
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目次
養子とは
親にあたる人を養親、子にあたる人を養子とよびますが、養親と養子、およびその血族について、血族間におけるのと全く同じ親族関係を生じるとされています。すなわち、養子縁組をすることで、養子縁組をした日から本当の子供と同じ親族関係が生まれることになります。
また、養子には、普通養子と特別養子の2つの種類があります。相続との関係においては、普通養子縁組を用いることが多いでしょう。
余談ではありますが、再婚時に配偶者に連れ子がいた場合、再婚しただけでは連れ子は養子にはなりません。婚姻届を出す手続きとは別に、養子縁組を行わなければなりませんので、もしも被相続人や相続人に再婚して連れ子がいる場合には、念のために養子縁組が行われているか確認しておきたいところです。
普通養子
普通養子という法律上の名称はありませんが、特別養子と区別するために一般的に「普通養子」と呼ばれています。一般的な養子縁組といえばこの普通養子縁組で、特徴は養子が本当の親との親子関係を保ったまま、養親との親子関係も持つ点です。
普通養子は、市町村役場への届出によって縁組を行うことができます。ただ、養親となる人は成人でなければならない・養親の尊属や年長者を養子にすることはできないなどの制限があります。
特別養子
普通養子とは異なり、実の親との親子関係や血族との親族関係を解消し、養親との親子関係のみを構築する養子縁組が特別養子です。普通養子縁組が役所への届出で成立するのに対し、特別養子縁組は家庭裁判所の審判が必要です。
このほか、原則として養子は6歳未満でなければならず、養親は一方が25歳以上でなければならない、養子縁組には実親の同意が必要などの条件が定められています。
戸籍上は「養子」という記載ではなく「長女」など実子と同じ記載になるため、普通養子か特別養子かの見分けはつきやすいと言えるでしょう。
養子にも遺留分は認められる!養子を相続対策として活用
養子縁組をすることで、相続に関しては2つの効果が期待できます。1つめの効果が、相続人1人あたりの遺留分を減らすことができるという効果です。
「妻に財産を集中させて、他の相続人の遺留分割合を減らしたい」
「次男にはできるだけ相続財産を渡したくない」
など、いろいろな思惑が混在する相続。遺留分は、遺留分権者が請求してこなければ問題とはなりませんが、家族関係のこじれやトラブルなどから、なかなか話ができないことも。それでも「この相続人にはできるだけ財産を渡したくない」という場合には、養子縁組をして法定相続人を増やし、1人あたりの遺留分割合を減らすという方法があります。そして、養子であっても、実子と同じく遺留分が認められます。
養子に人数制限がないため、遺留分割合を減らす効果が大きい
さらに遺留分制度にとってメリットとなるのが、遺留分に関しては養子に人数制限がないというところです。相続税上は、養子は実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までという制限がありますが、遺留分についてはその制限がありません。
極端な話ですが、孫全員を養子縁組して10人の養子ができたとしても、法定相続人である以上、10人全員が遺留分を主張できることになります。
例えば相続人が妻と子供2人の場合で、このうち1人の子供に財産を渡したくないと考えたとき。相続財産が1億円とすれば、通常であれば、遺留分として2,500万円を請求されるところです。
しかし、3人養子を加えたら、相続人は妻と2人の子供、3人の養子となります。養子と子供の遺留分割合は同じですので、遺留分として1,000万円しか請求できないことになるのです。
そもそも、遺留分とは
遺留分について簡単に解説しましょう。一定の法定相続人は「私も一定割合の財産を相続する権利があるはずです」といって主張できる権利が認められています。これを遺留分といいますが、この遺留分があるため、特定の人に全ての財産を相続させたいと思っても難しいものがあります。
遺留分は誰に認められているのか
この遺留分ですが、相続人の全てに認められているわけではありません。法定相続人のうち、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち配偶者・子・直系尊属(親)に遺留分が認められています。
遺留分の割合
遺留分の割合もそれぞれ以下のように定められています。こちらは条文を参考していただくとわかりやすいのではないでしょうか。条文では以下のようになっています。
民法第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
養子の子供も遺留分がある?
もしも養子に子供がいた場合、養子の子供は遺留分を主張できるのでしょうか?
これは、養子の子供に代襲相続が認められて、法定相続人になれるかどうかという話にもつながっています。
代襲相続とは、被相続人よりも先に法定相続人の方が死亡してしまったとき、その法定相続人の子に被相続人の相続権が移るというものです。例えばおじいちゃん、お父さん、子供という3代がいて、お父さんが最初に亡くなってしまい、その次におじいちゃんが亡くなってしまった場合を考えてみましょう。
お父さんが亡くなったとき、子供はお父さんの相続財産を相続しています。そしておじいちゃんが亡くなったときには、お父さんの子供は代襲相続人として、おじいちゃんの財産を相続します。
この仕組みは、養子であっても変わりません。ただ、養子の場合は、養子に子供が生まれたタイミングによっては代襲相続が発生しないので注意が必要です。例えば、養子縁組を組む前にすでに子供がいた場合には、その子供には代襲相続しません。逆に、養子縁組をしたあとで子供が生まれた時には、その子供は代襲相続人として、おじいちゃんの相続人になります。
実親の相続財産に対して、遺留分を主張できるか
孫Aを養子にしたあとで、Aの父親が亡くなった場合、Aは父親の相続財産に対して遺留分を主張できるのでしょうか。
先ほども説明した特別養子縁組の場合は、実親との親子関係が切れるため、父親の財産を相続することはできません。同様に、父親の財産に対して遺留分を主張することもできません。
一方、普通養子縁組であれば、実親との親子関係は残ったままなので、父親の財産に対して遺留分を主張することができます。
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養子縁組によって相続税を節税できる
もう1つの効果が、相続税の節税です。
養子が増えると基礎控除額も増える
相続税を計算するときには基礎控除を受けることができます。この基礎控除の計算式は【3,000万円+ 600万円×法定相続人の数】となっています。養子縁組をすることで法定相続人の数が増えるため、養子が1人増えると単純に600万円基礎控除額が増えることになります。その結果として相続税が安くなるという仕組みです。
養子縁組をするときの注意点
ただ、そうすると養子の数が多ければ多いほど、控除額が増えて相続税を払わなくてもいいということになりそうです。そうなることを防ぐため、法定相続人として加算できる養子の数は、実子がいない場合は2人、すでに実子がいる場合は1人と定められています。
ただ、以下の養子縁組の場合は実子とみなされるため、この制限にはかかりません。
(1) 被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となっている人
(2) 被相続人の配偶者の実の子供で被相続人の養子となっている人
(3) 被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた人で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった人
(4) 被相続人の実の子供、養子又は直系卑属が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子供などに代わって相続人となった直系卑属。なお、直系卑属とは子供や孫のことです。
このほか、実子が生きている間に孫を養子にした場合には、相続税の2割加算の対象となりますので、こちらも注意が必要です。
相続税の節税のために養子縁組を組むことは認められる?
これまで、相続対策としての養子縁組の話をしてきました。しかし、元々養子縁組という制度の目的はそこではなくて、実の親子ではなくても法的に親子関係を持つことができるというところにあります。
そう考えると、相続税の節税のためという目的や、相続人1人あたりの遺留分割合を減らすという相続対策を目的とする養子縁組は、本来の目的とは反するとも思えます。「本来の目的とは違うから養子縁組は無効です」という話にはならないのでしょうか?
実は、この点についてはこれまでにも裁判で争われてきました。裁判所はこの問題について、相続税対策などの目的があったとしても、そこに養子縁組の意思があれば、ただちに無効にはならないと判断しました。
ただ、養子縁組をする意思が全くなく、単に相続対策のために養子縁組をする場合には、無効とされる可能性は高まります。実際に過去の判例でも、遺留分割合を下げる目的で養子縁組をしたケースについて、養子縁組の意思が認められないとして無効と判断されたケースもあります。
まとめ
養子であっても、養親の相続財産に対して遺留分が認められることを解説しました。相続税の基礎控除の法定相続人とは違い、遺留分を計算するときには、養子の数に制限がありません。そのため、特定の相続人にできるだけ遺留分を認めたくない場合には、養子縁組を利用して法定相続人を増やすという対策を考える人もいるかもしれません。
しかし、単なる相続対策のための養子縁組は、養子縁組の本来の趣旨を潜脱してしまうため、無効と判断されかねませんので、注意してください。
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