相続に関連する法律が改正され、2019年から本格的に相続に関するルールが変更されることになりました。今回の改正は40年ぶりともいわれる大規模なもので、相続に関する各種の既存制度の改正だけでなく、新制度の創設も行われています。
こちらでは、今回行われた相続法の大改正のうち、相続に関係する利害関係人の法的立場などに関する改正点などをご紹介します。
- 「相続に関する利害関係人とは誰なのか?」
- 「相続不動産に関する利害関係人とは、どのような人のことなのか?」
- 「相続登記が必要となるのは、どのようなケースなのか?」
……などについて解説させていただきます。
せっかくの相続財産を失わないようにするためにも、改正点についてしっかりポイントを押さえて下さい。
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目次
相続に関する利害関係人などについての法整備
ある人が死亡すると、その人の一定の親族に相続権が認められます。その結果、相続人は死亡した人の財産を相続することになります。そのため相続人は、被相続人の相続に関する利害関係人ということができます。
しかし、相続に関して利害関係をもつことになる人は相続人だけではありません。相続人以外にも相続の利害関係人となる場合があるのです。
今回の法改正では、この相続に関する利害関係人のうち……
- ①相続債権者としての利害関係人
- ②相続不動産に関する利害関係人
に関して、法律的な処理方法などの明確化を図っています。
それでは、この2つのポイントに関して順次、ご紹介していきましょう。
①相続債権者に関する改正について
今回の法改正では、相続債権者の法律的な立場が明確化されることになりました。
これまでは相続債権者の法的立場は不明確だったため、なにかと不都合が生じていたのです。今回の法改正によって、この問題点の解決が図られることになります。
相続債権者とは
まず、相続の利害関係人とされる「相続債権者」とは、どのような人のことをいうのかご説明しましょう。
具体的につぎのような事例を考えてください。
被相続人:「甲」
相続人:被相続人の配偶者「乙」、子供「A」
金融業者:「X」
甲さんが生前、金融業者Xから100万円を借りていたとしましょう。しかし、その返済をする前に甲さんは亡くなってしまいました。
この場合、甲さんの相続に関しては、配偶者である乙さんと子供であるAさんが相続人となり、甲さんの残した財産を相続することになります。しかし、「相続財産」とはプラスの財産ばかりとは限りません。借金など、マイナスの財産を含んでいることも、世間ではたくさんあります。
今回の事例でも、甲さんの相続財産の中には「100万円の借金」というマイナスの財産が含まれています。この場合、当然ですがこの返済義務は相続人が負うことになります。
このような事例における「X」のような立場にある人・会社のことを「相続債権者」といいます。
甲さんが存命中であれば、当然Xさんは甲さんに対して金銭の返還を請求することになります。しかし、今回の事例では、その返済がなされる前に甲さんが死亡してしまいました。この場合Xさんは、「相続財産に対して」100万円を返済してもらう法的な請求権を持つことになるのです。つまり、相続財産に対して何らかの請求権をもつ者のことを相続債権者といいます。
返済義務は相続人が負う
上記の事例において、実際にXさんに金銭の返済を行うのは各相続人となります。そのため、相続債権者であるXさんは、乙さんとAさんに金銭の支払いを求めることになります。しかし、ここで困った問題が発生することがありました。それぞれの相続人が実際に返済すべき金銭の額に関して、法律上明確な規定がなかったからです。
乙さんとAさんは、具体的にいくらくらい支払う義務があるのか、法律上不明確だったのです。
相続債権者の法的立場を明確化
繰り返しになりますが「相続債権者」とは、生前の被相続人に対して何らかの債権を持っていたため、その死亡後において相続財産に対して請求権を有している人のことをいいます。改正法では、この相続債権者の権利も明文化され、明確になりました。
相続債権者の判断で各相続人への請求割合を選択可能に
今回の法改正により、相続債権者が持っている債権の行使方法が、つぎのように明確に定められることになりました(民法902条の2)。
指定相続分に基づく各相続人への請求
各相続人の相続分は、被相続人の遺言によって定められることがあります。法律上、被相続人には遺言をもって各相続人の相続分を自由に定めることができることになっているからです。これを「指定相続分」といいます(民法902条)。
ある相続において指定相続分が定められている場合、相続債権者は自身の判断によって法定相続分に基づいて請求するのではなく、指定相続分の割合に基づき各相続人に債権の請求をすることが認められます。
法定相続分に基づく各相続人への請求
民法では、各相続人に認められる相続財産の割合に関して、相続の順位ごとに相続分を定めています(民法900条)。これを、上記「指定相続分」に対して「法定相続分」といいます。
相続債権者は遺言により相続分の指定がなされている場合においても、その選択により法定相続分の割合によって各相続人に対して債権の請求をすることができるとされます。
このように相続債権者は自らの判断によって、上記どちらの方法でも請求することができることが明文化されたのです。
各相続人に対する請求の具体例
それではここで、相続債権者からの請求で各相続人が実際にどれくらい返済額を負担することになるのかについて、具体例を見てみることにしましょう。
相続財産:預金(1000万円)
被相続人:「甲」
相続人:被相続人の配偶者「乙」、子供「A」
金融業者:「X」
上記の事例において、甲さんは生前に金融業者Xから100万円を借りていたとしましょう。
お金を借りていた甲さんが死亡した場合、その返済義務は相続人である、乙さんとAさんが承継することになります。つまり、現実問題として100万円を返済することになるのは、乙さんとAさんになるということです。
ここで問題となるのは、それぞれの負担割合(各々の返済額)です。返済すべき100万円中、乙さんがいくら返済し、Aさんはいくら返済すべきかという問題です。
今回の相続は、第一順位の相続人によるものとなるため、法定相続分は乙さん・Aさんともに2分の1となります。
しかしこの相続においては、被相続人が遺言によって各相続人の相続分を、つぎのように指定していたとします。
被相続人「甲」が遺言で指定した相続分の割合 | |
---|---|
乙さん:5分の4 | Aさん:5分の1 |
この場合、相続債権者であるXさんは自分の選択に基づき、各相続人に対してつぎのように請求することができるのです。
指定相続分に基づく請求の場合
Xさんが上記指定相続分の割合によって請求することを選択した場合、各相続人へ請求できる金額はつぎのようになります。
乙さんへの請求額
遺言によって指定された乙さんの相続分は5分の4とされています。
このため、乙さんの負担すべき返済額は……
(借金額)100万円 × 5分の4 = 80万円
よって、Xさんは乙さんに対して80万円の返済を請求することができることになります。
つまり、相続債権者であるXさんが各相続人に請求することのできる金額は、つぎのようになります。
乙さん:80万円
Aさん:20万円
法定相続分に基づく請求の場合
相続債権者であるXさんが、法定相続分に基づいて各相続人に金銭の返還を要求した場合、それぞれの相続人への請求額はつぎのようになります。
乙さんへの請求額
Xさんは遺言によって相続分が指定されている場合であっても、法定相続分に基づいて各相続人に請求する権利が認められています。
今回の法定相続分は、乙さん・Aさんともに2分の1ですので、乙さんの負担すべき返済額は……
(借金額)
100万円 × 2分の1 = 50万円
よって、相続債権者であるXさんが各相続人に請求することのできる金額は、つぎのようになります。
乙さん:50万円
Aさん:50万円
このように今回の法改正によって、相続債権者の法的立場が明確化されたのです。
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②法定相続分を超える権利に関する登記などの対抗要件化
各相続人が相続財産に対して持つ権利の割合は、民法によって定められています。これを法定相続分といいます(民法900条)。
しかし、被相続人は遺言によって法定相続分と異なる割合を指定することが可能とされています。また遺産分割協議によって、ある相続人が相続財産中、特定の財産に関して法定相続分を超える権利を取得することもあります。
今回の法改正では、このように遺言による相続分の指定又は遺産分割協議によって民法の定める法定相続分を超える権利を取得した者は、その旨の登記または登録を受けることが対抗要件とされることになりました。
「対抗要件」とは
「対抗要件」とは、ある物に対して自分が権利を持っていることを他人に主張するために必要とされる、法律上の要件という意味です。
つまり、相続分を指定した遺言や相続人間の遺産分割協議の結果、法定相続分を超えて不動産の権利などを取得した場合には、その旨の登記・登録をしなければ権利の取得を他人に主張できないことが明確化されたのです。
利害関係人がいる場合の法的処理
法定相続分を超えて権利を取得した場合、この超えた分の権利の取得に関しては、同一物に対して利害関係をもつ第三者に登記をしなくては法的に保護されないことになりました。
実際の相続において問題となることが多いのは、相続財産の中に不動産があるケースでしょう。
相続不動産に関して相続人以外にも利害関係を持つ第三者がいる場合、遺産分割などで法定相続分を超えて権利を取得した相続人は、その権利の保護を受けるために登記が必要となるのです(具体的事例に関しては、後述します)。
登記しなかった場合には不利益が!
相続財産に属する同一の財産に関して、相続人以外の第三者が一定の権利を取得している場合があります。たとえば不動産について第三者が持っている権利が、相続人の権利と併存できないものである場合、相続人の権利は登記をしておかなければ否定されてしまう可能性があるのです。
言葉だけでの説明ではちょっと理解しづらいと思われますので、つぎの具体例を見ていただきたいと思います。
登記が必要となる具体例
それではここで、法定相続分を超えて権利を取得した相続人が、その権利を保護されるために登記が必要となる具体例を見てみることにしましょう。
相続財産:不動産(1000万円)、預金(1000万円)
被相続人:「甲」
相続人:被相続人の配偶者「乙」、子供「A」
第三者:「X」
上記の事例において、乙さんとAさんが遺産分割を行い、つぎのように協議が整ったとしましょう。
乙さん:不動産(1000万円)
Aさん:預金(1000万円)
本来であれば、乙さんとAさんにはともに相続財産である不動産について法定相続分として2分の1ずつの権利が認められています。相続財産は、原則として法定相続分の割合で各相続人によって共有されることになるのが法律上のルールだからです。
しかし今回の遺産分割の結果、乙さんは不動産に関する2分の1の権利を超えてさらに2分の1の権利を取得しました。この結果、乙さんは不動産の所有権を単独で取得することになります。
しかしこの事例において、その旨の登記がなされなかった場合、どのような問題が起こるでしょうか?
本来なされるべき登記とは
本来であれば、当該不動産の所有権に関して、つぎのような登記をすることが必要です。
(相続登記)甲 → 乙
この登記をすることで、乙さんが相続不動産の所有者であることが法律的に確定します。誰からも権利を否定されることはありません。
しかし乙さんは、この登記をせず放置してしまったとしましょう。
乙さんが登記しなかった場合
不動産に関して権利を取得したにもかかわらず、その旨の登記をすることが放置されることがあります。
乙さんが遺産分割によって単独で所有権を取得したにもかかわらず、その旨の登記がなされていない状態の場合、つぎのような不都合が生じます。
乙さんが相続したはずの権利が、第三者の存在のために否定されてしまう可能性が出てくるのです。
当事者間の権利関係は登記がなければわからない
当該不動産の権利に関し、実際には遺産分割協議により当事者間では乙さん単独所有ということで話し合いが成立していたとしても、外部からは権利関係を判断することができません。
相続登記がなされていない場合、登記簿上その不動産は甲さんが所有しているままとなっています。このため、相続後における実際の権利者に関しては、その登記がなされなければ外部の人間からは知りようがないのです。
共同相続人は単独で登記ができる
今回の事例においては、甲さんの相続人は乙さんと、Aさんになります。ふたりは第一順位の相続人であるため、法定相続分は2分の1ずつ。このため見かけ上Aさんにはまだ、この不動産に関して2分の1の権利があるように判断される可能性がでてきます。
登記手続き上、Aさんには不動産の共同相続人として単独で相続登記をすることが認められています。このことが悪用され、問題が発生する場合があるのです。
Aさんが共同相続登記をした場合
これは、Aさんがお金に困っている場合などに見られる事例です。
上記のように、Aさんには共同相続人として、相続財産中の不動産に関し単独で相続登記をすることが認められています。
この事例においては、遺産分割により不動産は乙さんの単独所有となっています。しかし、それにもかかわらずAさんが勝手に共有不動産として登記してしまったらどうなるでしょうか?
該当不動産の所有権は、登記簿上つぎのようになります。
甲 → 「乙」2分の1
「A」2分の1
実際には、遺産分割によりAさんには不動産に対する権利がいっさいなくなっていますが、登記手続き上、Aさんは単独で上記のような登記をすることが可能なのです。
この登記がなされることによって、登記簿上では乙さんとAさんは同じ割合で不動産を共有している状態となります。
Aさんが権利を売却した場合
今回の事例では、乙さんが単独で不動産を相続したという登記を怠っていることを悪用し、Aさんは上記のような登記をしました。
そしてこの登記された自分の不動産上の権利(共有持分権2分の1)を、Aさんが第三者であるXさんに売却してしまったとしましょう。こうすることでAさんは、預金全額を相続しただけでなく、不動産に関する権利も現金化することができることになります。
不動産に利害関係人が発生
この結果、同一不動産に関してXさんという利害関係人が出現することになります。
Xさんは不動産の2分の1の権利をAさんから購入したので、その権利を法律的に守りたいと思うでしょう。このように不動産に関して権利を取得した場合、その権利を保護してもらうためには登記をする必要があるのです。
この事例における、乙さんとXさんは、法律上「対抗関係にある」と言われます。
「対抗関係」とは
法律上併存することのできない、相反する権利を主張し合う当事者の法律状態のことを、「対抗関係」といいます。
乙さんには、遺産分割によって法定相続分を超えてAさんから取得した2分の1の権利が認められます。しかし、同一の権利(不動産に関する2分の1の権利)について、Xさんは自分の権利であることを主張するでしょう。Xさんからすれば、その権利はAさんから正式に購入したのですから、当然と言えば当然の主張です。ちゃんと登記簿にもAさんの権利は登記されているのです。
このような場合、乙さんとXさんは対抗関係にあります。どちらかの権利が認められれば、他方の権利が否定されることになります。
先に登記をした方が保護される
それでは、このように対抗関係にある当事者の権利関係は、法律的にはどのように処理されるのでしょうか?
ズバリ、先にその旨の登記を完了したほうが保護されることになるのです。
上記の事例において、乙さんがAさんから取得した権利を保護してもらうためには、Xさんよりも先にその旨の登記を完了することが必要なのです。逆に乙さんよりも先にXさんが登記を完了した場合、Xさんの権利取得が法律上確定します。その場合、法定相続分を超えて取得したはずの乙さんの権利は否定されることになります。つまり、乙さんは実質的にその分の権利を失うことになってしまうのです
Xさんが先に登記を受けた場合
XさんがAさんから購入した不動産の2分の1の権利に関し登記がなされた場合、登記簿上における不動産の所有権は、つぎのような割合で共有されることになります。
乙さん:2分の1
Xさん:2分の1
この場合、乙さんは相続不動産の所有権に関して、2分の1しか権利を取得できないことが確定してしまします。
遺産分割によって不動産を単独で相続したはずなのに、乙さんがその旨の登記をしなかったばかりに、相続不動産の半分の権利が他人にわたり、赤の他人との共有財産となってしまったのです。
このような事態を避けるためには、法定相続分を超えて権利を取得した場合には、なるべく早く登記することが必要となります。
まとめ
今回は、2019年から施行されることが決まっている相続法の改正ポイント。特に相続の利害関係人に関する改正ポイントをご紹介しました。
相続に関する利害関係人は、相続人たちだけとは限りません。相続債権者も利害関係を持つことになりますし、相続不動産に権利を持つ人も利害関係人となる可能性があります。
相続債権者がいる場合、各相続人は相続債権者の選択に従って一定の債務の返済をする必要があります。そのような場合には、具体的にご自分がどれくらいの負担をすることになるのを知っておく必要があります。
今回の法改正では、遺産分割などによって法定相続分を超えて不動産などを相続した場合には、その旨の登記・登録をすることが必要となりました。登記などをしなかった場合には、本文における具体的事例のように、せっかく取得したはずの権利を失う可能性もあるのです。そのようなことの無いように、十分注意する必要があります。
今回の改正は大規模なものであるため、今回ご紹介したポイント以外にもたくさんの改正がなされています。その他の改正点については、相続ニュースを参照してください。
なお、現在政府では相続登記の義務化を検討しています。近い将来、不動産を相続した場合にはその旨の登記をすべき法的義務が課せられるようになるかもしれません。
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