このようにお考えの方もいるのではないでしょうか。
結論から言いますと、内縁の妻でも遺族年金を受給できる場合があります(後述します)。
この記事では、内縁問題に強い弁護士が、
- 内縁の妻が遺族年金を受給するための条件
- 遺族年金受給のための内縁関係を証明する必要書類
などについてわかりやすく解説していきます。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
目次
内縁の妻でも遺族年金はもらえます
冒頭でお伝えしたように、内縁の妻であっても夫が亡くなった際に遺族年金を受け取れる場合があります。
内縁関係とは、実質的には法律婚の男女と同様の夫婦関係にあるものの、形式的に婚姻の届出をしていない男女を指す言葉です。
遺族年金(正式には「遺族厚生年金」といいます)については、厚生年金保険法に規定されています。同法には、遺族厚生年金は被保険者又は被保険者であった者が死亡したときに、その者の「遺族」に支給すると規定されています(厚生年金保険法第58条1項1号参照)。
そして遺族年金を受け取ることができる「遺族」は、被保険者又は被保険者であった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとされています(同法第59条1項参照)。
そして同法第3条2項には、「この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする」と規定されています。
したがって、内縁の妻であっても遺族年金の受給対象として規定されているのです。
内縁の妻が遺族年金をもらうための条件
事実婚関係の認定
内縁の妻が「事実上婚姻関係と同様の事情にある」か否かを認定するためには、2つの要件が認められる必要があります。
- ①当事者間に社会通念上、夫婦の共同生活を認められる事実関係を成立させようとする合意があると言えること
- ②当事者間に社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在すること
内縁関係が認められるための要件については、内縁の妻とは?内縁の妻の条件やメリット・デメリットを解説に詳しく書かれていますので参考にしてください。
なお、このような事実関係の認定要件を満たす場合であっても、その内縁関係が反倫理的な内縁関係である場合には、事実婚関係にある者とは認められません。
反倫理的な内縁関係とは、近親婚の制限(民法第734条)や直系姻族間の婚姻禁止(同735条)、養親子関係者間の婚姻禁止(同736条)の規定のいずれかに違反することとなるような内縁関係のことを指します。
また、重婚的内縁関係(お互い婚姻意思を持って長年夫婦同然の生活をしているものの、その夫婦の一方又は双方に法律上の配偶者がいる状態)の場合には、「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているとき」に限り、内縁関係にある者が事実婚関係にある者と認められます。
生計維持関係の認定
厚生年金保険法第59条4項には「被保険者…によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は、政令で定める」と規定されており、同法施行令3条の10には「生計を維持していた配偶者・・・は、当該被保険者・・・の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であつて厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたつて有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする」と規定されています。
したがって、「生計維持関係」を認定するためには、
- ①生計同一に関する認定要件
- ②収入に関する認定要件
の2要件が認定される必要があります。
生計同一に関する認定要件
生計同一要件については、以下の3パターンに分けて規定されています。
- 住民票上同一世帯に属していたとき
- 住民票上世帯を異なっているが、住所が住民票上同一であるとき
- 住所が住民票上異なっていたとき
「住所が住民票上異なっていたとき」であっても、現に起居をともにし、かつ消費生活上の家計をひとつにしていると認められる場合には生計同一関係が認められます。
また単身赴任・就学・病気療養などやむを得ない事情により住民票上住所が異なっているものの、生活費や療養費などの経済的な援助が行われてたり、定期的に音信・訪問が行われていたりして、その事情が消滅したときは、起居をともにし処費生活上の家計をひとつにすると認められるときにも生計同一関係が認められることになります。
収入に関する認定要件
遺族年金の受給権は、被保険者等が死亡した当時、被保険者によって生計を維持されていた遺族に対して発生することになります。
そして「生計を維持されていた遺族」とは、死亡した被保険者と生計を同じくし、恒常的な収入が将来にわたって年収850万円以上にならないと認められること、という要件を満たす必要があります。
収入要件については、以下のいずれかに該当していれば認められることになります。
- ア 前年の収入(前年の収入が確定しない場合にあっては、前々年の収入)が年額850万円未満であること。
- イ 前年の所得(前年の所得が確定しない場合にあっては、前々年の所得)が年額655.5万円未満であること。
※収入ではなく所得であることに注意してください。 - ウ 一時的な所得があるときは、これを除いた後、前記ア又はイに該当すること。
- エ 前記のア、イ又はウに該当しないが、定年退職等の事情により近い将来(おおむね5年以内)収入が年額850万円未満又は所得が年額655.5万円未満となると認められること。
※この判定に際しては収入額または所得額に加えて、おおむね5年以内に予定されている定年退職等の事情を確認する必要があります。
遺族年金受給のための内縁関係を証明する必要書類
遺族年金を受給するためには内縁関係を証明するための資料を提出する必要があります。
内縁関係を証明する資料として生計維持関係の認定基準として厚生労働省が公表しているものとしては以下のような書類があります。
- 健康保険証の写し
- 給与簿又は賃金台帳等の写し
- 他制度の遺族年金証書等の写し
- 結婚式場等の証明書又は挙式、披露宴の実施を証する書類
- 葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写し等)
- その他内縁関係の事実を証する書類
以下、これらの必要書類について解説していきます。
健康保険被保険者証の写し
内縁の妻であっても夫の扶養に入ることは可能です。
そのため内縁の夫の被扶養者となっていれば、健康保険被保険者証の写しを提出することで内縁関係を証明することができます。保険者番号や記号・番号などについては復元できないようにマスキング(黒塗り等)で提出するように求められる場合があります。
給与簿又は賃金台帳等の写し
夫が会社員であり勤務先からの給与を受け取る際、扶養手当が支払われているかどうかを確認することで内縁関係にあったかを証明することができます。
夫の給与簿の写しを提出することで、夫の勤務先が内縁の妻を実質配偶者として認めていたかどうかを確認することができます。
また源泉徴収票や課税台帳などの写しを提出することで、税法上扶養家族として取り扱われていたかどうかを確認することができます。
他制度の遺族年金証書等の写し
内縁の夫が亡くなったことで、遺族厚生年金以外の他の制度から遺族給付が行われている場合にも内縁関係を証明することができます。
遺族厚生年金の受給資格については日本年金機構が審査・判断することになりますが、既に他の制度によって遺族年金を受け取っている場合には、この手続きに先立って他機関は内縁関係にあると認めたということを確認することができます。
結婚式場等の証明書又は挙式、披露宴の実施を証する書類
挙式や結婚披露宴などが最近1年以内に行われている場合には、結婚式場等の証明書、挙式・披露宴の実施を証する書類を提出することで内縁関係を証明することができます。
これは、当事者間に社会通念上、夫婦の共同生活を認められる事実関係を成立させようとする合意があったか否かを確認するための資料となりますので、内縁関係にある男女の挙式や披露宴に関する書類でなければなりません。
したがって、親族や友人の挙式や披露宴に夫婦として出席したということではありませんので注意が必要です。
葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写し等)
故人の葬儀を執り行うことは、配偶者と同等の身分的地位がなければ通常困難であると考えられます。
夫の親族・相続人からも親族の代表として葬儀を主催することに異議がでなかったということをうかがい知ることができます。
そのため内縁の妻が夫の葬儀の喪主をつとめた場合には、葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写等)を提出することで内縁関係を証明することができます。
その他内縁関係の事実を証する書類
上記以外の書類として以下のような書類も事実上内縁関係を証明するものとして提出することができます。
- 連名の郵便物
- 公共料金の領収証
- 生命保険の保険証
- 未納分の税の領収証
- 賃貸借契約書の写し など
まとめ
内縁の妻であっても、事実婚関係、生活維持関係を証明できれば遺族年金を受給できる場合があることを説明してきました。
ただし、受給資格の有無については日本年金機構の厳格な審査のもと判断されます。この審査を通るためには証明責任が高く、法的な扱いが複雑であるため困難が伴います。
内縁の妻と遺族年金に関する問題は、法的な判断が難しい問題ですが、当事務所はお客様の権利を守るために、専門的な知識と経験を持つ弁護士がお手伝いします。また、今後、内縁の夫が死亡した場合に備えて遺産を引き継げるようにしておきたい方のための遺言書の作成も行っております。親身誠実に弁護士が全力でサポートしますので、内縁関係の相続問題でお困りの方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|