目次
①正当な権利の取り立てであっても恐喝罪になるとされた判例
事案の概要
この事例は、債務者に対して正当な権利を有している被告人が債権の取り立てとして行った行為が恐喝罪に該当すると判断された事例です。
権利自体は正当なものであってもその権利行為の手段が行き過ぎたものとなると恐喝罪となることが判断されています。
恐喝罪とは?成立要件・時効・逮捕後の流れを恐喝に強い弁護士が解説
判例分抜粋
この恐喝事案に対して裁判所は、「他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍溶すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする」と判示しました(最高裁判所昭和30年10月14日判決)。
弁護士の解説
他人に対して権利を有する者が、その権利を実行する場合には、その権利の範囲内であり、かつその方法が「社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り」許されるというのが最高裁判所の一貫した考え方です。
もしそのような範囲を逸脱する場合には、正当な権利を有する者といえども違法行為となり、恐喝罪が成立することになるのです。
本件の被告人は、「俺達の顔を立てろ」と言って債務者に対して要求に応じないときは、身体に危害を加えるような態度を示し同人を畏怖させていますので、「社会通念上、一般に忍容すべき程度を逸脱した手段」であると認定されています。
さらに同判例は、金銭の交付を受けた場合、被告人の債務者に対する債権額がいくらであったかには関わらず、交付を受けた金銭「全額」について恐喝罪が成立することも明らかにしています。
②恐喝罪の脅迫行為は暗黙の告知であっても成立するとした判例
事案の概要
この事例は、被告人が被害者ら数名に対して、「招待券を交付するので一時金を貸してもらいたい」とか「招待券を買ってくれ」と申し向けて金銭の交付を受けたという事例です。
この事例で被告人は、明示的に害悪の告知をしていないので脅迫行為があったと言えるかが問題となりました。
判例分抜粋
この事案に対して裁判所は、「害悪の及ぶべきことを通知して相手方を畏怖させることにより財物を交付させる犯罪ではあるが、その害悪の告知は必らずしも明示の言動を要するものではなく、自己の経歴、性行及び職業上の不法な勢威等を利用して財物を要求し、相手方をして若しその要求を容れないときは不当な不利益を醸されるの危険があるとの危惧の念を抱かしめるような暗黙の告知を以て足りるものであるからこれによつて財物を交付せしめるときは恐喝取財罪を構成するものと認むべきである」と判示しています(最高裁判所昭和24年9月29日判例)。
弁護士の解説
この判例は、恐喝罪における害悪の告知については、自己の経歴、性行、職業上の不法な勢威などを利用して財物を要求し、相手方に要求に応じなければ不当な不利益を受ける恐れがあると危惧の念を抱かせるような「暗黙の告知」をする場合も含まれることを明らかにしています。
本件の被害者たちは、被告人の粗暴な経歴について従来から認識していました。
そして被告人はこのような状態を利用して金銭の交付を要求しており、被告人の要求に応じなければどのような目に遭わされるのか分からないという畏怖心を抱かせていたことを事実認定しています。
③店員を畏怖させて飲食代の一時断念させた場合にも恐喝罪となるとした判例
事案の概要
この事例は、喫茶店で飲食をした被告人が店員から飲食代金を請求されたところ、請求を断念させようと脅迫し畏怖させて、飲食代金の支払いを免れた事例です。
このような事例では、財産上飲食代相当額の不法の利益を得たという二項恐喝罪の成立が肯定されています。
(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。刑法 | e-Gov法令検索
判例分抜粋
「被告人が一審判決判示の脅迫文言を申し向けて被害者等を畏怖させ、よつて被害者側の請求を断念せしめた以上、そこに被害者側の黙示的な少くとも支払猶予の処分行為が存在するものと認め、恐喝罪の成立を肯定したのは相当である」と判示しています(最高裁判所昭和43年12月11日決定)。
弁護士の解説
従業員が飲食代金2440円の支払を請求したところ、被告人が同人を脅迫して請求を断念させようと考え、「そんな請求をしてわしの顔を汚す気か、お前は口が過ぎる、なめたことを言うな、こんな店をつぶす位簡単だ」等と申し向けて脅迫した事例です。従業員が請求を断念しなければ危害を加えられるかも知れないと畏怖させられています。
これに対して、被告人は飲食代金の請求を一時断念したことだけでは足りず被害者の処分行為が必要であると反論しました。
これに対して裁判所は、「一時債務の支払を免れる場合のように一時的便宜を得ることもこれに含むと解するのが相当である」と判断し、二項恐喝罪が成立することを肯定しています。
本件で裁判所は、被害者側が即時支払いを請求したにもかかわらず、被告人が脅迫文言を申し向けて被害者を畏怖させた結果、請求を一時断念させている以上そこには被害者側の黙示的な支払猶予の処分行為が存在していると認定しています。
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