建造物損壊罪とは他人の建造物又は艦船を損壊した場合に問われる罪です。刑法第260条に規定されています。罰則は5年以下の懲役です。罰金刑がないため有罪となれば必ず懲役刑が科せられる重罪です。また、3年以上の判決が言い渡された場合は執行猶予がつきませんので、懲役実刑となり刑務所に収監されてしまいます。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 建造物損壊罪の成立要件や罰則
- 建造物損壊罪の時効
- 建造物損壊罪と器物損壊罪の違い
などについてわかりやすく解説していきます。
なお、建造物損壊罪で逮捕されるおそれのある方や、既に逮捕された方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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建造物損壊罪とは
定義
建造物損壊罪(けんぞうぶつそんかいざい)とは他人の建造物又は艦船を損壊した場合に問われる罪です(刑法第260条)。また、建造物等損壊によって人を死傷させた場合は建造物等損壊致死傷罪に問われます。建造物損壊罪、建造物等損壊致死傷罪は刑法第260条に規定されています。
(建造物等損壊及び同致死傷)
第二百六十条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。刑法 | e-Gov法令検索
成立要件
建造物損壊罪の成立要件は、「①他人の建造物又は艦船を②損壊すること」です。
①他人の建造物又は艦船
まず、建造物又は艦船を損壊することが必要です。
「建造物」とは、一般に屋根を有し、障壁又は支柱によって支えられた土地の定着物であって、その内部に出入りできる構造を有するものをいいます。家屋が典型例ですが、建築途中のものであっても建造物にあたる場合があります。その他、官公庁の庁舎、飲食店、オフィスビル、駅舎、学校、交番、工場・工場、倉庫などがあります。
「艦船」とは、軍艦及び船舶をいい、現に自力又は他力による航行能力を有することを要するとされています。
建造物又は艦船は「他人の」ものである必要があります。「他人の」とは、他人の所有に属すという意味です。他人の所有に属するものである以上、住居に使用されているかどうか、日人が現に建造物内にいるかどうかは関係ありません。
②損壊
次に、他人の建造物又は艦船を損壊することが必要です。
「損壊」とは、建造物又は艦船の実質を毀損すること、又はその他の方法でそれらの使用価値を滅却し、あるいは滅損することをいいます。物質的に形態を変更又は滅却させる場合だけでなく、事実上その本来の用法に従い使用することができない状態に至らせる場合も含まれます。その損壊によって建造物の全部又は一部が毀損されることを要しますが、必ずしも建造物の使用を全く不能にする必要はなく、また、毀損の部分が必ずしも建造物などの主要な構成部分である必要もないと考えられています。
なお、建造物の効用の中には美観・威容も含まれます。労働争議に際して、要求行為を記載したビラを3回にわたり、1回に400枚ないし2500枚を、建物の壁、シャッター、窓ガラスに密接集中して貼付した事案につき建造物損壊罪の成立を認めた判例(最高裁昭和41年6月10日)があります。
建造物損壊罪の具体例
建造物損壊罪が成立しうるケースは次のとおりです。
- 他人の家の壁にペンキを塗った、壁を壊した
- 飲食店の床にふん尿をまき散らした
- オフィスビルの壁や窓ガラスに複数枚のビラを張り付けた
- 官公庁の出入口のドアガラスを割った
罰則
建造物損壊罪の罰則は5年以下の懲役です。罰金刑は設けられていません。
過失の場合は問われない
建造物損壊罪は建造物等を損壊することについての故意が必要な故意犯です。したがって、コンビニエンスストアの駐車場に停めた車に乗り、車を後退発進させようとしたところ、ギアの入れ間違いにより車を前進させてコンビニ店に車を突っ込ませて店を損壊させた交通事故の場合のように、建造物等を損壊させることにつき故意がない(過失がある)場合には建造物損壊罪は成立しません。もっとも、民法上の不法行為責任(損害賠償責任)は故意のみならず過失がある場合でも問われます。また、上記のケースで車を前進させた際に、人を死傷させた場合は過失運転致死傷罪など、他の罪に問われる可能性はあります。
建造物損壊罪は親告罪ではない
建造物損壊罪は非親告罪です。親告罪とは、検察官が起訴するにあたって被害者の告訴を必要とする犯罪です。つまり、建造物損壊罪は被害者の告訴がなくても起訴される可能性があるということです。
建造物損壊罪の時効は5年
建造物損壊罪の公訴時効は行為のときから5年です。
人が死傷した場合の罪と刑罰
建造物等損壊によって人を死傷させた場合は建造物等損壊致死傷罪に問われます(刑法第260条後段)。
建造物等損壊致死傷罪の成立には、これまで解説した建造物損壊罪の要件に加えて人を死傷させたという結果の発生が必要です。建造物等損壊致死傷罪は、他人の建造物・艦船を損壊し、その結果として人の死傷を生じた場合に成立する結果的加重犯であって、損壊と人の死傷との間に因果関係があることが認められれば、建造物・艦船の中にいた人を殺そう、怪我を負わそうという意図(故意)がなくても成立する犯罪です。
次に、建造物等損壊致死傷罪の刑罰については「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。」と規定されています。「傷害の罪」とは傷害罪(204条)、傷害致死罪(205条)の罪を指しており、致傷の場合は傷害罪と比較し、致死の場合は傷害致死罪と比較して重い刑を科すという意味です。この点、傷害罪の罰則は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金ですので、建造物等致傷罪の罰則は15年以下の懲役となります(建造物損壊罪には罰金刑が設けられていないため罰金刑はありません)。一方、傷害致死罪の罰則は3年以上の懲役ですので、建造物損壊等致死罪の罰則は3年以上の懲役となります。
建造物損壊と器物損壊の違いは?
建造物損壊罪と器物損壊罪との違いは以下の3つです。
- ①損壊の対象物の違い
- ②罰則の違い
- ③親告罪か非親告罪かの違い
①損壊の対象物
まず、損壊の対象物です。
建造物損壊罪の対象物は「他人の建造物か艦船」です。一方、器物損壊罪の対象物は公用文書毀棄罪、公電磁的記録毀棄罪、私用文書毀棄罪、私電磁的記録毀棄罪、建造物損壊罪、建造物等損壊致死罪の対象物以外の「他人の物(器物)」です。日用品、装飾品、家電・家具、車、自転車、バイクなどは器物損壊の器物の典型です。
「建造物」か「器物」かは、取り外しが容易かどうかで区別されます。たとえば、家の玄関ドアは取り外しが容易ではないことから「建造物」にあたります。一方、取り外しが容易な家の雨戸や網戸は「建造物」ではなく「器物」にあたります。なお、建造物損壊罪の「損壊」と器物損壊罪の「損壊」の意味は同じです。
②罰則
次に、罰則です。
建造物損壊罪の罰則は「5年以下の懲役」です。一方、器物損壊罪の罰則は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」です。
③親告罪か非親告罪か
次に、親告罪か非親告罪かです。
前述のとおり、建造物損壊罪は非親告罪です。一方、器物損壊罪は親告罪です。
これって建造物損壊になる?
ここからはケース別に建造物損壊が成立するかどうか検討していきます。
ブロック塀に落書きした場合は?
ブロック塀に落書きする行為は建造物損壊罪が成立しない可能性が高いでしょう。
まず、ブロック塀に落書きする行為は「損壊」にあたります。建造物損壊罪では建造物の、器物損壊罪では器物の美観も保護しており、ブロック塀に落書きする行為は建造物(器物)の美観を損ねる行為だからです。
では、ブロック塀が「建造物」にあたるかですが、ブロック塀は家などの建造物とは別個に設置されるものであって、後述する玄関ドアなどと異なり、建造物と一体となって設置されるものではない以上、ブロック塀を建造物と解釈することは難しいケースが多いと考えられます。以上より、上記のケースでは器物損壊罪が成立する可能性が高いでしょう。
玄関ドアを損壊させると建造物損壊になる?
玄関ドアを壊せば建造物損壊罪が成立する可能性が高いでしょう。
ブロック塀と異なり、玄関ドアは家という建造物と一体となっており(家からの取り外しが容易ではなく)、玄関ドアを壊すことは家という建造物を壊すことと同じことといえます。
また、判例(最高裁平成19年3月20日判決)によると、「建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきである。」としています。そして、「住居の玄関ドアとして,外壁と接続し,外界とのしゃ断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしている物は,適切な工具を使用すれば損壊せずに取り外しが可能であるとしても,建造物損壊罪の客体に当たる。」と判示しています。
なお、同じ理由から、家の壁を壊した場合も建造物損壊罪が成立する可能性が高いでしょう。
窓ガラスを割った場合は?
次に、窓ガラスの場合も玄関ドアや壁と同じく、建造物と一体となっていて、窓ガラスを割ることは建造物を壊すことと同じことといえる場合が多いといえそうです。したがって、窓ガラスを割った場合は建造物損壊罪が成立する可能性が高いでしょう。一方、取り外しが容易な窓ガラスを割った場合は器物損壊罪が成立する可能性が高いです。
賃貸物件を故意に損壊させてしまった場合は?
次に、賃貸物件の壁に穴をあけた場合ですが、穴をあけた箇所や大きさなどにもよるでしょう。賃借人が許容しうる程度の場所と大きさのものであれば罪に問われることはありませんが、賃貸人の許容しない程度のものの場合は罪に問われる可能性があります。この場合の罪はもちろん、建造物損壊罪です。なお、穴の大きさなどによっては、賃貸人から修繕を求められたり、契約を解除されたりする可能性があります。
建造物損壊が初犯の場合はどう取り扱われる?
もし、建造物損壊罪で起訴されたとしても、初犯であれば執行猶予がつく可能性が高いです。また、起訴される前に被害者と示談が成立すれば起訴されずに済む、すなわち、不起訴となる可能性が高いでしょう。
もっとも、前述のとおり、建造物損壊罪には懲役刑しか規定されていません。執行猶予がつくとしても懲役刑に処せられ、前科がつくことは実刑と変わりません。また、行為態様、被害額、被害者の処罰感情などの情状が悪い場合は、初犯であっても実刑に処せられる可能性があります。さらに、起訴前に示談が成立したからといって、不起訴が確約されるわけではないことにも注意が必要です。
建造物損壊で不起訴を狙うなら示談が重要
とはいえ、起訴される前に示談を成立させることは不起訴の可能性を高めることには間違いありません。
示談するメリット
このように、示談するメリットは不起訴の可能性を高めることにあります。また、起訴されたとしても判決までに示談を成立させることができれば執行猶予の可能性を高めることにつながります。身柄を拘束されている場合は早期釈放にもつながります。なお、警察に発覚する前に示談を成立させることができれば、立件や逮捕を回避することにもつながります。
示談金の相場は?慰謝料も支払うべき?
建造物損壊における示談金は被害(損害)額を基準とします。ただ、単に損害をお金で埋め合わせしただけでは納得しない被害者がほとんどでしょう。したがって、被害額にいくらか上乗せした金額を示談金とすることが通常です。なお、建造物損壊で生じた損害は物的損害であって、精神的損害の賠償金である慰謝料とは性質を異にします。したがって、通常、慰謝料を払うことはありません。
示談交渉は弁護士に依頼すべき
示談を成立させるには示談交渉が必要ですが、示談交渉は弁護士に任せましょう。加害者との直接の交渉に応じる被害者は少ないですし、仮に応じてくれたとしても交渉がこじれ破談する可能性が高いでしょう。被害者とコンタクトがとれない場合は、捜査機関から被害者の連絡先等を取得する必要がありますが、被害者の連絡先等の取得は弁護士でしかすることができません。
当事務所では、刑事事件の被害者との示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、建造物損壊罪で逮捕のおそれがある方、既に逮捕された方のご家族の方は、当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。お力になれると思います。
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