- どんな行為が不正乗車にあたるのだろう?
- キセル乗車や無賃乗車、改札突破などの不正乗車は逮捕される?
- 不正乗車が後日にバレて逮捕されることはある?
この記事では、刑事事件に強い弁護士がこれらの疑問を解消していきます。
不正乗車をしてしまいいつ警察が訪れて来るのかご不安な方、既に逮捕された方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合は弁護士までご相談ください。
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目次
不正乗車にあたる行為とは?
「不正乗車」とは、鉄道を利用するときに、必要とされている乗車券を持たずに利用して、利用距離に応じた運賃の支払いを受けることを免れる行為のことを一般的に指します。
不正乗車をした場合には刑事責任・民事責任両方の法的責任が発生することになります。
キセル乗車
「キセル乗車」とは、連続しない区間の2枚以上の乗車券・定期券を利用して、乗車券を持っていない区間を移動してその間の運賃の支払いを免れる行為を指す俗称です。
「キセル」とは、喫煙具の一種で、その両端が金属で、間が竹でできているパイプに類似しています。「両端だけに金属が用いられている」ことから離れた区間の2枚の乗車券を利用する不正乗車を「キセル乗車」と呼称するようになりました。
このキセル乗車の具体例として、出発駅をA駅、下車駅をD駅として考えてみましょう。
A駅~B駅、C駅~D駅、この2区間については適法な乗車券・定期券を所持しているとします。それぞれを使用することでA駅で乗車して、D駅で下車することができてしまいます。しかしB駅〜C駅の区間については乗車券・定期券を購入していませんので、上記の方法でA駅~D駅まで鉄道を移動した場合には、B駅~D駅間の運賃を負担していないことになります。
このような仕組みで乗車分の運賃の支払いを免れる行為のことをキセル乗車といいます。
区間外乗車(経路外乗車)
鉄道の運賃については、実際に乗車した経路のとおりに算出されることが原則です。そのため乗車券・定期券に記載のない経路に無断で乗車することも不正乗車にあたります。これを区間外乗車・経路外乗車といいます。
ただし、「大都市近郊区間」や「選択乗車」などの場合には例外的に乗車券に表記がある経路以外に乗車可能な場合もあります。「大都市近郊区間」とは、東京・大阪・福岡・新潟・仙台の5都市近郊に設定されている区間です。「選択乗車」とは、特定の区間において複数の経路がある場合に、乗客が自由に経路を選択できるように設計されている乗車券のことです。
折返(おりかえし)乗車
「折返(おりかえし)乗車」とは、適法に乗車駅で乗車して下車駅とは反対方向の駅まで乗車して折り返して、下車駅まで行く行為のことを指します。区間外乗車の一種です。
原則として折り返すために乗車した区間について、運賃を支払わない場合には不正乗車となります。
なぜこのような不正乗車が横行するかというと、以下に挙げるような動機が存在しているからです。
- 乗車駅と下車駅までの区間外にある駅構内の商業施設・ショッピングモールを利用したい
- 通勤ラッシュ時に始発駅や乗客の少ない駅まで行って座席を確保してから折り返して下車駅まで向かいたい
- 乗車駅では快速列車・特急列車が止まらないため、下車駅とは反対方向の駅まで行って快速・特急列車に乗車したうえで折り返し、下車駅に向かいたい など
ただし、定期券利用者が誤って区間外に乗車してしまった場合には不正乗車とはならず、無賃送還の対象となっています。定期券利用者の誤った乗車は限定的なケースだと考えられているからです。
無人駅での無賃乗車・無賃下車
無人駅の場合には通勤時間帯などラッシュ時には検札が行われない場合もあります。
そのため無人駅から無人駅までの乗車については無賃乗車ができてしまうケースがあります。また無人駅までの適法な乗車券を所持せずにその駅で下車できてしまう場合もあります。
もちろんこのような鉄道の利用も実際に乗車した分の運賃を支払わなければならないことから不正乗車に該当します。しかし無人駅の場合には監視の目が行き届いていない場合も多く、不正乗車ができてしまう地域が存在しています。
もっとも後述するように、防犯カメラの映像から無賃乗車したことが後日にバレて逮捕に至るケースもあります。
その他の不正乗車の例
- 家族などの他人名義の定期券で乗車する行為
- 前を歩く人に張り付くなどして改札を強行突破する行為
- 12歳以上の者が子供の運賃で乗車する行為
- 特急券がないのに故意に特急に乗車し特急料金を免れる行為
- 切符を紛失したと虚偽の申告をし、実際の乗車駅を偽って降車駅で清算する行為 など
不正乗車で成立する犯罪
鉄道営業法違反
キセル乗車などの不正乗車をした場合には、鉄道営業法に違反し犯罪が成立する可能性があります。
鉄道営業法第29条1号には、鉄道係員の許諾を受けずに「有効な乗車券を所持せずに乗車したとき」には「50円以下の罰金または科料」が科される旨が規定されています。
刑法には「罰金は1万円以上とする」「科料は、1000円以上1万円未満とする」と規定されています(刑法第15条、17条参照)。
なぜ鉄道営業法違反の罰金・科料の金額が非常に低額なのかというと、この法律は明治33年に制定された古い法律だからです。
このような物価の変動に関しては「罰金等臨時措置法」が規定されており、「罰金については、その多額が2万円に満たないときにはこれを2万円とし、その寡額が1万円に満たないときにはこれを1万円とする」「科料…については、その定めがないものとする」と規定されています(罰金等臨時措置法第2条1項、3項)。
したがって、上記鉄道営業法違反の罪は「1万円以上2万円以下の罰金」または「1000円以上1万円未満の科料」が科されることになります。
電子計算機使用詐欺
「電子計算機使用詐欺」とは、「人の事務処理に使用する電子計算機」に「虚偽の情報・不正な指令」を与えて、財産権の得喪・変更にかかる「不正な電磁的な記録を作り」・「虚偽の電子的記録を人の事務処理の用に供し」て、財産上不法な利益を得るなどした場合に成立する犯罪です(刑法第246条の2参照)。
要するに、コンピューターに虚偽の情報を与えて、支払い義務を免れた場合に成立する詐欺罪の一種だと理解することができます。
有人改札で、実際に駅係員を騙して入退場の許諾を得た場合には、詐欺罪が成立する可能性があります(刑法第246条参照)。しかし、現在は多くの駅では自動改札が設置され、切符の販売も券売機での発券が一般的になっています。
それに伴い多くの不正乗車の事案では、実際に駅係員が騙されて入退場を許諾しているのではなく、機械が騙されて入退場を許している状態になっているのです。そのため「人に対する欺罔行為」が存在しないことから通常の詐欺罪は成立しないことになります。
そこでコンピューター詐欺に対処することを目的に1987年に新設された「電子計算機使用詐欺」が成立することとなります。
詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪が成立した場合には、「10年以下の懲役」が科されることになります。
電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)とは?構成要件を解説
建造物侵入罪
不正乗車をするつもりで駅構内に立ち入った場合には、「建造物侵入罪」が成立する可能性があります(刑法第130条参照)。
不正乗車をする意図を秘して駅構内に立ち入る行為は、施設管理者が予定していない意思に反する違法な立ち入り行為であるとして、「建造物侵入罪」の実行行為にあたると判断される可能性があります。
この場合、乗車駅の入場券・乗車券を持っていたとしても、最初から不正乗車をする計画・意図がある場合には実際に不正乗車で支払いを免れた金額に関係なく建造物侵入罪が成立することになります。
常習的に不正乗車を繰り返している者の場合には、計画的に駅構内に立ち入ったと認定されやすいでしょう。
建造物侵入罪が成立する場合には、「3年以下の懲役」または「10万円以下の罰金」が科されることになります。
軽犯罪法違反
不正乗車をする意図で駅構内に立ち入った場合には、建造物侵入罪のほかに、「軽犯罪法」にも違反する可能性があります。
軽犯罪法とは、さまざまな軽微な秩序違反行為を取り締まるために規定されている法律です。
軽犯罪法第1条32号より、「入ることを禁じた場所…に正当な理由がなくて入った者」には、拘留または科料が科されます。
「拘留」とは、1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑事罰です(刑法第16条)。また「科料」とは1000円以上1万円未満の金銭徴収のことです(同法17条)。
不正乗車で逮捕されるパターン
不正乗車で現行犯逮捕されるパターン
「逮捕」とは、特定の犯罪を犯したと疑われる被疑者の身体を、比較的短時間拘束する強制処分のことを指します。
そして、不正乗車をしているときに駅係員などが不正に気づきその場で身柄を確保される可能性があります。このような逮捕を「現行犯逮捕」といいます。
「現行犯」とは、「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」と定義されています(刑事訴訟法第212条1項参照)。
「現行犯」の場合には、犯人が明白であること、逮捕手続きが時間的に接着していること、そして緊急の必要性があることから、捜査機関以外の一般私人であっても令状なしで逮捕をすることが許されています(刑訴法第213条参照)。私人逮捕の場合には、被疑者に身柄を直ちに捜査機関に引き渡す必要があります。
そのため、不正乗車が発覚した場合には駅係員によって身柄を拘束され、通報を受けた警察官が到着するまで構内の事務室や車掌室に留め置かれます。そして到着した警察官に身柄が引き渡されることになります。
後日に通常逮捕されるパターン
不正乗車がのちのち発覚した場合などには、後日通常逮捕される可能性もあります。
「通常逮捕」とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときに、裁判官が発する「逮捕状」により行われる逮捕手続きのことをいいます。
通常逮捕手続きがとられる場合は、鉄道会社が警察に不正乗車の被害について被害届や告訴状を提出したことで裏付け捜査がなされているパターンが多いでしょう。
鉄道会社が交通系ICカードの使用履歴と実際に乗車及び下車した駅の情報、防犯カメラの動画・画像などを調べることで不正乗車は発覚することがあります。鉄道会社が警察に通報して必要な捜査が実施されたあと通常逮捕に乗り出すことになるでしょう。
その場合には逮捕状を携帯した警察官が自宅を訪れ、強制的に警察署に連行されることになります。
不正乗車で逮捕されないパターン
在宅事件として任意捜査を受けるパターン
不正乗車が判明した場合であっても逮捕されない可能性もあります。
逮捕は被疑者の身体を強制的に拘束する手続きですので、要件が法定されています。具体的には、被疑者に逃亡・罪証隠滅のおそれがない場合や高齢・病弱などの場合には逮捕が実施されず在宅事件として捜査が進められるパターンもあります。
日本の刑事事件のうち、60〜70%の事件は身体拘束を受けない在宅事件として任意捜査で処遇が決められていますので、軽微な不正乗車の場合には在宅事件とされる可能性はあります。
鉄道会社で処理されるパターン
鉄道会社としては、不正乗車で被った損害を填補できる場合には経済的な損失がありませんので、刑事事件にまでしないという判断はありえます。
鉄道営業法18条には、乗客が有効な乗車券を所持しない場合には、鉄道運輸規程の定めるように割増運賃を支払う義務が生じることが規定されています。そして鉄道運輸規程19条には、有効な乗車券を所持せずに乗車した旅客には、乗車した区間に対する相当運賃の2倍以内の割増運賃を請求することができる、とあります。
そのため「正規の運賃+割増運賃」の運賃の3倍を不正利用者に請求することができます。この支払いに不正利用者側が応じて支払いを受けられた場合には和解するという方針を、会社がとる場合も多いでしょう。
しかし、長い期間にわたり不正乗車を繰り返し、本人が支払うことができない場合や、過去に発覚したことがあるにもかかわらず繰り返し同様な不正乗車を行っている場合には悪質な犯罪であるとして刑事事件として被害届が出される可能性が高いです。
すぐに鉄道会社からの請求に応じられない場合や個人での交渉が難しいと感じられた場合には弁護士に相談することが適切でしょう。
不正乗車で逮捕された後の流れ
不正乗車で逮捕された後は、以下の流れで手続きが進んでいきます。
- 警察官の弁解録取を受ける
- 逮捕から48時間以内に検察官に事件と身柄を送致される(送検)
- 検察官の弁解録取を受ける
- ②から24時間以内に検察官が裁判官に対し勾留請求する
- 裁判官の勾留質問を受ける
→勾留請求が却下されたら釈放される - 裁判官が検察官の勾留請求を許可する
→10日間の身柄拘束(勾留)が決まる(勾留決定)
→やむを得ない事由がある場合は、最大10日間延長される - 原則、勾留期間内に起訴、不起訴が決まる
- 正式起訴されると2か月間勾留される
→その後、理由がある場合のみ1か月ごとに更新
→保釈が許可されれば釈放される - 勾留期間中に刑事裁判を受ける
上記の通り、不正乗車で逮捕されると、勾留請求まで最大3日間(48時間+24時間)は身柄拘束が続きます。その間、弁護士以外とは自由に連絡が取れませんので、弁護士を介してご家族に連絡をしてもらいましょう。ご勤務されている方は無断欠勤が続くと解雇される恐れがあるため、ご家族経由で会社に欠勤の連絡(病欠などの理由にすることが多いでしょう)を入れてもらいます。
ただし、検察官が勾留請求をし、裁判所がそれを許可すれば、刑事処分(起訴または不起訴)が決まるまで最大で20日間(原則10日+延長10日)は勾留(身柄拘束)されますので、会社に隠し通すことが難しくなってきます。逮捕されただけで解雇になる可能性は低いものの、有罪判決となれば就業規則にもとづき懲戒解雇される恐れもあります。私立学校の学生の場合は退学処分を受けることもあるでしょう。
前述の通り、不正乗車は後日逮捕の可能性もあるわけですから、解雇や退学処分を回避するためにも、不正乗車をしてしまった時点で弁護士を介して鉄道会社と示談交渉すべきでしょう。逮捕された後においても、早急に弁護士に依頼し、示談交渉、早期釈放・不起訴処分に向けた弁護活動を開始してもらいましょう。
なお、逮捕後に釈放された場合には、在宅事件として捜査が進められます。この場合はこれまで通りの日常生活を送ることが出来る反面、いつ最終的な処分が下るのかが不明ですので、不安な日々を暮らさなくてはならないというデメリットもあります。ただし、在宅捜査が進められている間に鉄道会社と示談を成立させることができれば不起訴処分になる可能性が高まります。
不正乗車で逮捕されて有罪となった事例
キセル乗車に電子計算機使用詐欺が認められた全国初の事件
この事案は、被告人らが東京都内から栃木県内までを往復するに際して、区間の連続しない乗車券等を用いて大部分の運賃の支払いを免れた事案です。回数券・乗車券については不正な改変がなされていないため「虚偽の電磁的記録」ではないと被告人らは主張しました。
これに対して裁判所は、「虚偽」とは「電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反するものをいう」と判示しました。本件では有効期間内の自動改札未設置駅から入場したとの入場情報を読み取らせており、この入場情報は実際の乗車駅とは異なるので「虚偽」にあたるとされました。
つまり使用した回数券・乗車券はいずれも不正な改変がなされたものではありませんが、その入場記録が実際の乗車と異なるものである場合には、「虚偽の電磁的記録」にあたるということです。(東京地方裁判所平成24年6月25日判決)
キセル乗車に電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた判例
この事例で被告人は、近鉄名古屋駅から150円区間の有効な乗車券を使用して同駅に入場し、近鉄松阪駅まで乗車しました。被告人は「近鉄高田本山駅から近鉄松阪駅まで」の有効な定期券または「JR多気駅からJR松阪駅まで」の有効な定期券を投入し自動改札を通過しました。
被告人は「近鉄高田本山駅~近鉄松阪駅までの間」または「JR多気駅~JR松阪駅までの間」から乗車して近鉄松阪駅で下車するとの虚偽の情報を読み取らせて改札機を開扉させました。
この事例でも裁判所は、「近鉄名古屋駅から近鉄松阪駅までの正規運賃との差額790円の支払いを免れ、もって虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して財産上の不法の利益を得た」として電子計算機使用詐欺罪の成立を肯定しています。(名古屋高等裁判所令和2年11月5日判決)
不正乗車をしたら弁護士に相談を
鉄道会社との交渉を一任できる
不法乗車が発覚した場合、弁護士に依頼して代理人となってもらうことで鉄道会社との和解交渉を任せることができます。
鉄道営業法違反は親告罪と規定されているため、鉄道会社が告訴しない場合には刑事事件として起訴され有罪になることはありません。告訴されない・告訴を取り下げてもらうためにも、鉄道会社と示談をまとめることは非常に重要です。
早期釈放・不起訴の可能性が高まる
刑事事件として捜査の対象となった際も弁護人のサポートを受け、捜査に積極的に協力する、同居の親族が身元引受人となり、監視監督を誓約してくれている場合などにはその旨を捜査機関にアピールしていくことになります。
場合によっては早期に身体拘束が解かれ在宅事件となる可能性もあります。
裁判になった場合も減刑・執行猶予の可能性が高まる
逮捕・起訴された場合、弁護人による弁護活動の結果、減刑・執行猶予付き判決となる可能性もあります。
起訴後であっても鉄道会社と示談を成立させられた場合には被告人にとって有利な事情となります。場合によっては両親や親族の協力が必要となる場合もあります。弁護士としっかりとコミュニケーションをとって適切な弁護活動に動いてもらうことが重要となります。
弊所では、不正乗車における鉄道会社との示談交渉、早期釈放、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、いつ逮捕されるのか不安な方、既に逮捕されたご家族の方は弁護士までご相談ください。相談する勇気が解決への第一歩です。
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