不正アクセス禁止法の有名判例を弁護士が解説

①不正アクセス行為と私電磁的記録不正作出行為との罪数関係を示した判例

事案の概要

この事案は不正アクセス行為と私電磁的記録の不正作出、同供用の事案です。

被告人はインターネットオークションサイトを利用するうちに、オークション詐欺が横行していることに気づき、詐欺による被害の拡大を防ごうと考えました。

そこで乗っ取られた他人のIDとパスワードを使用して、会員にのみ利用が制限されたサーバーコンピューターに不正アクセス行為を行い、そのIDを使った更なる詐欺的出品を食い止めるため、そのIDのパスワードを変更して、その旨の虚偽の情報をサーバーコンピューターに記憶させました。

さらに詐欺的出品による被害を食い止めるため、その出品に対して他人のIDとパスワードを勝手に使用して入札・落札を行いその旨の虚偽の情報をサーバーコンピューターに記憶させました。

このような不正アクセス行為・私電磁的記録の不正作出が犯罪に該当するとして被告人は起訴されました。

判例分抜粋

「不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条所定の不正アクセス行為を手段として私電磁的記録不正作出の行為が行われた場合であっても、同法8条1号の罪と私電磁的記録不正作出罪とは、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものとは認められず、牽連犯の関係にはないと解するのが相当であるから、本件につき両者を併合罪の関係にあるものとして処断した原判断は相当である」と判示しています(最高裁判所平成19年8月8日決定)。

弁護士の見解

オークションサイトに不正に入手した第三者のIDを使用して侵入し(不正アクセス防止法違反)、そのうえで第三者のIDのパスワードを変更した(私電磁的記録作出罪)場合、両者の関係は牽連犯ではなく併合罪であると判断されました。

刑法には、「犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する」と規定されています(刑法第54条1項)。

このような「牽連犯」と判断された場合には、科刑上一罪として犯情の重い不正作出私電磁的記録供用罪のみで処罰されることになります。

しかし、同判例は両者の関係を「併合罪」であると判断しています。

「確定判決を経ていない2個以上の罪を併合罪とする」と規定しており、「併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする」と規定しています(刑法第45条、同47条前段)。

結果として、被告人は最も重い刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役1年4か月に処せられ、情状により裁判確定の日から3年間は刑の執行を猶予することとされました。

②正常な問題指摘活動だとしても不正アクセス禁止法違反が成立するとされた判例

事案の概要

被告人は,法定の除外事由がないのに合計7回にわたり、京都市内ほか数か所においてパソコンから電気通信回線を通じて、アクセス管理権者であるA株式会社が大阪市内に設置したアクセス制御機能を有する特定電子計算機であるサーバコンピュータに、当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる指令を入力して上記特定電子計算機を作動させ,上記アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせました。

本件は、被告人のこれらの行為が不正アクセス行為にあたるとして起訴された事案です。

これに対して被告人側は、被告人が本件各アクセスに及んだのは、コンピュータの脆弱性についてのボランティア的な問題指摘活動の一環としてであって、ネットワーク社会の安全性を高める行為であるから、違法性が阻却され被告人は無罪であると反論しました

判例分抜粋

「事前に**会等に脆弱性の報告をせず、修正の機会を与えないまま、これを公表したことは、被告人の手法をまねて攻撃するという危険性を高めるものであったというほかなく、被告人の本件各アクセス行為はそのような形で公表することを目的としてなされたものであって、正常な問題指摘活動の限界をはるかに超えるものであり,正常な活動の一環であったとは到底認めらない。また、プレゼンテーションの仕方やその際の発言内容等にも照らすと、脆弱性を発見した自己の能力、技能を誇示したいとの側面があったことも否定できないところである。被告人も、・・・正当な活動でないことを自覚していたと認められるのである。そうすると、被告人の行為は正常な問題指摘活動であるから違法性がないとの弁護人の主張は、前提を欠くものであって、被告人の行為が違法であることは明らかである。・・・そのような動機を有していたとしても、サーバへの攻撃の危険性を高めるような公表行為が許されるはずはなく、そのような公表のためになされた本件各アクセス行為が正当化されることもないと解すべきである」と判示し、裁判所は被告人の主張を退けました(東京地方裁判所平成17年3月25日判例)。

弁護士の見解

被告人が本件不正アクセス行為は、コンピュータの脆弱性について問題指摘活動の一環として行ったという主張は正当行為であるという反論です。刑法には、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と規定しており、正当行為であれば犯罪は成立しないことになります

しかし、本判例で被告人の不正アクセス行為は、「正常な問題指摘活動の限界をはるかに超えるもの」であるため正当化されず不正アクセス禁止法違反となりました。

なお以下のような事情が考慮され、不正アクセス行為の正当性を否定する判断がなされています。

  • システムの脆弱性を3カ月もの間報告することなく放置していたこと
  • 不特定多数の面前で本件アクセスの手法を再現可能な形で具体的にプレゼンテーションしたこと
  • プレゼンテーション資料にはシステム側を揶揄する記載やおよそ真摯な活動とは思われない記載があったこと など
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