放火罪の有名判例を弁護士が解説

①建物が廻廊等により接続された神宮社殿は全体として一個の現住建造物であるとされた判例

事案の概要

この事案は、被告人がA神社に放火したことが現住建造物放火罪に当たるとして起訴された事件です。

これに対して被告人側は、A社殿は一体として現住建造物を構成していたわけではなく、被告人が放火により焼燬した本殿、祭具庫、西翼舎等の建物と人が現住していた社務所等の建物とは「別個の建造物」であったから、本件においては非現住建造物放火罪が成立するにとどまると主張しました。

本件起訴時には既に非現住建造物放火罪の公訴時効が完成していたことから、同罪に当たる場合には、被告人には免訴の判決がなされることになるため問題となりました。

判例分抜粋

「社殿は、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり、また、全体が一体として日夜人の起居に利用されていたものと認められる。そうすると、右社殿は、物理的に見ても、機能的に見ても、その全体が一個の現住建造物であつたと認めるのが相当であるから、これと同旨の見解に基づいて現住建造物放火罪の成立を認めた原判決の判断は正当である」と判示して、現住建造物放火罪の成立が認められました(最高裁判所平成元年7月14日決定)。

弁護士の見解

この事案では、A社殿と実際に被告人が放火した建造物との一体性が認められましたが、その際に最高裁判所が考慮した事情は以下のようなものです。

  • A社殿は、本殿などの建物とこれらを接続する各内廻廊、歩廊、外廻廊とから成り、中央の広場を囲むように方形に配置されており、廻廊、歩廊づたいに各建物を一周しうる構造になっていたこと
  • 各建物は、すべて木造であり、廻廊、歩廊も、その屋根の下地、透壁、柱等に多量の木材が使用されていたこと
  • そのため、祭具庫、西翼舎等に放火された場合には、社務所、守衛詰所にも延焼する可能性を否定することができなかったこと
  • 外拝殿では一般参拝客の礼拝が行われ、内拝殿では特別参拝客を招じ入れて神職により祭事等が行われていたこと
  • 夜間には、神職各1名と守衛、ガードマンの各1名の計4名が宿直に当たり、社務所又は守衛詰所で執務をするほか、出仕と守衛が約1時間にわたり建物を巡回し、ガードマンも閉門時刻から同様の場所を巡回し、神職とガードマンは社務所、守衛は守衛詰所でそれぞれ就寝することになっていたこと

以上のように建造物としての一体性は、問題となる建造物の構造や、人の出入りを個別具体的に検討して判断されることになります。

②エレベーターのかごの一部を燃焼させ現住建造物放火罪が成立するとされた判例

事案の概要

この事案は、被告人が12階建てのマンション内にあるエレベーターのかごに放火してその側壁の一部を焼失させたという事案です。

この被告人は男女関係のもつれに端を発して相手方である女性に嫌がらせをして憂さ晴らしをしようと、準備していたがガソリン入りのウイスキーの空き瓶と新聞紙数部を入れた紙袋を持参して本件マンション(鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根12階建て)を訪れました。

被告人は女性の玄関ドア郵便受けに新聞紙を差し込んだうえガソリンを注ぐなどしましたが、結局放火をして気持ちを晴らそうという考えに至り、約100名が現に居住している本件マンションに設置されているエレベーターのかご内でライターで新聞紙に点火しました。

そしてガソリンが浸透した新聞紙に投げつけ火を放ち、エレベーターのかごの側面に燃え移らせて、結果としてエレベーターのかごの壁面化粧鋼板表面の化粧シート約0.3平方メートルが焼失してしまいました。

判例分抜粋

「被告人は、12階建集合住宅である本件マンション内部に設置されたエレベーターのかご内で火を放ち、その側壁として使用されている化粧鋼板の表面約0.3平方メートルを燃焼させたというのであるから、現住建造物等放火罪が成立するとした原審の判断は正当である」と判断し、現住建造物放火罪の成立を肯定しています(最高裁判所平成元年7月7日決定)。

弁護士の見解

この事案で被告人側は、エレベーターのかごには建造物性がないから非現住建造物であり、延焼の結果が生じていないため未遂にとどまるなどと反論して、非現住建造物放火罪などであると主張しました。

これに対して最高裁判所は、現住建造物放火罪が成立するとした原審の判断を維持していますが、その理由については特に述べていません。

そこで原審を見てみると、原審はエレベーターがマンションと機能的一体性を有するものであることを前提として、マンション全体とエレベーターのかごの構造的一体性を判断しています。このような機能的一体性を判断することで、エレベーターのかごという一部分における放火行為を、マンション全体としての現住建造物に対する放火として評価しているのです。

強盗殺人の犯跡を隠蔽するために木造家屋の内部で放火をして布団と畳のみを焼損したという事案に対して、「建具その他家屋の従物が建造物たる家屋の一部を構成するものと認めるに、・・・物件が家屋の一部に建付けられているだけでは足りず更らにこれを穀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とするものである」 という一般論を示している判例もあります

③明かりに使用していた火を燃え広げさせ逃走したことが不作為の放火であるとされた判例

事案の概要

この事案は、窃盗犯人である被告人が、丸めた紙切れの先に点火し、これを明かりにして落ちた硬貨を探し拾い集めていたところ、その火が紙クズ類に燃え移り20㎝程度燃え上ってしまいました。

被告人は当該建物が燃焼するかもしれないことを認識しながら、自己の犯行が発覚することをおそれてあえて消火措置をとることなく逃げているため、不作為による放火罪が成立すると判断された事案です。

判例分抜粋

「自己の犯行の発覚をおそれる余りあえて消火することなくその場を立ち去った被告人の心意は、既発の火力による延焼の結果発生を容認したものであると解するに妨げなく、被告人がその消火義務に違背した不作為にもとずく焼燬につき放火罪の刑責を負うべきものであること言うまでもない。これと同旨の原判決の判断は相当であって、所論の事実誤認、法令適用の誤りはない。さらに、・・・建物が現住建造物であることは、・・・明らかに認めることができ、当審における事実調の結果によっても同ようである。この点に関する原判決の理由中の説示は、そのまま正当として当裁判所も肯認できるところであるから、原判決には所論の非現住建造物を現住建造物と誤認した違法ないし法令適用の誤りはない」と判示し、現住建造物放火罪が認められました(広島高等裁判所親窯支部昭和48年9月6日判決)。

弁護士の見解

この事案で被告人は、切符売り場を物色し、その机の引き出しの中に紙幣と硬貨を発見しました。

そこで被告人はポケットに入れようとしましたが、硬貨が床に落ち音がしてしまったので、その場にあった紙切れを丸めて長くした紙切れの先にマッチで点火して床に落ちた硬貨を拾い集めようとしたのでした。

裁判所は、被告人の心理状態について硬貨を落した物音に気づかれるのではないか、消火しようとすればその物音で発見されるのではないか、という自己の犯行の発覚をおそれるあまりあえて火を消し止めることなくその場を立ち去ったものであると認定しています。

さらに、当時机上には延焼しやすい紙類が乱雑に放置されていたため、燃え移れば建物を焼燬させるかもしれないということは被告人が逃走前において十分認識しえた事態であり、被告人にはその認識があったと認められると認定されています。

以上のような事実認定により、「自己の犯行の発覚をおそれてあえて消火することなくその場を立ち去った被告人の心意は、既発の火力による延焼の結果発生を容認したものである」ことが認定され、消火義務に違反した不作為に基づく放火罪が成立すると結論づけられたのです。

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