目次
①遠まわしな表現であっても加害の告知を認めた判例
事案の概要
この事案は、2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に現実に出火もないのに「出火御見舞申上げます。火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます。火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書を発送し、これを配達させたことが脅迫罪にあたると判断された事例です。
判例分抜粋
この事例で裁判所は、「刑法二二二条の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによつて成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件二枚の葉書の各文面は、・・・本件におけるが如く、二つの派の抗争が熾烈になつている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である」と判示しています(最高裁判所昭和35年3月18日判決)。
弁護士の解説
「人を脅迫した」(刑法第222条)とは、人を畏怖させるに足りる害悪の告知のことをいいます。脅迫罪は、私生活に対する平穏・安全感を侵害する危険犯や、人の意思活動の自由に対する危険犯であると考えられています。
そのため相手方が害悪の告知を認識し畏怖する危険性までは必要ですが、実際に相手方が畏怖するところまでは不要であると考えられているのです。
この事例において被告人側は、本件ハガキは出火見舞にすぎず、一般人がこのようなハガキを受け取ったとしても放火される危険があると畏怖の念を生じることはないと反論して脅迫罪は成立しないと争いました。
しかし裁判所は、2つの派の抗争が熾烈になっている時期に一方の派の中心人物の自宅に対して現実に出火もないのに本ハガキが届いたという事実経過に着目して、一般人を畏怖させるのに十分であると判断しています。
②ネットの書き込みが脅迫罪にあたるとされた判例
事案の概要
この事例は、インターネット掲示板に、文化センターにおいて開催予定であった講座について、「文化センターを血で染め上げる」とか「教室に灯油をぶちまき、火をつける」などと書き込んだ被告人の行為が、同講座の講師に対する脅迫罪が成立するとされた事例です。
判例分抜粋
裁判所は、被告人がインターネット掲示板2ちゃんねるの「スレッド内に、「一気にかたをつけるのには、文化センターを血で染め上げることです」、「教室に灯油をぶちまき 火をつければ あっさり終了」などと書き込み、さらに、…「証人請求でババア呼びますから 文化センター血の海になりますよ~」…「うんにゃ 前に書き込んだと思うけど ババアとの遊びは終わり 本気で潰しますので。」…「ついでに 通報も忘れるなよ これは犯罪予告だ!」などと書き込んだ」と事実認定しています。
そのうえで「文化センターにおいて、…開催される予定であった、Aが講師を務める講座(以下「本件講座」という。)に関する話題が書き込まれており、本件講座の講師を務める者としては、上記スレッドに上記各書き込み(以下「本件書き込み」という。)がされたのを目にすれば、本件講座の開催中に、会場に火をつけられ、自らの生命、身体に危害が加えられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、本件書き込みは、脅迫罪の構成要件である一般に人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知に該当する」と判断しています(東京高等裁判所平成20年5月19日判決)。
弁護士の解説
被告人側は上記スレッド内では、第三者が被告人を挑発する書き込みが継続してなされていたと反論しましたが、裁判所は書き込みが挑発的な書き込みに対する返答として書き込まれたものであったとしても、本件書き込みが脅迫罪の構成要件である害悪の告知に該当することには変わりないと判示しています。
さらにこの判例では、害悪の告知の有無は一般人を基準として判断されるとして、本件書き込みにより被害者であるA自身が実際に恐怖心を抱いたか否かは問題とはならない旨を明らかにしています。
③被害者に直接害悪の告知を行う必要はないとされた判例
事案の概要
この事例は、脅迫状を人の発見しやすい掲示場屋根の棟竹の端に立て掛けておき、これを持ち帰った第三者を通して相手方がこれを閲読することになったという事例です。
被告人が自ら被害者に対して脅迫状を交付していないため、このような場合でも害悪の告知をしたと言えるのか否かが問題となりました。
判例分抜粋
この事例において裁判所は、「脅迫罪を構成するには犯人が人を脅迫するの目的を以て刑法第222条所定の害悪を加うべきことを相手方に知らしむる手段を施し相手方が之に拠りて加害行為の行わるべきことを知りたる事実あるを以て足り必ずしも犯人が言語其他の方法を以て直接相手方に対し害悪を加うべきことを通告するの要なきものとす」と判示しました(大審院判大勝年5月26日判決)。
弁護士の解説
要するに判例は、「害悪の告知」については告知手段を施して相手方が知ることになればよいのであるから、必ずしも犯人が言語その他の方法で直接相手方に対して通知する必要はないということを明らかにしたうえで脅迫罪の成立を肯定しています。
この事例は脅迫状を用いた大審院時代の古い判例ですが、現在インターネット掲示板やTwitter、Instagram、LINEなどのSNSで害悪の告知が行われそれが第三者を介して被害者に認識されるケースについてもあてはまるでしょう。
④他人の加害意思を伝えても脅迫罪となるとされた判例
事案の概要
この事例は、「お前を恨んで居る者は俺丈じゃない。何人居るか判らない。駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させAを殺すと云うて居る者もある」、「俺の仲間は沢山居ってそいつ等も君をやっつけるのだと相当意気込んで居る」などと告げた行為が脅迫罪に当たるとされた事例です。
判例分抜粋
この事例について、裁判所は被告人の行為を、「単に第三者に害悪を加えられるであろうことの警告、もしくは単純ないやがらせということはできない。むしろ被告人自ら加うべき害悪の告知、もしくは第三者の行為に因る害悪の告知にあたり被告人がその第三者の決意に対して影響を与え得る地位に在ることを相手方に知らしめた場合というべ」きであると判示しました(最高裁判所昭和27年7月25日判決)。
弁護士の解説
裁判所は、被告人の行為を「単に第三者からの害悪の警告」や「単純ないやがらせや」ではないと判断しています。
その理由として「被告人がその第三者の決意に対して影響を与え得る地位にあることを相手方に知らしめた」と述べていることが重要です。第三者の決意に対して何らかの影響を与えられる地位にない場合には、脅迫罪が成立しない可能性があります。
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