
殺人罪とは、故意に人を殺すことで成立する犯罪で、その構成要件(成立要件)と刑罰は刑法199条に規定されています。法定刑は死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑と、刑法の中でも最も重い刑罰が定められています。
殺人罪は「殺意(故意)」の有無によって傷害致死罪や過失致死罪と区別されるため、「どのような場合に殺人罪が成立するのか」「殺意とは具体的に何を指すのか」と疑問に感じた方もいるのではないでしょうか。
- 殺人罪の構成要件(「人」「殺す行為」「故意」の各要素)
- 殺意の種類と故意を欠く場合に成立する罪
- 殺人罪の法定刑(刑罰)と公訴時効
- 殺人罪に関連する犯罪(同意殺人罪・自殺関与罪・強盗殺人罪・堕胎罪)
この記事では、上記の内容について重大事件の弁護実績が豊富な弁護士がわかりやすく解説します。
なお、殺人罪の成立や刑罰についてお悩みの方は、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談へお気軽にご連絡ください。地域を問わずご相談を承っています。
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殺人罪の構成要件(成立要件)
刑法199条の殺人罪の構成要件は、
- ① 人
- ② 人を殺す行為
- ③ 故意
です。
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。
※2025年6月1日施行の改正刑法により、「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。本記事の刑罰はすべて改正後の規定に基づいて記載しています。
※刑法200条にはかつて、自分や配偶者の直系尊属(父母・祖父母など)を殺した場合に重く罰する尊属殺人罪が定められていましたが、平成7年(1995年)の改正で削除され、現在は「削除」とだけ記載されています。
①人
殺人罪の「人」とは、加害者以外の生命ある自然人、つまり殺人罪の客体のことです(したがって法人は含まれません)。
「人の始期」
生命ある人といっても、胎児も人に含まれるのではないかと考える方もいるでしょう。そのため、いつの段階から刑法上の人と解釈するかといった「人の始期」が問題となります。
この点、学者の間では、
- 陣痛開始説(陣痛が開始した時点から人と考える説)
- 一部露出説(胎児が母親の身体から一部でも露出した時点から人と考える説)
- 全部露出説(胎児が母親の身体から全部を露出した時点から人と考える説)
- 独立呼吸説(胎児が母親の身体から露出し、自分で呼吸した時点から人と考える説)
が唱えられていますが、判例(大正8年12月13日)は一部露出説に立っていることから、実務でも一部露出説に従った処理がなされています。
したがって、母体から一部も露出していない胎児に対する行為は、殺人罪ではなく「堕胎罪(刑法212条~216条)」の問題となります。ただし、都道府県医師会が指定する医師が、本人および配偶者の同意を得て、母体保護法14条の要件のもとで行う人工妊娠中絶は、違法とはなりません。中絶ができる時期は、同法では「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」とされ(同法2条2項)、国の通知により妊娠22週未満とされています。
「人の終期」
「人の始期」とは逆に、いつの時点で人が死亡したと解釈するのかといった「人の終期」については、構成要件の解釈として主に以下のような学説が唱えられています。
- 三徴候説(心停止・呼吸停止・瞳孔散大の3つの徴候によって死亡判定する説)
- 脳死説(脳死を人の死とみる説)
刑法では現在のところ三徴候説が一般的に採用されています。そのため、脳死状態の人を殺害した場合も殺人罪が成立します。逆に、人を殺害しようとしたところ、被害者が脳死状態にとどまった場合は、殺人罪ではなく殺人未遂罪が成立します。
なお、仮に脳死説を採用した場合には、脳死状態の人をナイフで刺す、臓器を取り出す等の行為は、殺人罪ではなく、死体損壊罪(刑法190条)の成否が問題となります。もっとも、臓器移植法が脳死と判定された者の身体を「死体」に含めているのは(同法6条1項・2項)、臓器の摘出に関する規定にとどまり、刑法上の人の終期を脳死に改めたものではありません。
②人を殺す行為
人を殺す行為とは、人の生命を断絶する行為のことです。人を殺す行為(実行行為)の手段・方法は問いません。刺殺、斬殺、絞殺、溺殺、扼殺、射殺、焼殺、毒殺などが典型です。
また、何か行動すること(作為)による殺害のみならず、何もしないこと(不作為)による殺害も人を殺す行為に含まれます。不作為による殺害の例としては、
- 子どもの扶養義務を負う母親が、子どもを殺す意図であえて授乳せずに餓死させた場合
- 真冬に、交通事故で重傷を負わせた被害者を人通りの少ない場所まで運び、凍死させた場合
などが典型です。
もっとも、不作為による殺害行為というためには、被害者に対する法的な保護義務があったといえることが前提です。したがって、散歩中に池に溺れている人をたまたま見つけたものの、助けずにその場から立ち去り、その人が溺死してしまったという場合、人を助けるべきという道義的責任はあるものの法的な責任があるとまではいえないため、不作為による殺人罪は成立しません。また、法は人に不可能なことを強いることはできませんから、不作為による殺人罪が成立するためには作為の可能性、すなわち、一定の行為を行うことの可能性が必要です。
このほか、刑法199条の殺人罪の構成要件のうち②「人を殺す行為」によって人が死亡したといえるためには、殺害行為と死亡との間に因果関係(その行為が原因で死亡が生じたという関係)があることも必要です。殺意をもって殺害行為に着手したものの、被害者が死亡しなかった場合や、死亡との因果関係が認められない場合は、殺人未遂罪が成立します(刑法203条)。未遂の場合、刑が軽くされる(減軽される)ことがあります(刑法43条本文)。
なお、殺人の実行に着手する前の準備行為については「殺人予備罪とは?殺人未遂罪との違いと刑罰を解説」をご参照ください。
③故意
殺人罪の故意は、加害者が自分の行為によって人を死亡させてしまうことを認識し、そうなっても構わないという認容のもと、あえて殺害行為を行った、という場合に認められます。殺人罪の故意としては、被害者の死亡という結果が発生することを希望することまでは必要ありません。
また、結果の発生(殺人であれば人を死亡させてしまうこと)を確実なものとして認識・認容している故意を確定的故意といいますが、故意の種類はそれだけに限りません。確定的故意のほかに未必的故意、択一的故意、概括的故意があります。
未必的故意とは、人を死亡させてしまう「かも」しれないが、そうなっても構わないという場合のように、結果の発生を確実なものとして認識・認容していないものの、それが可能なものとして認識・認容している場合の故意です。実際の裁判でこの故意がどのように認められたかについては「未必の故意の有名判例を弁護士が解説」で紹介しています。
択一的故意とは、A・Bいずれかを殺すつもりで拳銃を発砲したものの、そのいずれかに命中するかは不確実だったというように、いずれか一方を死亡させることの認識・認容はあったものの、いずれが実現するかについては不確実だった場合の故意です。
概括的故意とは、家族(A・B・C)のいずれかを殺すつもりで毒物を入れた荷物を家族宛てに郵送し、Cが毒物を飲んで死亡したというように、一定範囲の人のいずれかを死亡させることの認識・認容はあったという場合の故意です。
実際の殺人事件では、加害者が「殺すつもりはなかった」と述べても、それだけで殺意が否定されることはありません。殺意があったかどうかは、凶器の有無や種類、傷の部位や深さ、犯行の動機、犯行前後の言動といった客観的な事情から総合的に判断されます。
故意を欠く場合について
殺人罪の故意を欠いたものの、暴行の故意をもって人を死亡させるという結果を発生させたという場合は、殺人罪ではなく傷害致死罪(刑法205条)が成立します。暴行の故意もなかった場合には、過失致死罪(刑法210条)、業務上過失致死罪(刑法211条)などが成立します。傷害致死罪の成立要件や殺人罪との量刑の違いについては「傷害致死罪の量刑相場は?執行猶予はつく?」で詳しく解説しています。
殺人罪の法定刑(刑罰)
刑法199条は、殺人罪の法定刑(法律が定める刑の範囲)を「死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑」と規定しています。有期拘禁刑を選ぶ場合でも下限は5年で、上限は原則として20年です(刑法12条1項)。死刑・拘禁刑・罰金といった刑罰の種類と内容については「日本の刑罰は6種類|死刑・拘禁刑・罰金など内容と違いを解説」をご参照ください。
執行猶予(一定期間、刑の執行を猶予する制度)は3年以下の拘禁刑の言渡しが前提のため(刑法25条1項)、殺人罪で執行猶予がつくのは、未遂や酌量減軽(情状をくんで刑を軽くすること)などで刑が3年以下まで減軽された場合に限られます。実際にどの程度の刑が判決で言い渡されるかは、動機や犯行の態様などの事情によって大きく異なります。刑の見通しや、減軽・執行猶予を求める弁護活動については「殺人・殺人未遂に強い弁護士に依頼するメリットと弁護活動の内容」をご覧ください。
また、殺人罪には公訴時効(一定の期間が過ぎると起訴できなくなる制度)がありません。平成22年(2010年)の刑事訴訟法の改正によって、死刑にあたる「人を死亡させた罪」(殺人罪・強盗殺人罪など)の公訴時効が廃止されたためです(刑事訴訟法250条)。そのため、事件から何年経っても起訴される可能性があります。
殺人罪に関連する罪
殺人罪に関連する罪としては、以下のものがあります。
同意殺人罪(嘱託殺人罪・承諾殺人罪)
同意殺人罪は、人から嘱託を受け、又は、承諾を得て人を死亡させた場合に問われる罪です(刑法202条後段)。
嘱託を受けてとは、人から積極的に殺害を依頼されることです。承諾を得てとは、人から殺害されることについて同意を得ることです。前者を嘱託殺人罪、後者を承諾殺人罪ともいいます。
嘱託・承諾があったといえるためには、被害者自身の嘱託・承諾であったこと、嘱託・承諾できる能力のある者の自由かつ真実の意思に出たものであること、殺害以前に嘱託・承諾があったこと、が必要とされています。したがって、幼児から嘱託を受けても同意殺人罪ではなく殺人罪が成立します。
また、死亡する気はないにもかかわらず「殺してくれ」と頼まれ、本心でないと分かったうえで殺害したという場合も同意殺人罪ではなく殺人罪(刑法199条)が成立します。一方、真実の嘱託・承諾がないのに、あると誤信して殺害した場合は、重い殺人罪で処断することはできず(刑法38条2項)、同意殺人罪が成立するにとどまると解されています。
同意殺人罪の罰則は「6月以上7年以下の拘禁刑」です。
自殺関与罪
自殺関与罪は、人の自殺に関与した場合に成立する犯罪です(刑法202条前段)。
自殺とはその意味を理解できる人がその自由な意思決定に基づいて命を絶つことをいいます。そのため、自殺の意味を理解していない者(幼児など)に自殺をさせた、自殺を強制して死亡させたという場合は自殺関与罪ではなく殺人罪が成立します。
関与の方法は「教唆」と「幇助」です。
教唆による自殺とは、自殺の意思のない者に自殺を決意させて自殺させることです。教唆行為が悪質で、自殺者の意思決定の自由度が失われていたと認められる場合は、自殺関与罪ではなく殺人罪が成立します。
幇助による自殺とは、すでに自殺の意思がある者の自殺を援助すること、手助けすることです。幇助行為は自殺者に器具を提供するなどの有形的方法のほか、言動による無形的方法も含まれます。
自殺関与罪の罰則は「6月以上7年以下の拘禁刑」です。
(自殺関与及び同意殺人)
第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。
強盗殺人罪
強盗殺人罪とは、強盗が殺意をもって人を死亡させた場合に成立する犯罪です。
ここでいう「強盗」とは、強盗犯人を指し、強盗罪(刑法236条)、事後強盗罪(刑法238条)、昏酔強盗罪(刑法239条)の既遂犯及び未遂犯が含まれます。
人を「死亡させた」とは、強盗の機会に死亡結果が生じることで足りると解されています。判例も強盗殺人罪については、強盗をなす機会において他人を殺害することによって成立すると判断しています。強盗の機会には残虐な行為が行われることが少なくないため、重い情状として強盗殺人罪が規定されていると考えられています。
死亡結果について故意がある場合について判例は、殺人罪と強盗罪の両罪が成立するのではなく、強盗殺人罪のみが成立すると判断しています。
強盗殺人罪の罰則は「死刑又は無期拘禁刑」であり、非常に重い刑罰といえます(刑法240条参照)。強盗致死罪との違いや未遂の処罰については「強盗致死罪・強盗殺人罪とは?その違いと未遂の処罰について解説」もあわせてご確認ください。
堕胎罪
堕胎罪(自己堕胎罪・刑法212条)は、妊娠中の女子が薬物を用い、またはその他の方法により堕胎をした場合に問われる罪です。
「堕胎」とは、自然の分娩期に先立つ胎児の人工的排出のことをいいます。胎児が死亡することは堕胎の要件ではありません。
「胎児」とは、受精卵が子宮内に着床して以降の状態を指しますので、受精卵が子宮内に着床することを妨害する行為は「堕胎」には該当しません。
以上より、「母体内」の胎児の生命・身体は堕胎罪の規定により保護され、「母体外」に出た後は「人」に対する罪(殺人罪等)の対象となります。
堕胎罪(自己堕胎罪)の刑罰は「1年以下の拘禁刑」です(刑法212条参照)。
なお、第三者が女子の嘱託や承諾を得て堕胎させた場合には「同意堕胎罪」が、嘱託・承諾を受けずに堕胎させた場合には「不同意堕胎罪」が成立します(刑法213条、215条参照)。さらに、これらの行為によって女子を死傷させた場合には、同意堕胎致死傷罪・不同意堕胎致死傷罪が成立します(刑法213条後段、216条)。各罪の構成要件や罰則の詳細、母体保護法に基づく中絶が許される理由については「堕胎罪とは?構成要件と罰則、なぜ中絶が許されるのかを解説」で解説しています。
最後に、殺人罪と本記事で触れた関連する罪の条文と法定刑を整理すると、次のとおりです。
| 罪名 | 条文 | 法定刑 |
| 殺人罪 | 刑法199条 | 死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑 |
| 同意殺人罪・自殺関与罪 | 刑法202条 | 6月以上7年以下の拘禁刑 |
| 強盗殺人罪 | 刑法240条 | 死刑又は無期拘禁刑 |
| 堕胎罪(自己堕胎) | 刑法212条 | 1年以下の拘禁刑 |
| 傷害致死罪 | 刑法205条 | 3年以上の有期拘禁刑 |
| 過失致死罪 | 刑法210条 | 50万円以下の罰金 |
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刑法199条の殺人罪は故意に人の生命を奪う犯罪であり、人・殺す行為・故意という3つの構成要件をすべて満たす場合に成立します。殺意の有無や態様、被害者の同意の有無によって、殺人罪だけでなく傷害致死罪、過失致死罪、同意殺人罪など適用される罪名が大きく変わり、量刑にも大きな差が生じます。
殺人事件では、殺意の認定が最大の争点となるケースが少なくありません。弁護士が早期に介入することで、取調べへの適切な対応や、殺意を否定するための証拠収集・主張を行うことが可能となります。殺意が認められなければ、より刑事責任の軽い罪名での処理や、量刑の軽減につながる可能性があります。
ご自身やご家族が殺人罪の嫌疑をかけられている場合、精神的にも大きな負担を抱えていることと思います。すでに逮捕・勾留されている場合や、警察から事情聴取を受けている場合は、一刻も早く弁護士に相談されることをおすすめします。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

