- 「刑事事件の公訴時効とは?時効が完成するとどうなる?」
- 「公訴時効は何年で完成するの?」
このようにお考えではないでしょうか。
そこでこの記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 公訴時効とは
- 公訴時効は何年なのか(犯罪別の公訴時効一覧)
など、刑事事件の時効についてわかりやすく解説していきます。
なお、罪を犯してしまい、時効が完成するまで逮捕に怯えた生活を送ることに耐えられない方は、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
刑事事件の時効は2種類
刑事事件の時効には「公訴時効」と「刑の時効」の2種類があります。
公訴時効とは?
公訴時効とは、犯罪行為を終えてから一定期間内に起訴(公訴提起)されないことによって、検察官がもつ起訴権限が消滅してしまう法制度のことをいいます。
検察官の起訴権限が消滅するということは、その事件についてもはや刑事裁判にかけられることはないということを意味します。また、刑事裁判にかけられないということは、死刑・懲役などの刑罰を受けることがない、前科がつかないということも意味します。
一般に刑事事件で単に時効と呼ばれる場合は、この公訴時効のことを指していることがほとんどです。
刑の時効とは?
一方、刑の時効とは、刑事裁判によって有罪判決を受けても、その刑が一定期間執行されないことによって国の刑罰執行権が消滅してしまう法制度のことをいいます。刑の消滅時効ともいいます。
公訴時効と異なり、公訴時効の期間内に起訴され、刑事裁判にかけられ、結果、有罪判決を受けるところまでは手続きは進んでいます。しかし、一定期間が経過することによって判決で言い渡された懲役などの刑罰を受ける必要がなくなるという法制度が刑の時効です。
なお、判決確定時に身柄を拘束されている人に対しては滞りなく刑が執行されます。そのたえ、刑の時効が適用されうる人は、判決確定時に身柄を拘束されてない人がほとんどでしょう。
公訴時効はなぜ存在するの?
公訴時効が存在する理由の一つは、時の経過とともに捜査機関が集めることができる証拠が少なくなり、その結果として刑事司法の目的である「真実の発見」を追及することが難しくなるからだと考えられています。時の経過とともに人の記憶は薄れていき、有用な証言が得られなくなります。また、物的証拠も当時のまま存在し続けることは難しくなるなど、弊害が生じてくるでしょう。
公訴時効が存在するもう一つの理由は、時の経過とともに被害者や遺族の処罰感情が薄まっていき、その場合にまであえて犯人を処罰する必要性が低いからだと考えられています。もっとも、殺人などの重大事件については、被害者遺族の処罰感情が薄まるということはおそよ考え難く、そのため平成22年の法改正により公訴時効の時効期間が撤廃されました。
刑事事件の公訴時効は何年?
公訴時効の時効期間の長さは、まずは「人を死亡させた罪」かどうかで異なります。当然、人を死亡させた罪の方かそれ以外の罪よりも公訴時効の時効期間の長さは長くなります。次に、各罪に規定されている刑(法定刑)の上限によって公訴時効の時効期間の長さは異なります。当然、刑が重たければ重たいほど公訴時効の時効期間の長さは長くなります(刑事訴訟法第250条1項、2項)。
具体的には次の一覧表に記載された基準をもとに公訴時効の期間が決まります。
【人を死亡させた罪】 | ||
法定刑の上限 | 公訴時効の時効期間 | 犯罪 |
死刑 | 期間制限なし | 殺人罪、強盗殺人罪、強盗致死罪 |
無期懲役・禁錮 | 30年 | 不同意性交等致死罪、不同意わいせつ致死罪 |
長期20年の有期懲役・禁錮 | 20年 | 傷害致死罪、危険運転致死罪 |
その他 | 10年 | 過失運転致死罪、業務上過失致死罪 |
【人を死亡させた罪以外の罪】 | ||
法定刑の上限 | 公訴時効の時効期間 | 犯罪 |
死刑 | 25年 | 現住建造物等放火罪、外患誘致罪、殺人未遂罪 |
無期懲役・禁錮 | 15年 | 強盗致傷罪 |
長期15年以上の懲役・禁錮 | 10年 | 強盗罪、傷害罪、加重収賄罪、危険運転致傷罪、往来危険罪 |
長期15年未満の懲役・禁錮 | 7年 | 偽証罪、窃盗罪、恐喝罪、詐欺罪、詐欺未遂罪、業務上横領罪、特別背任罪、不動産侵奪罪、虚偽告訴罪、電子計算機使用詐欺罪、有印公文書偽造罪、虚偽有印公文書作成罪、営業秘密侵害罪 |
長期10年未満の懲役・禁錮 | 5年 | 監禁罪、背任罪、単純横領罪、建造物等損壊罪、保護責任者遺棄罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、境界損壊罪、公正証書原本不実記載罪、有印私文書偽造罪、偽造有印私文書行使罪、収賄罪(加重収賄罪を除く)、未成年者略取・誘拐罪、業務上過失致傷罪、過失運転致傷罪 |
長期5年未満の懲役・禁錮又は罰金 | 3年 | 強要罪、脅迫罪、暴行罪、堕胎罪、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、信書開封罪、信書隠匿罪、公然わいせつ罪、贈賄罪、過失傷害罪、過失致死罪、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪、盗品等無償譲受罪、単純賭博罪、常習賭博罪、遺失物横領罪(占有離脱物横領罪・拾得物横領罪)、住居侵入罪、建造物侵入罪、器物損壊罪、証拠隠滅罪、犯人隠避罪、死体遺棄罪、遺骨遺棄罪、性的姿態等撮影罪、失火罪、わいせつ物頒布等罪、わいせつ物陳列罪、公務員職権乱用罪、強制執行妨害罪、私印不正使用罪、犯罪収益移転防止法違反、森林窃盗罪 |
拘留・科料 | 1年 | 軽犯罪法違反 |
ただし、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪、及びこれらの罪の致傷罪などの一部の性犯罪については、令和5年の法改正により、上記基準を超えて時効期間を5年延長する特則が設けられています(刑事訴訟法第250条第3項)。たとえば、不同意わいせつ罪の法定刑の上限は10年以下の懲役であり、上記の基準を適用すると公訴時効は7年となるはずですが、刑事訴訟法第250条第3項では、公訴時効が12年と規定されています(法改正について詳しくは後述します)。
【性犯罪の公訴時効の特則】 | |
時効期間 | 犯罪 |
20年 |
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15年 |
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12年 |
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なお、上記の性犯罪について、被害者の年齢が18歳未満(未成年)である場合には、犯罪行為が終了してから被害者が18歳に達するまでの期間が時効期間に加算されます。たとえば、17歳の女の子に対して不同意わいせつ罪にあたる行為をしたケースでは、「12年の時効期間+わいせつな行為が終わってから女の子が18歳に達するまでの日数」が公訴時効の期間となります。
18歳未満の被害者は、心理的・社会的にまだ成熟していないため、犯罪の影響を受けやすく、特にトラウマや精神的な負担が大きいとされています。この加算により、被害者が成年に達してから十分な時間を持って告訴や法的手続きを行えるようにすることが目的です。
公訴時効の起算点はいつから?
公訴時効の時効期間は「犯罪行為が終わったとき」から進行します。
犯罪行為とは各犯罪の実行行為を意味します。たとえば、窃盗罪であれば、他人の物を盗むという行為がいちおう終わったことを意味します。実際に盗むという目的が達成できたかどうかは問いません。
ただ、傷害致死罪のように、人の死という結果の発生を必要とする罪については、結果が発生した時点が時効期間の起算点となります。また、監禁罪のように、一定期間犯行が継続している罪については、その状態が終わった時点が時効期間の起算点となります。犯罪行為が別々の日に行われ、それらが併合罪の関係にある罪の場合は、それぞれの犯罪行為が終わった時点が時効期間の起算点となります。
公訴時効は被疑者に有利な法制度のため、初日を1日目としてカウントします。また、末日が休日でもその日が公訴時効の時効期間の満了日となります。たとえば、2024年8月1日に窃盗をした場合の公訴時効の時効期間の起算点は2024年8月1日です。そして、窃盗罪の時効期間は7年ですから、2031年7月31日が時効期間の満了日となり、翌日の2031年8月1日に公訴時効が完成します。
公訴時効の停止事由
公訴時効の時効期間の停止とは、ある事由によってそれまで進行してきた時効期間がいったん停止し、ある事由が終了すると、そこからまた残りの時効期間が進行することをいいます。時効期間がリセットされる、つまり、振り出しに戻るわけではありません。
時効期間の停止事由は次の4つです。
- ①公訴提起(起訴)された
- ②共犯者の一人が公訴提起された
- ③犯人が国外にいる
- ④犯人が逃げ隠れているために起訴状の謄本や略式命令の謄本を送達することができない
テレビドラマなどで公訴時効の時効期間間際で犯人を逮捕し一件落着、というシーンをご覧になられた方も多いと思いますが、逮捕されただけでは公訴時効の時効期間は停止しません。前述のとおり、時効期間を停止するには起訴されることが必要です。仮に時効期間満了まで捜査が間に合わない場合は、時効完成を理由とする不起訴処分が下されることになります。
なお、起訴されても、その後管轄違いの裁判、公訴棄却の裁判がなされその裁判が確定すると、再び公訴時効の時効期間が進行します。
公訴時効の改正について
近年、公訴時効については様々な法改正が行われています。ここではその改正内容について解説していきたいと思います。
平成22年の法改正により殺人等の一定の犯罪の公訴時効が廃止・延長された
まず、以下の表のとおり、平成22年に行われた刑事訴訟法の改正により、殺人罪等一定の犯罪の公訴時効が廃止、あるいは公訴時効の時効期間が延長されました。
たとえば、改正前の殺人罪の公訴時効の時効期間は25年でしたが、改正後は時効期間が撤廃されました。つまり、無期限になったということです。そもそも、公訴時効が設けられたのは、犯罪から一定期間が経過すると被害者や遺族の処罰感情が希薄化してしまい、そのような事件にまで多くの人員や時間、費用を投入するのはいかがなものか(むしろ、その他の事件に人員等を投入すべきではないか)?という考えが一つにありました。しかし、殺人等重大事件に関しては遺族の処罰感情が希薄化することなどありえず、公訴時効の趣旨が当てはまらないのではないという指摘がなされてきており、そうした指摘を受けて法改正に至ったという経緯があります。
すでに解説したとおり、公訴時効の時効期間の長さは「人を死亡させた罪」かどうかが一つの基準となりますが、平成22年の法改正ではこの「人を死亡させた罪」について特別の定めを設けました。すなわち、人を死亡させた罪のうち法定刑の上限に死刑がある罪(殺人罪、強盗殺人罪など)の公訴時効の時効期間は撤廃されました。その他、同じ人を死亡させた罪であっても、
- 法定刑の上限が無期の懲役・禁錮である罪(不同意性交等致死罪など)の公訴時効の時効期間が15年から30年
- 法廷刑の上限が20年の懲役・禁錮である罪(傷害致死罪、危険運転致死罪など)の公訴時効の時効期間が10年から20年
- 法廷刑の上限が懲役・禁錮で上の2つの罪以外の罪(過失運転致死罪など)の公訴時効の時効期間が5年又は3年から10年
に延長されました。
法定刑 | 改正前 | 改正後 | |
1 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が死刑である罪(殺人罪、強盗殺人罪など) | 25年 | 撤廃(無期限) |
2 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が無期の懲役・禁錮である罪(不同意性交等致死罪など) | 15年 | 30年 |
3 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が20年の懲役・禁錮である罪(傷害致死罪・危険運転致死罪など) | 10年 | 20年 |
4 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が懲役・禁錮で、上の2・3以外の罪(過失運転致死罪など) | 5年又は3年 | 10年 |
公訴時効の遡及適用
なお、平成22年の法改正の内容は、その施行日である平成22年4月27日以前に行われた犯罪であっても、その時点で改正前の公訴時効の時効期間(殺人罪であれば25年)が経過していない限り適用されます。たとえば、平成16年12月13日に殺人を行ったとしても、平成22年4月27日時点では25年を経過していないため、25年の時効期間は撤廃されたものと扱われるということです。
この点について、平成22年の法改正の内容が「何人も、実行の時に適法であった行為又はすでに無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない」と定めた憲法39条に違反しないかが裁判で争われたことがありますが、最高裁判所は憲法39条に違反しないとの判断をくだしています。
公訴時効の廃止は、行為時点における行為の違法性の評価や責任の重さをさかのぼって変更するものではなく、どんな行為が適法でどんな行為が違法なのか適切に判断させ、国民の自由行動を保障しようとする憲法39条の趣旨に反しないことなどが、合憲と判断された理由と考えられています。
令和5年の法改正により性犯罪の公訴時効期間が延長された
平成22年の法改正のほか、令和5年の法改正(令和5年6月23日より施行)により一部の性犯罪について公訴時効の時効期間が5年間延長されています(刑事訴訟法第250条第3項)。
すなわち、不同意わいせつ致傷罪、強盗・不同意性交等罪などの時効期間が15年から20年に、不同意性交等罪、監護者性交等罪などの時効期間が10年から15年に、不同意わいせつ罪、監護者わいせつ罪などの時効期間が7年から12年に延長されています。
罪名 | 公訴時効の時効期間 |
不同意わいせつ致傷罪など | 15年から20年に延長 |
不同意性交等罪など | 10年から15年に延長 |
不同意わいせつ罪など | 7年から12年に延長 |
なお、以下のとおり、令和5年の法改正により罪名も変更されています。
- (改正前)強制性交等罪、準強制性交等罪→(改正後)不同意性交等罪
- (改正前)強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪→(改正後)不同意わいせつ罪
よくある質問
最後によくある質問についてお答えします。
告訴期間と公訴時効の違いは?
公訴時効の「公訴」とは、検察官が裁判所に対して事件を裁判にかけてくださいと意思表示することをいいます。つまり、起訴することです。したがって、公訴時効とは、検察官が事件を刑事裁判にかけることができなくなる法制度ということになります。事件を起こしてから公訴時効が完成するまでの時効期間についてはすでにご紹介したとおりです。
一方、告訴とは、被害者などの告訴権をもつ人が警察や検察などの捜査機関に対して犯人を処罰して欲しいと意思表示することです。捜査機関が告訴を受理すると犯人を特定して捜査し、最終的には検察官が起訴か不起訴かの判断を下します。この告訴にも、時効期間のような期限が設けられています。それが告訴期間です。たとえば、名誉毀損罪や器物損壊罪の告訴期間は被害者が犯人を知ってから6か月です。この期間内に被害者が捜査機関に告訴しなければ告訴権が消滅し告訴できなくなります。名誉棄損罪や器物損壊罪などは親告罪といって、告訴がなければ検察官が起訴できない罪ですから、告訴期間がすぎると告訴されず、結果として起訴されることもなくなります。
公訴時効の完成を待つリスクは?
公訴時効の時効期間の満了を待つのはおすすめできません。
すでにご紹介したとおり、公訴時効の時効期間は決して短くはありません。時効期間が満了するまではいつでも捜査機関から捜査を受ける可能性があります。いつ捜査機関から呼び出しを受けるか、逮捕されるかわからないという状態で、短くはない時効期間を乗り切るのは精神的に大きな負担となるでしょう。
また、たとえ逃げも隠れもしていなかったとしても、事件から時が経てば経つほど逃げていたのではないかと疑われ逮捕される可能性が高くなります。捜査機関が集めきれている証拠も手薄なことがありますから、証拠隠滅を防ぐ意味でも逮捕に踏み切ることが考えられます。
公訴時効で悩んだら弁護士に相談
以上、解説してきたように、殺人などの重大犯罪以外の罪については時効期間が設けられています。そして、時効期間が経過し公訴時効が完成すると逮捕・起訴されたり、刑事罰を受けることを免れることができます。しかし、だからといって罪を犯した後、時効期間が過ぎるのを待とうと考えない方が賢明です。時効期間が経過している間は精神的に不安定になりがちですし、仮に犯人と特定されてしまった場合、逮捕のリスクもあがります。短期間で時効期間が経過する罪などなく、その間様々な不安や恐怖と闘いながら日常生活を送らなければならないでしょう。
もし、今あなたが罪を犯してしまい「どうしていいかわからない」というときは、はやめに弁護士に相談してください。弁護士に相談することで、モヤモヤとしていた悩みが一気に解決することもあります。また、逮捕の回避や被害者との示談交渉、今後の見通しなどについても具体的なアドバイスをもらえます。
当事務所は、逮捕の回避や不起訴の獲得に特化しており、多くの実績があります。親身に、誠実に弁護士が依頼者を全力で守ります。罪を犯してしまったことで時効完成まで逮捕に怯えている方は、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。
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