教唆とは?犯罪の教唆犯の成立要件や学説や論点を交えて解説

教唆犯とは、犯罪の意思がない他人をそそのかして犯罪を実行させた場合に成立する犯罪で、正犯と同じ刑が科されます。自分の手を汚していなくても、正犯と同等の重い処罰を受ける可能性がある点が教唆犯の大きな特徴です。

「教唆と幇助はどう違うのか」「教唆犯が成立するにはどのような要件が必要なのか」といった疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、刑事事件に強い弁護士が、教唆犯の成立要件や幇助犯との違い、結果的加重犯や片面的教唆といった学説上の論点まで、わかりやすく解説します。

なお、教唆に関連する刑事事件について早急に対応したいとお考えの方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談をお気軽にご利用ください。

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教唆は共犯の種類の一つ

教唆について解説する前に、まず共犯について解説します。

皆さんは共犯と聞くと「2人以上の者が特定の犯罪を行う」というイメージを抱かれることが多いかと思います。

しかし、上記のイメージは最も広い意味の共犯であって、正確にはそこからさらに枝分かれして次の3種類に分類されます。

  • 共同正犯
  • 教唆犯
  • 幇助犯

共同正犯のことを広義の共犯、教唆犯・幇助犯のことを狭義の共犯ともいいます。

共同正犯の「正犯」とは犯罪行為を行うこと(者)をいいます。

殺人罪(刑法199条)でいえば「人を殺す行為(殺人犯)」が正犯にあたります。

したがって、XとYがVを殺す意図のもと、Xが鉄パイプで、Yが金属バットでVの身体を殴りVを殺害した、というケースが共同正犯の典型例です。

これに対して正犯と対立する意味での共犯という概念が存在します。

正犯と対する意味での共犯とは犯罪行為以外の行為によって正犯の実行に加担すること(者)、すなわち狭義の共犯のことです。

たとえば、XがYにVを殺せと指示し、Yが指示通りにVを殺害したというケースが教唆の典型例です。

この場合、この場合、XのYに対する指示は殺人罪の犯罪行為ではないものの、Yの犯罪行為を唆す教唆にあたります。

また、XがVを殺す意図があるYに対してピストルを貸し、Yがこのピストルを使ってVを殺したというケースが幇助の典型例です。

ここでも、XがYにピストルを貸す行為は殺人罪の犯罪行為ではないものの、Yの殺害行為を容易にする幇助にあたります。

上記のとおり、共同正犯は広義では共犯の一種とされています。

しかし、共同正犯は複数人の行為者各自が犯罪行為の一部を行うという点で、複数の正犯が集まった集合体であり、正犯の一種といえます。

少しややこしいですが、共同正犯は共犯であって共犯ではないということになります。

以上をまとめると下記のとおりとなります。

  • 共犯には広義の共犯と狭義の共犯がある。
  • 広義の共犯は共同正犯、狭義の共犯は教唆犯と幇助犯
  • 正犯に対する共犯とは犯罪行為以外の行為によって正犯に加担する行為のことで、狭義の共犯のことを意味する
  • 共同正犯は共犯の一部だが、狭義の共犯(教唆、幇助)とは行為の性質が異なる

教唆犯の成立要件

共犯の種類をご理解いただいたところで、ここからは教唆犯について解説していきたいと思います。

まずは、教唆犯の成立要件です。

教唆犯については刑法61条1項に規定されています。

第61条
1.人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

この規定を分解すると、教唆犯の成立要件は、

  • 人を教唆したこと
  • (教唆によって)正犯が犯罪を実行したこと

ということになります。

人を教唆したこと

教唆とは、まだその犯罪の実行を決意していない他人を唆して、犯罪実行の決意を生じさせることです。

これに対して、幇助とは、すでに犯罪の実行を決意している他人を何らかの形で援助し、犯罪実行を容易にすることです。

他人が犯罪の実行を決意していない場合が教唆犯、決意している場合が幇助犯ということです。

教唆の方法には制限がありません。

命令・嘱託・指示・誘導・利益の提供その他いずれでもよいですし、明示的な方法によるものの他、黙示的・暗示的な方法でも教唆にあたります。

教唆は特定の犯罪の実行を決意させるものでなければなりません。

したがって、単に「何か犯罪をやってこい」、「殺人をせよ」などと漠然とした内容では教唆にあたりません。

しかし、「○○を殺せ」、「〇〇を盗んでこい」などというように、実行すべき犯罪を特定して唆せば、犯罪の日時・場所・方法・対象者などの詳細を具体的に指示しなくても教唆にあたります。

暴行・傷害事件における教唆の具体的なケースについては「暴行・傷害の教唆とは?成立するケースを解説」で詳しく解説しています。

教唆の故意は他人に犯罪実行の決意を生じさせようという意図だけで充分で、正犯による結果の発生まで意欲することは必要ではないと解されています。

したがって、はじめから被教唆者の犯罪の実行が未遂に終わるであろうことを認識しつつ教唆する「未遂の教唆」の場合でも教唆犯が成立します。

たとえば、教唆者XがVの家の倉庫に金目のものがないことを知りながら、被教唆者Yに対してVの家の倉庫から金目の物を盗んでくるよう唆し、Yが指示に従って犯罪を実行したところ窃盗の未遂に終わった、という場合でもXは窃盗未遂罪の教唆犯となります。

(教唆によって)正犯が犯罪を実行したこと

教唆犯が成立するには、被教唆者が教唆者の教唆にもとづいて犯罪の実行を決意し、かつ、これを実行したことが必要です。

そのため、次のケースで教唆犯が成立するかどうかが問題となります。

被教唆者が、

  • 教唆されたが犯罪実行の決意をしなかったとき
  • 決意はしたが犯罪行為に出なかったとき
  • 教唆とは関係なく犯罪行為に出たとき
  • 教唆に基づく犯罪を実行したが未遂に終わったとき

いずれも「教唆の未遂」と呼ばれているケースです(未遂の教唆のケースとは異なる点に注意)。

上記の問題については、狭義の共犯が成立するためには、被教唆者・被幇助者が正犯として犯罪行為をしたことを要するか否か、という論点と密接に関連します。

この点に関し、学説上は共犯独立性説と共犯従属性説が対立しています。

共犯独立性説は、教唆・幇助が犯罪行為そのものであるから、正犯が犯罪行為に出なくても独立して教唆犯・幇助犯が成立するとの立場です。

共犯従属性説は、教唆・幇助自体は犯罪行為そのものではなく、教唆犯・幇助犯が成立するためには、被教唆者や被幇助者が少なくとも犯罪の実行に着手しなければならないとする見解です。

そして、共犯独立性説によれば、上記のケースすべてで教唆犯が成立します。

これに対して、共犯従属性説によれば、最後のケースのみ教唆犯が成立することになります。

判例(大判大6.7.5)・通説は共犯従属性説に立っています。

「人を教唆して犯罪を実行させた」という教唆犯の規定、「正犯を幇助した」という幇助犯の規定からしても共犯従属性説が妥当です。

教唆犯の処分

教唆犯には正犯の刑が科されます。

つまり、正犯に適用されるべき構成要件の法定刑の範囲内で処罰されるという意味です。

※2025年6月1日施行の改正刑法により、「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。本記事の法定刑の記載は改正後の内容に基づいています。

たとえば、正犯に特定の人物を殺害するよう指示し、正犯が指示通りに人を殺害した事案で、正犯、教唆犯ともに殺人罪の法定刑である「死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑」が適用されるという意味です。

殺人罪の構成要件や刑罰の詳細については「刑法199条の殺人罪とは?構成要件・刑罰・関連する罪の種類」をご参照ください。

具体的な量刑は個々の情状により異なります。

犯罪行為を行っていないからといって、正犯よりも教唆犯の方が量刑が軽くなるというわけではありません。

正犯が未遂に終わった場合は、教唆犯も未遂に準じて処罰されます。

教唆犯が処罰されるためには、正犯が現実に処罰されることを必要としません。

つまり、正犯が不起訴となった場合でも教唆犯だけ処罰されることもあるということです。

教唆者を教唆することを間接教唆といいます。

甲が乙に対して丙を教唆するように教唆することはもちろん、甲が乙を教唆したところ、乙が自分では犯罪行為を実行せずに、更に丙を教唆した場合も含まれます。

この間接教唆者(上の例でいえば甲)も正犯の犯罪行為を待って、教唆者(乙)と同様に正犯に準じて処罰されます。

なお、拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者は、特別の規定がなければ処罰されません。

たとえば、軽犯罪法違反の法定刑は「拘留又は科料」ですが、軽犯罪法3条には教唆者のみならず幇助者も正犯に準じて処罰される旨の規定が置かれています。

幇助犯との違い

教唆犯も幇助犯も狭義の共犯という意味では同じですが、主に次の点で異なります。

正犯がもともと犯罪実行の意思を有していたか否か

もともと犯罪の実行を決意していない他人を唆して犯罪を実行させた場合が教唆犯です。

たとえば、甲が窃盗の意思のない乙に商品の窃盗を指示し、乙が指示通りに窃盗した場合、甲は窃盗既遂罪の教唆犯です。

他方で、もともと犯罪の実行を決意しており、その決意を強めるものが幇助犯です。

たとえば、甲が乙から丙を殺害する意図のあることを打ち明けられ、乙にピストルを貸し、乙がそのピストルを使って丙を殺害した場合、甲は殺人罪の幇助犯です。

なお、幇助の方法には制限がなく、上記のような物質的幇助のみならず、助言・激励などの精神的幇助も含まれます。

処分の方法

前述のとおり、教唆犯には正犯の刑を科すとされています。

他方で、幇助犯の場合は、正犯の刑を減軽するとされています。

つまり、正犯に適用されるべき法定刑につき減軽措置を取り、その範囲内で処罰されます。

先ほどの殺人罪の例でいうと、乙には殺人罪の「死刑若しくは無期又は5年以上の拘禁刑(上限20年)」の法定刑が適用されます。

他方で、甲に5年以上の有期拘禁刑が適用される場合、減軽措置がとられ「2.5年以上10年以下の拘禁刑」にまで減軽されます。

そして、甲はこの範囲内で処罰されるということです。

幇助犯を教唆した者については、幇助犯の刑を科すとされています。

教唆犯をめぐる種々の論点

最後に、教唆犯をめぐる種々の論点について解説します。

結果的加重犯と教唆犯

結果的加重犯とは、重い結果を発生させる意図なく行為を行ったにもかかわらず、意外にも重い結果が発生した場合でも、その基本となる行為と重い結果との間に因果関係が認められれば重い結果の責任を問う罪のことです。

たとえば、傷害致死罪(刑法205条)が結果的加重犯の典型例です。

傷害致死罪は、暴行(刑法208条)という基本となる行為を行った結果、意外にも被害者の死亡という重い結果を発生させた場合でも成立しうる犯罪です。

結果的加重犯と教唆犯では、教唆者甲が傷害の意図で被教唆者乙に対して「〇〇(丙)を痛めつけてこい。」と指示し、乙が甲の指示どおりに丙に暴行を加えたところ丙を死亡させてしまった、というケースで甲に傷害致死罪の教唆犯は成立するかという問題が生じます(乙には傷害致死罪が成立します)。

なぜなら、甲は乙に対して丙を痛めつけることだけを指示した、つまり甲には傷害の意図しかなく、「傷害致死罪」という「「犯罪」を実行させた」(刑法61条1項)とはいえないのではないかという疑問が生じるからです。

この点、判例・通説の立場からは、甲の乙に対する指示という教唆行為と丙の死亡という結果との間に因果関係が認められる限り、甲に重い結果、つまり傷害致死罪の教唆犯が成立すると解されています。

傷害致死罪の成立要件や量刑について詳しくは「傷害致死罪とは?執行猶予はつく?成立要件・量刑・殺人との違いを解説」もあわせてご確認ください。

片面的教唆

片面的教唆とは、教唆者は教唆の故意に基づき教唆行為を行ったものの、被教唆者はその教唆行為があることを知らずに犯罪の実行を決意することをいいます。

たとえば、甲が丙を殺すつもりで、普段から丙に恨みを抱いている乙の見えるところにピストルを置いておき、これを見た乙がそのピストルを使って丙を殺害する場合がこれにあたります。

片面的教唆犯を認めるかどうかについては肯定説と否定説にわかれていますが、多数説は肯定説を支持しています。

肯定説の理由は次のとおりです。

  • 教唆犯について規定した刑法61条は教唆者と被教唆者との間で意思を共有することまでを要求したものではない
  • 教唆行為は、教唆の故意に基づき教唆行為を行い、それによって犯罪の実行を決意させれば足り、被教唆者が教唆されていることを認識する必要はない

過失犯に対する教唆

過失犯に対する教唆とは、他人の不注意を惹起して犯罪を実行させることです。

たとえば、乙の運転する車に同乗していた甲が、乙がこれ以上スピードをあげるとハンドル操作を誤って交通事故を起こすかもしれない、と認識しながら、それでもかまわないと思い、乙にもっとスピードを出すよう唆し、乙がこれに従ってスピードをあげたところハンドル操作を誤って通行人に車を衝突させて死亡させたという場合がこれにあたります。

ただ、過失犯に対する教唆は否定されています。

教唆は人に犯罪の実行を決意させることをいうところ、過失犯は不注意による犯罪で、教唆によって犯罪を実行するというものではないからです。

教唆犯の疑いをかけられた方は弁護士にご相談ください

教唆犯は、自ら犯罪行為を行っていなくても正犯と同じ刑が科される重大な犯罪です。成立要件や幇助犯との区別は法的な判断が難しく、捜査機関の見解が必ずしも正しいとは限りません。

教唆犯の嫌疑をかけられた場合、早い段階で弁護士に相談することで、不当に重い処分を回避できる可能性があります。取調べへの対応や、教唆ではなく幇助にとどまるといった法的主張の組み立ても、刑事事件に精通した弁護士のサポートが不可欠です。

「警察から事情聴取の連絡が来ている」「共犯として逮捕されるのではないか」といった不安を抱えている方は、おひとりで悩まずご相談ください。当事務所は刑事事件を専門的に取り扱っており、全国どこからでも無料相談をご利用いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

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