
女性の服の上から撮影した場合、盗撮として処罰されることがあるのでしょうか?近年、スマートフォンの普及により、街中や公共の場で何気なく撮った写真が盗撮として問題視されるケースが増えています。
実は、着衣の上からの撮影は原則として盗撮には該当しません。しかし、後ろ姿や特定の部位を繰り返し撮影した場合など、撮影の意図や状況によっては罪に問われ、有罪判決を受ける可能性があります。
この記事では、盗撮事件に強い弁護士が次の点について詳しく解説します。
- 女性の着衣を服の上から撮影した場合、原則として盗撮にならない理由
- 着衣の上から撮影した場合でも、例外的に盗撮として処罰されるケース
- 着衣女性の後ろ姿に焦点を当てて撮影したことが「卑わいな言動」と判断され、有罪になった裁判例
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目次
女性の着衣の上からの撮影は盗撮になる?
女性の着衣の上から撮影した場合、盗撮にあたるとして処罰されてしまうのでしょうか?
盗撮の処罰根拠は2つ
まず、盗撮そのものを処罰することが規定されている罪(法令)は次の2つですので、これらについて解説します。
- ①撮影罪
- ②迷惑防止条例違反
①撮影罪
撮影罪とは、性的姿態撮影等処罰法という法律に規定されている罪です。撮影罪の規定によると、撮影罪は、正当な理由がないのに、ひそかに人の性的姿態等を撮影する行為などを処罰するとされています。そして、ここでいう「性的姿態等」とは、
- 人の性的な部位(性器もしくは肛門、もしくはこれらの周辺部、お尻、胸)
- 人が身につけている下着(ただし、通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接もしくは間接に覆っている部分
- わいせつな行為または性交等がされている間における人の姿態
をいうとされています。なお、人が通常衣服を身につけている場所において不特定または多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出しているものを除きます。
撮影罪の罰則は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
参考:撮影罪とは?該当する行為や条例違反との違いをわかりやすく解説
②迷惑防止条例違反
迷惑行為防止条例とは、盗撮行為を含めた迷惑行為を処罰する規定などを定めた各都道府県の条例です。東京都の迷惑行為防止条例では、公共の場所または乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、または撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置することを処罰すると規定されています。なお、東京都以外の条例でも同じような規定が設けられています。
罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金ですが、常習の場合は2年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。
原則として女性の着衣の上からの撮影は盗撮にあたらない
以上より、まず、女性の着衣の上から撮影することが撮影罪にあたるのかを検討します。
この点、撮影罪が撮影を禁止している対象は「人の性的な部位」、「人が身につけている下着」、「わいせつな行為または性交等がされている間の人の姿態」です。つまり、着衣自体は撮影罪が撮影を禁止する対象には含まれていません。したがって、女性の着衣自体を撮影することは撮影罪にはあたりません。もっとも、着衣の上から透けて見える女性の性的な部位や下着を撮影した場合、あるいは撮影しようとした(未遂の)場合は撮影罪にあたる可能性があります。
次に、迷惑行為防止条例違反にあたるかですが、条例でも「人の下着または身体」が撮影を禁止される対象とされています。よって、基本的に撮影罪と同様の結論となります。もっとも、条例では下着や姿態を撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること自体も処罰の対象とされています。したがって、女性の下着や身体を撮影しようとしたところ、たまたま撮影されていなかった、着衣のみしか撮影されていなかったという場合でも条例違反にあたる可能性はあります。
女性の着衣の上からの盗撮が例外的に処罰されるケース
では、女性の着衣の上から盗撮した場合、何ら処罰されることはないのでしょうか?
「卑わいな言動」として罪に問われる可能性がある
これまで解説してきたように、女性の着衣の上からの撮影は、原則として盗撮を処罰する「撮影罪」や迷惑防止条例の「盗撮行為」には該当しません。
しかし、迷惑防止条例では、「卑わいな言動」を処罰する規定があります。最高裁判所によると、「卑わいな言動」とは「社会通念上、性的道徳観念に反する下品でみだらな言動又は動作」を指すと解釈されています。
この解釈に従えば、条例で処罰される撮影行為は必ずしも下着や身体が直接撮影されている必要はなく、着衣の上からであっても状況次第で処罰の対象となる可能性があるということです。
もっとも、通常の感覚からすれば、ただ着衣を着ている人を一回程度撮影したというだけで、すぐに性的道徳観念に反すると判断されることはないでしょう。一方、特定の女性を繰り返し執拗に撮影したり、臀部など特定の部位に焦点を当てて撮影したりした場合、通常の感覚からすれば、性的な意図があると判断されやすくなります。このような場合には、「卑わいな言動」として処罰される可能性があります。
後ろ姿の着衣女性の盗撮で有罪となった判例
女性の後ろ姿を着衣の上から盗撮して有罪となった裁判例
着衣の上から女性の後ろ姿を撮影したことで有罪判決を受けた裁判例として、最高裁判所の判決(最決平成20年11月10日)があります。
この事件は、被告人がショッピングセンター内で女性を執拗につきまとった上で、女性の後方約1~3メートルからカメラ機能付きの携帯電話で女性の臀部を11回撮影したものです。
確かに、このケースでは女性の下着や身体そのものは撮影されていません。そのため、条例の定める典型的な盗撮行為にはあたりませんでした。しかし、最高裁判所は撮影行為が条例に規定される「卑わいな言動」にあたるかどうか検討した上で、「社会通念上、性的道徳観念に反する下品でみだらな言動」として処罰されると判断したのです。
裁判所が判断の際に重視したのは、「特定の女性に対する執拗なつきまとい」と「臀部を繰り返し撮影した」という点です。通常の感覚から考えても、このような行動が性的意図をもってなされたと考えるのは自然なことでしょう。
女性の後ろ姿を着衣の上から盗撮した行為が無罪から一転、逆転有罪となった裁判例
前述した判例に加えて、一審で無罪、二審で有罪となった裁判例(東京高裁令和4年1月12日)にも注意が必要です。
この裁判例の事件は、被告人が東京市内員あるアニメグッズ店で、黒色のビニールテープで覆った小型カメラを使って、女性の後ろ姿を至近距離から動画撮影したという事件です。
被告人は女性の後をつけ、女性が漫画を読もうと少し前かがみになった際、小型カメラを握った左手をスカートの裾と同程度の高さにし、レンズを女性の下半身に向けたところ、異変に気づいた女性に声をかけられ、その場から逃げたものの、店員に身柄を確保されています。動画には女性の身体や下着は映っていませんでした。
この点、第一審は、被告人の行為は「卑わいな言動にはあたらない」として無罪を言い渡しています。一方、第二審は、「結果として性的意味合いのある部位が映っていなかったからといって、そのことだけで(条例が規定する)禁止行為にあたらないということはできない」として有罪判決を言い渡しています。
二審は動画の中身だけではなく、動画を撮影する過程にも着目し、被告人の一連の行為を観察すると、「スカートの中などを撮影しようとしているのではないかと判断されるものであった」とし、これが「卑わいな言動」にあたることは明らかであるとしています。動画の中身のみならず、動画を撮影する過程にも着目され、それが「卑わいな言動」にあたるかどうかが判断されうるということになります。
まとめ
盗撮の典型例は、「衣服で隠された身体や下着」を撮影する行為です。しかし、これまで述べてきたように、女性の着衣の上からの撮影であっても、執拗に繰り返したり、撮影対象部位や状況から性的意図が疑われたりする場合には、条例の「卑わいな言動」に該当し、処罰される可能性があります。
したがって、撮影する対象が直接下着や身体でなかったとしても、行為の態様や状況によっては処罰されることがありますので、注意が必要です。
当事務所では、盗撮事件の逮捕や起訴の回避に関する豊富な実績があります。親身かつ誠実に、弁護士が依頼者を全力で守りますので、着衣の上から女性を撮影して罪に問われている方は、ぜひ当事務所の弁護士までご相談ください。
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