
- 「脅迫されて怖い。警察に逮捕してもらいたい」
- 「脅した相手に慰謝料請求したい」
- 「でも、相手の言葉が脅迫罪になる言葉なのかならないのかわからない…」
こういったことでお悩みではありませんか。
どんな言葉が脅迫罪になるなるのか、あるいはならないのかが分かれば、その後の対処法も決めやすいですよね。
しかし、ある言葉が脅迫罪になるのかならないのかは、外形から一律に判断できるものではありません。
例えば、「殺す」と言っても脅迫罪にならないこともあれば、無言でも脅迫罪になることがあるのです。
「なぜ?」と思われた方も多いと思いますが、この疑問を解消するには、まずは脅迫罪とはどんな犯罪なのかを理解しなくてはなりません。
そこでこの記事では、数多くの脅迫・恐喝の相談を受けている弁護士が、
- そもそも脅迫罪とはどんな犯罪なのか
- 脅迫罪になる言葉やならない言葉にはどのようなものがあるのか
など、脅迫罪全般について理解が深められるようわかりやすく解説していきます。
記事を読んでも問題解決しない場合は気軽に弁護士に相談してみましょう。
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目次
脅迫罪とは
脅迫罪は「相手を怖がらせる目的で、相手や相手の親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害悪を加える旨を告げること」で成立します(刑法222条)。
この告げる行為のことを、「害悪の告知」といいます。
第222条
1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
脅迫罪の対象となる人は?
本人またはその親族を脅せば成立します。「お前の彼女(友達)を刺し殺してやる」といった、恋人や友人に対する害悪の告知は脅迫罪になりません。
また、対象となるのは、自然人である”人”であって、”会社などの法人”は対象外です。
ただし、法人に対する脅迫言動が、その告知を受けた法人の代表者や代理人等に危害を加えるものであると判断できる場合には、その個人に対する脅迫罪は成立するとされています。
なお、親族間で起きた犯罪の刑を免除したり親告罪とする「親族相盗例」という刑法の規定がありますが、脅迫罪は対象外です。
親子間、兄弟間、親族間で脅迫行為があった場合でも脅迫罪は成立します。
脅迫罪の手段は?
電話、メール、LINE、手紙(脅迫文などの文書)、ネット(ブログ、掲示板、SNSなど)で害悪の告知をした場合も脅迫罪になり得ます。
無言でナイフを突きつける、殴る素振りを見せる等、言葉でなくとも態度で示す場合も脅迫罪になることもあります。
怒鳴る行為も、その時の状況(時間帯・場所・相手の体格や風貌・相手の性別や年齢差など)によっては、脅迫罪が成立する可能性もあります
「うちの若い衆も君を八つ裂きにしたいと意気込んでいる」などと、告知者以外の第三者が害悪をもたらすことを告げる場合(「間接脅迫」といいます)も脅迫罪に該当することがあります。
火事が起きていないのに「出火見舞い申し上げます。火の元に御用心」と書かれた手紙を送ったり、「夜道には気をつけて」「月夜の晩ばかりじゃない」など、暗示的に害悪の告知をした場合も脅迫罪に該当することがあります。
脅迫罪はどんな刑罰が課されるの?
脅迫罪の法定刑は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑」となります。
ただし、前科がなかったり(初犯)、悪質性が低い場合には、不起訴、または、罰金刑や執行猶予付き判決となることが多いでしょう。
なお、脅迫罪には未遂規定がありません。
脅迫罪は親告罪?
親告罪とは、被害者側が刑事告訴をしなければ検察が起訴をすることができない犯罪のことです。
脅迫罪は「非親告罪」ですので、被害者が刑事告訴しなくても警察に逮捕され、検察に起訴されて被告人となる可能性もあります。
脅迫罪の時効は?
脅迫罪の刑事事件の時効(公訴時効といいます)は、最後に脅迫された時から3年で時効が完成します。
民事事件(慰謝料請求)の時効は、脅迫された時から同じく3年で時効が完成します。
脅迫罪の証拠となるものは?
警察に捜査や逮捕に動いてもらうには、脅迫を受けた証拠が必要です。民事で慰謝料請求する場合も同様です。
具体的には、以下のようなものが脅迫罪の証拠となります。
- 脅迫電話の音声をボイスレコーダー等で録音したもの
- 脅迫されていることがわかる防犯カメラ等の録画映像
- 脅迫文言が書かれたメール、LINE、手紙等の文書
- ブログやSNS、掲示板に書き込まれた脅迫文言のキャプチャ画像
- 脅されている状況を見聞きしていた目撃者の証言 など
脅迫罪と強要罪、恐喝罪との違い
強要罪との違い
強要罪(刑法223条)は、相手(または親族)の生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対する害悪の告知をして、義務のないことを行わせる犯罪です。
脅迫罪との大きな違いは、単に脅すだけでなく、義務のないことを相手に行わせたかどうかという点です。
例えば、「土下座しなかったら店が営業できないようにしてやる」と脅して土下座させたり、「不倫をばらされたくなければ職場を辞めろ」と脅して退職に追い込めば、強要罪が成立する可能性があります。
また、脅迫罪の法定刑が、懲役2年以下または30万円以下の罰金であるのに対し、強要罪は3年以下の懲役刑です。脅迫罪が未遂規定がないのに対し、強要罪は強要未遂罪があります。
恐喝罪との違い
恐喝罪(刑法249条)とは、人を恐喝(暴力を振るったり脅迫すること)して財物を交付させたり、財産上の不法な利益を得る犯罪です。
脅迫罪との大きな違いは、財産を交付させたり財産上の利益を得たかどうかという点です。
例えば、「財布の中身を出せ。さもないと蹴り飛ばす」と脅してカツアゲしたり、「横領を会社に知られたくなければ分け前を寄こせ」と脅して金銭を交付させる行為が恐喝罪となります。
また、脅迫罪の法定刑が懲役2年以下または30万円以下の罰金であるのに対し、恐喝罪は10年以下の懲役刑です。脅迫罪と違い、恐喝罪には未遂規定があります。
なお、脅迫や暴行の態様が、相手の抵抗を抑圧するレベル(首にナイフを突きつけて金品を要求する行為など)であれば、恐喝罪ではなく強盗罪(5年以上の有期懲役)が成立します。
脅迫罪になる言葉、ならない言葉
害悪の告知の「害悪」の程度は、被害者が怖がったかどうかではなく、一般人であれば恐怖を抱くだろうと客観的に認められれば良いとされています。
例えばアナタが、成人男性から「殺す」と言われた場合と、幼稚園児から同じことを言われた場合とでは、客観的に見て受ける恐怖心の度合いは全く異なるはずです。
同じセリフでも前者は害悪の告知に該当しますが、後者は該当しません。
同様に、「天罰を下す」「地獄へ送る」といったおよそ人間が実現不可能な言葉を口にしても、一般人は恐怖を感じないため脅迫罪にはなりません。
脅迫罪になる言葉をもっと詳しく
繰り返しとなりますが、害悪の告知とは、「相手や相手の親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害悪を加える旨を告げること」ですので、
- 殺すぞ、子供を海に沈めてやる(生命)
- 殴るぞ、腕をへし折ってやる(身体)
- 監禁してやる、ここから帰れないようにしてやる(自由)
- 裸の画像をネットにばら撒く、不倫してることを会社に言いふらす(名誉)
- 車を破壊してやる、飼い犬をなぶり殺してやる(財産)
などの言葉は脅迫罪になりうるものです。
その他、以下のような台詞も脅迫罪となり得ます。
▽「訴えるぞ」
相手の違法・不法な行為に対して裁判や警察に訴えることは正当な権利ですので、それを口にしたとしても脅迫罪にはなりません。
ただし、「告訴するぞ」と言った事案につき、判例(大判大正3.12.1)では、「真実の追究が目的ではなく、権利行使の意思がないのに相手を畏怖させる目的で告知した場合」は脅迫にあたるとしています。
つまり、単に相手を怖がらせる目的で訴えると言って実際に訴えなかった場合は脅迫罪にあたる可能性があります。
「警察呼ぶぞ(言うぞ)」「告発する」「法的措置をとる」「出るとこ出るぞ」といった正当な権利の主張をする言葉であっても同様です。
ただし、「弁護士に相談する」程度であれば、一般人が畏怖するとは考えにくいため脅迫罪とはならないでしょう。
▽「会社に言う」
会社に秘匿にしておきたい事実(不倫や金銭の貸し借りなど)を「会社に言う」と脅されるケースがよくあります。
不倫や借金が職場の上司や同僚に知れれば、一般的には社内でのその人の社会的評価は下がりますので、名誉に対する害悪の告知として脅迫罪が成立する可能性があります。
▽「覚えとけよ」
この言葉だけでは、生命や身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知にはならないため脅迫罪は成立しません。
ただし、「覚えておけよ」という言葉の前後の会話内容によっては脅迫罪になる可能性はあるでしょう。
例えば、「お前には生まれたばかりの子供がいるそうだな。絶対に許さない。覚えておけよ」といった発言であれば、家族に危害が及ぶことも危惧される内容ですので、脅迫罪が成立する可能性もあるでしょう。
相手との関係性やその場の状況がポイント
脅迫罪になる(なり得る)言葉を口にされたからといって、必ずしも脅迫罪が成立するとは限りません。
例えば、仲の良い友人と普段から冗談交じりで「ぶっ殺す」「ボコボコにする」などのやり取りをしていても脅迫罪が成立する可能性は低いでしょう。
また、その時の状況、具体的には、公の場なのか密室なのか、性別、年齢差、立場(上司・部下の関係など)の差などによって言われた側の受け止め方も違います。
このように、ある言葉が脅迫罪になるのかならないかの判断は、相手との関係性やその場の状況によって左右されるのです。
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