- 略式起訴ってなんだろう…一般的な起訴(正式起訴)とどう違うのだろう…
- 略式起訴されると罰金と科料の刑しか科されないって本当?
- 略式裁判になった場合の流れが知りたい…
この記事では、このような疑問を、刑事事件に強い弁護士が解決していきます。
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目次
略式起訴とは?
略式起訴と正式起訴の違い
起訴は検察官が裁判所に対して「刑事裁判を開いてください」と申し立てをすることです。この起訴には略式起訴と正式起訴の2つがあります。
略式起訴は公開の法廷での刑事裁判までを求めず、裁判官の書面審理(略式裁判)で手続きを終わらせることを求める起訴のことです。
一方、正式起訴は、ニュースなどでよく目にする傍聴席が設けられた公開の法廷での刑事裁判(正式裁判)を求めるための起訴です。
略式起訴の目的
略式起訴の目的は、比較的軽微な事件について簡易な手続きにより迅速に処理することにあります。
刑事手続きが長引くと手続きの対象である被疑者・被告人の負担も増大していきます。
通常、検察官による公訴提起が行われると、刑事裁判手続きが行われ判決が出るまでに、早くて半月~数か月を要する場合もあります。
しかし全ての犯罪について強盗事件や殺人事件と同じように厳格な手続きを要求すると、手続きの関与する者の負担が大きくなり過ぎるという場合も想定されます。
そのため比較的刑罰の軽い事件や重大性・悪質性が小さい事件については、時間のかからない簡略化された手続きで事件処理できることが、裁判所や検察官などの司法経済にも適うと考えられています。
このような軽微な事件については、被告人・裁判所・検察官など刑事裁判に関わる当事者の負担を軽減して事件処理ができるように設けられた制度が「略式起訴」という手続きなのです。
略式起訴になる要件
略式命令することができるのは「100万円以下の罰金又は科料」です。そのため、まずは罰則に罰金が規定されている罪(※)でなければいけませんし、事件の内容が「100万円以下の罰金又は科料」の範囲に収まるものである必要があります。
また、略式裁判は書面審理のみで終わってしまいます。つまり、略式裁判では言い分を主張する機会が与えられません。そのため、罪を認めていて、略式裁判を受けることに同意している場合に略式起訴されることになります。
※窃盗罪「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、公然わいせつ罪「6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留」、暴行罪「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」など
略式起訴のメリット
略式起訴されると「罰金又は科料」の刑しか科されない
略式起訴されると罰金または科料の刑しか科されません。つまり、略式起訴後の略式裁判では、裁判官は、死刑はもちろん、懲役・禁錮・拘留の刑の命令(略式命令)を出すことができません。
死刑は人の命を奪う生命刑、懲役、禁錮、拘留は人の自由を奪う自由刑で、死刑の場合はもちろん、懲役、禁錮、拘留で実刑の場合は刑務所に収容されてしまいます。
一方、罰金、科料は財産刑といい、お金さえ納付すれば刑は終了します(納付しない場合は拘束されて刑務所に収容されることがあります(労役場留置)。
刑事裁判を受ける必要がない
前述のとおり、正式起訴されると正式裁判を受けなければいけません。正式裁判と一言でいっても準備期間を含めると、判決まで最低でも1か月半~2か月はかかります。事件の内容によっては半年、1年以上かかることもあります。その間、不安な日々を過ごさなければいけません。
一方、略式起訴されれば書面審理のみで終わりますから、刑事裁判に向けた準備や法廷への出廷などは不要です。また、略式起訴されてから裁判官の略式命令が出るまで2週間~1か月程度と、正式裁判に比べればスピーディーに手続きが進みます。
身柄拘束(勾留)されている場合に早期釈放される
身柄拘束されているまま正式起訴されると自動的に2か月の身柄拘束が決まってしまいます。また、その後、理由がある場合には1か月ごとの期間の更新も認められています。正式起訴された後に釈放されるためには保釈請求して裁判所の許可を受け、かつ、裁判所に保釈保証金を納付しなければいけません。
一方、身柄拘束中に略式起訴され、裁判官から略式命令が発せられるとその時点で勾留の効力が失われる、すなわち、釈放されます。正式起訴された場合のように保釈請求などは必要ありません。
略式起訴のデメリット
略式起訴にはメリットがある一方で、次のデメリットもあります。
ほぼ有罪が確定する
まず、略式起訴されるとほぼ有罪が確定してしまうことです。
略式起訴するにあたっては、被疑者の同意が必要です。そして、被害者が略式起訴に同意するのは、被害者が被疑事実について全面的に認めている場合がほとんどですし、検察官は被疑者が被疑事実を認めていなければ略式起訴はしません。略式起訴を受けた裁判官も「被疑者が略式起訴に同意しているということは、事実を認めているのだな」という頭がありますので、検察官から略式起訴を受けると、ほとんどのケースで略式命令を出します。
略式命令は、被告人が命令を受けてから14日間の正式裁判申立て期間を経過した段階で確定します。被告人は略式起訴されることに同意しているわけですから、実務上正式裁判の申立てをする人はほとんどいません。略式命令が確定すると前科がつきます。罰金や過料は略式命令が確定してから納めるのが原則ですが、正式裁判申立て期間中から納めることができる場合がほとんどです。
意見・主張を述べる機会がない
次に、意見・主張を述べる機会がないことです。
略式起訴による略式裁判は、裁判官が検察官から送られてきた記録を読んで略式命令を出す書面審理です。正式裁判と異なり、裁判所に出廷する必要がないという点ではメリットの反面、裁判官に対して意見・主張を述べる機会がないという点ではデメリットです。特に、被疑事実を否認しており、裁判で徹底的に争いたい、裁判官に自分の言い分を聞いてもらいたいという場合は略式起訴の手続きをとることに同意してはいけません。
略式起訴の流れ
略式起訴から略式命令が発せられ、前科がつくまでの流れは以下のとおりです。
- 検察官から略式裁判を受けることの同意を求められる
- 被疑者が同意する
- 略式起訴される
- 裁判官が書面を見て罰金額等を決める
- 裁判官が略式命令を発する
- 正式裁判を申し立てるか判断する(仮納付期間の開始)
- 正式裁判の申し立てをしない
- 略式裁判が確定する→前科がつく
①検察官から略式裁判を受けることへの同意を求められる
略式起訴される前に、検察官の取調べで、検察官から略式裁判を受けることへの同意を求められます。同意する場合は書面にサインします。同意しない場合は正式起訴され、正式裁判を受ける必要があります。
②略式起訴される
略式裁判を受けることに同意した場合は、検察官が「起訴状+罰金(科料)の求刑金額を書いた用紙+同意書+取捨選択した事件記録」を簡易裁判所に提出します。
③裁判官が事件記録を見て罰金額等を決める
検察官から事件記録等を受け取った裁判官は事件記録を読み込み、今回の事件が略式裁判してもよい事件であることを確認した上で、罰金(科料)額等の命令の内容を考えます。
④裁判官が略式命令を発する
裁判官が罰金額等を決めたら略式命令書という書類を作成します。略式命令書は謄本(写し)という形で被告人(起訴された人)と検察官に届けられます。
⑤正式裁判を申し立てるか判断する(仮納付期間の開始)
略式命令謄本を受け取ると、罰金(あるいは科料)を納付しなければいけません(仮納付期間の開始)。仮納付期間は略式命令謄本を受け取った日の翌日から起算して14日間です。
なお、略式命令に不服がある場合は、仮納付期間内に、略式命令を発した裁判所に対して正式裁判を申し立てることができます(刑事訴訟法465条)。正式裁判の請求が期限内に行われた場合、正式な裁判が開かれ、裁判官から判決が出されます。この判決が言い渡されることによって、略式命令は効力を失います。
⑥略式裁判が確定する
一方、14日以内に正式裁判を申立てずに期間が経過すると略式裁判が確定します。裁判が確定すると正式に罰金を納付する必要があります。
略式起訴の罰金相場
略式起訴された場合の罰金刑の相場はどれくらいなのでしょうか。
そもそも略式起訴は「100万円以下の罰金又は科料」に相当する事件についてなされるものですので、相場としては10万円~60万円程度が多い印象です。
ただし、被害者が多い場合や被害弁償できていない場合、被告人に前科がある場合などには罰金額が高くなる可能性があります。具体的な金額については個別的な事件に応じて変わる可能性がありますので注意しましょう。
以下では略式命令で決まる罰金の相場について、前科の無い方については次の表の金額が参考となるでしょう。
犯罪 | 罰金額 |
痴漢・盗撮(迷惑防止条例違反) | 30万円前後 |
淫行条例違反 | 30万円前後 |
児童買春(児童ポルノ禁止法違反) | 50万円前後 |
暴行事件 | 10万円~20万円 |
傷害事件 | 20万円~30万円 |
窃盗事件(万引き) | 20万円~30万円 |
酒気帯び運転 | 30万~40万円 |
無免許運転 | 20万円~25万円 |
スピード違反 | 8万円~10万円 |
略式起訴の罰金を払えないとどうなる?
罰金刑が確定すると、あらかじめ定められた期間内に検察庁に罰金を納付しなければなりません。
罰金は現金での一括納付が原則で、検察庁が指定する金融機関に納めるか検察庁に直接納めに行くことができます。
罰金を期日までに納めることができなければ資産が差し押さえられる可能性がありますが、あらかじめ検察庁の徴収事務担当に相談することで期間を延長してもらえたり分割での納付に応じてもらえたりする可能性もあります。
しかし、強制執行によっても回収ができない場合には「罰金を完納することができない」として、労役場に留置されることになります(刑法第18条参照)。
この「労役場留置」になると、刑事施設の労役場に留め置かれ一定の作業を強いられることになり、1日あたりの留置を一定の罰金刑相当として計算することになります。例えば罰金として10万円支払わなければならない場合、1日あたり5000円と換算すると20日間労役場に留置されることになります。
略式起訴で前科はつく?
前科とは、過去に有罪判決を受けた履歴のことです。略式起訴は正式起訴のように公開の法廷で裁判がなされないため軽いイメージを持たれている方もおられますが、略式起訴されて罰金刑となった場合でも前科はつきます。罰金刑も立派な刑罰の一種であるからです(刑法第9条)。
前科がつくとどんなデメリットがある?
- 海外渡航ができないことがある
- 一定の資格を取得できない・保有している資格をはく奪される
- 再犯をすると処分が重くなることがある
- 離婚事由に該当する可能性がある
などの不利益を受けることがあります。前科がつくことのデメリットを詳しく知りたい方は、前科と前歴の違い|5つのデメリットと前科をつけないためにすることを合わせて読んでみてください。
交通違反の罰金でも前科はつく?
道路交通法では、軽微な交通違反の場合、一定期日までに反則金を払うことで刑事手続きを免除される制度(交通反則通告制度。いわゆる青キップ)が定められています。この「反則金」は行政罰であり、刑事罰である「罰金」とは異なるため前科はつきません。
ただし、交通違反で略式起訴され罰金刑を受ければ前科がつきます。
前科は消える?
前科は一生消えることはありません。
もっとも、略式命令を受け、罰金の納付が完了した後、5年間、罰金以上の刑に処せられないで2年を経過すると前科の効力は消滅します。
よくある質問
ここからは、略式起訴に関連してよくある質問にお答えします。
略式命令とは?略式起訴との違いは?
略式命令とは、検察官から略式起訴された事件について、裁判官が検察官から提出された書面に目を通し、略式命令を出せる条件が整っていると判断したときに出す裁判官の命令のことです。略式起訴は簡易裁判所に対してなされますので、略式命令を出す裁判官は簡易裁判所に所属する裁判官です。
略式命令では、100万円以下の罰金又は科料(1万円未満の額)の命令しか出せない決まりになっています。仮に、裁判官が100万円以上の罰金を科すのが相当と判断したときは略式命令を出すことができず、手続きは正式裁判に移行します。
略式命令は略式命令謄本という書面で通知されます。略式命令謄本には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑、没収の裁判があった場合はその対象物、命令を受けた日から14日以内は正式裁判を申し立てることができることなどが書かれています。
略式起訴で通知が来ない!いつ来るの?
略式命令を受け取るまでには、
- 検察庁での略式裁判を受けることへの同意の手続き
- 略式起訴
- 裁判官による書面審理
- 略式命令謄本発送
- 略式命令謄本の受け取り
という手順を踏みます。
在宅のまま略式起訴された場合は、①~②、②~③、③~④、④~⑤の期間に決まりはありませんので、①~⑤までの期間がどのくらいかかるのかはわかりません。ただ、実務上は①の手続きをとったら速やかに②以降の手続きをとることとされていますので、①から半年、数年かかることはありません。通常、①からはやくて2~3週間、遅くても1か月半前後で略式命令の謄本が送られてくると思います。一方、身柄拘束されたまま略式起訴された場合は、②の当日に⑤まで手続きが進み、略式命令謄本を受け取った段階で釈放されます。
略式起訴と不起訴との違いは?
略式起訴は起訴の一種であるのに対し、不起訴は起訴しないという刑事処分の一種という点で大きく異なります。また、略式起訴され略式裁判が確定すると正式に刑罰(罰金、過料)を科されたり、前科がついたりします。一方、不起訴の場合は刑罰が科されず、前科もつきません(前歴はつきます)。
略式起訴でも執行猶予はつく?
法律上は、略式命令でも執行猶予を付けることができるとなっています。なお、科料には執行猶予をつけることはできません。もっとも、実務上、略式命令で出される罰金に執行猶予をつくことはほとんどありません。すなわち、略式命令で出される罰金のほとんどが実刑ということになり、裁判が確定すると正式に罰金を納めなくてはいけなくなります。
略式起訴で前科をつけないためにすべきこと
略式起訴された後、前科がつくことを回避するには正式裁判申立て期間(略式命令謄本を受け取った日の翌日から14日間)内に、略式命令を出した簡易裁判所に対して正式裁判の申立てをすることです。申立てが正式に受理されると、手続きは正式裁判に移行します。そして、正式裁判で無罪を獲得できれば前科がつくことを回避することができます。
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