無期懲役とは、文字どおり、懲役の期間が無期限の刑罰のことです。
ただし、刑期が10年経過すれば仮釈放が可能(刑法28条)とされています。
とはいえ、
と思われる方もいるのではないでしょうか。
また、
- 無期懲役と終身刑は何が違うの?
- 無期懲役の実態や死刑との分れ目は?
こういった疑問をお持ちの方も多いと思います。
そこでこの記事では、刑事事件に強い弁護士がこれらの疑問を解消すべくわかりやすく解説していきます。
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無期懲役とは?
懲役は死刑、禁錮、罰金、拘留、科料と同様に刑罰の一種です(刑法第9条)。そして、懲役は無期と有期の2つにわかれます(刑法第12条)。
無期懲役とは、懲役の期間が無期限の刑罰のことです。死刑に次ぐ重い刑罰となります。
これに対して、有期懲役とは、懲役の期間が設けられている刑罰で、下限は1か月、上限は20年(加重の場合は30年)とされています。
無期懲役と終身刑の違いは?
「終身刑」という刑罰は日本の法律上は存在しませんが、海外の裁判のニュースなどで耳にしたことがあるはずです。そして、多くの方が、「無期懲役は仮釈放で出所できる可能性があって、終身刑は一生刑務所から出られない」というイメージをお持ちではないでしょうか。
しかし、終身刑には、一生仮釈放が認められない「絶対的終身刑」と、仮釈放が認められる余地のある「相対的終身刑」の2種類があります。
アメリカの一部の州や中国、スイス、オランダなどの国では「絶対的終身刑」を採用していますが、終身刑がある多くの国では相対的終身刑を採用していますので、日本の無期懲役と実質的に変わりはありません。つまり、仮釈放の可能性があるのが無期懲役、ないのが終身刑、といった分け方は誤りです。
また、後述しますが、無期懲役で仮釈放が認められる受刑者はほんの僅かで、大半が刑務所内で生涯を終えますので、実質的には絶対的終身刑とあまり差異はないとも考えられます。
日本における無期懲役の実態
では、日本では年間どのくらいの人が無期懲役の判決を受けているのでしょうか?また、どんな罪で無期懲役を受けることが多いのでしょうか?近年の傾向を解説します。
平成元年以降、無期懲役の判決を受けた人は平成16年がピーク
毎年、どのくらいの人が無期懲役の判決を受けているのでしょうか?
この点、犯罪白書によると、平成12年から平成16年までに、年間で無期懲役の判決を受けた人の数は以下のとおりです。
平成12年 | 平成13年 | 平成14年 | 平成15年 | 平成16年 |
69 | 88 | 98 | 99 | 125 |
統計がある平成元年以降は、上記の表のとおり、年々徐々に、無期懲役を受けた人の数が増加し、平成16年の125人でピークに達します。
平成16年頃の日本はデフレ不況に苦しみ、就職氷河期の時代でした。そうした時代背景も重なってか、平成16年前後は犯罪認知件数、検挙件数が最も多い時代で、それらに比例して無期懲役の判決を受ける人の数も増えたと考えられます。
殺人罪、強盗致死傷罪、強盗・強制性交等罪が圧倒的
次に、無期懲役を科されることが多いのは、殺人罪、強盗致死傷罪、強盗・強制性交等罪です。
令和3年版犯罪白書「2 科刑状況」によると、平成27年から令和元年までに無期懲役を科された人の罪ごとの内訳は以下のとおりとなっています。
平成28年 | 平成29年 | 平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | |
総数 | 25 | 21 | 15 | 18 | 12 |
殺人 | 9 | 7 | 8 | 5 | 3 |
強盗致死傷及び強盗・強制性交等 | 16 | 13 | 6 | 13 | 8 |
その他 | なし | 1 | 1 | なし | 1 |
※殺人は自殺関与、同意殺人及び予備を含まない。
※強盗致死は強盗殺人を含む
※強盗・強制性交等は平成29年7月13日以前の強盗強姦、同日以降は強盗・強制性交等及び強盗強姦をいう。
無期懲役となった判例
それでは、実際に無期懲役を受けた判例の一部をご紹介します。いずれも大きなニュースになり、社会的にも関心を集めた事件ですので、記憶に残っている方も多いと思います。
広島小1女児殺害事件
2005年11月、広島市内で、ペルー国籍の男性が、当時7歳の女児の陰部内に手指を入れるなどのわいせつ行為を加えた上、その発覚を免れるため女児を殺害しようと考え、女児の頸部を締め付けるなどして女児を死亡させ、殺人罪、死体遺棄罪などの問われた事件(広島小1女児殺害事件)。
2006年7月の第一審判決では、検察側の死刑求刑に対して無期懲役が言い渡されています。
これを受けて、検察側、弁護側の双方が控訴したところ、第二審では「審理が尽くされていない」として第一審に差し戻されましたが、最終的には無期懲役の判決が確定しています(広島高等裁判所平成22年7月28日)。
南青山強盗殺人事件
2009年11月、妻を殺害した罪で服役を終えたばかりの男性が、飲食店店長方に侵入し、包丁で被害者の首を刺すなどして死亡させ、強盗殺人罪などの罪に問われた事件(南青山強盗殺人事件)。
2011年3月の第一審判決では、検察の求刑どおり死刑判決が言い渡されました。
ところが、弁護側控訴後の第二審では、「先例の量刑傾向をみると、前科と顕著な類似性が認められる場合に前科が選択されている。」、「本件は、前科(妻を殺害した罪)との類似性は認められない。」、「前科を過度に重視しすぎている。」として無期懲役を言い渡しています。
その後、審理は最高裁まで進んだものの無期懲役で確定しています(最高裁平成27年2月3日)。
この事件は第一審の裁判員裁判の判決が控訴審(第二審)で覆された事件として注目を集めました。
2018年東海道新幹線車内殺傷事件
2018年6月、新横浜駅と小田原駅間を走行中の新幹線「のぞみ」において当時22歳の男性が3人の乗客を鉈(なた)で切り付け1名を殺害、2名に重傷を負わせた事件です(2018年東海道新幹線車内殺傷事件)。
検察官は犯人の男性の精神鑑定を実施し刑事責任能力があると判断されたことから、殺人罪などの罪で公訴提起されました。
第一審では検察官の求刑通り無期懲役が言い渡されました。公判手続きにおいて被告人は起訴事実を認め、攻撃対象について「誰でもよかった」「無期懲役を希望していた」という趣旨の供述をしていました。
2020年1月、被告人が控訴期間に控訴しなかったため第一審の無期懲役判決が確定しました(横浜地方裁判所小田原支部令和元年12月18日判決)。
甲府信金OL誘拐殺人事件
1993年8月山梨県甲府市で、事件当時38歳の男性が身代金を手に入れる目的で、当時甲府信用金庫の女性職員(当時19歳)を誘拐したうえで殺害し、その死体を川に遺棄した事件です(
甲府信金OL誘拐殺人事件)。
第一審判決で検察側は死刑を求刑しましたが、裁判所は無期懲役を言い渡しました。
第二審では検察側は死刑求刑を求め、弁護側は有期懲役刑を求めて双方が控訴しました。東京高等裁判所は双方の主張を退け、控訴を棄却し第一審を維持する判決を言い渡しました。
そして検察側も弁護側も双方が上告期限までに上告しなかったため1996年5月に無期懲役刑が確定しました(東京高等裁判所平成8年4月16日判決)。
リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件
2007年3月千葉県において、当時28歳の男性によって英会話学校の講師であったイギリス人女性リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)が殺害された事件です(リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件)。
2011年7月、第一審判決では検察官の求刑通り、被告人には無期懲役の判決が言い渡されました。罪名としては検察側が主張する殺人罪・死体遺棄罪・強姦罪が認められました。検察側の主張する強姦致死罪については、首の圧迫が強姦後に相当時間が経った後であったとして否定されました。
2012年3月、第二審では有期懲役が妥当という弁護側の主張を排斥し、第一審を維持する判決が出されました。検察・弁護側双方が上告しなかったためこの判決は確定し、被告人は刑務所に服役しています(東京高等裁判所平成24年4月11日判決)。
司ちゃん誘拐殺人事件
1980年8月、山梨県で当時5歳の保育園児が、事件当時36歳の電気工事業の男性によって身代金目的で誘拐され殺害され、死体を山林に遺棄した事件です(司ちゃん誘拐殺人事件)。
1980年10月第一審は、弁護側の心神喪失または心神耗弱であったという主張を排斥して、検察官の求刑通り死刑判決を言い渡しました。
1982年10月の第二審では、弁護人は第一審判決の事実誤認や量刑不当などを主張しました。控訴審は事実誤認や法令適用の誤りについての主張はすべて退けましたが、量刑不当の点について「原審の量刑は重き失し、維持しがたいものとせざるをえない」として無期懲役を言い渡しました。第二審判決について検察官が上告を断念し、被告人も上告を取り下げたことによって無期懲役刑が確定しました(東京高等裁判所昭和60年3月20日判決)。その後被告人は刑務所に収監されました。
無期懲役と仮釈放
次に、無期懲役と仮釈放について解説します。
無期懲役でも仮釈放は可能
無期懲役の期限は無期限ですから、「無期懲役を食らうと一生刑務所から出てこれない」と思われる方もいるかもしれません。しかし、無期懲役を受けても、刑の途中から刑務所を出ることは可能です。それを可能にするのが仮釈放(刑法第28条)という制度です。
ただし、あくまでも「仮」の釈放である点に注意が必要です。釈放後は保護観察期間となるなど国の監視下に置かれることには変わりなく、仮に、遵守事項に違反した場合などは仮釈放が取り消され、再び服役しなければなりません。
仮釈放とは?3つの条件と期間、許可のために身元引受人が出来ること
仮釈放の条件
無期刑の仮釈放の条件は以下のとおりです。
- 改悛の状が認められること
- 刑の始期から10年を経過したこと
そして、改悛の状が認められるか否かは以下の事情を総合的に勘案して判断するとされています(仮釈放、仮出場及び仮退院並びに保護観察等に関する規則31条1項、32条)。
- 本人の資質、生活歴、矯正施設内における生活状況、将来の生活設計、帰住後の環境等
- 悔悟の情が認められるかどうか
- 更生の意欲が認められるかどうか
- 再犯のおそれがないと認められるかどうか
- 社会の感情が仮釈放を是認すると認められるかどうか
仮釈放までの平均期間は何年?
前述のように、無期懲役の仮釈放の一つが「刑の始期から10年を経過したこと」だとすると、
- 無期懲役を受けても最短10年で釈放される?
- 懲役10年と同じでは?
と思われる方がいるかもしれません。
しかし、仮に、無期懲役で仮釈放されるとしても、10年での仮釈放は難しいのが実情のようです。令和3年版犯罪白書「第2節 仮釈放等と生活環境の調整」によれば、平成27年から令和2年までの間に無期懲役者で仮釈放された人の数と受刑期間は以下のとおりです。
平成28年 | 平成29年 | 平成30年 | 令15年 | 令和2年 | |
総数 | 6 | 9 | 10 | 10 | 9 |
20年以内 | |||||
25年以内 | |||||
30年以内 | |||||
35年以内 | 5 | 7 | 10 | 9 | 3 |
35年超え | 1 | 2 | 6 | 6 |
以上から、無期懲役の仮釈放までの平均期間は30年超え35年以内が一般的なことがおわかりいただけると思います。
なお、刑の執行を管轄する法務省は、刑の始期から30年を仮釈放の目安としています。これは、有期懲役の最長が30年ですから、無期懲役の場合も、最低限その期間とすべきという考えに基づいています。
仮釈放される確率は?
法務所が公表している「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」によると、令和2年度で言えば、年度末時点の無期受刑者数1744人に対して仮釈放で出所した人は14人ですので、確率(割合)で言えば0.8%となります。
死刑か無期懲役かがわかれる基準
無期懲役よりもさらに重たい刑罰は死刑です。
もちろん、死刑では仮釈放は認められず、死刑を執行されるまで刑務所内で暮らし続けることになります。
そのため、いかなる場合に死刑で、いかなる場合に無期懲役となるのか気になる方も多いのではないでしょうか?
以下では、死刑か無期懲役かがわかれる基準について解説します。
結果の重大性
相手を負傷させるにとどまる場合は、無期懲役の可能性が高いです。
一方、複数の被害者を死亡させた場合は死刑となる可能性が高いです。
犯行の悪質性
犯行が計画的、残虐・非人道的で被害者に何ら落ち度がないと認められる場合は死刑となる可能性が高いです。
被告人の更生可能性
被告人の犯行動機、育った境遇・生育環境、前科前歴の有無、犯行後あるいは裁判でみえる改悛の状から、被告人の更生可能性が認められる場合は無期懲役、認められない場合は死刑となる可能性が高いです。
法定刑に無期懲役が規定されている罪
法律にあらかじめ規定されている罪の刑の範囲のことを法定刑といいます。裁判で有罪認定を受けた場合は、基本的にその罪の法定刑の範囲内で処罰されます。
では、法定刑に無期懲役が規定されている罪とは具体的にどんな罪でしょうか?以下で確認しましょう。
殺人罪
殺意をもって人を殺害した場合に問われる罪です。法定刑は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」です。
実務上、殺意、すなわち人を殺す意図があったかどうかが争われることが多いです。仮に、殺意がなかったと認定されれば傷害致死罪となります。傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」で無期懲役は規定されていません。
現住建造物等放火罪
現に人が住居として使用している、または、現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑に放火して焼損させた場合に問われる罪です。法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」です。
なお、「現に人が住居として使用している」とは犯人以外の人が現に起臥寝食する場所という意味で、放火当時、現に人がいるかどうかは問いません。また、家の柱、ひさし、など現住建造物の一部を焼いただけでも既遂罪が成立するというのが判例(大判昭9年11月30日など)の立場です。
強制性交等致死傷罪
強制性交等(旧強姦罪)の機会に、被害者に傷害または死亡の結果を生じさせた場合に問われる罪です。法定刑は「無期又は6年以上の懲役」です。強制性交等が既遂の場合はもちろん未遂の場合でも問われますし、傷害や死亡の結果を生じさせる意図がなくても問われます。
強制わいせつ致死傷罪
強制わいせつの機会に、被害者に傷害または死亡の結果を生じさせた場合に問われる罪です。法定刑は「無期又は3年以上の懲役」です。
強盗致死傷罪、強盗殺人罪
強盗の機会に人を負傷させた場合が強盗致傷罪です。法定刑は「無期又は6年以上の懲役」です。また、強盗の機会に人を死亡させた場合が強盗致死罪です。法定刑は「死刑又は無期懲役」です。
強盗殺人罪は殺意をもって強盗した場合に問われる罪で、法定刑は強盗致死罪と同じ「死刑又は無期懲役」です。ただ、殺意がある分、情状は悪く、強盗致死罪に比べて死刑となる可能性が高いです。
強盗・強制性交等及び同致死罪
強盗の犯人が強盗現場で強制性交等(旧強姦罪)をした場合に問われる罪です。法定刑は「無期又は7年以上の懲役」です。
さらに、これらの行為の結果、人を死亡させた場合に問われるのが強盗・強制性交等致死罪です。法定刑は「死刑又は無期懲役」です。
現住建造物等浸害罪
出水させて、現に人が居住に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車又は鉱坑を浸害した場合に問われる犯罪です。法定刑は「死刑又は無期懲役若しくは3年以上の懲役」です(刑法第119条)。
出水とは水門の破壊や堤防の決壊などの行為をいいます。
汽車転覆等及び同致死罪
現に人がいる汽車又は電車を転覆させ、又は破壊した場合や、現に人がいる艦船を転覆させ、又は破壊した場合に問われることになる犯罪です。法定刑は「無期又は3年以上の懲役」です(刑法第126条1項2項)。
上記の犯罪を犯し、よって人を死亡させた場合には「死刑又は無期懲役」に処せられることになります(刑法第126条3項)。
往来危険による汽車転覆等罪
往来危険の罪を犯し、よって汽車若しくは電車を転覆、破壊し、又は艦船を転覆、沈没、破壊した者は往来危険による汽車転覆等罪に問われます。上記の犯罪を犯し、よって人を死亡させたものは「死刑又は無期懲役」に処せられます(刑法第127条、126条3項)。
往来危険の罪とは、鉄道若しくはその標識を破壊し、又はその他の方法により汽車又は電車の往来の危険を生じさせることをいいます。
外患援助罪
日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服したり軍事上の利益を与えた場合に問われることになる犯罪です。
この場合の法定刑は「死刑又は無期懲役若しくは2年以上の懲役」です(刑法第82条)。
水道毒物等混入致死罪
水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源に毒物その他人の健康を害すべき物を混入した場合に問われることになる犯罪です。
この場合の法定刑は、「2年以上の有期懲役」です(刑法第146条前段)
水道毒物等混入の罪を犯し、よって人を死亡させた場合には「死刑又は無期懲役若しくは5年以下の懲役」に処せられます(同条後段)。
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