- 「誤想防衛とはどういう意味?正当防衛とどう違うのだろう…」
- 「誤想過剰防衛とは?」
この記事では、これらの疑問を、刑事事件に強い弁護士が解消していきます。
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誤想防衛とは?
正当防衛の成立要件と成立した場合の効果は刑法36条1項に、過剰防衛の成立要件と成立した場合の効果は同条2項に規定されています。一方、誤想防衛の成立要件や成立した場合の効果については刑法で規定されていません。
第36条
1. 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2. 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
刑法36条の正当防衛の意味は?3つの成立要件と判例を弁護士が解説
もっとも、これまでの判例等の積み重ねから、誤想防衛とは正当防衛の要件にあたる事実がないのにその事実が存在すると誤信して(信じて)行った防衛行為をいう、とする見解が有力です。
この見解にしたがえば、誤想防衛は以下の3つの類型に区分されます。
- ①急迫不正の侵害を誤信したこと、すなわち、自分に対する違法な侵害が現在に存在する、あるいはその危険がまじかに迫っていないにもかかわらず、これがあるものと誤信して防衛行為をした場合
- ②防衛行為の相当性を誤信したこと、すなわち、急迫不正の侵害に対して相当な防衛行為(自分又は他人の生命・身体等を守るための必要最小限の行為)をするつもりで誤って不相当な防衛行為を行った場合
- ③急迫不正の侵害の誤信と防衛行為の相当性の誤信の重複、すなわち、急迫不正の侵害がないのにこれがあるものと誤信し、かつ、これに対して相当な防衛行為をするつまりで誤って不相当な防衛行為を行った場合(いわゆる「誤想過剰防衛」を行った場合)
誤想防衛が成立するということは、正当防衛の要件(※)を満たさないということですから、防衛行為は違法と評価されます(これに対して正当防衛が成立する場合は、防衛行為は違法ではないことから、犯罪は成立しないとされます)。
もっとも、正当防衛の要件にあたる事実がないと認識していながら防衛行為を行う場合と、認識しないまま防衛行為を行う場合(誤想防衛が成立する場合)とでは、後者の方が責任の度合いは低いと考えられます。
そのため、誤想防衛が成立する場合は故意犯は成立せず、正当防衛の要件にあたる事実が存在すると誤信したことについて過失がある場合は過失犯のみが成立すると考えられています。たとえば、誤想防衛によって人を死亡させた場合、殺人罪(刑法199条)ではなく過失致死罪(刑法210条)が成立します。また、誤信したことに過失すらない場合は犯罪が成立せず無罪となります。
※①急迫不正の侵害が存在すること、②防衛行為が侵害を排除し、法益を防衛するために必要かつ相当なものであったこと(防衛行為の相当性)
誤想過剰防衛とは?
誤想過剰防衛の意味については前述のとおりです。なお、誤想過剰防衛は次の2つに分類されます。
- 相当な防衛行為をするつもりで誤って不相当な防衛行為をした場合
- 相当性を超える防衛行為であると認識していた場合
前者の場合は誤想防衛の一種であり(前記の③にあたり)、故意犯は成立せず過失犯のみが成立する可能性があります。後者の場合は相当性を超えるという認識があるため故意犯が成立しますが、過剰防衛に関する刑法36条2項を準用して刑の減免をなし得るものと考えられています。
誤想防衛が争われた判例
最後に誤想防衛が争われた判例についてご紹介します。
東京地裁 平成14年11月21日
酒に酔って暴れる次男Vを母A、長女B、長男Cが抑えつけたところ、CがVの首根っこの辺りを体重をかけながら力一杯押さえつけたため、Vを窒息死させた傷害致死の事案。
裁判所は「A、Bについては防衛行為の相当性を誤信したことについての疑いを払拭することができず、A、Bいずれの行為が誤想防衛にあたることを否定し難いことから、A、Bに傷害致死罪を問うことはできない」と判断しました。
最高裁 昭和41年7月7日
長男Aが、Vから所携のチェーンで殴りかかられ、なお攻撃を辞さない意思で包丁を示されたことから叫び声をあげた際、これを聞いた被告人が、AがVから一方的に襲われているものと誤信し、Vに向けて猟銃を至近距離から発射して命中させた殺人未遂の事案。
裁判所は、「被告人の行為が誤想防衛であるが、その防衛の程度を超えたものである」として、刑法36条2項(過剰防衛)により処断した原審(福岡高裁宮崎支部)の判断を指示しています。
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