没収(ぼっしゅう)とは、物の所有権をはく奪して国庫に帰属させる刑罰の一種です。
薬物事犯における薬物や殺人で使われた拳銃やナイフ等の凶器、窃盗や賭博等の犯罪で得たお金や物などが没収の対象物の典型例です。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 没収の意味
- 没収と押収の違い
- 没収の対象物
- 没収の例外
などについてわかりやすく解説していきます。
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目次
没収について
没収とは?
没収とは、物の所有権をはく奪して国庫に帰属させる刑罰の一種です。没収は附加刑といい、判決で没収だけを言い渡されることはなく、必ず懲役、禁錮、罰金などの主刑と一緒に言い渡されます。
任意的没収、必要的没収とは?
没収には任意的没収と必要的没収があります。
任意的没収とは裁判官の裁量による没収のことです。一方、必要的没収とは、刑法や各特別法に規定されている要件に該当した場合に必ず没収される没収のことです。必要的没収のみを定めている規定としては、麻薬取締法第63条の3第1項、覚せい剤取締法第41条の8第1項、大麻取締法第24条の5第1項などがあります。
没収と押収はどう違う?
前述のとおり、没収は物の所有権をはく奪する効果があります。すなわち、一度没収されると永久にその物が元の所有者の手元に戻ってくることはありません。
一方、押収とは、捜査機関(警察、検察)による物を占有する処分のことで、任意に占有する場合の「領置」と強制的に占有する場合の「差押え」の総称です。押収は物の所有権をはく奪する効果はなく、物の所有者が所有権を放棄しない限り、手元に戻ってきます。
また、没収は裁判官が判決で言い渡す刑罰であるのに対し、押収は捜査機関による処分ですし、刑罰ではない点も大きく異なります。
追徴について
追徴とは、没収について規定する刑法第19条第1項第3号又は第4号の物の没収に代えて、これと等価値の金員の納付を命じる処分です。物をお金に換え、そのお金の納付を命じる処分であることから換刑処分と言われます。
犯罪時に没収可能な一定の物が、ときの経過とともに、法律上・事実上没収不能となる場合があります。例えば、犯人が窃盗犯が盗んだ物を費消・紛失したり、盗んだ物と知らない善意の第三者に譲り渡してしまったようなケースです。そうした場合に没収に代えて、没収と同様の効果を生じさせるのが追徴です。追徴は没収と異なり刑罰ではありませんが、没収に代わる処分ですから、刑罰に準ずるものといわれています。
没収の対象物について
刑法で規定されている没収の対象物は次のとおりです。なお、いずれも任意的没収の対象物であって、必ず没収されるわけではありません。
①犯罪を組成したもの(犯罪組成物件)
たとえば、偽造文書行使罪における偽造文書、賭博罪における儲金、無免許運転の自動車などです。
【犯罪組成物件の例】
犯罪 | 組成物件 |
偽造文書行使罪 | 偽造文書 |
賭博罪 | 儲金 |
道路交通法違反(無免許運転の罪) | 自動車 |
②犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(犯罪供用物件)
たとえば、文書偽造の用に供した偽造の印章、殺人に用いた日本刀、ピストル、ナイフ、住居侵入・窃盗のために使用しようと準備した懐中電灯などです。
【犯罪供用物件の例】
犯罪 | 供用物件 |
文書偽造罪 | 偽造の印章 |
殺人罪 | 日本刀、ピストル、ナイフ |
住居侵入・窃盗罪 | 懐中電灯 |
③犯罪行為によって生じた物(犯罪生成物件)
たとえば、通貨偽造罪における偽造通貨、文書偽造罪における偽造文書などです。
【犯罪生成物件の例】
犯罪 | 生成物件 |
通貨偽造罪 | 偽造通貨 |
文書偽造罪 | 偽造文書 |
④犯罪行為によって得た物(犯罪取得物件)
たとえば、賭博に勝って得たお金、財産犯罪(窃盗罪、強盗罪、詐欺罪など)によって領得した財物などです。
【犯罪取得物件の例】
犯罪 | 取得物件 |
賭博罪 | お金 |
窃盗罪、強盗罪、詐欺罪 など | 物、お金など |
⑤犯罪行為の報酬として得た物(犯罪報酬物件)
たとえば、殺人の依頼に応じて殺人を行ったことによって得た報酬金、窃盗幇助(盗みの見張りなど)の謝礼として得た財物などです。
【犯罪報酬物件の例】
犯罪 | 報酬物件 |
殺人罪 | 報酬金 |
窃盗幇助 | お金、物 |
⑥上記③、④、⑤の物の対価として得た物(犯罪対価物件)
たとえば、盗品等の売却代金などです。①、②の対価は対価物件には該当しません。
【犯罪対価物件の例】
犯罪 | 対価物件 |
窃盗罪 | 盗品の売却代金 |
窃盗罪 | 盗んだお金で購入した物 |
没収の例外について
上記のように、刑法上の没収の対象物に該当する場合でも、没収されない場合があります。
没収の対象物が犯人以外の者に属する場合
まず、没収の対象物が犯人以外の者に属する場合です。つまり、犯人以外の者が、その物につき所有権等の権利を有しない場合に限って没収できるということです。通常は犯人自身の所有に属する物、または、誰の所有にも属しない無主物が没収されることが多いです。
なお、没収の対象物が犯人以外の者に属する場合でも、その者が、犯罪後、没収の対象物であることを知りながら取得した場合は、没収の対象物とされてしまいます。
拘留又は科料のみ規定されている罪を犯した場合
次に、拘留又は科料のみ規定されている罪を犯した場合です。拘留又は科料のみ規定されている罪を犯した場合は、犯罪組成物件を除き、特別の規定がなければ没収の対象物とはされません。
なお、拘留又は科料のみ規定されている罪としては軽犯罪法があります。軽犯罪法1条23号では浴場をのぞき見る行為を禁止していますが、たとえばのぞき見する際に使った双眼鏡(犯罪供用物件)は没収されないことになります。
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