結論から言うと、傷害罪の刑事事件の時効(公訴時効)は10年です。
以下では、傷害事件に強い弁護士が、
- 傷害罪の時効がスタートする日はいつからなのか
- どのような場合に傷害罪の時効の進行が途中で停止してしまうのか
などについて解説していきます。
過去に人を負傷させてしまいいつ警察が後日逮捕のために自宅に訪れて来るのか不安…という方で、記事を最後まで読んで問題解決しない場合は、お気軽に弁護士までご相談ください。
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目次
傷害罪の公訴時効とは?
「公訴時効」とはどのような制度なのでしょうか。
法律には、「時効が完成した事件」について公訴提起をしても「免訴」判決が言い渡されると規定されています(刑事訴訟法第337条4号4号参照)。「免訴」とは、検察官が起訴しても裁判所は実体の内容に踏み込まず門前払いにするということです。
それでは、なぜこのような公訴時効制度が存在しているのでしょうか。
まず、一定時間の経過により犯罪が「社会的に微弱化」することを理由に未確定の刑罰権が消滅すると説明することができます(処罰する実体がなくなるためこれを「実体法説」と言います)。
また「証拠の散逸」により公正な裁判の実現が困難になることが公訴時効の制度趣旨だと考えたり、一定期間の経過により「犯人の社会的安定」や「捜査・裁判に割くマンパワーを軽減する」ことが、「犯人処罰の要請」に優先するようになる、と説明したりすることもできます(手続的な事情を理由にするため「訴訟法説」と言われます)。
なお、平成22年4月27日の刑法の法改正により、殺人罪の公訴時効が撤廃されるなどの改正が行われました。犯罪被害者やその遺族から「一定期間が経過したからといって無罪放免になることは納得できない」という声が高まったことも改正の理由の一つです。傷害罪については法改正により公訴時効の延長はされていませんが、傷害致死罪は改正前は15年だった公訴時効が改正後は20年へと延長されています。
傷害罪の公訴時効は何年?
傷害罪の公訴時効は「10年」です。
公訴時効は期間については法定刑の上限を基準に決定されています。
「傷害罪」の法定刑は、「15年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」です(刑法第204条参照)。
そしてこれは「人を死亡させた罪」以外で「長期15年以上の懲役」にあたるため、刑事訴訟法の規定によれば傷害罪の公訴時効は「10年」となります(刑事訴訟法第250条2項3号参照)。
第二百五十条
(前略)
② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 死刑に当たる罪については二十五年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七 拘留又は科料に当たる罪については一年刑事訴訟法 | e-Gov法令検索
傷害罪の公訴時効がスタートするのはいつ?
それでは10年の公訴時効は、いつからスタートするのでしょうか。
これに関して公訴時効は、「犯罪行為が終わった時」から進行すると規定されています(刑事訴訟法第253条参照)。
第二百五十三条 時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。
(後略)刑事訴訟法 | e-Gov法令検索
この「犯罪行為が終わった時」とは、刑法に規定されている結果を含んでいると考えられています。すなわち傷害罪の場合は、基本犯である「暴行」行為が終わった時ではなく、加重的結果である「傷害」が発生した時であると考えられています。したがって、暴行行為に基因して相当時間が経った時点で後遺障害が発症したという場合であっても、この後遺障害が生じた時点から傷害罪の公訴時効は進行するということになります。
なお傷害罪は親告罪ではないため「告訴期間の制限」はありません。
告訴とは、犯罪の被害者などが捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の訴追・処罰を求める意思表示のことです。そして「告訴期間の制限」とは、親告罪について「犯人を知った日から6カ月」を経過した場合、告訴ができなくなることをいいます(刑事訴訟法第235条第1項参照)。
近年、性犯罪に関してこの告訴期間が撤廃されたということで社会的な注目が集まりましたが、傷害罪についても親告罪ではないため、公訴時効の範囲内であれば、いつでも告訴することが可能です。
公訴時効の停止について
公訴時効は一定の事実がある場合には「進行が停止」し時効が完成することがありません。
つまり、以下の事情がある場合には公訴時効の時計の針がストップするということです。(刑事訴訟法第254条、255条参照)。
- 公訴の提起
- 共犯の一人に対してした公訴の提起(他の共犯も時効が停止)
- 犯人が国外にいる場合
- 犯人が逃げ隠れしているため有効な起訴状の謄本の送達・略式命令の告知ができなかった場合
また、停止していた公訴時効については、管轄違いの裁判や公訴棄却の裁判が確定した時から再度その進行がスタートすることになります。
傷害罪の民事の時効は何年?
傷害罪の場合には、加害者と国家との間に生じる刑罰の問題のみならず、加害者と被害者との間に生じる民事責任の問題も残ります。
傷害罪の場合には、他人に怪我を負わせてしまっているため、入院・治療費や、休業損害、後遺障害が残った場合の逸失利益・後遺障害慰謝料などを賠償する義務が生じてきます。
しかし、加害者が負う民事上の責任についても刑事責任と同様、時効制度が存在しています。
まず加害者が傷害罪に問われる場合、加害者は被害者の身体という権利・法律上当然保護される利益を侵害し損害を生じさせているため、「不法行為」責任が成立します。そのため加害者は被害者に対してその損害を賠償する義務を負うことになります(民法第709条参照)。
そして不法行為に基づく損害賠償請求権には消滅時効が規定されています。
不法行為に基づく損害賠償請求権は以下の事情がある場合に時効によって消滅する旨が規定されています(民法第724条参照)。
- 被害者(法定代理人)が損害及び加害者を「知った時から3年間」権利を行使しないとき
- 「不法行為の時から20年間」権利を行使しないとき
ただし、「人の生命又は身体を害する」不法行為による損害賠償請求権については「3年」ではなく「5年」に延長されることになります(民法第724条の2参照)。
このように時効期間が延長されている理由は、「人の生命又は身体を害する」不法行為についてはその他の不法行為に比較して被害者救済の要請が強いからです。
以上から傷害罪による損害賠償請求については、損害・加害者を知った時から「5年」が消滅時効期間となります。
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まとめ|時効を待たずにすべきこと
傷害罪の公訴時効は10年、民事の時効は5年です。
暴力事件は現行犯逮捕されるイメージが強いかと思われますが、通常逮捕(令状が必要な逮捕。「後日逮捕」ともいいます)されることも珍しくありません。
例え数年前の傷害事件であったとしても、被害者が傷害罪の証拠、例えば、病院の診断書、防犯カメラの映像、目撃者の証言などを保有していれば、警察に被害申告をすることで立件されることもあります。
逮捕されて起訴されれば、日本の刑事司法では99%以上の確率で有罪判決となりますので、ほぼ確実に前科がつくことになります。また、逮捕・勾留だけでも最大23日間身柄を拘束されます。お仕事をされている方は懲戒解雇、学生の方は退学処分の可能性もあります。実名報道されれば社会的信用も失うことになるでしょう。
10年もの間、上記リスクを抱えて生活するのではなく、これらのリスクが現実のものとならないためにも早急な対応が望まれます。具体的には被害者と示談を成立させることが重要です。示談書には、警察に被害届を出さない内容が組み込まれるのが一般的ですので、示談が成立すれば警察に傷害事件が発覚することもありません。また、仮に警察に発覚した場合でも、示談成立により被害者の加害者に対する処罰感情が低下していると評価され、逮捕されない、あるいは、不起訴処分になる可能性が高まるでしょう。
もっとも、傷害事件の被害者は加害者に恐怖心や怒りの感情を持っていることが多く、直接連絡を取りたくないと考える方がほとんどです。また直接交渉をすると、足元を見られて相場以上の高額な慰謝料等を請求してくる可能性もあります。そのため、示談交渉は弁護士に依頼した方が良いでしょう。
弊所では、傷害事件の被害者との示談交渉を得意としており豊富な解決実績があります。親身誠実に依頼者のために弁護士が全力を尽くします。過去に起こした傷害事件でお悩みの方はまずはお気軽にご相談ください。
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