そのように思われる方がいるかもしれませんが、結論から言えば、泥酔していても暴行罪で逮捕されることがあります。
とはいえ、
といった疑問を抱く方もいることでしょう。
そこでこの記事では、
- 泥酔して暴行した場合に問われる可能性のある罪
- 泥酔していても責任能力があるのか
- 記憶にないと主張したら不利益になるのか。どう対応すべきか
- 逮捕されたらどうなるのか
- 暴行の被害者との示談の必要性
につき、暴行事件に強い弁護士がわかりやすく解説していきます。
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目次
泥酔して暴行したらどんな罪に問われる?
泥酔して暴行した際に問われる可能性のある罪は、
- 暴行罪
- 傷害罪
- 傷害致死罪
です。
暴行罪
暴行罪の「暴行」とは人の身体に対して有形力を行使することをいいます。
殴る、蹴る、叩く、投げ飛ばし、体当たりする、腕を引っ張る、腕を強くつかむ、髪の毛を引っ張る、物を投げて命中させるなど、直接人の身体に触れる行為が典型ですが、胸倉を掴む、衣服を引っ張る、物を投げつけるなど直接人の身体に触れない行為も暴行にあたります。
暴行罪の罰則は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
暴行罪とは?定義・構成要件・傷害罪との違いをわかりやすく解説
傷害罪
傷害罪は、暴行罪の「暴行」によって人に傷害(怪我)を負わせた場合、つまり、暴行と傷害との間に因果関係がある場合に問われる罪です。
怪我の有無及びその程度は、基本的には医者が作成し、被害者が警察に提出した診断書に基づき認定されます。たとえば、診断書に「傷病名:頚椎捻挫(むち打ち)、加療期間:約1週間」と書かれてあった場合は「加療約1週間の頚椎捻挫の怪我」が傷害罪の怪我と認定されます。
傷害罪の罰則は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
傷害致死罪
傷害致死罪は、暴行(又は傷害行為(=はじめから人に怪我を負わせる行為))によって人を死亡させた場合、つまり、暴行(又は傷害行為)と死亡との間に因果関係がある場合に問われる罪です。
傷害致死罪の特徴は人の死という結果を意図していないくても(結果に対する認識・認容(故意)がなくても)罪に問われる可能性がある点です。そのため、暴行を加えた結果、打ち所が悪くて意外にも死亡させてしまったという場合でも傷害致死罪に問われる可能性があります。一方、はじめから死亡させる意図があった場合は傷害致死罪ではなく殺人罪に問われます。
傷害致死罪の罰則は「3年以上の有期懲役」で、暴行罪、傷害罪と異なり罰金刑が設けられていません。また、傷害致死罪で起訴されると裁判員裁判による刑事裁判を受ける必要があります。
傷害・傷害致死罪の量刑|傷害致死罪で執行猶予はつく?弁護士が解説
泥酔していても責任能力はある?
そもそも責任能力とは?
責任能力とは、犯行時において、自己の行為の是非善悪を弁別し(①)、かつ、これに従って行動しえる(②)能力をいいます。①の能力のことを「事理(是非)弁識能力」、②の能力のことを「行動制御能力」ともいい、この2つの能力が備わっていることではじめて責任能力があるということになります。
事理(是非)弁識能力とは要するに、物事の良し悪しをわかっている能力のことです。物事の良し悪しがわかっていない人に対しては、たとえば「人を殺してはいけない」、「人の物を勝手に奪ってはいけない」というルールを守らせることができません。人に刑事責任を問うにはまずその人に事理弁識能力が備わっていることが必要とされているのです。
一方、行動制御能力とは自分の行動を自分でコントロールすることができる能力のことです。「悪いとはわかっているものの、やってしまう」というように、いくら事理弁識能力を備えている場合でも、自分の行動をコントロールできない人もいます。こうした人にはルールを守るよう求めることは可能ですが、それを超えて刑罰を科すことはやはり酷な面があります。そのため、事理弁識能力に加えて行動制御能力も必要とされているのです。
心神喪失・心神耗弱
責任能力を全く欠く人のことを責任無能力者といい、責任能力を全く欠いてはいないものの著しく減退している人のことを限定責任能力者といいます。
心神喪失とは事理弁識能力と行動制御能力を完全に欠いている状態のことをいい、心神喪失者は常に責任無能力者とされ、その行為は処罰されません。
一方、心神耗弱とは事理弁識能力と行動制御能力を完全には欠いていないものの、通常の水準よりも著しく能力が低い状態のことをいい、限定責任能力者であって、その行為は処罰されるものの、必ず刑が減軽されます。
泥酔の種類と責任能力との関係
泥酔の種類には単純酩酊、異常酩酊の2種類があり、異常酩酊にはさらに複雑酩酊と病的酩酊の2つにわけられます。
単純酩酊とは、いわゆる「酔った状態」のことです。酔っているときに以上な興奮はなく、自分が今どこにいて、どんな状況に置かれていて何をしているのかは自分で判断できる状態です(見当識がある)。人によっては酔いが進むと感情が不安定になったり、人柄が変わったりすることがありますが、異質な行為や症状がみられることはありません。単純酩酊では完全責任能力(罪に問える能力)が認められます。
次に、複雑酩酊とは、いわゆる「酒乱」の状態です。気分が易刺激的になり、暴力的で興奮した状態が長く続き、一時的におさまっても再燃するという波状的な経過をたどることがあります。部分的に記憶をなくすことがありますが、自分の置かれている状態は理解できているため、行動に一貫性があります。複雑酩酊者は心神耗弱者、すなわち限定責任能力しか認められません。
最後に、病的酩酊は単純酩酊や複雑酩酊とは質的に異なる酩酊状態です。幻覚が生じて見当識が失われ、自分が今どんな状況に置かれ、何をしているのかすら自分で判断できない状態です。周囲の状況も的確に認知できず、不可解な言動を繰り返し、周囲から見ると幻覚・妄想にとりつかれた精神異常者のような状態です。病的酩酊者は原則として心神喪失者、すなわち責任無能力者となります。
「記憶がない」は心神喪失?心神耗弱?
泥酔状態で暴行を加えた場合、その際の記憶がないということはよくあることです。では、記憶ないからといって直ちに責任能力がない(心神喪失)、あるいはその能力が著しく減退している(心神耗弱)と判断されるかといえばそうとは限りません。
なぜなら、単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊の判断は、あくまで暴行が行われた時点を基準に判断されるからです。そして、暴行の時点で責任能力があったかどうか、どの程度あったかどうかは、目撃者の証言などから客観的に明らかにされます。
そのため、いくら「事件当時の記憶がない」と主張したとしても、それが直ちに罪を免れることにはつながらないのです。
記憶がないと主張すると不利益はある?どう対応すべき?
記憶がない場合は、断片的なものでもかまいませんので、まずは可能な限り思い出してみることです。はじめから思い出す努力を放棄するのと、何とかして思い出す努力をするのとでは捜査官(警察官、検察官)、裁判官に与える印象が異なります。
そして、思い出す努力をしたにもかかわらず思い出せなかった場合は、その旨を伝えるほかありません。ただし、あなたに事件当時の記憶がなかったとしても、目撃者の証言などから犯罪の成立を証明されてしまう可能性は高いです。
一方、記憶があるのに記憶がないと主張するのは絶対に避けるべきです。あなたが話さなくても、目撃者の証言などから犯罪の成立を証明されてしまいます。そうすると捜査機関や裁判官から「反省してない」と判断され、身柄拘束期間が長期化したり、不起訴のところが起訴されたり、量刑が重たくなるなどの不利益を受ける可能性があるからです。
また、あなたの供述態度は、弁護人、捜査機関を通じて被害者に伝わります。そうすると、被害者の怒りを買い、後述する示談交渉も難しくしてしまうおそれがあります。
記憶があるのに記憶がないと主張することだけは絶対に避けましょう。
逮捕されるとどうなってしまうの?
警察に逮捕されると警察署内の留置場に収容される手続きを取られます。同時に、警察官から事件に関する言い分を聴かれる弁解録取(実質は取調べ)という手続きを受けます。
その上で、警察官が身柄拘束の必要がないと判断した場合はその場で釈放されます。一方、警察官が引き続き身柄拘束を継続する必要があると判断した場合は、逮捕から48時間以内に事件と身柄を検察庁に送致(送検)されます。
送致後は、今度は検察官による弁解録取を受けます。その上で、検察官が身柄拘束の必要がないと判断した場合は釈放されますが、身柄拘束の必要があると判断した場合は、送致の手続きが取られたタイミングから24時間以内に裁判官に勾留請求されます。勾留とは長期間の身柄拘束のことで、裁判官から勾留の許可を得るために請求するのです。
検察官に勾留請求されると、今度は、裁判官による勾留質問を受けます。勾留質問でも事件のことを聴かれます。その上で、裁判官が身柄拘束の必要があると判断した場合は検察官の勾留請求を許可(勾留許可決定)し、必要がないと判断した場合は請求を却下します。
許可決定が出るとはじめ10日間、身柄拘束(勾留)されます。一方、却下決定が出た場合は釈放されます。
ただし、勾留許可決定、却下決定いずれにも不服を申し立てることができます。許可決定に対する不服申し立てが認められた場合は釈放され、却下決定に対する不服申し立てが認められた場合は身柄拘束(勾留)が継続します。
記憶の有無に関係なく示談が重要
前述のとおり、記憶があるのに記憶にないと主張するのは絶対に避けるべきです。また、記憶がない=責任能力がない=刑罰を免れる、というわけではありません。
そのため、泥酔状態で暴行を加えた場合でも、記憶のあるなしにかかわらず被害者と示談した方がいい場合もあります。示談するということは罪を認めることが前提とはなりますが、その分、不起訴処分・執行猶予の獲得、早期釈放などにつながりやすくなります。
被害者と示談すべきか、示談せずに徹底的に事実関係を争うかは弁護士とよく相談して決めるべきです。
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