傷害致死罪とは、人を傷害し、結果として相手が死亡した場合に成立する犯罪です。刑法第205条に規定されています。
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。刑法 | e-Gov法令検索
この記事では、傷害事件に強い弁護士が、以下のような疑問を解消していきます。
- 傷害致死罪の成立要件は?
- 傷害致死と殺人の違いは?
- 傷害致死罪の刑罰、刑期・量刑は?
- 傷害致死で執行猶予はつく?
なお、傷害致死で逮捕された方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
傷害致死罪の成立要件・殺人との違い
傷害致死罪の成立要件
冒頭で述べた通り、傷害致死罪は、人を傷害し、結果として相手が死亡した場合に成立します。
傷害致死罪が成立するためには、人に暴行(あるいは傷害行為)を加えたためにその人を死亡させたという、行為と結果との間に因果関係が認められることが必要です。
暴行とは人の身体に対する不法な有形力を行使することをいい、殴る、蹴る、叩く、押し倒す、投げ飛ばすなどが典型です。ピストルを撃つ、刃物で人を切りつけるなどの殺人罪の殺害行為のように、それ自体で人の死亡という結果を発生させるものである必要はありません。
また、行為者が本来意図していた結果よりも重い結果が生じた場合にその重い結果についての刑罰が科される犯罪を結果的加重犯といいますが、傷害致死罪は結果的加重犯です。すなわち、傷害致死罪では人を死亡させることへの認識・認容(故意)がなくても成立します。例えば、暴行の故意で相手を突き飛ばしたところ、相手が転倒してしまい、運悪く頭を地面に打ち付けて死亡してしまった場合でも傷害致死罪が成立します。
なお、暴行の故意すらなく、誤って人を死亡させてしまった場合には過失致死罪(刑法第210条)が成立します。
傷害致死と殺人の違いは?
上記の通り、傷害致死罪では人を死亡させることへの認識・認容(故意)がなくても成立します。他方で、人を死亡させることへの故意を必要とする犯罪が殺人罪です。人の死亡という結果だけに着目すれば両罪は同じですが、殺人の故意を必要とするかしないかで大きな違いがあります。
また、傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役(上限20年)」であるのに対し、殺人罪は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」と法定刑でも大きな開きがあります。
さらに、判決に執行猶予が付く条件として「判決で受けた懲役が3年以下」である必要があるところ(後述します)、傷害致死罪の下限は3年であるため執行猶予が付く可能性があるのに対し、殺人罪の法定刑の下限は5年ですので刑の減軽がなされない限り執行猶予はつきません。
殺意の有無の認定はどのように行われる?
それでは、傷害致死罪か殺人罪かを分ける、殺意の有無の認定を裁判所はどのように行うのでしょうか。
殺意は行為者の主観であるため立証が難しいものです。しかし本人が「殺すつもりはなかった」と主張さえすれば殺意が否定されるというものでもありません。
以下のような重要な情況証拠(間接事実)から客観的に殺意は認定されることになります。
- 創傷の部位・程度
- 凶器の種類・形状・用法
- 動機の有無・内容
- 犯行中、犯行後の行動・発言内容 など
まず心臓や頭部・顔面、腹部、頸部など「人体の枢要部(すうようぶ)」に対する攻撃や、創傷の数が多く刺創が深い場合には、殺意が肯定される方向に傾きます。
また殺傷能力が高い武器を準備し、強烈な攻撃方法を取った場合にも殺意肯定の理由となり得ます。
動機について深刻な怨恨(えんこん)や憤懣(ふんまん)の念を抱いた形跡があったり、犯行中に「殺してやる」と絶叫したり、犯行後にその場に置き去りにした場合には「死の容認行動があった」と判断されるケースもあります。
傷害致死事件の判例
傷害致死罪で執行猶予5年が付けられた事例
この事例は被告人が、妻である被害者が不倫をしていたことに激昂し、自宅で殴る蹴る投げ倒すなどの暴行を加えた結果、同女に急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ脳ヘルニアにより死亡させた事件です。
被告人は、懲役3年が言い渡されましたが、5年間の執行猶予が付されました。
裁判所は「厳しい非難は免れないものの、被告人が被害者に激しい怒りを覚えたことには理解できる面があり、被告人のために酌むべき事情としてそれなりに考慮する必要がある・・・一般情状も踏まえると、被告人に対しては、今回に限り執行猶予を付すこととし、懲役刑の年数及び執行猶予期間についてはそれぞれ執行猶予の場合に法律上選択し得る最大限のものとする」と判示されています(大阪地方裁判所平成29年11月13日判決)。
両親による幼女に対する傷害致死事件
この事例は両親による幼女(当時1歳8か月)に対する傷害致死の事案です。
第一審・第二審はこれまでの量刑の傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年の求刑を大幅に超える懲役15年という量刑を判断しましたが、最高裁は具体的、説得的な根拠を示しているとはいい難く量刑不当により破棄を免れないと判断しました。
結果として父親に懲役10年、母親に懲役8年が言い渡されました(最高裁判所平成26年7月24日判決)。
傷害致死罪の刑罰・量刑・執行猶予はつくのか
刑罰
傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」です。懲役は有期と無期がありますが、傷害致死罪には無期は規定されていません。有期懲役の上限は20年です。傷害罪の法定刑(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)と異なるのは、罰金刑が設けられていない、懲役の下限が3年と、人を死亡させている分、刑が重くなっている点です。
傷害致死罪で起訴され、有罪認定を受けた場合、懲役3年から上限20年の範囲内で刑を科されます。ただし、併合罪による加重(2つ以上の犯罪を行った場合に重い刑の1.5倍の刑期を限度として刑罰を加重すること)がされると、最高で30年(傷害致死の刑罰の上限20年×1.5倍)の刑罰が科されることもあります。
量刑
傷害致死罪の量刑(懲役の長さや、実刑にするか執行猶予にするかを裁判官が決めること)ですが、司法統計(第47表 通常第一審事件のうち裁判員裁判による有罪(懲役・禁錮) 人員―罪名別刑期区分別―全地方裁判所)によると、令和2年度に傷害致死罪で有罪判決を受けた人の数は「41名」で刑期別の区分は以下のとおりです。
刑期 | 20年以下 | 15年以下 | 10年以下 | 7年以下 | 5年以下 | 3年以下 |
人員 | 2人 | 1人 | 9人 | 9人 | 11人 | 9人 |
この司法統計データの分布をみると、傷害致死の量刑相場は懲役3年以上~10年以下となります。
この量刑を左右する要素としては以下のようなものが挙げられます。
- 犯行態様(武器・凶器を使用したか否か、暴行の回数が多いか少ないか、計画的か偶発的か など)
- 被告人の反省の有無
- 前科・前歴の有無
- 被害弁償・示談の有無
犯行態様が悪質、同種の前科・前歴がある、被害者(の遺族)と示談が成立していないなどの事情があれば、量刑が重くなる可能性が高くなります。
傷害致死罪で執行猶予はつくのか
傷害致死罪で起訴された場合は懲役の「長さ」に加えて、「実刑か執行猶予か」も気になるところかと思います。そこで、以下では、法律上、傷害致死罪でも執行猶予が可能なのか?実際はどうなのかみていきましょう。
法律上は傷害致死罪でも執行猶予が可能
まず、法律上は傷害致死罪でも執行猶予を受けることが可能といえます。なぜなら、執行猶予を受けるためには、
- ① 判決で受けた懲役の長さが3年以下であること
- ② 禁錮以上の前科をもっていないこと。またはもっていたとしても、執行猶予期間が経過しているか、服役期間終了後から5年以上が経過していること
- ③ 情状に酌むべき事情があること
の条件を満たす必要がありますが、傷害致死罪の法定刑の下限が懲役3年であることから、少なくとも①の条件は満たすからです。
もっとも、執行猶予を受けるには②、③の条件もクリアしなければいけません。特に、裁判では③の条件をクリアできるかどうかが大きな争点となります。③の条件をクリアできるかどうかは、
- 介護疲れのために無理心中を図った
- 日常的にドメスティックバイオレンス(DV)を受け続けており、再び暴力を振るわれそうになったため反撃したところ死亡させた
- いじめに合い続けており、周囲に相談してもなかなか解決せず、やむにやまれず暴力を振るったところ死亡させた
など、被告人(加害者)に同情できる点があるかどうかという点がポイントとなります。
傷害致死罪で執行猶予がつく確率は?
では、実際に、傷害致死罪で執行猶予を受けた人はどれくらいいるのでしょうか?
この点、上記の司法統計によると、令和2年度に傷害致死罪で懲役3年以下の有罪判決を受けた人の数は「9人」で、その内訳は、実刑「1人」、執行猶予「8人」です。したがって、令和2年に執行猶予を受けた人は全体の約20%(=8人÷41人)ということになります。
傷害致死罪で逮捕されたときの対処法
傷害致死罪で逮捕された場合は、まずは弁護士との接見を要請しましょう。その上で、罪を認める場合と認めない場合で対処法が異なります。
罪を認める場合
まず、取調べでは記憶のあることを正直に伝えます。逮捕直後から反省の態度を示せば、裁判での量刑などに有利に働く可能性があります。
嘘をついてはいけませんし、記憶が曖昧なところは自分で話を作り上げて言ってはいけません。事件に関わると思うことであれば、弁護士と相談の上でどのように話すか決めましょう。
また、反省文を書き、弁護士を通して反省の気持ちを伝えた上で示談交渉を進めていくことも大切です。示談を成立させることができれば、裁判での量刑で有利に働く可能性があります。
もっとも、傷害致死罪での示談交渉のでは、事件の性質上、ご遺族の処罰感情が厳しく、そもそも示談交渉に応じてもらえなかったり、応じていただけたとしても示談交渉が難航することが多いです。
このように、傷害致死の場合ご遺族の心情に最大限配慮した示談交渉が求められます。謝罪や示談交渉を希望する場合は、はやめにその旨を弁護士に伝え、弁護士に対応してもらうことが必須です。
罪を認めない場合
罪を認めない場合は、弁護士と接見し、アドバイスを受けるまでは黙秘権や押印拒否権等を行使して、取調官の圧力や誘導に屈しないことが必要です。
ここで事実と異なる話をし、供述調書にサインしてしまうと「供述調書に書かれた内容」=「あなたの話した内容」となってしまいます。また、その後に異なる話をしても、厳しい追及を受けたり、あなたの話を信用されなくなってしまうおそれもあります。
なお、傷害致死罪ではよく正当防衛を主張する方もおられます。正当防衛の成立が認められれば不起訴処分や無罪を獲得できる可能性があります。ただ、正当防衛の成立が認められるにはいくつかの高いハードルをクリアする必要があります。
正当防衛を主張したい場合でも、まずは弁護士によく相談する必要があります。
当事務所では、刑事事件の示談交渉、不起訴・執行猶予の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、ご家族が傷害致死で逮捕されてしまいお困りの場合には当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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